スタートアップ協業で成果を出す大企業が実践している5つのこと

グローバル・ブレイン(GB)が開催した、大企業向けのオープンイノベーション勉強会で語られたナレッジをご紹介します。

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Point

  • 社内キーパーソン発掘が協業成功の鍵

  • CVCの成果は「定性目標」と「活動量の数値化」で測定

  • 経営陣の巻き込みに社内講演会や社内報を活用

先日、GBでは「GB×大企業オープンイノベーション勉強会」と題したイベントを開催しました。主催したのは、GBで投資先企業と大企業のオープンイノベーションを支援するBizDevチームです。イベントには、オープンイノベーションに積極的な大企業の担当者が多数参加し、具体的な事例や成功の秘訣が共有されました。本記事ではその様子をレポートしてお伝えします。

スタートアップが協業したい大企業の特徴

Bizdevチーム 松本 千尋
Bizdevチーム 松本 千尋

冒頭のセッションでは当社BizDevチームの松本が登壇。同チームが年間100件以上大企業と面談し、スタートアップとの協業を支援する中で見えてきた「スタートアップが協業を望む大企業に共通する5つの特徴」を解説しました。

1. 担当者がイケている

オープンイノベーション担当者は、スタートアップと事業会社をつなぐカタリスト(触媒 / 社内外のステークホルダー間の「架け橋」となり、イノベーション創出を促進する役割を担う人材)になることが求められます。スタートアップの文化や考え方を深く理解し、それを社内の事業部門につなげて協業を生み出していく必要があるわけです。

松本は、大企業とスタートアップの「協業」に対する考え方や期待にはギャップがあると説明。外部の調査データも引用しながら「スタートアップは売上向上を、大企業は事業創出や既存事業の強化を期待することが多い。この間をうまく埋められるのが“イケている”担当者と言える」と述べました。

2. 協力的な事業部門との協業事例がある

スタートアップの立場からすると、協業事例が豊富にある大企業はパートナーとして魅力的に映ります。しかし、ほとんどの大企業の事業部門は目の前の売上目標に集中しているため、新規事業の取り組みに興味を持ってもらうのは容易ではありません。

松本は、CVC担当者の協業意欲が高くても、事業部門からの関心が薄いままディスカッションを進めてしまうと「スタートアップと『受発注の関係』のような会話しかできなくなってしまう」と説明。

こうした事態を避けるためは、まず「事業部内にキーパーソンを見つける」必要があります。地道な活動ではあるものの、社内でオープンイノベーション活動の認知度を高め、「面白そう」と感じてくれる仲間を増やしていくことが重要だと述べました。

3. 適度な解像度で注力領域・技術分野が設定されている

大企業側で設定している協業領域が広すぎると、スタートアップからは「結局何をしたいのか分からない」と思われてしまう恐れがあります。しかし逆に領域が狭すぎても、マッチするスタートアップが見つからず、協業のスタート地点にも立つことができません。

このジレンマを乗り越えるには、「事業領域レベル」と「技術ソリューション領域レベル」を意識しながら、適度な解像度で領域設定を行うことが重要です。

松本は、協業領域の設定と共有を上手く行っている大企業の例として、東急グループの「東急アライアンスプラットフォーム」を紹介。このプラットフォームでは、「交通」「物流・倉庫」などの事業領域ごとに現場から挙がっている課題や声がリストアップされており、それがどのグループ会社や事業部門からのニーズなのかまで明記されています。こうした場があると、スタートアップも「自社とこんな形で組めそうだ」と具体的な協業のイメージを描きやすくなると言えます。

4. 活用できるアセットや提供価値を把握している

オープンイノベーション担当者には「協業に活用できるアセットは何か」を明確に把握しておくことが求められます。さらに、そのアセットに紐づいて「協力してくれる事業部門がどこなのか」まで把握できていることが、協業を進める上では重要です。

松本は「大企業の中には『うちには強みやアセットなんてない』と語る企業もあるが、これは非常にもったいない」と発言。企業規模が大きくなるほどアセットの整理は難しいものの、徹底的な自己分析を行い、その情報を積極的に発信することがスタートアップとの連携につながると強調しました。

