大企業の「新規事業」実践ナレッジ──東急とプラスが語る、スタートアップ協業

グローバル・ブレイン(GB)が開催した、大企業オープンイノベーション勉強会で語られたナレッジをご紹介します。

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【Summary】

  • 新規事業の注力領域は、既存事業の抽象度を上げ、ドメインを広げて設定する
  • スタートアップ協業では、ともに事業をつくる姿勢や、出資を通じて「血を入れる」覚悟が必要
  • 社内連携にはトップのコミットメントと地道な啓蒙活動、挑戦を後押しする評価制度が不可欠

先日、国内最大級の独立系VCであるグローバル・ブレイン(GB)では「第2回 GB×大企業 オープンイノベーション勉強会~スタートアップ協業推進の実践テクニック~を開催しました。 主催したのは、GBにて大企業とスタートアップの協業や事業開発を支援するBizDevチームです。

勉強会内で行われたパネルディスカッションには、オープンイノベーションに積極的に取り組む東急株式会社の田中 浩之氏と、プラス株式会社の大久保 忠治氏が登壇。幅広い自社事業がある中でスタートアップと事業創出する東急と、社内起業からの事業化に積極的に取り組むプラスという、異なるアプローチから新規事業に挑む両社のナレッジが明かされました。

複数事業がある中で「注力領域」をどう定めるか

まずはじめに、両社がいかに自社事業の特性を踏まえ、新規事業やスタートアップとの協業領域を設定しているかについて解説いただきました。

既存事業・製品との関連性を重視する

家具や文具の製造販売、最適オフィス空間のデザインや施工、介護・学校・企業・行政などにモノ・コトを提供する流通サービスなど多岐にわたる事業ドメインを持つプラス。 大久保氏は、注力領域の定め方について「試行錯誤の中で案件ごとに経営陣がジャッジしている」と前置きしつつも、同社ならではの判断軸を明かしました。

プラス 大久保 忠治氏
プラス 大久保 忠治氏

また、大久保氏は新規事業においては、既存商品や既存市場など自社に強みがあるアセットと関係する領域を攻めるべきであると発言。

その実践例として挙げられたのが、プラスの社内ベンチャーから立ち上がった「タベレルという、オフィスに設置する置き型社食です。一見すると家具や文具といった領域からは外れた事業に見えますが、「オフィス環境を改善するビジネスを行っている以上、オフィスで働く人の『健康』や『快適性』を支えることに焦点をあて検討を進めた」と大久保氏は語ります。社内で起案する際にも「食を通じてオフィス空間をハッピーにする」という明確な目的を提示したことが奏功し、事業化まで進めることができたそうです。

一見飛び地に見える事業であっても、既存事業の抽象度を上げて、事業ドメインを広げることが、新規事業創出につながります。

事例:プラス株式会社のタベレル

また東急も、鉄道から不動産、スーパー、ホテルなど広範な事業展開を行っています。既存領域やその周辺はすでにカバーされているという状況の中、田中氏が所属するイノベーション推進組織「フューチャー・デザイン・ラボ」では、特に「エンターテイメント領域」に注目していると語りました。

田中氏はその背景として、東急線沿線が主に通勤などを目的とした「日常の路線」であり、観光地のような最終目的地が少ないことを挙げます。日常の路線に乗ってもらうための魅力付けをしていくべく、沿線全体にエンターテイメントの要素を盛り込んでいきたいという狙いがあるとのこと。

さらにAIなどのテクノロジーが進化する中で、現地に足を運ばなければ体感できない「嗅覚」や「味覚」といった、五感に絡めた事業領域にも関心を寄せていると説明しました。

東急 田中 浩之氏
東急 田中 浩之氏

社内の壁を越える「新規事業」の進め方

オープンイノベーションにおいて、多くの担当者が直面するのが「社内の壁です。両社がどのように事業部門を巻き込み、PoC実施までのハードルの高さをどのように乗り越えてきたのか、実践的な知見が共有されました。

東急の田中氏は、数多くのグループ企業が存在する中で、事業部門との調整に苦労したといいますが、その壁を突破する鍵となったのは、「成功事例の共有と語ります。

東急では年に1度、協業スタートアップとの成果を発表する「Demo Day」を開催しており、実際に結果が出た案件を社内に広くアピールしているとのこと。こうした地道な活動を通じて、徐々に社内の協力的な雰囲気を作り出してきたといいます。

このような粘り強いコミュニケーションを約10年間続けた結果、現在では社内にスタートアップとの協業やPoCに積極的な空気感が醸成されていると語りました。

協業に進むスタートアップの選定基準

また、数多くのスタートアップとの出会いがある中で、実際に協業が進む企業とそうでない企業にはどのような違いがあるのか、両社の方針やスタンスも解説されました。

プラスの大久保氏は、自社が純粋なファイナンシャルインベスター(財務的リターンのみを追求する投資家)ではないという前提に立ち、「業務提携できるかどうかを最大の判断基準にしていると説明。スタートアップに資金を提供するだけでなく、プラスが持つ多様なチャネルを活用して成長支援を行い、互いにメリットを享受できる関係性が築けるかを重視しているといいます。

