自社がやるべき「スタートアップのGR」がわかる、基本ステップ
国や自治体と関わっていく、GR(Government Relations)活動について、具体的な進め方の要点を解説します。

執筆:河原木 皓、編集:Universe編集部
グローバル・ブレインで投資先企業のGovernment Relations(GR)
前回の記事で紹介したとおり、スタートアップにとってのGRは、事業成長を目的として行政と関わる活動全般を指します。またGR活動による効果として、研究開発の加速、顧客の導入コスト低減、法規制への対応・改革、公的セクターの顧客開拓といった例をご紹介しました。
今回は、スタートアップが実際にGR活動を行う際の基本ステップをご紹介します。
GR活動をどのように進めたら良いか、一般的なセオリーがあるわけではありませんが、以下3つのステップに分解することで考えやすくなります。
- GRの目的を特定する
- 目的別にアクションを整理する
- アクションを取れる体制を整える
各ステップについて具体的に見ていきましょう。
1. GRの目的を特定する
まず、GR活動によって何を達成したいのかという目的の特定が出発点です。いくつか例を挙げると、以下のような目的が考えられます。
- 国の支援を活用して研究開発を加速する
- 国の支援を活用して顧客の導入コストを下げる
- 法規制への対応・改革を通じて、事業をしやすい環境をつくる
- 公的セクターを顧客にして、事業成長につなげる
「目的の特定が出発点」
たとえば、「ユーザーの認知度向上のために国の認定・採択を得たい」
目的を正しく据えてから打ち手のアイデアを検討し、いま本当にGRが必要なのかを見極めることが重要です。
2.目的別にアクションを整理する
自社の成し遂げたいことを明確にし、GR活動を行うべきだと判断できたら、次のステップは具体的なアクションの整理です。先ほど例示した目的別に、どのようなアクションが考えられるかを見ていきます。
Case1. 国の支援を活用して研究開発を加速する / 国の支援を活用して顧客の導入コストを下げる
これらはいずれも国の支援を活用する点では同じなので、具体的なアクションも基本的には共通したものになります。
ここで重要なのは、自社や自社の顧客が活用できる国の支援策について、できるだけ早く情報収集することです。「できるだけ早く」
国の支援に応募するためには、支援制度の目的・要件に自社が合致するかの確認から、応募プロジェクトのコンセプト固め、社内外の巻き込みと合意形成、詳細な費用積算、申請書の文章作成などに至るまで、何十時間も割かなければなりません。約1カ月の短期間で熟度の高い申請書を仕上げるのは、リソースの限られるスタートアップにとっては大きな負担です。
国の予算は年度ごとに編成されるため、公募開始のピークは毎年2~4月です。これに先立って、次年度の予算案が毎年12月下旬には各省のウェブサイトに掲載されるので、こちらを早めに確認するのをお勧めします。「どんな目的の支援策が、誰を対象に、どのぐらいの予算規模で実施されるのか」
また、年度ごとの予算(当初予算と呼ばれます)
たとえば、2023年12月に公表された経済産業省の2024年度予算案の資料を見ると、各予算が「誰の」
スタートアップへの支援策はこの数年で大幅に拡充されていますが、同時にスタートアップ側の関心も高まっており、補助金などの競争率は年々激化しています。
たとえば、直近のNEDOのディープテック・スタートアップ支援事業では、69件の応募に対して採択されたのは15件と、倍率4~5倍の狭き門でした。応募時の提案内容の熟度を高めるためにも、少しでも早めに支援策の概要や審査要件を確認し、計画を立てておくことは有効だと言えます。
Case2. 法規制への対応・改革を通じて、事業をしやすい環境をつくる
いわゆるロビイングのような働きかけをしていく際のステップもご紹介します。
この場合は、どういう環境になれば自社の成長を加速できるのかから逆算して、どのルールをどのように変えれば良いかを特定することが第一歩になります。変えるべきルールが法律なのか、その下位にある政令・省令・ガイドラインなのか、業界の自主規制なのかによって、働きかける相手やタイミングが変わってくるためです。
