大企業のオープンイノベーションを前進させる「スタートアップ協業」の鉄則

大企業がスタートアップとPoCや協業を行う際に押さえておきたいポイントについて、グローバル・ブレイン(GB)で大企業の事業創出を支援するBizDevチームがまとめました。

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【Summary】

  • 大企業の事業部門にもスタートアップ協業時の「7つのスタンス」をインプットする。
  • 大企業の各部門のキーマンとの連携や、他部署からの人材の受け入れが社内巻き込みを促す。
  • PoCでは「事前準備・実行・振り返り」の3段階で協業のプロジェクトマネジメントを徹底する。

※本記事は、国内最大級の独立系VCグローバル・ブレイン(GB)にて、大企業とスタートアップの事業創出を支援するBizDevチームの松本による共同執筆です。

BizDevチームでは、GBの450社を超える投資先企業と連携可能性の高い大企業に対してスタートアップを紹介し、事業創出まで支援しています。

日々、多くのCVC担当や新規事業担当の方々とお話しする中で「スタートアップとはPoCまで進むが事業化に至らない」「事業部門の協業協力が得られない」などのお悩みをよく耳にしてきました。

そこで本記事では、私たちが事業創出支援を行う中で見えてきた、大企業のCVC担当者やオープンイノベーション担当者が押さえておくべき鉄則をご紹介します。

1. 各部門と「7つのスタンス」を共有する

そもそもスタートアップとの協業は、完成されたスキームを回すことではなく、荒削りであっても互いのアセットを活かしながらシナジーを生み出すことに本質があります。

そのことを忘れないためにも、スタートアップと協業するにあたっては、オープンイノベーション部門やCVCチームだけでなく協業を推進する事業部門も含めて「スタンス」を共有しておくことが重要です。前提条件や認識がずれていると、いざPoCや協業が始まった際にトラブルに発展してしまう恐れもあります。

スタートアップ協業7つのスタンス

スタンスは大きく7つに分けられます。まず何より大切なのは、スタートアップを「対等なパートナーとしてリスペクトする」ことです。大企業側が「案件をあげてやっている」といった上から目線の態度は避けなければなりません。「御社の事業・技術に興味があります」という姿勢で、Win-Winの関係を目指すことが求められます。

また、スタートアップは生き残りをかけて日々戦っています。そのため、「無償でPoCをやってほしい」といったような過度な要求は論外です。スタートアップ側に売上や実績、顧客紹介といった明確なメリットと価値を提供し、適正な対価を支払うことが前提となります。

さらに、「スピード感を持つことも重要です。大企業においては、社内外の多くのステークホルダーとの調整や、慎重な合意形成プロセスに時間を要することは避けられない側面があります。しかし、リソースの限られたスタートアップにとって、社内稟議に数カ月を要するようなスピード感では命取りにもなりかねません。レスポンスの早さはスタートアップへの本気度を示す指標と捉えると良いかと思います。また、進展がない場合でも隠さずに、社内の調整状況を定期的に共有するなど「透明性を持つことも必要です。

スタートアップが提供するプロダクトは、大企業向けの完成された製品とは異なり、「発展途上であることを受け入れる覚悟も不可欠です。機能が足りていないなどと切り捨てるのではなく、「一緒に育てる」「改善していく」という前提に立ち、加点主義で評価していくことが良好な協業関係を築く第一歩となります。

もちろん、大企業側の「常識を押し付けないことや、スタートアップから学ぶ姿勢を持ったりコミットメントしたことを遵守したりと「建設的なコミュニケーションを徹底することも必要です。

2. 「泥臭い関係構築」や「仕組み」で社内を巻き込む

協業を進める上で障壁となりやすいのが「社内ステークホルダーの巻き込みです。特に、事業部門、経営層、法務部門などとの期待値調整がうまくいかず、プロジェクトが頓挫するケースが多く見られます。ここでは社内の各ステークホルダーとの理想的なコミュニケーションのあり方をご紹介します。

