どうすれば経営陣と現場の「目線」がそろうのか。スマートバンクに学ぶ、自走するスタートアップの作り方

AI家計管理アプリ「ワンバンク」などを展開するスマートバンクがグローバル・ブレインと実施した、組織人事の課題解決に向けた取り組みについてご紹介します。

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【Summary】

  • 組織人事の課題を特定するには、社内ヒアリングによる事象の深堀りや構造化が必要

  • アーリー〜ミドル期では人事制度を軽量化した方が成果にフォーカスできる

  • 経営課題や経営OKRを整理する上で、経営陣の「心配事」に目を向けるのも有効

スタートアップが拡大期を迎えると、高い確率で直面するのが「経営メッセージが現場に伝わらない」「チームごとに課題認識が違う」などの組織の課題です。AI家計管理アプリ「ワンバンク」などを展開する株式会社スマートバンクも、事業と組織の拡大に伴い同様の悩みを抱えていました。

そこで同社は、出資元である、国内最大級の独立系VC グローバル・ブレイン(GB)の投資先支援専門チーム「Value Up Team(VUT)と連携。人事評価制度の見直しや、経営陣の認識を統一するオフサイトミーティングなど複数の取り組みを実行しました。結果、経営陣だけでなく、結果、経営陣の目線が揃い、現場メンバーにも経営課題への理解が広がりつつあります。

組織の壁をどのように乗り越え、経営課題に向き合えるチームへと進化できたのか。スマートバンクCEOの堀井 翔太氏、同社CFOの下河原 雄太氏に加え、同社に伴走したVUTの薮田 孝仁、GBのVenture Partnerである定国 直樹氏に話を聞きました。

経営陣も見抜きにくい、真の「組織人事」課題

──GBとの取り組みを始める前の状況や課題感を教えてください。

スマートバンク・堀井: GBさんに支援をお願いしたのは2025年の4月ごろです。当時、社員数が80名ほどに増えてきたこともあり、以前よりも経営陣からのメッセージが現場に届いていないと感じる場面が多くなってきていました。

たとえば、次の事業の柱として私が個人で探索していたBtoB事業について社内に発信した際、複数のメンバーから「なぜshotaさんはBtoB事業を考えているのか」と、そもそもの前提が伝わっていないと感じる質問を受けまして。当社では経営会議の議事録を公開したり、全社集会を週次で行っていたりと情報のオープンさは意識していたんですが、それでも経営陣と現場の目線にギャップを感じた出来事でした。そこで、組織のあり方を整理するために、GBさんに伴走いただけないかとご相談したのが経緯です。

堀井 翔太
堀井 翔太:VOYAGE GROUP (現CARTA HOLDINGS / 東証プライム)へ新卒入社し、最年少で子会社社長に就任。日本初のフリマアプリ「FRIL(現ラクマ)」を運営していたFablic社の創業者。2016年に同社を数十億円で楽天株式会社に売却。 2018年の退任まで代表取締役CEOを経験。2019年にスマートバンク社を設立。

──GB側はどのようなアプローチで支援を行ったのでしょうか。

GB・薮田:当初堀井さんからは「人事戦略を固めたい」と相談いただいたんですが、「人事戦略の不在」真に解決するべき課題なのかは見極める必要があると思いました。

こういった場合、まずは経営陣と人事担当の方向けにアンケートを実施することをお勧めしています。スマートバンクさんにおいても、いわゆる「100人の壁」や「50人の壁」で語られる一般論をベースにした数十個の設問でお伺いしたところ、やはり経営と現場の事業の理解度や背景知識にギャップがあることが確認できました。

アンケート結果を深堀りして構造化していく中で、優先して取り組むべき課題が浮き彫りになりました。具体的には、「経営と現場の認識ギャップ」や「目標設定の仕組み不足による目線のズレ」、「ピープルマネジメントの設計不足」などです。

ピープルマネジメントとは、一般的には「メンバー1人1人の成功を支援し、組織の利益を最大化するマネジメント手法」を指しますが、今回は単なる手法の導入にとどまらず、「スマートバンクにおいてはこれをどう定義し捉えるべきか」という前提の議論も行いました。こうしたプロセスを経たことで、人事戦略の策定より先に改善すべき項目を明確にすることができました。

