驚異の668%成長を達成──HQに聞く、コンパウンド戦略で勝ち切るための「総力戦」【知財編】

次世代福利厚生プラットフォーム「カフェテリアHQ」などを提供するHQが、グローバル・ブレインと取り組んだ知財活動とMoat構築のポイントについてご紹介します。

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【Summary】

  • 知財活動では、目的に加えて、リターンを得る方法まで設計する
  • 自社の優位性を特許化する際は、3~5年先の事業戦略を見据える
  • 開発した機能の特許化は、エンジニアのモチベーションにもつながる

次世代福利厚生プラットフォーム「カフェテリアHQ」や、カード型食事補助の「食事補助HQ」などを提供する、株式会社HQ(HQ)。同社は、創業からわずか5年で6製品をリリースし、成長率は前年比668%、ユーザー数も16万人超と急成長を遂げています。共通のデータ基盤やUXのもと複数のプロダクトを連携させる「コンパウンド戦略」を軸に事業を展開しており、今後もサービスを拡大予定です。

そんな同社の成長に伴走してきたのが、国内最大級の独立系VCであるグローバル・ブレイン(GB)の専門支援チームです。GBでは、営業、知財、採用など複数領域でHQの急成長を全面的に支援してきました。

GBによる全面的な支援体制

これらの支援に対しては、HQ代表取締役の坂本 祥二氏などもSNS上でコメントを寄せてくださっています。

HQの事業成長の背景には、まぎれもなく投資家の皆様の強力なサポートがありました。

・グローバル・ブレイン様にはエンプラセールスの型づくりを軸にしつつ、知財/特許取得や人材採用等、全面的にご支援いただきました。

・Coral様からは採用で驚くべき成果を出していただいています。採用、本当に強い! 派手にイベントに集める力が目立ちがちかもですが、それ以上に、コツコツ凡事徹底での採用支援力が凄まじいです。

・その他リード投資家以外の多くの投資家の皆様からもお客様紹介などでお世話になりました。

本当に有難うございました!

VCからの支援は役に立たない、という意見も時々見かけますが、私は全くそう思いません。

アーリーフェーズのスタートアップは猫の手も借りたい状態。
だが、外部の一級人材を雇うお金はなかなかない。

そこで、事業や業界、スタートアップのリアリティを理解している自分たちの投資家からのサポートを得られるのは本当に大きい。

もちろん内部の社員とは位置付けが異なるので、情報格差などの面で留意は必要ですが、
VCエコシステムの力を活かさないのは大変勿体ないと思います。

村田香|HQ Sales@mkyaori

全く成果が出ていなかったときに、投資家であるグローバル・ブレインの慎さん@shinmasamune、立花さん@tachibanakazumo、松田さんにハンズオン型で入ってもらった話も入れさせていただきました。改めて本当にありがとうございます&これからもよろしくお願いします。

本記事は、HQとGBが営業、知財、採用などの領域で総力戦的に行った取り組みを紹介する記事のうちの「知財編」です(「営業編」こちら

同社の知財戦略の狙いや、約1年で10件もの特許出願を達成できた成功要因、さらには同社のプロダクトや開発に関するスタンスなどについて、HQのVP of Engineeringである佐生 友行氏、新規事業開発の円城寺 博氏、GB知財チームの渡邉 美春に聞きました。

「間接的な競合」まで見越した知財戦略

──HQが知財活動を本格化させることになった背景を伺わせてください。

HQ・円城寺:CEOの坂本と私や佐生の間で、知財の必要性に合意できたことがきっかけです。私は前職が競合ひしめくレッドオーシャンの領域だったこともあり、会社も知財を重視していました。

サービスはレッドオーシャンになればなるほど機能が似てきます。そうした環境下では、他社が特許を持っているがゆえに、本来自分たちが欲しいと思うものが作れなかったり、既存特許に抵触しないようコストをかけて製品開発をしたりしなければなりません。そうした苦労を実際に体験していたからこそ、知財の重要性を痛感していました。

