エンプラ商談で成果を出すためにスタートアップが取るべき3つのアクション【エンプラ営業ナレッジ後編】

スタートアップがエンプラ営業で成果を出すために、各プロセスで行うべきアクションをまとめました。商談前後ですべきことや商談を通して顧客と信頼関係を築き、課題を抽出するためのポイントを具体的に紹介しています。

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Point

  • 「意思決定者」と「現場利用者」の両方を巻き込む

  • 最も重要なのは「課題の合意」フェーズ

  • 予算は自社からロジカルに提案し、商談の主導権を握る

国内最大級の独立系ベンチャーキャピタル(VC)であるグローバル・ブレイン(GB)にて、投資先企業の事業支援を専門とするValue Up Teamのリーダーを務めるです。

スタートアップが事業を成長させるために、主に大企業などを対象とした営業手法である「エンタープライズ(エンプラ)営業は避けて通れません。しかし、エンプラ営業は顧客の課題も複雑で、商談設定も難しいことから多くのスタートアップが苦労する活動でもあります。

また、エンプラ営業と中小企業(SMB)営業は本質的に異なっており、SMB営業のやり方をそのまま転用することもできません。エンプラ営業ならではのプロセスを理解し、その中で重視すべきアクションをきちんと実践していく必要があります。

先日、GBの投資先企業であるアソビュー株式会社にて、このエンプラ営業をテーマに研修を行いました。本記事では研修でお話しした後半のトピック「エンプラ営業プロセスにおける重心について再構成し、まとめています(前半の内容はこちらの記事をご覧ください)

研修の参加者によるアンケートでは平均満足度9割以上を記録。「より速いスピード感で成果を出すためのヒントが詰まっている」「提案が前に進まなかった理由が明確になった」などの感想をいただきました。

アクション1.「意思決定者」と「現場利用者」を巻き込む

前回の記事でもご紹介した通り、エンプラ営業のプロセスは以下の4つのフェーズに分かれます。

【フェーズ1】商談機会の創出:ターゲット属性にフィットする対面の商談機会を創り出す

【フェーズ2】課題の合意:意思決定者が抱える課題・論点を引き出す

【フェーズ3】解決方法の合意:課題の解決方法を提示し、不安・質問に答えて期待値を調整する

【フェーズ4】導入条件の合意:導入に向けた詳細条件などを合意する

このうち、最初のフェーズである「商談機会の創出」で求められる行動や意識から解説します。

組織の幅広い重要論点を理解しているハイレイヤー層にアプローチする

商談設定のフェーズで何よりも重要なのは、初回商談でできる限り「意思決定者」とコミュニケーションを取ることです。

執行役員や事業部長など上位層の意思決定者は、全社や事業部の目標・戦略・経営課題を深く理解しています。経営に関する視座や論点の解像度も高い。彼らと早い段階でつながって深い課題を聞ければ、単なる製品導入にとどまらず、よりスケールの大きな協業提案を行えます

さらに、彼らには予算面で一定の裁量権があります。各自の判断で柔軟に購買を行えることから、導入となった際のスピード感も速いです。

一方で、現場担当者やメンバー層は、必ずしもすべての全社戦略や経営課題を把握しているわけではありません。予算の裁量権も限定的なケースが多いです。製品を実際に使うのが現場レベルの方々であっても、彼らとのコミュニケーションだけではエンプラ営業として求められる大きな成果にはつながらない可能性があります。

したがって、初回商談ではできる限り意思決定者と会話することが重要です。そのための手段としては顧問の活用や社外ネットワークの探索、エグゼクティブ向けイベントへの参加などが考えられます。社内外のあらゆる人脈を駆使することも1つの手です。

現場利用者とのコミュニケーションも不可欠

上位の意思決定者から商談機会を得ても、そこで終わりではありません。製品を実際に利用する現場担当者とのコミュニケーションも不可欠です。

意思決定者は経営課題に精通している一方、現場のオペレーション課題をくまなく把握しているわけではありません。そのため最終的な導入決定の際には、製品利用者や現場のオペレーションを仕切る課長、マネージャー、グループ長などの意見を参考にします。彼らは社内への影響力を持つという意味で「利用者インフルエンサー」とも呼べる存在です。

営業担当者はその点を十分理解し、現場の利用者やインフルエンサーに対してこそ、丁寧に対応しなければなりません。たとえば、上位の意思決定者が抱いている現場のインフルエンサーへの期待感を伝えるなどして、製品導入のモチベーションを高めることが円滑な案件推進につながります。

上位層と現場利用者、その両方をしっかり巻き込み、コミュニケーションを取る。これが商談機会の創出フェーズの鍵だと言えます。

アクション2.顧客から深い課題を引き出す

エンプラ営業プロセスで最も重要なのは「課題の合意」フェーズです。課題が合意できれば、自社のプロダクトやサービスを顧客に合わせる形でカスタマイズでき、そのあとの「解決方法の合意」まで一気通貫で進めることができます。

この「課題の合意」フェーズは「事前準備」「商談実施」「商談後フォロー」という3つの段階にわかれます。

事前準備:アジェンダと仮説を策定する

エンプラ営業で成果を出すためには、商談前の徹底的な準備が欠かせません。サービス説明資料だけを持って商談を行うのは避けたいところです。

ここでいう事前準備とは、アジェンダを設計し、顧客の課題仮説を策定して、商談を管理することを指します。

アジェンダ設計とは、単に議題を羅列することではありません。このミーティングが終了した時点で「どのような状態になっていれば成功なのかというミーティングの目的を定義し、それを達成するために議論すべき事項を設定してはじめてアジェンダが完成します。