対応・変革すべきルールが特定できたら、関係するステークホルダーが誰なのか、それぞれどのようなスタンスなのかを情報収集・整理していきます。国のルールに影響を与えるステークホルダーは、政治家、省庁、自治体、業界団体、消費者団体、学識経験者などさまざまです。
このうち、ルールを変えようとしたときに味方になってくれるプレイヤーは誰で、反対が予想されるプレイヤーは誰なのかを、その理由も含めて各ステークホルダーのウェブサイトやSNS、国の審議会の議事録、関係者へのインタビューなどから把握していきます。
その上で最大のポイントとなるのが、各ステークホルダーを動かすストーリーとロジック作りです。このときに、「自社の成長のため」
また、自社と同じ問題意識を共有する他社と業界団体を作り、1社ではなく業界全体の声としてステークホルダーに働きかけていくのも有効です。
Case3. 公的セクターを顧客にして、事業成長につなげる
一口に公的セクターと言っても、省庁、独立行政法人、大学、都道府県、市町村など多岐にわたりますし、彼らが顧客となる案件の内容も、公共工事の発注から物品購入、SaaSを含むサービスの契約などさまざまです。そのため、「どういった公的機関のどのような案件の獲得を目指すか」
公共調達(公的機関による民間企業からの購入)
こうした情報を収集・分析すれば「自社プロダクトの類似領域で、都道府県や政令市で〇百万円/件程度のニーズがあり、スタートアップからも調達実績がある。毎年〇月頃に行われる入札に向けて提案活動をすると良さそう」
また、公的機関の入札に参加するために検討しておきたいのが各機関が定める「入札参加資格」
なお、前回記事でもお伝えしたように、最近は国がスタートアップ支援の一環で、入札参加資格のランクによらず大規模案件に入札できる制度を拡充する(※)
(※)
3.アクションを取れる体制を整える
2で述べたようなアクションの整理を行うだけでも一定の人的リソースがかかりますし、実行するにはさらなる体制整備が必要です。
ただ、どんなスタートアップでも創業初期からGRチームを組成すべきかというと、一概にそうとは言えません。CxOがGR活動を兼務するのか、専門チームを組成すべきかは、個々のスタートアップのビジネスモデルや優先度に応じて検討し、体制を段階的に整えていくのが現実的です。
たとえば金融、医療、モビリティ、通信など法規制と向き合うことが避けられない領域のスタートアップや、防衛・宇宙などDeep Tech領域で国からの研究開発支援や大型調達獲得を目指すスタートアップは、早い時期からGR活動の担当者を置く必要性は高いです。その他のスタートアップでは、1、2で示した目的とアクションが具体化できた段階で、組織としてリソースを投入して体制整備するかを考えると良いと思います。
自社で人員を確保するほどではないものの、政策の情報収集や補助金申請などを定常的に行っていきたい場合は、私たちのようなVCや外部機関と連携するのも手です。
まとめ
以上、スタートアップがGR活動を行う際に取り組むべき基本ステップをご紹介しました。GRに関心はあるけど何から手を付けたら良いか分からない、といったスタートアップの方は、具体的なアクションに落とし込む際に本記事もご参考にしていただければと思います。
ただ、実際に省庁の官僚に相談したり議員に働きかけたりするのは敷居が高い、お作法が分からない、と不安を感じる方も少なくないと思います。そこで次回は「政治家や官僚がスタートアップに感じている『意外なホンネ』
(GB Universeの更新情報はグローバル・ブレイン公式Xにてお届けしています。フォローして次回記事をお待ちください)
河原木 皓
Global Brain
Corporate Management Group
Director, Researcher
2023年にGBに参画し、スタートアップ政策関係のGovernment Relations業務や、各国の投資動向の調査などリサーチ業務を担当。