HQ入社後に調べてみたところ、福利厚生に関する直接的な競合企業は特許をあまり申請していないことが分かりました。であれば、ここでしっかりと特許を取ってMoat(継続的な優位性)を築いておければ、スタートアップのスピード感で一気に差をつける「攻めの知財」になるのではないかと考え、坂本に知財強化を進言しました。

円城寺 博
円城寺 博:楽天にてエンジニアとして開発経験を積む。その後、リクルートで新規事業や上海ゼクシィのネット部門を牽引後、メルカリに転職。メルペイのコード決済、及びメルカリハロの立ち上げに参画。HQでは新規事業の立ち上げ責任者として従事。

──直接的な競合の特許は少なかったとのことですが、将来的に新たな競合が進出してくることを見据えた上で知財を強化した面もあったのでしょうか。

HQ・円城寺:その通りです。福利厚生が賃金以外のすべてと言われるように、福利厚生は領域がかなり幅広いため、直接的な競合だけではなく、潜在的な競合も福利厚生領域に染み出してくることは十分に考えられました。食事補助HQに関してはそうした間接的な競合の存在を見据えた上で、プロダクトのリリース前に知財を取得。プロダクトの発表プレスリリースにも「特許取得済」と記載をして、独自性をアピールしました。

株式会社HQプレスリリースより抜粋
株式会社HQプレスリリースより抜粋

優先したのは「HQの根幹」の特許化

──GBの知財チームと行った知財活動についてお伺いさせてください。具体的にどのような取り組みから着手されたのでしょうか。

GB・渡邉:私たち知財チームは、GBの事業支援専門チームであるValue Up Teamと連携しながら支援を開始しました。まず行ったのは、Value Up TeamとともにHQさんの事業状況を確認し、知財活動の目的や目標を一緒に策定することです。

特許は直接的なROIが見えづらいため、目的が曖昧なまま進めると「目新しい機能だからとりあえず出願する」といった局所的な判断に陥りがちです。その結果、本来の事業戦略とは乖離した「ビジネスに寄与しない特許」を取ってしまうことにもなりかねません。そこで、初期段階から目的・目標を策定し、知財活動の軸をブレさせないよう意識しました。

その上で、先ほど話に挙がった潜在競合がどのような特許を持っているのか徹底的に調査。実際、彼らが福利厚生の領域に染み出してきそうな兆候が見えたため、HQさんの差別化要因や強みとなる機能をどう特許化できるか検討し、出願を進めていきました。

渡邉 美春
渡邉 美春:2024年にGBに参画。知財チームにて投資時の知財DD業務と、投資先に対する知財支援業務を担当。

──HQには多くのサービス・機能がある中で、特許の優先順位はどのように付けていかれたのでしょうか。

GB・渡邉:HQさんでは各サービスのバリュープロポジションが明確に定まっていたので、その独自性の核となる機能群を1つ1つ出願していきました。特に、HQさんのコンパウンド開発を支える「共通機能モジュール」に関しては優先的に特許出願をした形です。

HQ・佐生:共通機能モジュールは、当社のカフェテリアHQ、リモートHQ、食事補助HQなどさまざまなプロダクトに共通して必要な機能をモジュール化したアセットです。顧客企業の従業員データに関する機能や、利用したポイント履歴を残す機能など、複数のプロダクトを支える基盤となります。

今後も当社ではコンパウンド戦略のもと複数プロダクトをリリースしていくことから、このビジネスモデルを支えるコアとなる共通機能モジュールを特許化していく戦略を進めていきました。

コンパウンド戦略をMoatに変える知財戦略

──「複数プロダクトに共通する機能をモジュール化する」という開発スタイルは創業時から構想されていたのでしょうか。

HQ・佐生:コンパウンド開発は創業当初からの戦略ですが、実は最初から「モジュール化して資産を蓄積していく」と定めていたわけではありません。リモートHQを提案していたお客様から「カフェテリアプラン(選択型福利厚生)にも対応してくれないか」というご要望をいただいたことがありました。「いまは無理ですが、いつかはやります!」とお答えし、そこから、1つのプロダクトに閉じず、将来的に別のプロダクトでも使うことを見据えたうえで機能開発を行うことを徹底するようになり、自然と「モジュール資産にする」という開発戦略が生まれたんです。