社内ステークホルダーの巻き込み 工夫とアイデア

対事業部門

まず、スタートアップ協業の主体となる事業部門に関してです。彼らは通常業務で忙しいため、スタートアップ協業を持ちかけても「余計な仕事が増える」「既存の事業のやり方で十分だ」など消極的な反応が返ってくることも少なくありません。

これを突破するためには、まずは属人的に各事業部門のキーマンとつながりを持ち、協業を面白がってくれる人と連携するという地道な活動から始まります。つながりを保つためには社内で小さな勉強会やインキュベーションプログラムを始めることも有効です。

オープンイノベーション部門に元事業部出身者がいれば、そのネットワークをフル活用することをおすすめします。また、売上などの事業成果に直結するスタートアップとの協業案を常に考えておき、定期的に提案を上げていくことも大切です。

段階が進めば、経営層も含めて事業部門の課題やニーズを吸い上げる定例ミーティングを仕組み化したり、オープンイノベーション活動について社内認知度を上げたりしていく必要もあります。ステークホルダーの巻き込みは一朝一夕でできることではなく「泥臭い関係構築」「仕組み作り」「認知度向上」などをやり抜かなければなりません。

対経営層・決裁権者

次に経営層や決裁権者とのコミュニケーションについてです。彼らは日ごろ自社の大規模な事業に向き合っていることから、ともするとスタートアップ協業で得られる成果を過小評価してしまいがちです。

こうした温度差を埋めるためには、経営層や決裁権者にスタートアップに関する理解を深めてもらう必要があります。スタートアップを直接訪問してもらったり、私たちのようなVCを活用してスタートアップ業界の常識や他社事例を生々しく伝える勉強会を実施したりするのも1つの手です。

また、協業のスモールサクセスを可視化して共有したり、定期的な活動報告会を行ったりなど、地道にオープンイノベーションの成果をインプットしていく活動も欠かせません。

対法務部門

大企業同士の契約基準をそのままスタートアップに当てはめようとすると柔軟性がなくなって契約が進まず、協業がスタートできない事態に陥ってしまうこともあります。

そこで、法務部門には、スタートアップ特有の課題や考慮点を定期的に共有し、リスクを理解してもらうことが大切です。リスクを踏まえつつ柔軟に調整できるような、スタートアップ向けの特別な契約ルートやテンプレートを共同で構築することをおすすめします。また法務部からの兼務者や異動者をオープンイノベーション部門に受け入れてコミュニケーションを円滑にするなど、人事面での工夫に挑んでみてもよいと思います。

3. 3段階の徹底したプロジェクトマネジメントがPoC成功の鍵

社内調整を乗り越え、いざPoCや協業が始まる段階になっても、失敗の罠は潜んでいます。よくある失敗パターンとして見られるのが「目的や成功基準が曖昧なままスタートする」「PoC自体が目的化し、本導入の予算が確保されていない」「振り返りを行わないため組織に学びが蓄積されない」などです。

こうした失敗を防ぎ、成果に結びつけるための鍵が「徹底したプロジェクトマネジメント」です。「事前準備」「実行フェーズ」「振り返りと判断」という3つの段階に即してポイントをご紹介します。

プロジェクトマネジメントが成功の鍵

事前準備

プロジェクトは「事前準備で8割が決まると言っても過言ではありません。協業を開始する前に、必ずプロジェクト計画書を作成し、目的、目標、スコープ、関係者の役割分担、スケジュール、そしてKPIを明確に定義し、事業部門やスタートアップも含めたステークホルダー全員で合意形成を行う必要があります。

協業の成果を明確にすることには難しさもありますが、売上やコスト削減だけでなく、ユーザーのフィードバック数やPoCの参加人数など、可能な限り数値化できる目標も設定しておくことが重要です。ここを怠ってしまうと、協業を続ける意義を社内に示しづらくなり、オープンイノベーションが停滞する原因にもなります。

実行フェーズ

協業の実行フェーズでは、WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)や課題管理リストといったツールを活用し、進捗を可視化します。

WBSでは、作業項目を大・中・小に分解し、ステータスや成果物、担当者、開始・終了予定日を明確にしましょう。課題管理リストでは、課題内容、ステータス、発生日、重要度、担当者、解決策などを一覧化し、課題の見逃しや対応漏れを防げるようにするのが理想です。

