【Summary】
海外PRの成功には、現地の文化や習慣に合わせたナラティブの再構築が不可欠。
海外進出には、国ごとに異なるローカルインサイトの深い理解が必須。
現地駐在員コミュニティを通じたローカルインサイトの把握やLinkedInを通じた海外メディアとの関係構築も有効。
国内最大級の独立系VCであるグローバル・ブレイン(GB)は、投資先企業の広報担当者を対象に、PRに関するナレッジ共有やメディアキャラバンを行う「PRコミュニティ」を定期開催しています。主催するのは、GBで投資先企業のブランディングやPRの支援を担うBrand Communication Teamです。
昨今、創業Day1から海外展開を目指す国内スタートアップが増加しており、GBにも海外PRに関する相談が多く寄せられています。そうした背景から、先日のPRコミュニティでは「海外PR 」をテーマに設定。シンガポールを拠点にグローバル規模で日本企業のPR支援を行う、株式会社本田事務所の代表取締役であり、PRストラテジストの本田 哲也氏 をゲストにお招きして勉強会を開催しました。(※モデレーター:GB Brand Communication Team 佐藤 翼 )
本記事では、当日の勉強会で語られた内容をもとに、スタートアップが海外PRで成功するためのナレッジをご紹介します。
現地の人々に響く「ナラティブ」を提供する
本田氏は冒頭、海外PRとは「単にプロダクトを海外展開したり、現地のメディアに出たりすることではない」と指摘。本当の意味でのグローバルブランディングとは、「そのブランドやプロダクトが、どういう意味を持つのかを現地のステークホルダーに分かってもらうこと 」だとし、これが実現できなければいくら広告を展開してもビジネスの成果にはつながらないと語りました。
本田 哲也氏
本田氏はこの本質を示す好例として、ポカリスエットのインドネシアでの展開事例を紹介。日本では「スポーツの後」や「お風呂上がり」の水分補給用の飲料として認知されているポカリスエットですが、インドネシアは暑い気候のためそもそもスポーツや入浴の習慣があまりありません。そのため、日本で成功したアプローチをそのまま持ち込んでも現地ではまったく売れず、一時は撤退の危機にまで直面したそうです。
改めて現地のインサイトを探る中で、イスラム教徒の文化であるラマダン(断食)に着目。ラマダン明けは脱水症状が起こることも多いと知り、「ラマダン明けの脱水症状を防ぐための飲料」という新しい文脈(ナラティブ)に切り替えることに。その結果、約3億人のインドネシア人にとってポカリスエットが「自分に深く関係のある話 」となり、製品の普及につながったそうです。
本田氏は、「パッケージや成分は何も変えずに、提供する物語を変えただけで売れるようになった 。これこそがグローバルブランディングだ」と述べ、現地社会の文化や習慣に関係のある形でプロダクトを位置づける重要性を強調しました。
アジア内でもまったく異なる「ローカルインサイト」
続いて本田氏は、アジア市場におけるPRの前提として、「ローカルインサイト」の深い理解が不可欠 であると説明。
アジアの各国では、宗教やメディア環境、言語がまったく異なっており「多様性の壁 」が存在します。この違いを踏まえたうえで各国に最適化したPR戦略を練る必要があるとしました。本田氏が解説した、東南アジア主要6カ国のPR事情は次の通りです。
シンガポール :アジアのハブとして機能する一方で、政府の規制や評判の管理が厳格なため、政府系ステークホルダーとの事前のコミュニケーションが不可欠。
ベトナム :社会主義国であり、国がメディアの報道内容に関与するため、一般的なプレスリリースは機能しづらい。しかし、SNSが発達しているため、BtoC領域ではSNSを活用したアプローチが効果を発揮。
タイ :少子高齢化など日本と似た課題を抱えつつも、日本のライフスタイルへの強い憧れが存在。ESGへの関心も高く、自社のサービスが社会環境にどう関係するかが重視される。
マレーシア :マレー系、中国系、インド系など多民族国家であるため、民族ごとにメディアが細分化されており、各媒体への細やかなリレーション構築が求められる。
インドネシア :約3億人の人口と1万以上の島からなる巨大市場だが、メディアリレーションが閉鎖的。特定のコミュニティや政党との関係構築がPRの突破口になることがある。
フィリピン :キリスト教国であり、英語力が高いのが特徴。エンタメが好まれるため、ショートドラマのようなブランデッドコンテンツが有効に働く。
本田氏は、「日本の当たり前が通用しない環境では、どのメディアを使うか以前に、ローカルを深く理解することから始めなければならない 」と述べ、現地特有の文化や習慣、ステークホルダーに寄り添う重要性を強調しました
ナラティブを変えて成功した「Catlog」の事例
リソースが限られるスタートアップにとって、グローバル向けのPR戦略を立てるのは至難の技です。そこで本田氏は、スタートアップの海外PRの好例として、株式会社RABOが提供する猫の健康や行動のモニタリングデバイス「Catlog(キャトログ) 」の事例を紹介しました。