──開発戦略の独自性を知財で守ることで、結果的にMoatの構築につながると見込まれたわけですね。特許化を進める上で苦労した点はありましたか。

HQ・佐生:1番のハードルは、特許を共通的かつ抽象的に表現することでした。特定のプロダクトの特定の機能として出願しておらず、さまざまなプロダクトの基盤として申請しているので抽象化する必要があったのですが、そのプロセスが大変だったと思います。

ただ逆に言えば、新しい機能も抽象的に考え始めると、それがそのまま特許になりやすいという気づきもありました。GB知財チームの方々には特許申請用のドキュメント作成をサポートいただいていたんですが、GBの皆さんが的確にドキュメントに落とし込んでくださるので、まだ完成していない新機能であってもHQ側がアイデアを共有するだけで特許申請の準備が進められたことは大きかったです。共通基盤を抽象化して開発するというHQのスタイルと知財の相性の良さもあり、スムーズに進められたと思っています。

佐生 友行
佐生 友行:Microsoft に新卒で入社し、12年間勤務。Messenger , Hotmail ( 現 Outlook.com ) の携帯電話版の開発に従事、Windows チームでのタッチキーボード開発や、Bing チームでの AI りんなの商用版開発をリード。 東北大学大学院情報科学研究科修士修了。

燃え尽きない知財活動のポイント

──1年で10件の特許出願はスタートアップとしてはかなりの多さですが、HQが知財活動を活発に進められている要因はどこにあるのでしょうか。

GB・渡邉:スタートアップのよくあるケースとして、「とりあえず大事そうだから」という理由で1~2件特許を出願して力尽きてしまうことがあります。特許出願は1件あたり数十万円かかりますし、手続きも長期にわたりますから。

重要なのは「何のためにこの特許を使うのか」という目的を明確にすることです。また、どうコストを回収するかまで考えて知財活動を行う必要もあります。HQさんの場合、特許を営業資料に組み込んだり、プレスリリースで発信したりと、何に活かしてどうリターンを得るかまで考え抜かれている点が成功要因かなと思います。

またHQさんでは「知財定例」という週次のミーティングがあり、坂本CEOや円城寺さん、佐生さんに加え、コーポレートやPdMの方も活発に議論を交わしています。経営陣の積極的な姿勢が社内全体に波及し、知財を重視する文化が醸成されている点も大きいですね。

中でも、食事補助HQのカードに関する特許は目覚ましいスピードで出願を進められていて、本当に驚きました。まだブルー・オーシャンだったため、HQさんが先駆者として独自の技術的特徴を出しやすく、広い特許が取れるタイミングで取り組めたのも良かったです。

HQ・円城寺:他社がまだ取得していない状態だからこそ、一刻も早く特許で押さえなければという意識がありましたね。

前職も含めて知財活動を行ってきてやはり重要だと感じるのは、自分たちの競争優位性がどこにあるかを見極めることです。他社さんに真似されると嫌なところを、先に自分たちが特許で押さえておくという、事業戦略に紐づく観点が大事だと思います。それも足元の1年ではなく、3〜5年を考えたときに何が根幹となるのかを定義することが必要ですね。

モチベーション向上にも寄与した知財の効果

──知財活動による成果も伺わせてください。出願した特許が事業にポジティブな影響を与えていると感じる場面はありますか。

HQ・円城寺:いま福利厚生領域は法改正の影響もあり、競合も多く参入してきている状況です。その中で、私たちの特許が確実に盾となって機能してくれている実感があります。他社さんも私たちと類似のビジネス構想を持っているはずですが、おそらく私たちの特許をチェックして参入を諦めたり、機能を変更したりしているのではないかと感じられる場面もありました。