5. 協業・PoCプロセスが明確になっている

協業を実現するためには、PoC(概念実証)のプロセスが明確になっている必要があります。PoCの予算が事前に確保されているか、その予算の出所がどこなのかをはっきりさせておくことが不可欠です。また、PoCの目的は事業化につなげることであるため、事業のイメージと仮説をしっかり立てておくことも重要だと言えます。

協業・PoCを推進する際の、スタートアップとの契約締結の場面でも気を付けるべき点があります。スタートアップとの契約においては大企業側が有利な条件になりがちですが、それでは中長期的にビジネスを作り上げていく対等な関係を結ぶことができません。松本は「オープンイノベーション担当者は法務担当者と連携し、自社とスタートアップの双方がWin-Winになる契約条件を設定する必要がある」とコメントし、セッションを結びました。

オリエンタルランド・イノベーションズと戸田建設の実践ナレッジ

後半に行われたパネルディスカッションでは、オープンイノベーションに積極的に取り組む株式会社オリエンタルランド・イノベーションズの豊福 力也氏と、戸田建設株式会社の斎藤 寛彰氏が登壇。Bizdevチームの泉がファシリテーターとなり、異なるアプローチでオープンイノベーションに取り組む両社の実情や工夫が明かされました。

オープンイノベーション活動の経緯と特徴

オリエンタルランド・イノベーションズは、株式会社オリエンタルランド100%資本のCVCです。新規事業創出を目的とし、2020年に本体から独立した子会社として活動をスタートさせました。

同社の活動の特徴は3つ。まず、同社の強みであるリアルなオペレーション構築とデジタルサービスのかけ合わせによる「OMO(Online Merges with Offline)」領域に注力している点です。さらに、スタートアップへの「人材交流」を積極的に行い、オリエンタルランドグループを経験した社員が出向してハンズオンで事業を一緒に作っていることや、出向などの人材交流を通じて信頼関係を深めることができた出資先には「追加出資」で徹底伴走し、株主という立場を超えた長期的な関係構築を目指している点も明かされました。

株式会社オリエンタルランド・イノベーションズ 豊福 力也氏
株式会社オリエンタルランド・イノベーションズ 豊福 力也氏

CVCを子会社化した背景として豊福氏は、「スピード感のある業界で機動的にスタートアップ投資を実行するため」と発言。また、新規事業開発のノウハウを自分たちで蓄積することも重視していたことから、二人組合CVCなどの形は取らなかったと明かしました。

CVC設立に際しては「やりたいことを実現するためのHow(手段)としてCVC活動が適している」ことを社内説明したとのこと。CVC設立後にはVCにLP出資するなどし、スタートアップに関する知見を深めたことについても良かった点として自社の経験を共有しました。

一方、戸田建設の斎藤氏は、同社では以前からスタートアップとの連携はあったものの、より深い共創を生み出すことを目指し、2018年頃からオープンイノベーション活動を本格化させたと説明。さらに、単なる協業だけでなく、資本関係も結んだパートナーとなる必要も高まってきたことから、本体内でCVCを立ち上げたりLP出資を強化したりしてきたとのことです。同社のスタートアップ投資の目的は、顧客に提案できるパートナーシップの構築や主力事業の強化だということも明かされました。

ゴール設定と社内説明の工夫

オープンイノベーション活動の課題としてよく挙げられるのが、ゴール設定の難しさです。

この点について豊福氏は、既存事業の売上は規模が大きいことから、そこと比較すると新規事業は小さく見えてしまうため、定量的な目標設定はあえてしていないと説明。代わりに、「期限を決めてオリエンタルランド本体として大きな新規事業創出を実行する」といった定性的な目標を設定し、その達成を目指していると述べました。

また、オープンイノベーション活動による定性的な効果として、出向を通じて人材育成が叶い、既存事業へのプラスの影響がある点について共有しました。

戸田建設株式会社 斎藤 寛彰氏
戸田建設株式会社 斎藤 寛彰氏

斎藤氏は、長期的な成果が出るまでの活動量を徹底的に数値化し、それをゴールとして管理するアプローチを紹介。「スタートアップの情報収集をXX件、事業部門への紹介をXX件、PoCや製品採択に進めるものをXX件」などのようにして目標を設定していると明かしました。

さらに、自社で開発しようとしたアプリや業務システムに対して、代替でスタートアップの製品を採用した場合の削減効果や生産性向上など、金額換算できるものは積極的に数値化し、CVC活動の貢献度を定量的に示していることも語られました。

