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持続可能な社会と投資の関係性——三菱ケミカルHDが推進するサーキュラーエコノミー活動、その具体を聞く(αTrackersレポート):前編

投資と持続可能な社会づくりはどのように関係すればよいのか、浦木史子氏にお話を伺います。

Photo by Akil from Pexels.
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執筆: Universe編集部

グローバル・ブレインでは大企業にて投資・新規事業を手がけるキーマンを集めた招待制の勉強会「αTrackers」を開催しています。本稿では、いくつか披露されたセッションの中から、三菱ケミカルホールディングス社のCVC活動とサーキュラーエコノミーの関わりについてお伝えいたします。

同社では2030年に向けた戦略「KAITEKI Vision 30」にてサステナビリティ経営を掲げており、脱炭素や炭素循環、プラリサイクル、資源循環などをキーワードとした活動をベンチャーグループとしても支えています。投資と持続可能な社会づくりはどのように関係すればよいのか、先端技術・事業開発室ベンチャーグループの浦木史子氏にお話を伺います。(聞き手 : グローバル・ブレイン 木村理一郎)

浦木:まず会社の説明をさせていただきます。いろいろ試行錯誤しながら一からCVC活動を企画してきたところもありますので、本日少しでも共有できればと思っております。

三菱ケミカルホールディングスはいくつかの事業会社を抱えたグループになっております。ケミカルからマテリアル、医薬、ヘルスケア、工業ガスと事業範囲が非常に広く、それを束ねるビジョンとして「KAITEKI Value for Tomorrow」を掲げ、快適ということをコアにしたビジョンでグループ会社を束ねております。「KAITEKI」はもちろん日本語の「快適」から誕生したのですが、意味するところはもう少し広がっていまして、「人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくこと」を目指し、このKAITEKIの実現がグループ全体のミッションとなっています。

ベンチャーグループはこのホールディングス会社に属しておりまして、事業会社というよりはホールディングスの方でプラットフォーム組織としてのCVC機能をグループ会社に提供するという立ち位置になっています。

弊社では2030年に向けた戦略を「KAITEKI Vision 30」と定めているのですが、ここでは、サステナビリティ経営の主眼としてサーキュラーエコノミーを推進しています。いま話題になっている脱炭素や炭素循環に加えて、プラリサイクル、資源循環などをキーワードとしており、ベンチャーグループもその推進を支えています。サーキュラーエコノミーという言葉は、欧米では3〜4年ぐらい前からメジャーでしたが、弊社では2019年ぐらいから社内でも頻繁にキーワードとして上がってきて、ビジネスに繋がる形になってきたのが最近かなという印象です。サーキュラーエコノミーや、最近の新しい言葉で「クライメイトテック」という領域がありますが、グローバル・ブレインさんも今後そういった領域に入っていかれると思います。VCの立場としてはどんなふうに見ていらっしゃいますか?

木村:クライメイトテックはかなり広い話題だと思っておりまして、脱炭素社会を目指す上で必要な技術サービスの総称と捉えています。VCの投資環境を見ますと、2013年からクライメイトテックへの投資額はグローバルで6倍になっているというデータがあります。主に中国、北アメリカ、欧州で活発に投資が行なわれています。いわゆる老舗のクリーンテックVC、昔の2010年ぐらいのクリーンテックブームの時から活発にエネルギーやトランスポーテーションに注力していたVCに加えて、ジェネラリストファンドだったところがクライメイトテックへの投資参入を発表して実際にいくつか投資を始めていたり、クライメイトテックに特化したファンドというものも増加しています。投資額の増大に合わせて、事業会社も含めてプレーヤーが出てきているのかなと思います。