薮田 孝仁
薮田 孝仁:2025年にGB参画。投資先のPeople Practice支援に従事。また、GB社内の組織人事も担当。

──体感として感じていた課題の存在を確認しつつ、優先度の高い課題も特定していったわけですね。下河原さんは当時の組織をどう捉えていましたか。

スマートバンク・下河原: 2023年7月に中途入社した立場だからこそ感じるんですが、スマートバンクは「いいプロダクトを作れる会社」というのが強力な強みであり、個性だと思っています。これは創業メンバーが築き上げた素晴らしいカルチャーである一方、強すぎるプロダクト開発力ゆえに生じる組織への副作用もありました。

個人の課題に対しても「構造で解決しよう」「仕組みをデザインしよう」という思考になりがちだったんですよね。「1on1で解決すればいいのでは?」と思えるような属人的な事象にまで、全社の仕組みを設けようとしてしまうというか。これは良い文化である一方、局所的な問題と全体課題の切り分けが曖昧なことが組織の動きを重くしている一因にもなっていたように思います。

また、創業者3人が三位一体で経営してきた歴史が長かったため、特定の領域に対して「誰が意思決定し、責任を持つのか」が経営陣の間でも不透明になりがちでした。経営会議の場でもそれぞれの立場から自由に意見を発言してしまうため、意思決定が難航する構造になっていたと思います。

「評価制度」と「経営OKR」を見直し

──そうした課題に対し、どのように改善をされていったのでしょうか。まず、薮田さんがメインで取り組まれたことを教えてください。

GB・薮田:複数の取り組みの中で特に変化をもたらしたのが、ピープルマネジメント設計の1歩目として取り組んだ「人事評価制度の見直しと軽量化です。

当時のスマートバンクさんの人事評価は、大きな3つの行動評価をさらに2つに分解し、計6項目で評価するというかなり作り込まれた形でした。しかし、アーリー期からミドル期にあるスタートアップにおいて、過度な作り込みは必ずしも最適解とは限りません。80名のメンバー全員の行動を数値化するのは難しく、項目が多すぎると現場も評価者も疲弊してしまいます。そこで、メンバー1人1人の強みや課題に合わせて期初に注力する項目を絞り込む運用に変更し、より成果へ集中できるよう制度を軽量化・チューニングしました。

スマートバンク・下河原: 人事評価制度をスリム化したことで、現在は期初に「今期はこの課題にフォーカスする」と項目を絞る形へ変更しています。これにより、評価される側は改善すべきポイントがクリアになり、評価する側も強弱をつけてフィードバックできるようになりました。

下河原 雄太
下河原 雄太:UBS証券債券部を経て、ゴールドマン・サックス証券債券部に。2年間の債券営業部の勤務を経て、2015年より投資銀行部門。大手金融機関、事業会社の大型調達案件、M&A連動案件に多数携わった他、日本国内初のノンリコース型太陽光発電プロジェクトファイナンス案件、自己株取得案件など多岐に渡る非公開案件の取引に従事。2021年よりスタートアップ業界に転職し、2023年7月より現職。スマートバンクでは2024年末にSeriesB総額40億円超の調達を主導。TV東京「モーニングサテライト」に不定期ゲストとして複数回出演。

──なるほど、ありがとうございます。定国さんとは主にどのような取り組みを進められたのでしょうか。

GB・定国: 下河原さんもおっしゃっていましたが、経営陣内での目線のズレや認識齟齬がスマートバンクさんの大きな課題でした。そこを埋めるための取り組みとして行ったのが、「経営OKR[1]の策定および運用の見直しです。

経営OKRを策定するために、まず経営陣の皆さんとオフサイトミーティングを行ったんですが、その事前準備として2つ宿題を出させていただきました。「あなたにとって夜も眠れないほどの心配事は何かと、「その心配事の根本にあるボトルネックは何かを深掘りしてきていただくことです。

たとえば、堀井さんの夜も眠れない心配事の1つに、「IPOできるかわからず不安だ」という内容があった場合、これ自体は経営課題ではなく、単なる心配事です。この不安の根本原因を分解して紐解いていくと、根本的な重要要因の1つが「IPOできるほどの成長スピードをBtoC事業だけでなく、BtoB事業でも生み出す道筋が見通せていないから」だと言語化することができます。このとき、BtoB事業戦略立案は会社全体で向き合うべき「経営課題」になりえます。

