スタートアップが特許出願を考える3つの視点

特許出願を検討する際の考え方についてご紹介します。

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執筆: 廣田 翔平

特許出願を考える3つの視点

特許取得を検討する際には①ユーザーへの価値を提供している部分はどこか?②プロダクトから見える部分か?③他社が真似したくなる部分か?という3つの視点で整理するようにしています。前回の記事で紹介した事例をもとにそれぞれの視点を見ていきます。

1. ユーザーへ価値提供している部分はどこか?

プロダクトのユーザーや顧客の目線で考えることは非常に重要です。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、どうしてもどこが権利になるのかを意識しすぎてしまい、権利を取ることが目的化することはよくあります。

ユーザーにとってあまり価値がない機能の権利になってしまっては意味がありません。そのため、プロダクト・サービスの顧客に対して、新たな価値を提供している部分はどこか、その部分を特許で押さえられないかという視点が重要になってきます。

ファインディで言えば(JP6837699)人事部門などでは評価しづらいエンジニアのスキルを、客観的に見える化したのが新たな価値ですし、Luupで言えば(JP6785021)乗車時に目的地のポートを予約してもらい、到着時の満車を防いでいることが新たな価値です。両社ともこの部分を特許で押さえているというのがポイントになります。

2. プロダクトから見える部分か?

特許は権利者側に立証責任があり、他社による侵害を立証できないと権利行使できません。そのため「外から見える部分」で権利を取得することが重要です。例えばAppleがSamusungに対して特許で権利行使した際には、UIという誰の目にも明らかなものに関する特許が数多く活用されています。このような観点からも、プロダクトから見える部分について特許を考えることが重要です。

スマートバンクはペアカード発行時にユーザー同士がペアリングするユーザー体験(JP7195031)を、UPSIDERは複数のカードの支払い枠を合算して請求書払いをする機能を特許化しています。どちらもプロダクトから見える部分を特許で押さえています。

このようなユーザー体験として見える部分を特許で押さえると、プロダクトやサービスを体験すればその特許技術を用いているか特定しやすいので、侵害立証もしやすくなります。

3. 他社が真似したくなる部分か?

知財の本質は他人に勝手に真似されないことです。そのため他社が真似したくなる部分がどこか、もしくは類似するプロダクトを提供しようとした際に避けられない部分、真似せざるを得ない部分はどこかという視点も重要です。

スマートバンクのペアカードに関する特許は、上述のようにユーザー同士をペアリングしてカード発行する際の流れを特許で押さえています。カード発行は決済サービスでは避けては通れない部分なので、言い換えると他社がペアカードを実装しようとすると真似したくなる部分と言えるでしょう。

また、UPSIDERはユーザー企業の資金繰りを改善するため、銀行振込の請求書をクレジットカードで支払いできるようにする支払い.comを提供しています。資金繰り改善のため大きな請求額をカード払いしようとすると、1つのカードでは支払い枠が足りなくなってしまうこともありますが、複数のカードの支払い枠を合算して請求書払いをする機能を特許で押さえいます(JP7148852)。大きな金額の請求書についてもサービス利用してもらおうと思うと自然と真似したくなる機能ではないでしょうか。

まとめ

以上、特許取得を考える際の3つの視点をご紹介しました。なお、①〜③の3つの視点を満たせば特許が取得できるわけではありません。特許は新しい技術・アイデアを保護するものであり、①~③の視点で特許を取得したくても、既に類似するプロダクトや先行する特許が公開されていれば当然不可能です。この点については弁理士などの専門家に調査・検討してもらうことが重要ですので、①~③のような観点で特許取得したい部分が見つかったら知財専門家に相談してみましょう。

次回はより大きな目線で「スタートアップの知財戦略に必要な目標設定と3つの戦略」について紹介いたします。

廣田 翔平

廣田 翔平

Investment Group

Director

Patent & Trademark Attorney

2020年にGBに参画。知財チームを立ち上げ、投資時の知財DD業務と投資先に対する知財支援業務に従事。2013年弁理士登録。