スタートアップESG実態調査2026|182社のデータから紐解く最新動向と経営課題

グローバル・ブレインでは、投資先企業を対象に2026年度のESG実態調査を行いました。182社の回答から見えた現状と課題、持続可能な成長に不可欠なESG経営のヒントをお届けします。

スタートアップESG実態調査2026|182社のデータから紐解く最新動向と経営課題のカバー画像

【Summary】

  • プライム市場上場を見据えるなら、GHG排出量測定への早期着手がポイント
  • 人材の多様性を確保するには、採用から入社後までの一貫した仕組みが必要
  • サプライヤー選定基準の策定まで行うことで、一層のガバナンス強化ができる

国内最大級の独立系VCであるグローバル・ブレイン(GB)にて、スタートアップ投資業務と並行して、ESGポリシーマネージャーを担当する重富です。

GBでは、グローバルに活躍するスタートアップの創出のため、ESG(環境・社会・ガバナンス) 活動を継続的に行っています。2021年にはESGポリシーを策定し、2024年には責任投資原則(PRI)に署名するなど、スタートアップの持続的な成長へ貢献すべくESGに配慮した事業活動に取り組んできました。

その活動の一環として、2026年も投資先企業を対象にしたESG実態調査を行いました。本記事では、2026年度の調査結果に基づき、スタートアップにおけるESGの現状と課題、今後求められる具体的な対応策などについて解説します。

ESG実態調査の概要

目的 :株式上場を目指す企業としてのESGの意識醸成、およびESGの実態調査
質問項目 :全45問 (各社の基礎情報含む)
集計方法 :Googleフォーム
調査期間 :2026年1月21日(水) ~2026年3月27日(火)
対象企業 :国内外のGB投資先企業すべて
回答数 :182社(国内企業:138社、海外企業:44社)

ESG実態調査の概要

2026年度の回答社数は、2025年度の134社から182社へと大幅に増加しました。

全体的な回答の傾向に関しては昨年度との大きな変化はなく、多くの企業でガバナンス、社会、環境の順に対応が進んではいるものの、依然として環境への対応が最も高いハードルとなっています。詳しくは次項以降でご紹介します。

ESGインシデント対応は進むが、マテリアリティ特定は限定的

今回の調査では、「1.環境・2.社会・3.ガバナンス」の各分野における具体的な取り組み状況に加えて、ESG経営の根幹をなす「ESGマテリアリティおよび「ESGインシデント対応の状況に関しても調査を行いました。

ESGマテリアリティ、ESGインシデント対応

ESGマテリアリティとは、企業が持続的に成長し、中長期的に企業価値を向上させるために優先して取り組むべき「重要課題」のことです。ESGマテリアリティを特定することは、企業がESGに取り組む際の最初の重要なステップとなります。

しかし、今回の調査ではESGマテリアリティを把握している企業は全体の7%程度に留まりました。特定に取り組む企業の特定手法についても調査したところ、国内企業ではSDGs、海外企業ではISO26000やEcoVadisなどが活用されていることがわかっています。

もう1つのESGインシデントとは、事業活動において社内外で発生するESG関連の重大なトラブルや不祥事(環境破壊、情報漏洩、ハラスメントなど)を指します。

ESG経営においては、平時の取り組みだけでなく、こうした有事の際に迅速かつ適切に対処できる体制づくりが不可欠です。今回の調査では、社内外におけるESGインシデントの通報窓口や受付の仕組みを設けている企業はステージを追うごとに増加し、レイター期には対応率が90%に達していることがわかりました。インシデント発生時の対応体制は、事業規模の拡大とともに着実に整備が進んでいるようです。

1.環境:GHG排出量測定やマネジメントレベルでの議論に課題

GHG排出量の測定状況とその方法

GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量の測定を実施している企業は、いずれのステージでも10%程度と少数であることがわかりました。一方で、排出量削減に向けた具体的な取り組みは着実に進められています。取り組み例としてはペーパーレス化や節電対策、出張や移動に伴うGHG排出量の削減、環境配慮型の工場選定などが挙げられました。

現在、国内のプライム市場では、気候変動が企業財務に与える影響を開示する国際的枠組みである「TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示が実質義務化[1]されています。さらに今後は、自社の事業活動から直接排出されるGHGの量を示す「Scope1」の開示まで求められる可能性が高い状況です。上場を見据えるスタートアップであれば、その準備の一環としてGHG測定の仕組み作りを検討しておくのが望ましいと思います。

GHG測定ツールとしてはExcel管理のほか、外部サービスやコンサルタントなどが活用されていました。 なお、自社のコア事業に対して、気候変動がもたらす影響をマネジメントレベル以上で議論している割合はいずれのステージでも半数以下に留まっており、課題が大きい箇所といえます。

GHG排出量の測定状況とその方法

有害物質の管理と国際規格への対応

自社が事業を展開する市場において、有害物質の管理や排出・廃棄方法に関する規制や動向を定期的に確認しているかという点についても調査を行いました。

各社の事業領域の特性もあり重要性は意識されているものの、国際規格(またはそれに準拠した枠組み)に則った仕組み化・導入検討まではできていない企業が多いのが現状です。

