
杉田 智惇
キリンホールディングス株式会社
ヘルスサイエンス経営企画部 新事業開拓室 Corporate Venture Capital(CVC)
キリンホールディングス株式会社は、CVCファンドを通じて株式会社イムノセンスに出資し、共同で免疫状態を可視化する事業検証を進めています。本協業の経緯や、互いの強みを掛け合わせた連携の裏側などについて両社の担当者に伺いました。

大企業とスタートアップの協業は、文化やスピード感の違いから難航するケースも少なくありません。しかし、現場レベルで検証を重ね、互いの強みを引き出し合うことで新たな事業の種を生み出している好例もあります。
キリンホールディングス株式会社(キリン)
その一環として、2026年にキリン本社内に生まれた共創のための新拠点「イチハチTRACK」
こうした短期的な連携だけでなく、キリン社員約30名がGLEIA®の結果を通じて行動変容するかを検証する、中長期的なPoCも実行。また、尿を活用した検査サービスの共同開発や、唾液を用いた実証実験にも取り組むなど幅広い協業が進んでいます。
企業規模の壁を越えて、なぜ両社では多角的に連携を進められているのか。その鍵となる両社のスタンスやキリンの社内を巻き込む工夫などについて、キリンのCVC担当である杉田 智惇氏、同社で共同研究を進める牛田 悠介氏、イムノセンス代表取締役 杉原 宏和氏に話を伺いました。
──キリンにおけるオープンイノベーションの現状と、CVCの立ち位置について教えてください。
キリン・杉田:キリンは食から医にわたる領域、特にヘルスサイエンス領域を中心に成長していくというビジョンを掲げています。その中で、スタートアップなど外部と連携したオープンイノベーションは重要な成長戦略の1つです。そうした背景もあり、CVCチームは単なる投資機能ではなく、社外と社内の事業部や研究所をつなぎ、新規事業の種を生み出す役割を担っています。
先日発表された長期経営構想「Innovate2035!」
──イムノセンスとの連携の一環として、イチハチTRACKでプロダクトの体験会を実施されたそうですね。
キリン・杉田:はい。ただ、前提としてお伝えしたいのは、イチハチTRACKはCVCのためだけに作られた施設ではなく、キリン社内のコミュニケーション促進や、社内外の関係者の偶然の出会いを促すためのオープンな場です。私たちはそうした思想を持つイチハチTRACKを活用して、CVCの活動はもちろん、出資先スタートアップについて社内プレゼンスを上げる目的でプロダクト体験会を実施しました。
私たちCVCチームは社内の事業部と連携しながらスタートアップとの協業を進めていますが、オンライン会議や資料だけではスタートアップの技術の本当の価値や熱量が伝わりにくいという課題があります。特にヘルスケア領域は自分ごととして捉えることが重要なので、リアルな場で技術やプロダクトを知ってもらうことが事業部連携にもつながると考えました。
──具体的に体験会で行ったことや得られた成果を伺わせてください。
イムノセンス・杉原:キリンの皆さんには、GLEIA®によって自身のコンディションが見える化される体験を行っていただきました。参加者の方からわずかな量の唾液をいただき、その中に含まれる免疫指標であるsIgA(分泌型IgA)
私も測定の現場に立ち会っていたのですが、社員の皆さんからは「この数値にはどういう意味があるんですか」
キリン・杉田:「コンディションを見える化してみよう」
──体験会のような単発の取り組みだけでなく、中長期的なPoCも行われたそうですね。
キリン・杉田:はい。キリンのさまざまな部署から希望があった約30名の社員を対象に、4週間にわたって唾液を使った検査を行うPoCを行いました。目的は当社およびイムノセンスさんの将来のウェルビーイング事業創出に向けた「事業化の検証」
最大の検証ポイントは、「自身の状態が可視化された後、どのようなアプローチをすれば人の行動変容を起こせるか」
──実際に行動変容は見られたのでしょうか。このPoCを通じて得られた成果や発見があれば教えてください。
キリン・杉田:興味深い結果が得られました。「健康意識は高いが具体的なアクションがわからない」
また、こうしたコンディションの見える化に対する個人の課金意欲は想定より低かったのですが、福利厚生などBtoBサービスであれば使いたいというニーズが高く見られました。toC事業ではなく、toB事業の可能性を実証するリアルなインサイトを得られたと思っています。
