スタートアップが飛躍するために、いま何ができるか / GBAF 2022レポート

年次イベントGBAFの各セッションで語られた内容のハイライトをまとめました。

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執筆: Universe編集部

2022年12月2日に開催された、グローバル・ブレイン(GB)の年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2022(GBAF 2022)」。今年は3年ぶりにオフラインも含めた形式で開催いたしました。

ウクライナ侵攻や世界的なインフレの影響など、投資市場にも大きな影響があった2022年。市場は今後どのように変わっていくのか、不確実性の高い世の中にはどのようなイノベーションが求められるのか。GBAF 2022ではこうした観点で考えを深められるプログラムをお送りしました。本記事では、各セッションのハイライトをお届けします。

投資環境の変化とGBの新戦略

まず、弊社 代表取締役社長の百合本より、投資市場の変化についてご紹介いたしました。欧州市場は、長引く新型コロナウイルスやウクライナ侵攻、金融政策などの影響を大きく受けており、特にプレIPOやIPO市場においては壊滅的な状況であると説明。しかし統計データや弊社調査チームの分析から、この流れは長期化しないと見ており、百合本は「悲観的になりすぎる必要はない」と述べました。

国内市場に関しては、ウクライナ侵攻の影響をほぼ受けていないのが特徴です。一方でVCのファンドレイズは減少しており、2023年の純投資が縮小する恐れがあります。また、国内のスタートアップを取り巻く問題として大きいのは、諸外国と比較して、IPO時の時価総額があがっていかないことです。Exit時のキャピタルゲインが出にくいということを意味しており、高いリターンを求めるのであれば海外スタートアップへの投資が不可欠だといえます。

国内の純投資が落ち込むと予想されていることから、すでに組成が完了しているCVCにとっては大きな投資のチャンスです。また、足元の状況が厳しい海外投資家が日本のIPO市場にほとんど参入していないため、国内のVC、CVCにとっても好機であると考えられます。

午後の部ではGBの新戦略も発表。投資面においては「地域×領域のメッシュ」という戦略で、世界中からリターンの見込めるスタートアップを発掘していきます。またGBの組織についてや、今後拡大していく海外拠点などについてもご説明しました。

Web3から医療まで。アクセラ採択企業が登壇

2022年、GBでは初となるアクセラレータプログラム「XLIMIT(クロスリミット)」を立ち上げました。GBAF 2022では担当の都からプログラムについての説明の後、XLIMITで採択されたスタートアップ6社による事業紹介ピッチを実施。Web3サービスから、企業のDXを支援するSaaSや医療機器を開発するスタートアップまで、バラエティに富んだラインナップとなりました

※こちらの詳細は改めてお伝えいたします。

「医療・ヘルスケア」の注目トレンド

世界的に注目度が高まっている医療・ヘルスケア領域は、GBとしても特に注力している分野の1つです。このセッションでは、医療・ヘルスケア領域に精通する弊社キャピタリストがその最新トレンドを語りました。また、有望な海外の医療・ヘルスケアスタートアップとコネクションを構築するために、GBが取り組んでいることもご紹介しています。

※こちらの詳細は改めてお伝えいたします。

ブロックチェーン事業には“発想の転換”が必要

ブロックチェーンを用いて、いかに新しい事業を創造できるかーー。2030年には市場規模が11.3兆円にもなるといわれているブロックチェーンに対し、あらゆる企業が事業の可能性を模索しています。

こうした現状を受け、GBAF 2022では、Web3進出を支える総合デベロッパーである株式会社Gincoの代表取締役社長 森川夢佑斗氏をゲストスピーカーに迎えて、ブロックチェーンが今後どのように新しい経済を作りうるのかを展望いただきました。

森川氏はブロックチェーン技術を用いたDeFiやDAO、トークンなどさまざまなキーワードやアイデアを紹介し、「これら内包するイノベーションの総称がWeb3である」と定義を説明。ユニットエコノミクスの考え方から、トークンエコノミクスという発想へ転換することの重要性について解説いただきました。

また、Web3における企業のユーザー獲得においては、トークンを取り巻く投資家も意識しないといけなくなったと語る森川氏。「Web3を事業に活用するうえでは、ユーザーだけではなく投資家も含めたステークホルダーといかに価値を共創できるかが重要」だと締めくくりました。

なぜ日本にとって、メタバースは「最後の砦」なのか

「メタバース産業は、日本の最後の砦だと思っています」そう語ったのは国内最大級のメタバースプラットフォームを運営する、クラスター株式会社 代表取締役CEOの加藤直人氏です。Web3と同じく、現在多くの企業が活用方法を検討しているメタバース。メタバースとはどのような空間で、どのような人が使っていて、どのように企業が活用しうるのかを、加藤氏に解説いただきました。

加藤氏はメタバースについて明確な定義はないとしながらも、「コンピューターが作り出した世界で生活できる時代」と表現。メタバースで“生活”が行われているのがわかる事例として、バーを模した空間でおしゃべりをしたり、広場でラジオ体操をしたり、アバター同士で恋愛関係が生まれたりしたケースを紹介いただきました。

また、メタバースは個人の利用だけでなく、法人の利用が増加しているのも特徴です。渋谷のスクランブル交差点を再現する「バーチャル渋谷」の取り組みや、2Dゲームの世界を3D化した事例、大学やイベント会場をメタバース上に再現したケースもあるといいます。