サーキュラーエコノミーというとヨーロッパ発というような認識があるかもしれないですが、アメリカでもサーキュラーエコノミーはかなり注目されています。インベストメント政策に掲げているVCやアクセラレータ、市、州のレベル、たとえばニューヨーク市やニューヨーク州というレベルでサーキュラーエコノミーが次に経済を牽引する要因になるとされ、ネットゼロエミッションを達成する上でもサーキュラーエコノミーは脱酸素という枠組みの中で注目されています。また経済の活性化、雇用の創出という意味でもかなり力を入れていて、たとえばお金やブランドを出したり、そのシーンのリソースを使ってスタートアップがパイロットできるようなエコシステムが整ってきている印象を受けます。

全体像としては、クライメイトテックの対象は幅が広く、エネルギートランスポーテーションといった今まで注目されてきたクリーンテックに加えて、こういったフード・アグリ、建造環境、製造業といった分野、あるいは二酸化炭素回収もカーボンサイクルマネージメントと言われる部分と、サーキュラーエコノミー、産業を超えて展開可能な技術やサービスにもかなり注目が集まってきているのかなと思います。

私たちとしては十年先の未来から投資領域を決めておりまして、サーキュラーエコノミーを含めクライメイトテックは非常に社会性が高く、かつ、あとでお話させていただきますが事業性の面もファイナンシャルリターンがちゃんと見込める分野として認識しております。基本的にサーキュラーエコノミーの話というのは既存のバリューチェーンのディスラプションだと思うので、特にスタートアップにとっては企業様とのパートナーシップが重要になる分野だと思っています。これまで幅広く企業の皆さんとお付き合いをさせていただいておりますグローバル・ブレインとしては非常に注力していきたい領域だというふうに考えています。

御社の取り組みにお話を戻したいのですが、サーキュラーエコノミーの中でも「炭素循環」「プラスチック循環」「水資源」の3つが重点分野とされています。サーキュラーエコノミーは基本的に、「作って、使って、捨てる」というものから「循環させる」ということで、入口と出口の部分で材料系の課題が多いかと思います。三菱ケミカルホールディングスさんとは相性がよい分野かなと思うのですが、その中でもこの3つに注目されている理由というのはなんでしょうか。

浦木:この3つをフォーカス領域として取り上げているのは、最もファンダメンタルで持続可能性に直結している領域だからと思っています。おっしゃる通り材料系は、どちらかと言うとバリューチェーンの上流の方で活動していることが多いので、焦点がコンシューマーや社会からちょっと遠いところにあることが多いのです。サーキュラーエコノミーは今までリニアだったバリューチェーンがサークルとして繋がるため、入口と出口が近づきます。かなりダイレクトに関わっていかなければいけないということで今までと立ち位置が逆転しています。反対にメインプレーヤーになれる領域でもあるので、そういった意味では社会に対する責任も大きくなると感じています。バリューチェーンの変革というところでどんな事業を出していくか、どのような戦略を立てていくかというのがすごく大事なところだと考えています。

木村:立場の逆転というお話ですが、たとえばリサイクルは出口の方でサーキュラーエコノミーのいい例だと思っています。リサイクルしやすいデザインだとか、廃棄物が出にくいデザインを上流の方からやっていくという話題が結構出ています。そういったところも注力されていますか?

浦木:これはプラスチックや包装材の原料を作っているメーカーとしては今すぐの課題として、モノマテリアル化ですとか、どうやって分別しやすくしていくのかといった問題を突き付けられているようなところもあるので、社内ではもう2030年を待たずして、今すぐに改革していこうとギアチェンジしていっている感触です。

木村:バリューチェーンのエンドコンシューマー側からのプレッシャーと言いますか、消費者がそういうものを求めていることがバリューチェーン全体に降りてきて、発端として材料系のメーカーが中心となって積極的に取り組んでいるイメージですか?最終的にはコンシューマーのところに行く気がするのですが。