経営陣それぞれの立場から見た眠れないほどの心配事の原因を掘り起こし、議論することで、真に向き合うべき経営課題を整理する。これがオフサイトミーティングの目的でした。

スマートバンク・堀井: オフサイトミーティングでは、他の経営メンバーがどんな視座で会社を捉えているかが一目瞭然になりました。同じ事象であっても、特定部門の視点で見ている人もいれば、外部環境や投資家の動きまで俯瞰している人もいる。経営陣内の目線の差が浮き彫りになったのは興味深かったですね。

オフサイトミーティング時に活用した議論メモ(一部加工して抜粋)
オフサイトミーティング時に活用した議論メモ(一部加工して抜粋)

GB・定国: オフサイトミーティング当日は、経営陣で洗い出した課題をテーブルに広げ、互いに耳を傾けてディスカッションしながら経営チームで向き合うべき課題の整理を実施。最終的に向き合うべき最重要経営課題を4つに絞り込み、そこから「この課題に対して、スマートバンクはどのような姿を目指さないといけないのかを議論しながら、まずは経営のObjectiveを言語化し、その後経営OKRの策定へと進んでいきました。

OKRの策定にあたって注意したいのが、「XX億円の売上を達成する」といった数値目標をObjectiveにしてしまうケースです。Objectiveは、目指したい世界や自社のあるべき姿を言語化したものでなければなりません。なぜなら、目指したい世界や自社のあるべき姿を達成したその先に、売上目標や顧客数が紐づいてくるのが本来の順序だからです。売上や顧客数は結果指標であり、それ自体が目的化するものではありません。このObjectiveの言語化のプロセスには、特に時間をかけて議論をしていきました。

定国 直樹
定国 直樹:2020年からGB Value Up TeamにVenture Partnerとして参画し、投資先の支援活動を行う。これまでのグローバルテック企業でのジェネラルマネージメント経験をベースとして、OKR導入をはじめとする組織課題や、営業・プロダクト等々の特定ファンクションの業務改善プロジェクトを遂行する一方で、投資先企業経営陣のメンター的な役割も担う。

スマートバンク・堀井: 実は、以前は私1人がスマートバンク全体のOKRを作成していました。「全社の目標を決めるのはCEOの仕事だ」という思いもあり、半期に1度、私が決めて「これでいこう」と全社展開していたんです。こうした状況でしたから、その他の経営陣も当事者意識をもって目標を追いかけられる状態ではなかったと思います。

しかし今回の取り組みを通じ、「経営OKR=経営陣全員で解決すべき経営課題という共通認識が形成されました。また、策定した4つのObjectiveには、それぞれ経営陣1名の責任者を明記し、「その人物が達成に責任を持つ」という運用に変えたことで経営会議での議論も建設的なものになっていったと思います。

経営陣・現場メンバーの視座が変わった

──これら一連の取り組みを経て、社内や経営陣にはどのような変化が生まれましたか。

スマートバンク・下河原: 先程も申し上げた通り、人事評価制度をシンプルにしたことで評価される側は改善すべきポイントがクリアになり、評価にかかる負担も下がりました。チームのOKRを月次で振り返り、1on1で目標と現在地をすり合わせる運用が定着したことで、マネージャーとの目線のズレがあっても期中に気づいて修正しやすくなったのは大きかったです。

また経営OKRを策定したことで、経営陣の視座が明確に高まったと感じます。以前であれば、たとえば特定の領域での目標が未達成だった際、その部門だけの話だと割り切ってしまう空気感が否めませんでした。しかし本来、全社の課題であれば部門を問わず経営陣全員がコミットしなければなりません。経営陣全体で追うべき目標が固まったことで、チームの一体感が強まったと感じます。

なお、経営OKRは背景も含めて全社に共有したんですが、その結果、現場メンバーからの質問の質も深化しました。冒頭で堀井がお話しした「なぜBtoB事業を考えるのか」のような質問でいえば、「数あるBtoB市場の中でなぜXXXの市場なのか」という風に、1歩踏み込んだ質問に変わってきたように感じます。

