スタートアップに対する政治家や官僚の「意外なホンネ」
コミュニケーションを取るハードルが高いと思われがちな、政治家や官僚の人たち。彼らがスタートアップに対して感じている「意外なホンネ」について紹介します。

執筆:河原木 皓、編集:Universe編集部
グローバル・ブレイン(GB)の河原木です。前職の経済産業省でスタートアップ支援や中小企業の海外展開支援に関わった経験を活かし、GBでは投資先企業のGovernment Relations(GR)支援を担当しています。
これまでの記事では、スタートアップにとってのGRの意義・効果や、実際にGR活動を行う際の基本ステップについて紹介してきました。
GR活動では、国の省庁や自治体、政治家などとの関わりが不可欠です。ただ、こうした方々に相談するのはハードルが高い、お作法が分からない、と不安を感じる方も少なくないように思います。ただ、私がGR活動の中で政治家や官僚の皆さんと話をしていると、彼ら自身もスタートアップとのコミュニケーションに悩みを抱えていると感じることも少なくありません。
そこで今回は政治家や官僚がスタートアップに対して感じている「意外なホンネ」について紹介します。
スタートアップの方の中には、政治家や官僚に以下のようなイメージを抱いている方もいるのではないでしょうか。
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既存の法規制を変えることにはどちらかというと消極的
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スタートアップよりも大企業の意見を重視している
こうしたイメージが先行し、事業について国に相談するという発想に至らず、「与えられたルールのもとでビジネスをやるのが当然」と感じてしまっている方もいるかと思います。しかしこれは大きな誤解です。
スタートアップの話を聞いてくれる官僚・政治家は多い
国の省庁で働いてきた私の経験からも言えるのですが、意外とスタートアップの話を聞いてくれる官僚・政治家は多いです。国がスタートアップと接点を持ちたい理由には、以下のようなものが考えられます。
1. 政策立案のためのインプットをするため
国の省庁の場合、毎年夏前頃までに翌年度に向けたネタを仕込みます。次の法律改正や予算・税制に何を盛り込むかを、研究会やヒアリングなどを通じて探索・検討していくフェーズです。
私が経済産業省でスタートアップ政策を担当していたときも、スタートアップによくヒアリングをお願いしていましたし、逆にスタートアップから相談を受けて課題・ニーズを伺ってもいました。スタートアップからの具体的な課題・ニーズや提案は、貴重なインプットとして歓迎されることも少なくありません。仕込みの時期には積極的にコミュニケーションすることをお勧めします。
2. 有望案件の発掘・ブラッシュアップをするため
スタートアップへの補助金を設けた省庁が、応募を考えているスタートアップからの事前相談に乗ってくれることもあります。国として税金を投下して企業を支援する以上、次のような事態は避けたいという思いからです。
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予算額をXX億円確保したのに、スタートアップから不人気で応募が少なく、予算が余る(結果、翌年度の予算を削られる)
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採択したプロジェクトの熟度が低く、途中で頓挫し、補助金の目的(例:脱炭素の革新的な技術開発、中小企業のDX)が達成できない
これらを避けるため、できるだけ多くの企業から優れた提案を出してもらいたいというのが国の補助金担当者の本音です。「自社の取り組みは申請対象になりうるか」「どのようにブラッシュアップすれば採択されやすくなるか」といった、割と直接的な相談にも乗ってもらえます。

国も情報を得られるメリットがあるため、このように話を聞いてくれる機会は意外とあります。政治家や官僚とのコミュニケーションを通じて、自社に有利な環境に繋げることもできるはずです。しかし一方で落とし穴もいくつかあるため、コミュニケーションする際にはいくつかの注意点があります。
スタートアップと国のコミュニケーションの落とし穴
すべての行政機関が、365日スタートアップの話に傾聴してくれるかというと、残念ながらそうではありません。もし実際にコミュニケーションを取ってもうまくいかないのであれば、以下のような理由があると考えられます。
1. 部署・担当者のミスマッチ
たとえば主に大企業を対象とする政策分野を担当している部署だと、スタートアップとの接点が少ないために関心が薄いですし、企業への規制・指導を担当している部署では意図的に民間企業と距離を置いているところもあります。また、行政の担当者も個々人によって「改革マインド」が異なるため、部署や担当者によってはスタートアップとの会話に後ろ向きということも発生します。
2. タイミングのミスマッチ
行政機関は年度主義のため、1年サイクルで仕事をします。翌年度の予算・税制の案は毎年8月に固まるので、これ以降にスタートアップが新しい提案を持っていっても、「1年後に検討します」となり、結果的に意見が埋もれてしまうことも多いです。法律の場合は3年ごとや5年ごとで見直し時期が決まっていることも多く、見直しのタイミングなのかそうでないのかによって、提案に対する国の反応も大きく異なります。
3. 担当者が忙しい
時期によっては官僚が多忙を極めており、スタートアップからのヒアリング・情報収集に十分に時間を割けず、情報や要望が届かない場合もあります。
スタートアップが国とうまくコミュニケーションを取るためには、これらの落とし穴をうまく避けるのが重要です。「適切な部署・担当者」に「適切なタイミング」で「忙しい相手に耳を傾けてもらう有益なインプット」することを考える必要があります。
「適切な部署・担当者」かどうかは、当たり前ですがその部署・担当者が抱える業務内容をよく調べることから始めましょう。スタートアップ支援をミッションとして掲げる部署なのか、大企業かスタートアップかに関わらず支援する部署なのかによって相手のスタンスは変わります。担当業務が法規制なのか補助金なのかによっても、相手の関心はまったく異なるはずです。
「適切なタイミング」かどうかは、前回記事でご紹介したような予算編成などのスケジュールを頭に入れておく必要があります。
「忙しい相手に耳を傾けてもらう有益なインプット」のためには、たとえば以下のような工夫が有効です。
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「こんな良い取組をしています」や「こんなに困っています」と現状を訴えるだけでなく、できるだけ具体的な提案をする
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課題の大きさを客観的に示すために、エピソードだけでなくデータに基づいて主張する
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公益性がないと国は動かないことを意識し、自社だけでなく「業界全体」や「社会全体」への影響を語る
スタートアップが自前でこれらすべてを実施する必要はなく、GR支援を行っている外部組織や私たちのようなVCの協力を仰ぐのも手です。
まとめ
以上、政治家や官僚がスタートアップに感じている「意外なホンネ」をご紹介しました。繰り返しになりますが、彼らにはスタートアップと接点を持ちたい理由があります。ありがちな落とし穴を避けて、国とうまくコミュニケーションを取ることで、スタートアップは自社に有利な環境づくりにつなげることが可能です。
最近ではスタートアップ政策に積極的に取り組む政治家の方や、スタートアップ・VC業界を経験した後に官僚として働く方も増えています。こうした方々が改革マインドを持ってスタートアップ政策を前に進めているのは、スタートアップ業界にとって大きな追い風です。
国のルールや制度を与えられたものとしてただ受け入れるのではなく、成長に向けた打ち手の1つとしてGR活動を捉えることが、スタートアップにとって重要です。私たちグローバル・ブレインも、スタートアップのGR活動を全力でサポートしていきます。
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河原木 皓
Global Brain
Corporate Management Group
Director, Researcher
2023年にGBに参画し、スタートアップ政策関係のGovernment Relations業務や、各国の投資動向の調査などリサーチ業務を担当。