定例ミーティングの徹底したマネジメントも求められます。誰がいつまでに何をするのか、遅延はないか、課題は何かを細かくモニタリングし、早期に軌道修正を図ることが重要です。

振り返りと判断

そして最後に、定量・定性のデータに基づく振り返りを必ず行います。 事前に設定したKPIの達成状況を評価し、「Go(本格導入)、「条件付きGo」、「No Go(中止)の判断を感情ではなくデータで下します。仮にNo Goであったとしても、それは失敗ではなく、次のプロジェクトに活かすべき学びとして組織に蓄積していくことが、オープンイノベーションの成功率を高めることにつながります。

成功事例:投資から11カ月でサービス公開(JR東日本×J-CAT)

GBも支援させていただいた成功事例をご紹介します。

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)と、富裕層向けに日本のハイエンド体験や旅行プランを提供するスタートアップであるJ-CAT株式会社(J-CAT)のプロジェクトです。JR東日本は2024年に「高輪地球益ファンドをGBと共同で設立し、2025年5月にJ-CATに投資を実行。その後、両社では東北地方向けの観光商品の開発・販売というテーマで取り組みを進めてきました。結果、投資実行からわずか11カ月というスピード感で、両社が連携した新サービスのローンチを実現させています。

JR東日本とJ-CATの成功事例
※TAKANAWA GATEWAY CITYロゴマークは、JR東日本の登録商標です。

この成功の背景にあったのは、スタートアップと大企業が連携した徹底したプロジェクトマネジメントです。

JR東日本側は、同社に投資を実行する前から、短期・中期・長期とフェーズを分けて具体的な同社との協業イメージを言語化し、社内で共有していました。そして、投資後すぐにJ-CATとGBメンバーを交えた「協業キックオフミーティング」を開催。キックオフミーティングにもかかわらず、JR東日本側からは2つの事業部から具体的な協業案の提案がなされ、双方の具体的なアクションプランへの落とし込みまで行われました。

実行フェーズではGBからも複数メンバーがプロジェクトマネジメントに入り、進捗管理シートを用いて隔週で進捗確認ミーティングを実施。また、現場の事業部間のコミュニケーションギャップを埋めるために、時には役員レベルを交えたディスカッションを行うなど、関係構築に努めました。

振り返りでは、短期目標として掲げていた「2025年以内の契約完了・協業事例の創出」を達成できた点が社内で大きく評価を得る結果に。事業部門とスタートアップのニーズが合致したことに加え、事前の期待値調整と綿密なプロジェクトマネジメントが機能した好例であったといえます。

スタートアップと大企業の事業創出を目指して

大企業のオープンイノベーションは、単にスタートアップと出会うだけでは成功しません。対等なパートナーとしてのリスペクト、泥臭い社内ステークホルダーの巻き込み、緻密なプロジェクトマネジメントなどが事業創出の鍵となります。

GBのBizDevチームは、大企業とスタートアップの間に立つ事業創出支援の専門チームです。単なるマッチングで終わらせるのではなく、チームの一員としてプロジェクトマネジメントに入り込み、協業の実現まで伴走することを目指しています。スタートアップとの事業創出に課題を感じている大企業の方は、ぜひご相談ください。

GBでは今後も「未踏社会の創造」というミッションのもと、スタートアップと大企業のオープンイノベーションに資するような発信や活動を継続して行ってまいります。

※所属、役職名、数値などは記事掲載時のものです
(編集:GB Brand Communication Team)

コラボレーター

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泉 浩之

グローバル・ブレイン株式会社

Partner

2019年にGB参画。Deep Techおよび海外スタートアップの日本市場進出を支援するBizDevチームを立ち上げ。チームリーダーとして大企業への営業とコラボレーションを軸とした事業開発を実施。

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松本 千尋

グローバル・ブレイン株式会社

Director

2024年にGBに参画。大企業とスタートアップ双方でのキャリアを活かし、BizDevチームにてオープンイノベーション創出におけるプロジェクトマネジメント支援などを担当。