事前に顧客の課題仮説を策定しておくことも重要です。顧客の決算発表資料や中期経営計画などを分析し、「私たちは御社の課題をこう考えており、弊社はこのような貢献ができると思っているがどうか?」とスタンスを取れるようにしておくと良いでしょう。顧客も具体的な仮説を提示されたほうが議論しやすく、課題を言語化しやすくなります。

商談実施:信頼関係のもとで問いを重ねる

商談中に重心を置くべきことは、顧客と合意形成して「信頼関係を築く」ことと、顧客の「課題を抽出する」ことに集約されます。特に課題の抽出は、商談を前に進めるために外してはいけないポイントです。

まず信頼関係を築くために行う合意形成とは、顧客の「イエス」を積み上げることです。

たとえば、顧客企業の公開情報をもとにして「御社はXXXという戦略となっていますよね?」「XXXという組織体制だと記載がありましたが正しいですか?」のように、イエスと回答できる問いを尋ねていく。

事前によくリサーチをしてくれたことに対して信頼を感じた顧客は、その後の対話でも心を開き、深い課題を共有してくれる可能性が高まります。

次に、顧客の課題をいかに抽出するかですが、これには以下のようなアプローチがあります。

目標と現状のギャップを明確にする:顧客に目標および現状を尋ね、その間にあるギャップを課題だと定義する

うまくいっている施策とハードルの高い施策を聞く:顧客が比較的答えやすい「うまくいっている施策」を尋ねたのち、「ハードルの高い施策」を問うことで課題を引き出す

他社の課題事例を共有する:他社の具体的な課題例を提示し、似た課題を抱えていないか尋ねる

自社が価値提供できる可能性を広げるためにも、顧客の課題は3~4つ程度引き出したいところです。短期で実現可能な成果(クイックウィン)を達成できる課題から、中長期で大きな予算を投じるべき課題まで幅広く引き出すことをおすすめします。

商談後フォロー:議事録で合意を積み上げる

商談が終了した後に肝となるのは、議事録の作成と共有です。議事録にきちんと議論・合意事項とネクストステップ(To Do)を記載し、関係者全員にもれなく共有・合意できればその後の進め方が曖昧になりません。

議事録のポイントは以下の通りです。

  • 原則24時間以内に関係者全員に共有する
  • 合意事項とネクストステップを明確に分けて記述する
  • 会議に参加していない人でも理解できるレベルの主語・述語が揃った日本語で記述する
  • 合意事項とネクストステップは議事録の最上段にサマリーとして記載し、メール本文にも転記して全員が目を通せる状態にする

議事録に対して顧客からの修正や違和感の指摘がない場合、その内容は「正」となって確定します。これにより、次回商談のスタート地点が明確になり、結果的に商談を前進させることが可能です。

アクション3.商談の主導権を握り、一気に導入まで進める

エンプラ営業プロセスの最後は「導入条件の合意」フェーズです。ここでは予算を自ら主導して提案し、顧客の意思決定を促す技術が求められます。

指値する技術

顧客に「予算はいくらですか?」と尋ねてはいけません。これは交渉の主導権を顧客にゆだねることにつながり、商談の進みを遅れさせる要因となります。

営業担当者は自ら指値をするべきです。以下のようなことを通じてロジカルに価格を提示する必要があります。

前年の顧客の予算を踏まえる:大企業の多くは前年の予算から大きく変わらないことを踏まえ、顧客企業の全社予算・部門予算などから適した価格を見積もる

競合の予算を鑑みる:Top Tierや2nd Tierの競合企業がどの程度の予算でプロダクトやサービスを提供しているかを鑑みる

なお、予算については顧客から理不尽な要求が来ることもありますが、その際はいつでも商談を「やめる覚悟・胆力を持っておくことが重要です。そうすることで真の対等なパートナーシップを構築することができ、公正な取引が可能となります

意思決定を促す技術

何にいくらかかるのかをロジカルに算出しておくと、顧客から「XXXX円でやってほしい」というオファーが来た際にも柔軟に対応が可能です。たとえば、以下のような調整を行えば顧客が求める理想の状態でプロダクトやサービスを提供できるので、意思決定も促しやすくなります。

期間や価格などのオプションを用意する:「松竹梅」のような価格別のプランや、短期・中長期など期間の長さに応じた提案を用意しておく

体制を調整する:プロダクトやサービスの導入にかかる人的リソースや期間を把握しておき、顧客の理想に合った提案を行えるようにしておく

予算を調整できる要素を常に頭の中に持ち、商談時に即座に対応できる状態にすることが、エンプラ営業の最終フェーズで求められる技術です。

適切な行動の積み重ねが成果につながる

エンプラ営業成功の鍵は、それぞれの営業プロセスで適切な行動を取れるかにかかっています。

「商談機会の創出」「課題の合意」「導入条件の合意」という各フェーズにおける重心を理解し、一貫して実践することがスタートアップの成長を実現するための道筋となるでしょう。

ちなみに、前編記事では、アソビュー株式会社で行った研修の前半のトピック「エンプラ営業とは」をもとに、SMB営業との違いや商談フェーズごとに求められる資質などについて詳しく解説しています。こちらも併せてぜひご覧ください。

本記事を読まれたスタートアップの経営者やエンプラ営業に携わる方にとって、少しでも示唆となる情報を提供できていれば幸いです。

GBでは今後も「未踏社会の創造」というミッションのもと、スタートアップの事業成長に資するような発信や活動を継続して行ってまいります。

(編集:GB Brand Communication Team)

慎 正宗

慎 正宗

グローバル・ブレイン株式会社

Value Up Team

General Partner

2020年にGB参画。投資後の支援を専門とするValue up teamを立ち上げ。チームのリーダーとして、投資先の投資後の成長支援をリード。