イムノセンス・杉原:私たちにとってもこのPoCは非常に大きな収穫がありました。杉田さんがおっしゃったような行動変容につながる事例が得られたことは特に重要です。
また、GLEIA®を初めて使う方が直面する課題も明確になりました。たとえば「充電が切れてしまう」
──唾液のプロジェクトとは別軸で、尿を用いた免疫検査サービスの共同開発も進められていますね。こちらはどのような背景で連携に至ったのでしょうか。
キリン・牛田:私たちヘルスサイエンス研究所では、誰もが簡単に採取できる「尿」
しかし、私たちには尿のマーカーを見つける知見はあっても、実際に尿で測定する技術自体は持ち合わせていません。そこで、高い測定技術を持つイムノセンスさんとご一緒することになりました。
イムノセンス・杉原:私たちにとってもキリンさんとの協業は願ってもない機会でした。当社は免疫を測る技術を持っていますが、免疫機能に関するソリューションを提供することができませんので、「測った後に顧客に何を提供すべきか」
そこで、確かなソリューションと顧客接点を持つ企業とぜひご一緒したいと思っていました。キリンさんは「プラズマ乳酸菌」
──キリンが数あるスタートアップの中からイムノセンスと協業を決めた理由は何だったのでしょうか。
キリン・牛田:技術力の高さはもちろんですが、杉原さんの自社の技術を大事にしながらも、他社と連携していこうとする姿勢が大きなポイントでした。単に依頼されたことをやるだけでなく、「どうすればユーザーに使いやすくできるか」
また、私たちにとって連携の最大のメリットは「即時に結果がわかる」
──キリンのような大企業との協業は、イムノセンスの成長戦略にも何か影響はありましたか?
イムノセンス・杉原:イムノセンスが持つ測定原理はベースとなる基盤技術であるため、ともすれば「何を測定対象にするか」
しかし今回、キリンさんの現場を巻き込んだPoCを進める中で、ヘルスケアやヘルスプロモーション領域の大きなポテンシャルを再確認することができました。唾液や尿中の免疫物質を可視化することに対して確実なニーズがあるとわかったのは大きな収穫です。
キリンさんとの協業を通じて私たちが進むべき道筋が明確になりましたし、唾液や尿の測定にある程度特化した形で機能拡張や改良を進められるようになりました。事業戦略の方向性を定める上で、これほど大きな意味を持つ協業はないですね。
──ありがとうございます。最後に、各プロジェクトの今後の展望を伺わせてください。また、キリンとの連携を検討しているスタートアップに向けたメッセージもお願いできますか。
キリン・牛田:尿を使った免疫の見える化については「確実に使いたい」
また、キリンは新しい事業の種をどんどん生み出していきたいと考えていますが、すべてをゼロから自前で作っていくのは限界があります。だからこそ、起業家の皆さんが熱意を持って創り上げてきた技術シーズと、私たちの研究開発力を掛け合わせることで、世の中にない新しい事業を形にしていきたいです。スタートアップの皆さんとはまずはフリーに意見交換するところからでも、ぜひお話しさせていただければと思っています。
キリン・杉田:今回の検証を通じて、免疫状態の可視化の先にどうすれば個人の行動変容を促せるかというUX設計の重要性が改めて浮き彫りになりました。この課題をイムノセンスさんと解消し、誰もが自分のコンディションを把握して「大事な日にパフォーマンスを最大化できるようになる世界」
私たちキリンも日々社内で新規事業について議論していますが、社内だけでは仮説が「ただ綺麗なもの」
イムノセンス・杉原:おべんちゃらではないんですが、キリンさんは人々のウェルビーイングの役に立ちたいという哲学を持った、本当に素晴らしい企業です。利益を追求するのは当然ですが、「世の中の役に立つことが第一」
私たちのように技術基盤を持ちつつも、どう社会実装すべきか迷っているスタートアップにとって、確かなソリューションと顧客接点を持つキリンさんとの協業は計り知れないポテンシャルがあります。ともに挑戦することで自社も大きく成長することを目指せますので、ぜひキリンさんとコンタクトを取られることをおすすめします。
※所属、役職名、数値などは取材時のものです。
(編集:GB Brand Communication Team)

キリンホールディングス株式会社
ヘルスサイエンス経営企画部 新事業開拓室 Corporate Venture Capital(CVC)

キリンホールディングス株式会社
ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス研究所主査

株式会社イムノセンス
代表取締役