浦木:木村さんと知り合った頃の話に戻りますと・・・そういえば、BASF時代の同僚とこんな形でまたお話しする機会をいただいたことが奇遇だなと思ってるんですけど。

ずっと化学業界にいますが、クリーンテックやリサイクルですとか、実際にスタートアップがやるには難しい、暗黒時代が長く続いたと思うんですよね。理由としてやっぱりマネタイズできない、お金にならないと。それが少しずつ変わってきたのはやはりコンシューマレベル、社会レベルで意識が変わってきて、そのバリューのあり方っていうのがちょっと変わってきたからと思います。

まずはB2Cのところに何らかのプレッシャーが来て、上流へ上がってきて弊社に辿り着くこともあります。今までは、どんなに環境に良いソリューションでも価格アップであれば採用は難しいね、という市場反応でした。でもリサイクル率がこれだけ上がるとか、CO2のキャプチャが増えるとか、そういったようなことがバリューの一つとして捉えられて、マネタイズできるようなシナリオになってきているというのは、社会全体が変わってきてその「変革の波」がバリューチェーン全体に影響を与えて始めていると感じますね。

弊社は直接コンシューマーとやり取りしている製品はすごく少ないのですが、そんな中でも変化の波が来た、しかも急激にきたと感じています。たぶんB2Cをやっていらっしゃる方にとってはもっと大きなプレッシャーが来ているのではないかなと思います。サーキュラーの閉じる所でケミカルとか材料メーカーが存在感を出せる技術領域という風に認識が広まってきているので、そこでいかに貢献するかがひとつの分かれ目になると感じていますし、恐らくどのケミカルメーカーもかなり真剣に取り組んでいらっしゃるところではないかと思っています。

木村:CO2のバリューの捉え方という意味で、最近スタートアップの投資評価をする時に、そのスタートアップが製品なりサービスなりを既存のものを置き換えることによってどれぐらい二酸化炭素の排出量、グリーンハウスガスの排出量を減らせるかを指標のひとつにしているVCやアクセラレータも出てきています。確かにおっしゃる通り、バリューの捉え方という意味で、CO2や脱炭素が結構挙げられているのかなと感じています。

推進に向けたスタートアップの教育法は、サーキュラーエコノミー分野ではすごく大事だと思います。三菱ケミカルホールディングスさんは、アメリカの東海岸で、全米最大のクライメイトテック・アクセラレータであるグリーンタウン・ラボのように積極的にやろうとしていらっしゃるのは、スタートアップとの協業を早くから行うことで自社の事業に、という目的でしょうか?きっかけや意図を教えていただけますか。

浦木:グリーンタウン・ラボは2018年に初めて訪問しまして、ボストンのイノベーションエコシステムに深く根差し、当時は「クリーンテック」を旗頭にインキュベーター活動をされているのを大変興味深く思いまして、2018年から企業スポンサーをさせていただいています。インキュベーターの他にもアクセラレータを主催されていて、ぜひご一緒したいなという風にずっと思っていたんですけれど、ここと一緒にやるのであれば、先進的なテーマでないと、と思い、事業部の方に何か一緒にやりませんか?といろいろお声をおかけしたのですね。新しいテーマを立てて、オープンに、パブリックにソリューションを募集しましょうよと。残念ながら、最初の年は空振りでした。ただ、年を重ねていくに従ってグリーンタウン・ラボって面白いところだねっていう認識が浸透し、さらに、先程申し上げたサーキュラーエコノミーに対しての興味が社内に蓄積してですね。それで去年、プロジェクトを興そうと複数の事業部が賛同してくれたのです。

サーキュラーエコノミーのもう一つの観点は、恐らく「一社でできない」というところなんですね。もちろん大企業同士の連携も弊社の中でいくつか動いていて、仕掛けているところはあるんですけれども、ただやっぱり新しい仕掛けとか新しい仕組みをスピード感を持ってトライする点においては、スタートアップさんとの協業に勝るものは無いと唱えて、アクセラレータプログラムを立ち上げました。三年掛かりのミッションがようやく去年花開いたということです。「持続可能な未来の創造をする」ことをモットーとして、特にサステイナブル・ウェルビーイング、消費の持続可能性というところに着目してプロテイン、プラスチック、それからパッケージを再構築するというキーワードで始めさせていただきました。

