スタートアップ103社の「ESG」を調べてわかった、実態と課題【GB ESGアンケート2024】

グローバル・ブレインでは、投資先スタートアップのESG対応状況を明らかにする「ESGアンケート」を実施しました。本記事では、調査で明らかになったスタートアップESGの概況や課題、各社の取り組み例などをお伝えします。

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執筆:重富 渚、林 謙治、編集:Universe編集部

スタートアップのESGの実態をアンケート調査

近年、企業の長期的な経営のために必要だとされているのが「ESG」の考え方です。この考えは日本でもますます浸透しており、スタートアップでも重視されはじめています。

グローバル・ブレイン(GB)では投資先スタートアップのESG経営を支援するため、2021年にESGポリシーを策定しました。今回そのポリシーに則り、投資先のESG対応状況を明らかにする「ESGアンケート」を実施。本記事では、調査で明らかになったスタートアップESGの概況や課題、各社の取り組み例などをお伝えします。今回の調査結果が、スタートアップにおけるさらなるESG意識の醸成につながれば幸いです。

調査について

調査概要

  • 調査方法:Googleフォーム
  • 質問数:45問
  • 調査期間:2024年3月29日(金)~2024年4月17日(水)
  • 対象企業国内外のGB投資先企業すべて(GB8号ファンドのリード投資先企業は回答必須、その他は任意回答)
  • 期限内の回答企業数:103社(国内:80社、海外:23社)

※回答企業の75%が国内スタートアップ。シリーズB以降、従業員数40名以上の企業が50%以上を占める。

Environment(環境)

環境配慮の取り組みはステージ問わず実施

環境に関する質問では、企業のステージが上がるほど、ほとんどの項目で対応が強化される傾向にありました。

特に「事業を行う上で環境配慮の取り組みを行っていますか?」という項目では、スタートアップ企業の意識が高く、どの企業ステージでも過半数以上が対応しています。

注目すべきは、従業員数が少なくプロダクト開発に資源を集中せざるを得ないシード段階の企業でも、56%が環境配慮の取り組みを行っている点です。環境対策は事業効果が見えづらく創業早期には後手に周りがちな分野ですが、そんな中でも環境保護意識が一定高く持たれていることが分かります。

具体的な施策としては、以下のような内容です。

「環境ポリシー」の策定には一定のハードルあり

環境配慮への取り組みは着実に行われているものの、その方針を文書化した「環境ポリシー」の策定には一定のハードルがあるようです。

「環境配慮に対するポリシーを作成していますか?」という項目では、企業のステージを問わず、40~60%程度の企業がポリシー作成に至っていないことがわかりました。一方で、30〜40%の企業が「作成を検討中」と回答しており、環境ポリシーの必要性自体は一定程度認識されているものと考えられます。

GBとしても、ポリシー作成に関するアドバイスや他社事例の提供など、スタートアップに対する積極的な支援を行っていければと思います。

難易度の高い「GHG排出量測定」に対応する企業も

環境に関する項目の中で、最も難易度が高いのが「GHG(温室効果ガス)排出量の測定」です。シリーズDでも63%の企業が「測定していない」と回答しています。

一方で、先駆的な動きも見られます。世界で最も広く使用されている温室効果ガスの会計基準「GHGプロトコル」では、企業の事業活動に伴う排出量をScope1~3の区分で分類していますが、自社が間接的に排出するGHGの測定(Scope2)までカバーする国内スタートアップもありました。さらに海外では、原材料の調達から製品の販売後排出量を測定(Scope3)しているスタートアップも見られます。

より多くのスタートアップの対応を促進していくためにも、先行企業の取り組みを業界内で広く共有していく必要がありそうです。

Social(社会)

「多様性を意識した採用」はステージ問わず実施

「多様性を意識した採用を行っていますか?」という問いに対しては、ステージ問わず70〜90%のスタートアップが取り組んでいると回答。特に、シード期のスタートアップの「取り組んでいる」割合が最も高く、近年創業した企業経営陣が早期から多様性を意識していることが分かります