会場からは両社をさらに深掘る質問も

会場からの質問に対しても、両社の担当者から具体的かつ実践的な回答が寄せられました。その内容を一部ご紹介します。

CVCの形骸化を避ける、経営陣の巻き込み方

まず寄せられたのが「CVC設立当初の目的が、役員や社員の異動に伴って徐々に形骸化してしまうことがあると思うが、どう対処しているか」という問いです。

これに対し豊福氏は、CVCの組織を社長直轄にし、レポートラインだけでなく、他の関係者に対しても何度も説明を重ねるという地道な活動を続けることで、オープンイノベーションへの理解を維持していると語りました。社内講演会をはじめとした社内広報活動などで役員へ活動継続の重要性を理解してもらうことも重要であるとのことです。

斎藤氏の見解としては「経営層がCVC活動を評価しているポイント」を継続的にトップに伝え続けることが重要とのこと。また、現場の事業部門の協力を得るために、ミドルマネジメント層のキーマンに働きかけて「協業を進めるとそのキーマンが評価される状況」を意識的に作り出していると説明しました。

オープンイノベーション人材の育成方法

「オープンイノベーションを進める人材をどう育成しているか」という質問に対し、両者からは具体的な組織運営のヒントが提供されました。

斎藤氏は、CVCの若手メンバーには自分の立てた協業仮説を事業部門に直接打診する経験を積んでもらうことで、自社事業に対する解像度を高め、納得感を持って協業を推進できるようになってもらっていると述べました。

さらに、人事部に依頼して、事業部門の社員を定期的にCVCチームに加えているとのこと。現場の課題解像度が高い人材がチームに加わることで、協業マッチングの成功率が上がる効果が見込めるといいます。さらに、その担当者が元の事業部門に復帰した後も、スタートアップとの協業を自主的に進めてくれるようになる好循環が生まれているのだそうです。

事業部門とCVC部門の棲み分け

事業部門が独自に外部企業と協業するケースと、CVCが投資を行うケースの棲み分けについても質問がありました。 オリエンタルランド・イノベーションズの場合、事業部門が主導する協業では既存事業の課題解決や成長に寄与することを目指す場合がほとんどであり、CVCの役割である新規事業創出とはバッティングしないため、明確に棲み分けができているとのこと。

戸田建設では、事業部門が独自に協業を進めたい場合は、CVC部門が間に介入しない方が早く進むため、どんどん自主的にやってもらっていると言います。しかし、投資を伴う案件に関しては、予算と評価基準を持つCVC部門を必ず通す仕組みを構築しているとのことです。

LP出資を最大限活用するには

戸田建設ではGBも含めてVCにLP出資もしています。会場からはその活用法についても質問が寄せられました。

戸田建設では、LP出資の目的はスタートアップ情報の効率的な取得と、直接投資のリスク軽減にあるとのこと。また斎藤氏は、一歩踏み込んだVCの活用法の一例として、GBと開催した領域専門キャピタリストによる社内向けセミナーの事例を紹介。宇宙など専門性の高い領域に詳しいキャピタリストに従業員向けに最新トレンドを紹介してもらうことで、オープンイノベーションやスタートアップに関心を持つ人材を社内に増やす仲間づくりの仕組みを構築していると明かしました。

積極的な議論が続いたネットワーキング

パネルディスカッション後には、参加者と登壇者によるネットワーキングも実施。大企業でオープンイノベーション活動に励む者同士の積極的な意見交換が交わされました。

またネットワーキングからは、GBが二人組合で運営しているCVCのGB側の責任者や、GBで大企業によるスタートアップM&Aを支援している社員など、GBメンバーも多く参加。長年にわたって大企業のオープンイノベーション活動を支援してきたGBのノウハウをシェアしながら、大企業の方々と交流をする機会となりました。

なお、開催後の参加者アンケートでは満足度95%、今後の参加意向も93%を記録。「課題感の似ている人と議論でき有意義だった」「会場からの質問をメインにパネルディスカッションが進行されたのがよかった」などポジティブなコメントを多数いただきました。

今後もGBでは「未踏社会の創造」というミッションのもと、大企業とスタートアップのオープンイノベーションを支援する機会を積極的に設けてまいります。

※所属、役職名、数値などはイベント開催時のものです
(執筆:GB Brand Communication Team)