組織・人事の悩み多きスタートアップが、ブレークスルーするために必要な「論点整理」の方法

スタートアップへの伴走型支援を行う中で見えてきた、組織・人事課題の紐解き方や企画を実行する際のポイントについてまとめました。

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Summary

  • 「組織課題の特定と論点整理」が事業成長のボトルネックを解消する

  • 課題や論点は「情報収集」と「分解」によって見出せる

  • 施策企画〜実装まで伴走することで、成果の再現性が高まる

国内最大級の独立系VCであるグローバル・ブレイン(GB)のValue Up Team(VUT)にて、投資先企業の組織・人事領域におけるハンズオン支援を担当している薮田です。前職では、SaaSスタートアップの株式会社SmartHRにて、従業員50名から1,000名規模になるまでの間の人事執行役員を担当していました。

今回は、VUTの組織・人事領域において投資先企業の組織・人事の実行局面にまで入り込んだハンズオン支援の活動をご紹介します。

実は、日本においてVCがそこまで深く入り込む支援事例はまだ少ないため、活動内容をお話しすると驚かれることも少なくありません。

この数年、そうした支援を通じて多くの経営者に伴走する中で確信したのは「組織課題の特定と論点整理」こそが、事業成長のボトルネックを解消する最大の鍵になるということです。

本記事では、私たちが支援現場で実践してきた「組織課題の紐解き方と、なぜ企画だけでなく「実装までの伴走」が成果の再現性を高めるのかについて、投資先企業のリアルなフィードバックを交えながら、そのエッセンスをお伝えします。

スタートアップ経営者の方々には組織改善のヒントとして、またCHROなど人事のプロフェッショナルの方々にはキャリアの新たな可能性として参考になれば幸いです。

  • 目次
    • なぜ、「課題と論点」の整理が重要なのか
    • 組織・人事領域における組織課題や論点整理のコツ
    • 「企画」「実装」まで伴走し、変革の再現性を高める
    • 組織作りに、正解はない。終わりはない。

なぜ、「課題と論点」の整理が重要なのか

VUTが投資先企業への支援を開始する際、まず徹底的な情報収集やヒアリングを行い、現状を整理します 。その上で、経営陣と「なぜこれが必要なのか(Why)という重要課題について合意形成を行い、具体的な施策(WhatやHow)へと進めていきます。

支援開始から施策実行までのオーソドックスな進め方
支援開始から施策実行までのオーソドックスな進め方

2025年には株式会社トリファ(トリファ)、株式会社スマートバンク(スマートバンク)の2社を主に支援させていただきました。さまざまな施策を進めましたが、両社からのフィードバックで共通して「価値を感じた支援の第1位」に挙げられたのが「組織課題や論点の整理、つまり徹底した事実の確認から課題を分解し、原因仮説と優先順位を置いたうえで、次の打ち手を選べる状態にすることでした。

投資先企業からのフィードバック

トリファ

【価値を感じた支援上位5つ】

  1. 組織課題や論点の整理
  2. 組織人員計画のサポート(職種、等級別の人員分布の可視化)
  3. 等級制度設計
  4. 評価や給与の決定基準作り
  5. ハイレイヤー新入社員のオンボーディング設計

【コメント】
代表取締役 嘉名 雅俊氏、執行役員 永井 健太郎氏
「特に効果的だったのは、組織づくりの土台となる考え方や課題の洗い出しから丁寧に伴走いただいた点。壁打ちを通じて、組織課題と今後やるべきことが明確にクリアになったのが大きな成果だった」

スマートバンク

【価値を感じた支援上位5つ】

  1. 組織課題や論点の整理
  2. 全社OKR設計の壁打ち
  3. OKR運用の見直し
  4. 人事制度の見直し
  5. ミドルマネージャー向けオフサイト・ワークショップの設計・当日の進行

【コメント】
CEO 堀井 翔太氏、CFO 下河原 雄太氏
「組織課題を人事や経営メンバーから聞き出すだけで、施策はスマートバンクに考えさせるという進め方ではなく、薮田さん自身が手を動かして『こういうことをした方が良い』という企画のボールまで作ってきてもらえた」

私たちも、組織・人事の支援を行っていくうえで「課題・論点の整理」が最も重要な出発点だと考えています。

ではなぜ、VUTでは個別の施策(採用や制度設計)以上に手前の「整理」を重要視しているのか。そしてなぜその点がスタートアップからも支援ニーズを集めるのか。理由は大きく3つあります。

理由1:組織課題は連鎖しており、構造も複雑化しているから

たとえば、「人が採用できず業務の移譲が進まない」という悩みも、紐解けば「求める人材像が経営陣同士で定まっていない」や「面接で見極めができていない」などが原因になっている場合があります。採用できないから採用コストを追加するなど表面的な症状だけを治療しても、根本原因を特定できなければ課題は再発してしまいます。