その時に一番大切にしたのが「面白いね」で終わらずに、PoCや事業提携、トライアル、サンプル評価といった何らか実際の活動を行うこと。6ヶ月のアクセラレーション期間があるのですが、実際にこの6ヶ月で何ができるかというのも選別基準の一つにさせていただきました。3つのテーマを打ち出したのですが、この3つそれぞれに特定の事業部がアンカーについて、そこの方たちが課題意識として持ってるものを社外に出してソリューションを募集する。実際に弊社が持っている課題意識に共感いただけるパートナーさんと一緒に具体的なことをしましょうねという、PoCを中心に据えたプログラムという形で推進しました。

最終的に6社をファイナリストに選ばせていただきました。実は先週の金曜日にキックオフイベントをやらせていただいたのですが、1社はステルスモードのため、5社がピッチを行い、弊社としての思いもそこで伝えさせていただきました。パブリックなイベントだったので、グリーンタウン・ラボのホームページにビデオもございます。ご興味ある方はぜひ覗いていただければと思います。

木村:そのキックオフイベント、面白く視聴させていただきました。おっしゃるように、このラインナップを見ますと、既存の包装材や食品添加物など、今やっていらっしゃる事業にかなり近いところにスタートアップが進出しているなと思いました。のちほど御社のCVCのお話をしていただくと思うのですが、基本的にはシリーズAからCぐらいで出資していることが多いと思います。やはりアクセラレータという点で、よりアーリーのところをやっていくっていうのは、関係を長く、協業の可能性を高めるためという意図もあってのことなんでしょうか?

浦木:最初からPoCを主眼にということだったので、アーリーというよりは、何かしら一緒に試せる製品やシステムを既に確立したステージの会社さんに来ていただきたいなと思っていたんですけれども、フタを開けてみると、非常に幅広いステージの会社にご応募頂きました。コロナのせいもあったのかもしれないですが、グリーンタウン・ラボ史上で一番多い募集数をいただきまして、本当にありがたかったのですが、選別期間には嬉しい悲鳴を上げておりました。アーリーステージも多かったですが、エクスパンションステージのスタートアップさんも結構多かったです。最終的には、ステージにこだわらず、実際にPoCのアイデアを話す中で、この会社さんだったら面白いことが一緒にできそうだと双方のシグナルが合うかどうかが決め手となりました。

選別も事業部をかなり巻き込んでやりました。事業部がサーキュラーエコノミーで新しいことをやっていく中で、うちはこういう技術を持っていてこの辺が問題で、どう社外パートナーと取り組むべきかみたいなところを、プログラムが始まる前からオープンに議論しました。スタートアップさん側にとっても6ヶ月ってすごく貴重な時間です。長いです。その間でこのプログラムでは何が実現できて、どう成長に繋がるのか、というあたりで納得感を持っていただけた会社がファイナリストになったと考えています。予想に反して、意外と創業が最近の会社が多かったです。

木村:地域は結構バラついていると思うんですが、どこからが一番多かったとか、その傾向みたいなものはあったんですか?

浦木:北米が一番多くて、ヨーロッパ、イスラエル、アジアという順番でした。最終的にアメリカは1社しか選んでいないのは、別に他意はなかったんですが(笑)本当はフェイストゥフェイスでやりたいと思っていたアクセラレーションだったんです。グリーンタウン・ラボにラボがあるので、そこにスタートアップの方が来て弊社も行って一緒にやるみたいな、ローカルでわいわいとやりたかったんですけれども、今の事情でそれができないので、そういった意味ではジオグラフィーを広げる自由度が上がったなと思いました。反対にちょっと広がりすぎてしまって、プログラムとして全員集合するのがすごく難しくなってしまったのは少し反省材料です。

木村:いいですね、グローバルにこういうトピックが注目されているってことだと思います。

後編に続く