スマートバンク・堀井: 実のところ、BtoB事業の探索については経営OKRに含めるべきではないと考えていました。あくまでも新規事業であることから、CEOの個人タスクとしてスマートバンク全体の課題からは切り分けたほうが良いと。

ですが、定国さんから「それこそ経営チームで向き合うべき課題だ」と背中を押され、経営OKRに据えることにしました。結果として「なぜ経営課題としてBtoBに挑むのか」を社内へ丁寧に説明する機会が増え、現場メンバーも含めて新規事業への納得感が高まったと思っています。現場のメンバーから「BtoB事業において私にできることはないですか?」と言われたときは非常に嬉しかったですね。

堀井氏と下河原氏

──今回GBの支援担当者2人と取り組みを行ったわけですが、それぞれどのような違いを感じましたか。

スマートバンク・下河原: 薮田さんと定国さんはそれぞれ異なるタイプだなと思っております。薮田さんはプロダクトマネージャーのバックグラウンドをお持ちのため、組織の現状を構造的に可視化し、改善に向けて現場目線で整理・推進していくのが得意な方だと感じました。当社の人事メンバーが薮田さんから仕事の型を学ぶ機会にもなったと思っています。

一方、定国さんは1歩引いて大局を見渡すタイプでいらっしゃると感じました。それでいて、議論がやや停滞した際には「その悩みに向き合えている状態自体が素晴らしい」と後押ししてくれるチャーミングさも素敵だなと思いました。ビッグテックカンパニーでの経営経験のある定国さんからコーチングいただくようにオフサイトを導いていただいたことで、経営陣も安心して思考を深められました。

スマートバンク・堀井: 下河原の言う通り、薮田さんから構造的に人事課題を見極める視座を提供していただけたのはありがたかったです。また、定国さんのファシリテーションがあったからこそ、経営陣も「自分たちで意思決定する自走力が身につきました。

AIとともにスタートアップ経営を変えていく

──組織や経営面での進化を遂げたスマートバンクの今後の展望を伺わせてください。

スマートバンク・下河原: 組織面では、BtoB事業の本格展開が大きな鍵を握ります。社内でもよく例えるのですが、BtoCプロダクトが「恋愛」なら、BtoBプロダクトは「結婚」です。恋愛では恋人1人から愛されていれば良いかもしれませんが、結婚となるとその家族や親戚からも愛される必要があると思います。それと同じで、BtoCはユーザー個人に愛され続けることでサービスが継続できますが、BtoBは利用者だけでなく、決裁者やバックオフィスの方などあらゆるステークホルダーとの合意形成が不可欠です。

今後スマートバンクがBtoBを本格化させていくためには、相手の懐に入るコミュニケーション力や、多角的な情報から本質を見抜く力に長けた人材が重要になると考えています。そういった人材を仲間に迎えつつ、私たち経営陣もそうした点を一層意識していきたいですね。

スマートバンク・堀井: 経営者の立場として最近強く感じるのは、AIの台頭を受けてスタートアップにおける経営のあり方そのものを変革しなければならないということです。従来は3年計画を策定し、半期で軌道修正するのが定番でしたが、AI全盛の現代ではそのスピード感では置いていかれてしまいます。4月に決めた施策を、翌々月の6月までに見直して切り替えるような機動力で挑まなければ波を乗り越えられません。

経営陣はもちろん、現場のメンバーもAIを駆使して最適な事業成長のアプローチをスピード感をもって実行していけるような、そんな組織にしていきたいなと思っています。

GB・薮田: 素晴らしいですね。余談ですが、堀井さんとはGB入社以前から15年来の付き合いなので、今回ご一緒できたことを感慨深く感じていました。堀井さんを信頼して集った下河原さんや人事のご担当者など、スマートバンクの皆さんと仕事ができたのは純粋に嬉しかったですね。

スマートバンク・堀井: ありがとうございます。私のパーソナリティを知る薮田さんや経験値の豊富な定国さんにサポートいただけたからこそ、私たちも飾ることなく本音で相談できたと感じます。より一層強固に経営課題に向き合えるようになったこの体制のもとで、さらなる事業成長に向けて頑張っていきます。

※所属、役職名、数値などは取材時のものです
(編集:GB Brand Communication Team)


  1. Objectives and Key Results。目標設定や目標管理のためのフレームワーク。 ↩︎

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薮田 孝仁

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