営業やPRの現場でも、「この機能や仕組みは特許で守られているため他社にはありません」と自信を持って言えるようになったことは大きな成果です。

HQ・佐生:エンジニアの観点からもポジティブな影響がありました。特にHQの初期から携わっているエンジニアにとって、モジュール化した共通機能は自分たちが時間をかけて作り込んだ「秘伝のタレ」のようなものです。そうした機能が特許として世の中に認められることは「自分たちの作ったものがこれまでにない独自のものである」という証明になります。

単なるモノづくりにとどまらず、自分たちのアイデアが資産となり、HQの事業を守る強固なMoatになっている実感を持てることは、エンジニアにとって大きな誇りとモチベーションになっています。

佐生氏、円城寺氏

福利厚生DXを超えた「文明の利器」を作る

──知財によるMoat構築も進む中、HQは今後どのような事業展開を見据えているのでしょうか。

HQ・佐生:私たちが目指しているのは、単なる福利厚生のDXにとどまらない、従業員への「統合体験」の提供です。会社にHQプロダクトが入ることで従業員がいきいきと働ける、文明の利器のようなプラットフォームを作りたいと考えています。

今後も、先日リリースした食事補助HQの機能拡充はもちろん、国から指針が出ている人的資本経営をサポートする機能や、育児サポートに関連するサービスなどを公開していく想定です。いまロードマップにないものであっても、社会の動きに合わせて新しいプロダクトをどんどん出していこうと思っています。

──今後もますますプロダクトを拡充されていくわけですね。最後に、そうした壮大なビジョン実現を目指すHQで働く醍醐味について教えてください。

HQ・佐生:HQという会社の強みは「コンパウンド資産を活かした開発スピードです。お客様との対話のなかで、まだプロダクト・機能としてはないものでも、価値を提供できる場合には、アセットを活用して堅牢性を保ちながら最大速度で作り始めます。実は食事補助HQも、本来はしばらく先にリリースする想定で少しずつ開発を進めていたのですが、食事補助に対するニーズがかなり高いことが判明したため、開発の優先度を高め、本格的に開発を始めてから約3カ月でリリースすることができました。これができるのは、私たちが共通基盤をモジュール化して蓄積してきたアセットがあるからです。

また、スタートアップの開発では、よく「0→1」と「10→100」のフェーズで人が入れ替わると言われますが、HQではそれが同時に経験できるのが最大の魅力です。カフェテリアHQのように数万人規模のエンタープライズ企業に導入される「10→100」のフェーズを戦いながら、同時に食事補助HQのようなまったく新しい「0→1」のプロダクトを立ち上げている。これを1つのプラットフォーム上で、コンパウンド開発を進めています。

さらに、私たちの開発スタイルはAIとの親和性も高いです。先ほども申し上げた通り、私たちは機能を抽象化・言語化しているため、AIが読み込みやすい情報の土台も十分に整っています。次のプロダクトの進化をAIと考えていくような、連続性のある開発体験を経験することができるはずです。

HQ・円城寺:事業開発に携わる私も、これだけ早いスピードで社会の変化を捉え、自らの手でアイデアを形にして社会に届ける体験ができることに面白みを感じています。労働人口が減少していく中で、会社にも従業員にもメリットをもたらす福利厚生の仕組みは、今後ますます重要になってくるはずです。その世界観が少しずつ具現化され、社会のインフラへと近づいていく過程を仲間とともに作り上げられるのが、HQで働く醍醐味だと思います。

(※以下の記事では、HQとGBが取り組んだ「営業」に関する施策もご紹介しています)


取材後、記念に撮影した1枚。
取材後、記念に撮影した1枚。

※所属、役職名、数値などは取材時のものです
(編集:GB Brand Communication Team)

コラボレーター

佐生 友行のプロフィール画像

佐生 友行

株式会社HQ

VP of Engineering

円城寺 博のプロフィール画像

円城寺 博

株式会社HQ

新規事業開発

渡邉 美春のプロフィール画像

渡邉 美春

グローバル・ブレイン株式会社

知財チーム Director