東急の田中氏も同様の視点を持っており、スタートアップからの提案が「単に自社のプロダクトやサービスを東急に導入してほしい(売りたい)だけ」なのか、「それ以上に踏み込んでともに事業を作りたい」のかを深く確認していると語ります。

田中氏は、単なるサービスの買い手と売り手という関係ではなく、互いのアセットを掛け合わせて「ミックスアップ」できるプランを描けるかどうかが重要だと強調。その前提のもと、フューチャー・デザイン・ラボ側でもスタートアップのアイデアをもとに「こんなことができるのではないか」と事業仮説を立て、社内の事業部門に打診するなど汗をかきながら社内調整を行っていると明かしました。

大久保氏、田中氏が語る様子

CVCにおける「出資」の意義とタイミング

業務提携やPoCにとどまらず、事業会社がスタートアップに対して直接出資を行うことの意義や、そのタイミングについても議論が深まりました。

東急の田中氏は、シェアモビリティ事業を展開するスタートアップへの出資事例を挙げ、基本的には「協業やPoCを先に実施し、その後に結びつきを強化するための出資を行う」方針だと説明。

東急グループは鉄道という大規模輸送や、バスなどの中規模輸送を保有していますが、その間を埋める小回りの利く交通手段には課題がありました。そこでスタートアップとのアライアンスを通じて、大・中・小の輸送手段をつなぎ、沿線の活性化に寄与できる可能性があると判断できたタイミングで出資を決断したといいます。

戦略的なメリットを確認した上で、さらに一歩アライアンスの関係性を深めるための手段として、出資を活用している事例です。

事例:東急株式会社のシェアモビリティスタートアップとの連携

プラスの大久保氏は、スタートアップへの出資を通じて「血を入れる」ことの重要性を強調。 単なる外部からの業務提携と、実際に出資を行って社員をスタートアップに送り込む形での協業とでは、得られる経験やノウハウ、連携の深さに雲泥の差があると語ります。

大久保氏いわく、自社の社員とスタートアップの連携を強め、そこでスタートアップならではのスピード感や、時には失敗体験も含めて肌で学んでもらうことが重要とのこと。そうして蓄積されたノウハウを本社に持ち帰ることで、長期的な組織の成長や新規事業の創出につなげていくという、人材育成の観点も出資の大きな目的だと語りました。

新規事業に挑み続ける企業にしていくには

パネルディスカッションの最後には、難易度の高い新規事業やスタートアップ協業に挑む担当者のモチベーションをいかに維持し、評価していくかについて議論がなされました。

「多産多死」を許容する評価制度

新規事業は、その多くが失敗に終わる「多産多死の世界です。プラスの大久保氏は、新規事業に挑戦して失敗した結果、給料が下がってしまうような人事制度では誰も挑戦しなくなってしまうと警鐘を鳴らします。

事業創出を活性化させるためには、会社として果敢に挑戦した結果としての失敗を許容し、それを正当に評価する制度を整えることも必要であると強調しました。

東急の田中氏もこれに同調し、所属部門では、チャレンジした人を月に1回表彰する取り組みを試験的に始めているとのことです。

最後に大久保氏は、事業の成長には途方もない時間がかかるという現実を指摘。スタートアップが上場し、30~40億円規模の売上を作るまでには、平均して約10年もの歳月がかかります。「いま仕掛けた協業の実がなるのは、次の次の担当者かもしれない」というくらいの長い時間軸を理解した上で、どこまで腹を括ってスタートアップ協業に投資を続けられるかは経営の覚悟にかかっていると語り、セッションを締めくくりました。

横のつながりを広げるネットワーキングも

パネルディスカッション後には、参加者と登壇者によるネットワーキングも実施。大企業でオープンイノベーション活動に励む者同士の積極的な意見交換が交わされ、閉会時刻を過ぎても議論が続くほど、終始熱気に包まれました。

ネットワーキングの様子

なお、開催後の参加者アンケートでは満足度97%を記録。「各社のお取組みをお伺いでき、大変勉強になった」「ネットワーキングを通じて情報交換をさせていただけた」などのコメントを多数いただきました。

本勉強会で共有されたナレッジはオープンイノベーションの大きなヒントとなりますが、いざ自社で実行に移すフェーズでは「自社と相性の良いスタートアップになかなか出会えない」「PoCをどのように事業化へと進めていけばよいか分からない」といった具体的な壁に直面するケースも少なくありません。

そこでGBのBizDevチームでは、大企業がスタートアップとの協業や新規事業開発を推進する際のサポートを行っています。単なるマッチングで終わらせるのではなく、チームの一員としてプロジェクトマネジメントに入り込み、協業の実現まで伴走することを目指しています。スタートアップとの事業創出に課題を感じている大企業の方は、ぜひご相談ください。

今後もGBでは「未踏社会の創造」というミッションのもと、大企業とスタートアップのオープンイノベーションを支援する機会を積極的に設けてまいります。

※所属、役職名、数値などは勉強会開催時のものです
(編集:GB Brand Communication Team)

コラボレーター

田中 浩之のプロフィール画像

田中 浩之

東急株式会社

フューチャー・デザイン・ラボ 総括課長

大久保 忠治のプロフィール画像

大久保 忠治

プラス株式会社

コーポレート本部 経営企画部門 事業開発室長 / デジタル統括部門 副部門長 兼務