持続可能な社会と投資の関係性——三菱ケミカルHDが推進するサーキュラーエコノミー活動、その具体を聞く(αTrackersレポート):後編

CVC活動とサーキュラーエコノミーの関わりについてお伝えいたします。

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執筆: Universe編集部

グローバル・ブレインでは大企業にて投資・新規事業を手がけるキーマンを集めた招待制の勉強会「αTrackers」を開催しています。本稿では、いくつか披露されたセッションの中から、三菱ケミカルホールディングス社のCVC活動とサーキュラーエコノミーの関わりについてお伝えいたします(前編はこちら

木村 : ここから、CVCの方にお話を移させていただきます。

CVC立ち上げのアイデアのところからファンドへの投資、ダイレクトインベストメント、アクセラレータなどいろいろと取り組みをされていますが、これまでの活動のCVCとしての背景や成果について教えていただけますか?

浦木:ファンド機能を持ったCVCを始めたのは2018年からなので、まだヨチヨチ歩きで、長くやっている皆さんのご参考になるかどうか分からないのですが、昨年度は長期CVC戦略を立てさせていただいて、2月の事業説明会で発表させていただきました。これが1つのスライドになっております。

CVCの目的は会社によって、偵察であったり事業創出であったり、各社各様だと思うんですけれども、弊社の場合は会社全体の長期ビジョン実現の基盤事業という位置づけになっています。 実際にコーポレートベンチャー活動を始めたのはけっこう前で、2012年ぐらいから始めていますが、かなり紆余曲折があって今の活動に繋がっています。この2012年は基本的にファンド出資、LPとしての出資をしまして、実際にいろんなディールフローをいただいて社内紹介する、担当1人2人くらいのメンバーでやってるというような形だったのですけれども。どちらかと言うと教育的な意味合いも強かったりして、事業オプションのひとつというような考え方とか捉え方は全くされてなかったかなと思うんですね。

私は元々BASFというドイツの化学会社のコーポレートベンチャーキャピタル部門にいました。化学系でCVCの経験があるという一風変わった経歴があるということでご縁を頂き、2016年に入社させていただきました。入社後いろんな部署に行脚してですね。まずスカウティング活動を始めたんですけれども、最初は、ちょっとこう、怪しい結婚紹介所のように取り合ってくれなくてですね(笑)そういった場面も多くあったので、やっぱり紹介とか情報提供だけでは協業推進になかなか繋がらないということを痛感しました。その後、経営陣のサポートを得てファンドを組成して、社内外にコミットメントをちゃんと示せるというような体制を打ち出したのが2018年になっています。

この時にベンチャーグループというチームを組成しまして、そのすぐ後にダイヤモンド・エッジ・ベンチャーズという100%子会社をアメリカに作りました。そこで海外の投資実務をする形にしてます。ハンズオンで事業やプロジェクトに繋いでいくところがすごくキーになってくるので、弊社では10人のメンバーが日本にいて、そのハンズオンにかなり力を入れてやっています。メンバーの半分はいろんな事業部、事業会社から参画し、あと半分はCVCの経験や投資経験、起業経験のあるメンバーが外部から参加したミックスチームになっています。両方の文化と、両方の論理が分かるメンバーで構成していることが強みと考えています。

2018年から本格始動をしまして、インキュベーターのスポンサーをしたり、PoCをファンディングするような機能を作ったり、社内でイベントとしてベンチャーショーケースっていういろんなベンチャーさんをお呼びしてピッチしていただくというイベントを開催したり、外部アクセラレータに参加したりしました。あとは、事業部の方から決まった期間来ていただいて経験を積んでいただく人事交流制度を作ったり。毎年毎年、ちょっとずつ新しい施策をして今に至っているという状況です。だいたい年間に800~1,000件ぐらいの案件を見て、年間70~100件くらい何らかの形の協業に繋いできています。通算で200案件ぐらいのエンゲージメントに繋がってるというような状況になってます。

木村:2つCVCを作られているのはどういった意図でしょうか?

浦木:最初3年間はどちらかというと事業部に併走して、事業の拡張を後押しする出資をメインで行なっていたんですね。その方がかなりwin-winの関係を構築しやすいですし、目に見える成果も得やすいために自然とそうなったのですが、それが経営陣や、実際にコラボしている事業部の信頼獲得にも、スタートアップ側の信頼獲得にも繋がったということで、良かったのかなと思っています。ただ、長期的な枠組みで考えると、ホールディングスでしかできない部分というものにもう少し力を入れた方がいいのではないか、というような議論になりました。今まで三菱ケミカルホールディングスグループで事業をしていない未踏領域へのアクセスというようなところもファンドを使ってやっていくべきではないかということで、10年間という長期のコミットメントで未踏領域へのアクセスを主眼としたフロンティアファンドを今年四月から始めさせていただいています。

引き続き、事業部と一緒にやっていくところはプラットフォームファンドでしっかりやっていきたいと思っています。こちらに関しては、何らかの協業テーマがあり、事業でご一緒できる絵が描けるというようなところが大事なので、投資ステージとしてはAからCぐらいまでが多いです。フロンティアファンドでは、もう少し長い目で見て大きなインパクトのあるところに入っていく布石となる投資をしたいと考えています。ここではシード投資もあると思いますし、領域によってはもう少し育ったステージの投資もあるかなと考えているところです。

木村:ぜひ深堀りしたいんですが、ちょっと時間の関係で次に進めますね。サーキュラーエコノミーを推進するみたいな課題について、事業性のお話があったと思います。材料系っていうことになるとアセットが必要で、スケールまでに時間が掛かるっていうイメージがある中で、最近アセットライトで、自分ではアセットを持たずに、たとえばライセンスでスケールするとか。サーキュラーエコノミーの場合、実はスケールした時に、廃棄物が何かを作るというアイデアですとその廃棄物を引き取るのでもレベニューになりますし、それでプロダクトを作って売ることでまたレベニューが増えるので、けっこうレベニューストリームが増えて最終的に利益も上がるという見方もあると思っています。それらの課題とそれに対するスタートアップや新しいビジネスモデルによる事業性についてお話しいただけますか?

浦木:おっしゃる通りだと思います。昔クリーンテックというものが流行って、ちょっとこう、ヒューッと落ちていた時代があったと思います。あの時はバイオプラスチックですとかバイオリファイナリーとかもすごく活発で投資も集めたんですけれど、やっぱり、なかなか事業に繋がらなかった。コストも時間も本当に掛かって、どちらかというとVC泣かせな領域で、反省的にもクリーンテックには投資しない!っていうVCさんもたくさんいらっしゃった領域だったと思うんですよね。それが、ものづくりそのものではなくて、ものづくりをデジタル化するところですとか、ものの流れを繋いでいくソリューションとか、CAPEX型でだけではないスタートアップが出てきていて、新しい協業の形がこれから増えていくかと期待しています。

データを持っていたり、ものを持っていたり、インフラを持っている大企業と、それを活用したり、それをひとつ上のレベルに持っていくようなスタートアップとの協業は非常に協業ストーリーが描きやすいですし、データを使いこなせるアセットライトな、技術力のある会社も多く出てきていると感じています。マネタイズやエグジット、成長スピードというところで今までのクリーンテックの会社とは一線を画したスタートアップさんが活躍していく感触です。

今回の「KAITEKIチャレンジ」でも、どちらかというと新しい世代のクリーンテック会社も選ばせていただいています。弊社にとってはまだ遭遇してないような、新しい接点になるので、そこでどんな化学反応がが起きるかというところもすごく楽しみにしています。