理由2:リソースが限られるスタートアップでは、優先順位の誤りが致命傷になるから

スタートアップでは組織人事だけに十分な時間を割くことはできないため、事業課題にかけるリソースとのトレードオフが常に発生します。その中では、いま解くべき問い(論点)を絞り込まなければ組織は疲弊してしまいかねません。

理由3:第三者の視点だからこそ「感情」と「事象」を切り分けられるから

経営者やCHROはどうしても日々の実務や意思決定に追われ、課題特定のための時間を確保するのが難しい場合が多いです。また、スタートアップ社内の当事者であるからこそ、人や組織の課題に感情的なバイアスを抱いてしまうこともあると思います。

私たちのような外部の人間が客観的に「事象」と「課題」の構造化をサポートすることで、経営陣が「納得感のある意思決定」を下しやすくなります。投資先企業から「課題と論点」を整理するニーズが高いのも、そういった背景があるからだと考えています。

組織・人事領域における組織課題や論点整理のコツ

では、具体的にどうすれば組織の「詰まり」を見つけ、課題や論点を整理していくことができるのでしょうか。私たちが支援をする際は以下のプロセスを重視しています。

1.徹底的な情報収集とヒアリング

まず、投資先企業の経営陣や人事担当にヒアリングをする前に、事前に入手できる情報に目を通して考えられる組織の強み・弱みを洗い出します。具体的には以下のようなデータを読み込みます。

  • 組織・人員構成に関する情報(組織図、従業員リスト、経営陣プロフィール)
  • 人事制度・ルールに関する情報(就業規則、人事制度の説明資料)
  • 組織状況・運用の実態(従業員サーベイ結果、入退者情報)
  • 組織文化・方針(キックオフの資料・動画、会議体や社内コミュニケーションの設計)

なお、ここまでの情報がすべてそろっているケースは投資先企業の中でも少ないですし、提出するのにもリソースがかかってしまうので、すべてのデータを創業初期からまとめておく必要はありません。一方で、組織拡大を見据えるのであれば将来的には必要なデータになることから、自分たちがどこまで人事に関する情報を持っているかを振り返る意味でも情報の集約はおすすめしています。

データをいただいた後は、 以下の6つの組織人事に関わる分野に分けて確認すべき点を洗い出していきます。それぞれに対し、データでは理解できなかったことを追加でヒアリングをしていく形です

  • 組織・マネジメント
    • 例:CxOが「本来やるべき役割」と「現場プレイヤー」を同時に抱えすぎていないか?
  • 採用
    • 例:採用したい人材像が「理想論」になっていないか?(いまの事業フェーズと合っているか?)
  • 労務・働き方・健康管理
    • 例:休職者、離職者の主な要因は?課題はないか?
  • 人材開発(育成・教育・オンボーディング)
    • 例:入社後3ヶ月で「何ができていればOKか」が言語化されているか?
  • 人事制度(等級・評価・報酬)
    • 例:人事制度の設計、運用における課題は?
  • 組織文化・コミュニケーション
    • 例:ネガティブな情報が経営まで上がってこない状態ではないか?

これらを網羅的にさらうことで、「経営者が感じている違和感」と「現場で起きている事実」のギャップを浮き彫りにします。このギャップこそが、組織の成長スピードを落としている“正体”であり、人事・組織支援において最初に向き合うべき論点です。

2.「事象」「課題」「論点」を分解する

次に、1の段階でのヒアリングなどを経て得た情報を以下の3つに分解し、関係性を整理していきます。

  • 事象(組織で起きている症状): 「退職者が増えている」
  • 課題: 「マネージャーの育成が追いついていない」
  • 論点: 「いま育成に投資すべきか、外部採用で補填すべきか。あるいは評価基準を変えるべきか」

多くの現場ではこの3つが混ざって考えられてしまっています。このように分解した上で、「あえていまはやらないこと」を明確にするスタンスこそが、課題や論点を整理する最大のコツです。

VUTの支援では論点を洗い出すだけではなく、 私たちが考える仮説も合わせて経営陣や人事担当者などのカウンターパートの方々にお伝えします。私自身がスタートアップやメガベンチャーで経験してきたことや、これまでの支援事例、一般論を参考に、ケースに応じて提案するよう心掛けています。

「企画」「実装」まで伴走し、変革の再現性を高める

課題が整理できても、立派な企画書が机上で眠ってしまっては意味がありません。GBのハンズオン支援では施策や企画の実装まで支援することで、戦略の「翻訳者」となり、実務の「並走者」となることを徹底しています。

その中で意識しているのは以下の3つのポイントです。

ポイント1:意思決定を促す「思考の刺激」を行う

伴走者の役割は答えを与えることではありません。経営者が決断するために必要な「材料」をそろえ、壁打ちを通じて思考を刺激することです。

なぜこのような動きを意識しているのかというと、スタートアップ経営者の意思決定が遅れてしまうのは、情報不足ではなく「考えきれなさ」や「比較軸の欠如」が原因となっていることが多いからです。