中には、応募者を匿名化できるプラットフォームを活用し、バイアスのない公平な採用を実現しているスタートアップもありました

組織拡大に対処する意識も高い傾向

企業が長期的に成長していくためには、多様な人材を採用するだけでなく、彼らがいきいきと働ける環境を整備することも必要不可欠です。

そこで「従業員のエンゲージメントを高める取り組み」や「従業員のフィードバック調査」の実施状況を調査したところ、ステージが後半に進むにつれて取り組みが強化される傾向が見られました。なお、両項目とも従業員数が一気に増える時期と言われているシリーズBから大きく伸びており、スタートアップの組織拡大へ対応する意識の高さが伺えます。

「メンタルヘルスや健康に関するサポートの提供」や「ホットラインの設置」もシリーズB~Dの企業は60%以上が対応していました。

Governance(ガバナンス:企業統治)

ステージが進むほど対応が強化される傾向あり

ガバナンスに関する取り組みも、ステージが進展するにつれて対応が強化される傾向が見られました。

企業が一定の事業成長を続けながら、健全な組織運営を実現するためにはガバナンス強化が重要です。経営資源の限られるアーリーフェーズのスタートアップにおいては対応の難しさもありますが、シリーズDにおいてはほとんどの項目で対応しているとの回答が寄せられています。

プライバシーポリシーや秘密保持契約の必要性は広く浸透

プライバシー保護や秘密保持契約に関する項目はアーリーステージの企業でも対応割合が高く、その必要性が強く認識されているようです。

一方、インシデント発生時の対応フローの策定への対応はシリーズAでは30%程度、その他のステージでも50%程度でした。

スタートアップではリモートワークでの働き方自体は一般化してきていますが、そこに伴うルールの整備、インシデント発生時の対応フローを整備しておくのも重要です。

地域差がはっきり出た「ESGを考慮した企業選定」

ガバナンスに関する項目の中で、とりわけ国内のスタートアップの多くが難しさを感じていたのが「ESG観点を考慮したパートナー企業選定」です。対応していた企業はわずか16%にとどまっていました。シリーズ別、業種別、従業員数別に回答を分析しても突出した傾向は見られず、国内スタートアップ全体として対応が遅れている項目だと言えます。

一方で、海外スタートアップは6割近くの企業がESGを考慮して企業選定していると回答しており、地域による意識の差が浮き彫りになりました。

今後もスタートアップのESG意識向上を後押し

GBでは今後もESGアンケートを継続予定です。今回の回答いただいた方からは「まだまだ取り組めることがあると気付かされた」という反応もあり、アンケートを行うこと自体でもスタートアップの意識向上に寄与し、長期的な目線でスタートアップ企業の成長に貢献できると考えています。

上場を目指す多くのスタートアップにとって、将来的にESG情報開示は求められるものですが、企業ステージごとのベストプラクティスはまだまだ浸透していない状況です。 今後、GBではESGヒアリングを行うファンドの対象を拡大し、AUM(運用資産残高)の100%の企業のESG実態把握を目指します。そこで得た知見をスタートアップ企業へ還元していきたいと考えています。

これからもGBは、スタートアップが真に持続可能な企業となって未来を切り開いていけるよう、さまざまなアクションを行ってまいります。

重富 渚

重富 渚

Global Brain

Investment Group

Director

2018年にGBに参画。国内外のスタートアップのソーシング、投資実行から投資支援まで一貫通貫して従事。スタートアップ企業と大手事業会社との協業支援も行う。また、ESGポリシーマネージャーとしてESGポリシーを投資検討プロセスを導入し、VC業界におけるESG意識の醸成に取り組む。

林 謙治

林 謙治

Global Brain

Investment Group

Principal

2023年にGBに参画。前職のソフトバンクでは、モバイル事業の管理会計、M&Aを中心とした事業開発に携わる。ニフティでは、パートナー営業およびサービス企画に従事。