RABOは以前、Catlogを「猫の万が一の病気に備える製品」と表現し、病気にフォーカスした表現に寄せたコミュニケーションを行ったものの、なかなか成果につながらなかったといいます。その原因を探るべく、ペットオーナーのインサイトを深く調査した結果、「愛する猫が病気になる話は考えたくない」「うちの猫が普段何を考えているのかをもっと知りたい」という心理にたどり着きました。
そこでCatlogは「病気を防ぐためのツール」から「猫のことを知りたいという好奇心を充足させるパートナー 」へと、打ち出すナラティブを大きく転換。ナラティブに合わせてプロダクト戦略も見直すことに。
健康管理に特化したデバイスではなく、猫の行動がわかる首輪型のデバイスをエントリーモデルに据え、デザインも可愛らしいものに変更した結果、日本国内での大きな事業拡大につながった そうです。
本田氏はこの事例のポイントについて「日本国内向けに構築したナラティブでありながら、その根底にあるインサイトは米国を含むグローバルにも共通するものだった点 」だと解説。実際、Catlogが米国へ進出する際もこのコアとなる物語は変えず、広告クリエイティブやWebサイトだけを現地の好みに合わせて展開することで成果につなげられたのだといいます。
本田氏は「どこのメディアを使うかの前に、汎用性のある物語を作るのか、国ごとに違う物語を作るのかという判断が重要 」とし、スタートアップへアドバイスを送りました。
現地日本人からインサイトを掴み、LinkedInで記者とつながる
勉強会の後半では質疑応答を実施。参加者からの悩みに本田氏が答えました。
勉強会のモデレーターを務めたGB Brand Communication Teamの佐藤は、「スタートアップの中には海外拠点がない企業も多い。このような場合、現地のローカルインサイトをどう把握するのがよいか」と質問。これに対し本田氏は、「知識やネットワークがない状態で、いきなり現地のPR会社と契約することはおすすめしない。まずはFacebookなどを通じて、現地のローカルインサイトを理解する日本人コミュニティを見つけ、ヒアリングやディスカッションを始めたほうがよい 」と回答。また、「海外駐在している日本人は親身に話を聞いてくれることが多い」と、海外で働く日系企業の駐在員にヒアリングするのもおすすめ と語りました。
続いて佐藤が海外メディアとのリレーション構築方法を尋ねると、本田氏は「LinkedInの活用がマストである 」と断言。アメリカやアジアのメディア業界では日本よりも人材の流動性が高いことが多く、また規模の大きいメディアであっても1人の記者が複数の領域をカバーしているケースも少なくないといいます。そのため、「ターゲットとするメディアの署名記事を確認し、担当記者のLinkedInアカウントを探してダイレクトにつながるアプローチが効果的 」だと説明しました。
企業の根っこは変えず、ローカルインサイトにあわせて物語を変える
会場の参加者からも続々と質問が挙がり、シンガポールで事業展開を始めたスタートアップの担当者は、「現地のナラティブに合わせるあまり、日本国内向けのブランディングとの間で乖離していく懸念があるが、どうバランスをとるべきか」と質問。これに対し本田氏は「ローカルインサイトに合わせて打ち出し方が変わるのは問題なく、むしろ積極的に変えていくべき 」としつつも、「企業のパーパスなどの根幹の部分は守る必要がある。根っこの思いは同じくしながら展開する物語を変えると良い」と回答しました。
また、別の参加者から挙がった「スタートアップが海外展開を見据える場合、どのフェーズから仮説検証やPRを開始すべきか」という質問に対しては、Catlogの事例に触れつつ回答。「アーリーの段階からでもナラティブの構築は有効」であるとし、「『どのようなナラティブを作るのか』はエクイティストーリーにもなり、投資家からの共感・支持にもつながる 」として、ファイナンス戦略や成長戦略においてもナラティブは有効に働くと語りました。
PRでスタートアップの事業を加速させるために
勉強会後には、本田氏も交えたネットワーキングも実施。本田氏への個別の相談はもちろんのこと、参加者同士が互いの課題を共有し合うなど意見交換が交わされました。開催後の参加者アンケートでは、満足度93%以上を記録。「現地のオーディエンスサイズとそれをつなぐインサイト、ナラティブを展開することの重要性を理解できた」「現場で活躍されてる本田さんの生の声はとても貴重だった」などの意見が多数寄せられました。
GBのBrand Communication Teamでは、投資先企業に対するブランディングやPRの支援を行っています。今回の勉強会も、投資先企業の広報担当者向けに定期開催している「PRコミュニティ」の一環として実施されました。投資先企業を対象に、こうしたプロフェッショナルによる学びの機会も定期的に設けていますので、PRを意識した事業展開を見据えているスタートアップ起業家の方はぜひGBまでお問い合わせください。
GBでは今後も「未踏社会の創造」というミッションのもと、スタートアップの事業成長に資するような発信や活動を継続して行ってまいります。
※所属、役職名、数値などは取材時のものです。
(編集:GB Brand Communication Team)