たとえば、投資先企業の経営者が報酬設計で迷われている際、私たちは単に労働市場のデータを共有するだけでなく「御社の文化ならどちらが望ましいかを忌憚なく指摘します。この外部の人間からの「斜め上の視点が、意思決定の質を一段引き上げるサポートになるからです。

実際の支援事例ではどのように取り組んだのかもご紹介します。たとえば、「明確な給与基準がなく全社的に評価制度への納得感がない」という状況だったトリファでは、以下のようなアクションを実施。VUTとして経営者の思考を刺激していく取り組みを重ねました。

  • VUT薮田から等級定義・給与レンジのたたき案を提示
  • 経営陣自身の言葉や想いに合わせて修正案を作成
  • その内容に対しても問いを投げ、壁打ちを重ねて等級制度のバージョン1を作成

ポイント2:経営・人事・現場の「温度感」をそろえる

社内で企画した施策のスピードが落ちたり、うまく行かなかったりするのは、社内の理解や納得感を得られておらず、温度感の調整不足が原因となっているケースが多いです。

温度感がそろわないまま進んだ施策は、社内の「やらされ感」や「形骸化」を生みやすく、結果として制度や仕組みへの不信感につながります。

経営と人事担当だけでコミュニケーションをしても、利害の違いを吸収しきれないケースはよくあります。たとえば、経営サイドは事業フェーズの変化に合わせて「人材を入れ替えるべきだ」と考えていても、人事側は現場負荷を案じ、「本当にいま採用や退職対応に時間やリソースを割くべきなのか」と戸惑いを覚えてしまうなどです。

そこで、外部の伴走者が「人事と経営両者の翻訳者として間に入ることで、経営の意図を現場に馴染む形に落とし込めれば、現場の懸念を経営の論点に昇華させることができます。私たちのような支援チームがついていない場合でも、担当キャピタリストや起業家仲間などに客観的に整理してもらうと案外解決することもあると思います。

なお、前述したトリファへの支援では以下のような取り組みを通じて、経営・人事・現場のコミュニケーションが円滑になるようサポートしました。

  • VUT薮田が等級制度に関する社内説明資料を作成し、マネジメント陣へ説明
  • その上で嘉名CEOから社内へフォローを入れていただき、質疑応答の場を設けた

ポイント3:人事チームへスキルを継承する

私たちが目指す最大の成果は、支援が終わった後に投資先企業が「組織課題解決を自走できる組織に成長していることです。

スタートアップでは環境変化が激しく、同じ課題は2度と同じ形では現れません。だからこそ「考え方」や「進め方」を残すことが重要だと考えています。

トリファでの支援においても、同社の中で施策を効果検証し、自走できる体制になるよう、制度設計の仕方には留意をしました。

  • 当時は人事が社内にいなかったこともあり、運用負荷を考慮してCEO・COOで回せるライトな等級制度の設計に落とし込んだ

これら一連の取り組みを通じ、当時のトリファは社員10数名のアーリー期のスタートアップでありながら、社員も納得感を感じられる等級制度の構築に成功。等級制度がクリアになったことで、社員自身の成長へのモチベーション向上にもつながり、組織体制が一層強固になりました。

支援の詳しい内容については、以下の記事もご覧ください。

組織作りに、正解はない。終わりはない。

組織・人事の課題に対する「絶対的な正解」はありません。しかし、適切な「問い」を立て、1つ1つの論点を解きほぐしていくことで、事業を加速させる強い組織を作ることは可能です。

多くの経営者は目の前の「事象」を「課題」と捉えて解決を急ぎがちですが、実はその背後に潜む「真の論点」を見定めることこそが、組織を根本から変えるための最短距離になります。

そしてこの論点の見定めこそ、私たち外部支援者が最も貢献できる領域です。経営・人事・現場の間に立ち、それぞれの違和感を構造化して「いま何を解くべきかを可視化する。そのプロセスを通じて組織の「OS」をアップデートし、単なる制度導入に留まらない、現場が自ら動き出す「自走していける体制を育むことに、私たちの介在価値があると考えています。

なお、GBではスタートアップで活躍したい方、GBでスタートアップ支援したい方を募集しています。「自らの知見をスタートアップ支援に活かしたいと考えている人事プロフェッショナルの方がいれば、ぜひ1度お話ししましょう。 私たちとともに日本のスタートアップエコシステムを組織の側面から強くしていける人材が増えていくことを心から願っています。

(編集:GB Brand Communication Team)

薮田 孝仁

薮田 孝仁

グローバル・ブレイン株式会社

Value Up Team

Partner

投資先のPeople Practice支援に従事。また、GB社内の組織人事も担当。