有害物質の管理と国際規格への対応

生物多様性への影響

昨今注目されている「事業活動による生物多様性への影響については、大きな影響を与える内容があると回答した企業は少数でした。

事業規模がまだ小さい企業が多いため、影響範囲の把握自体が難しいケースもあると想定されます。一方で、生物多様性への影響により、サプライチェーンの分断や原材料調達リスクが発生する恐れもあることから、スタートアップに対する意識付けは今後も求められます。

生物多様性への影響

2.社会:多様性確保の意識は高いが、仕組み化は30%程度

多様性確保のための意識と仕組み

今後の事業成長に必要となるコア人材の採用において、多様性の確保の必要性を意識している企業はいずれのフェーズでも90%程度存在しています。

しかし、多様性の確保や公正な人事を行うための具体的な方針や仕組みにまで落とし込めている企業は30%程度に留まり、上場に近いレイター期であっても40%以下という結果になりました。

多様性確保のための意識と仕組み

従業員パフォーマンスの向上と福利厚生

採用後の従業員のパフォーマンス向上に寄与する福利厚生などの施策については、シード期であっても半数近くの企業が対応しており、人材への対応やエンゲージメント向上に対する意識の高さが伺えます。

従業員パフォーマンスの向上と福利厚生

ハラスメント窓口の設置とマーケティングの倫理性

ハラスメントなどの不祥事の通報窓口の整備状況は、ステージを追うごとに対応率が高まる傾向にあります。

一方で、昨今注目される「マーケティング施策における倫理性・社会的責任を踏まえた方針を明示的に定めている企業は少数でした。影響は軽微な可能性もありますが、レイター期に進むにつれて意識を高めていく必要性があります。

ハラスメント窓口の設置とマーケティングの倫理性

3.ガバナンス:全ステージで強化が進むが、サプライヤー選定基準まで行う企業は少数

取締役会の設置と社外取締役の拡充

ガバナンスの領域は、環境や社会の項目と比較して最も整備が進んでいます。取締役会を設置している企業は全体で76%に達し、シードステージであっても半数以上が設置済みです。さらに、ステージを追うごとに社外取締役の人員も拡充されており、経営陣のガバナンスへの高い意識が見受けられます。

取締役会の設置と社外取締役の拡充

情報保護や社内規定の状況

自社のプライバシーポリシーはいずれのステージでも80%以上の企業が定めており、データ漏洩などのインシデント対応計画についても70%の企業が整備を完了しています。

情報保護に関する外部認証の取得状況は、ステージが進むにつれて向上。具体的には、ISMSやプライバシーマーク、ISO/IEC27001などの取得事例が多く挙げられており、上場や商取引に向けた重要事項として意識高く取り組まれていると推察されます。

一方で、行動規範(ハラスメント防止など)や贈収賄・腐敗防止といった基本的な社内規程については、ステージが進んだレイター期であっても全体の半数程度の整備に留まっていました。組織規模が拡大しステークホルダーが増えるフェーズでこうした規程が未整備のままであると、思わぬトラブルを招く可能性もあることから、整備を進めていくことが推奨されます。

情報保護や社内規定の状況

サプライヤー選定におけるESG基準

スタートアップの各ステージで強化が進むガバナンス領域ですが、一部では対応が限定的な項目もあります。サプライヤー選定においてESG基準を設けている企業はいずれのステージでも20~30%程度に留まっており、今後の課題といえます。

サプライヤー選定におけるESG基準

スタートアップの成長に寄与するESGのために

今回の調査を通じて、ガバナンスや従業員向けの施策は、外部投資家や従業員規模の拡大に合わせて自然と促進される傾向があることがわかりました。一方で、環境への対応は依然として意識的な取り組みが必要であり、ハードルの高さが明らかになっています。

GBでは、2022年から本アンケートを継続実施しており、スタートアップの各フェーズにおけるESG課題の傾向や共通性が明らかになってきています。今後GBとしてはそうした知見を活かしながら、スタートアップに向けたより実践的なナレッジシェアを行い、フェーズに応じた投資先支援を行っていく予定です。

今後もGBは持続可能な社会の実現に責任を持つVCとして、グローバルに活躍するスタートアップの創出を目指し、ESG活動・支援を継続してまいります。

※所属、役職名、数値などは記事掲載時のものです
(編集:GB Brand Communication Team)


  1. 環境省.“「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同及び「TCFDコンソーシアム」への参画について”.環境省.2024-03-15.https://www.env.go.jp/press/press_03004.html, (参照 2026-06-17). ↩︎

コラボレーター

重富 渚のプロフィール画像

重富 渚

グローバル・ブレイン株式会社

Investment Group Partner

2018年にGBに参画。国内外のスタートアップのソーシング、投資実行から投資支援まで一貫通貫して従事。スタートアップ企業と大手事業会社との協業支援も行う。また、ESGポリシーマネージャーとしてESGポリシーを投資検討プロセスを導入し、VC業界におけるESG意識の醸成に取り組む。