このように利用が広がっているメタバースですが、根幹にあるのはゲーム開発技術です。加藤氏は、優秀なゲームエンジニアをいかに確保するかが戦いのカギとなると強調。その上で「日本にはゲーム会社が多数あり、アバター文化にも寛容。世界的に人気なIPも多数ある」と述べ、いかにメタバース産業が日本の強い武器になりうるかを力説しました。

スタートアップはいつ、どのように海外を目指すべきか

大きな事業成長を目指すスタートアップにとって、海外進出は考えておくべきポイントの1つです。グローバルにも通じる高い技術を持つ国内スタートアップに、世界で戦っていくための戦略について話を伺いました。

ご登壇いただいたのは、遠隔操作・人工知能ロボットを開発するTelexistence株式会社 代表取締役CEOの富岡仁氏、核融合エネルギーの実現を目指す京都フュージョニアリング株式会社 Co-Founder / CEOの長尾昂氏、AIを用いたロボティクス開発を手がける株式会社New Innovations 代表取締役CEO兼CTOの中尾 渓人氏の3名です。

グローバル進出の時期として、Telexistenceの富岡氏は「事業のレベニューグロースやレベニュー自体がユニコーンになったタイミング」と考えを述べました。なお、同社では創業時からグローバルを見据えて体制を整えていたため、今もスムーズに海外とやりとりできている、と海外進出における組織づくりの重要性も明かしました。

また、海外展開におけるローカライズの難しさという観点で、New Innovationsの中尾氏は「もちろん難しさはあるが、海外だからといって何か特殊なことをしないといけないような事業構造ではない」とし、「ロボットによる労働者の代替可能性や人件費をどう考えるのかは国によって全然違う。そうした市場特性をみる必要はある」と語りました。

海外戦略における大企業との関わり方については、各社とも営業促進や海外支店網などの支援に期待していると声を揃えました。加えて、京都フュージョニアリングの長尾氏は「一時的なニーズに対するソリューションもありがたい」とコメント。具体的には、半年後には従業員が3倍になることが見込まれている際のオフィスの間借りなど、スタートアップならではの環境変化に対するサポートも嬉しく思う、と語りました。

大企業の担当者が語る、スタートアップ協業のリアル

CVCに求められるのは、いかに急成長するスタートアップに投資できるかという財務的リターンだけではありません。そのスタートアップとの協業で得られる、事業的リターンの観点も必要になってきます。

今回、KDDI株式会社と三井不動産株式会社の担当者が、スタートアップと事業を立ち上げる際に意識すべきことを明かしてくれました。

KDDIとGBが共同で設立したCVCから出資をしている、ゲーム配信プラットフォームを運営する株式会社ミラティブとは、KDDIの新ブランドである「povo」が協業を実施。ミラティブのゲーム配信者向けにpovoからギガをプレゼントする、というプロモーション企画を行いました。

数ある配信プラットフォームのなかでミラティブを協業相手に選んだ理由として、KDDIのBI推進部長 舘林俊平氏は「『クリエイターエコノミーの創成』という目指す世界が自社と共通していたのが大きい」と、企業同士の方針が一致している大切さを語りました。

三井不動産もまた、GBとともにCVCを設立しています。今回ご紹介いただいたのは、SaaS型ECカートシステム「ecforce」を展開する、株式会社SUPER STUDIOとの協業事例です。

ecforceのメイン顧客は、D2Cブランドを運営する企業です。こうしたブランドの多くは、事業が拡大するとリアル店舗の出店を検討しますが、ECサイトと店舗でのデータが紐づいていないために、その投資効果が見えづらいという問題があります。そこで三井不動産とecforceは、三井不動産が持つ商業施設へブランドが出店した際に、ecforceが持つデジタルデータに紐づけることで、店舗出店の投資効果を可視化するという仕組みを構築しています。

すでに事例も出てきています。スニーカーブランド「GO WITH WHITE」は、三井不動産が持つ商業施設「MIYASHITA PARK」にてポップアップストアを出店。この店舗にはレジがなく、来店者にはecforceを使ったEC決済で購入してもらう形式がとられました。これによってブランド側は、実店舗展開した際のLTVやROIを、ECサイトでの実績も含めて把握できるようになったといいます。

この取り組みを推進した三井不動産ベンチャー共創事業部の上窪洋平氏は、スタートアップとの協業において大切なのは「自社内での仲間づくり」とコメント。イノベーティブなことをしたいと考えている社員をいかに巻き込むかがカギである、とCVC運営のポイントを語りました。

毎年恒例のピッチバトル、2022年の優勝者は?

GBAFの恒例イベントである、弊社投資先による「Startup Pitch Battle」では、直近約1年の間に投資決定したスタートアップ企業を中心に、今注目の領域における8社に登壇いただきました。

※こちらの詳細は改めてお伝えいたします。

次世代を牽引する、36社のスタートアップが一堂に

メインセッションが終了した後は、次世代を牽引する36社のスタートアップがブースを出展するネットワーキングパーティを開催。Web3、メタバース、フィンテック、HRテック、ヘルスケアなど、さまざまな領域の企業が一堂に会する場となりました。

このネットワーキングパーティに関して、パンフォーユー代表の矢野氏は「LPの方々や事業会社の方と直接お話しできるので、ダイレクトな情報が聞けるのは中々ない機会」とコメント。3年ぶりの開催もあってか、多くのブースで積極的なコミュニケーションが行われていました。

GBAF 2022およびネットワーキングパーティの場が、1つでも多くのイノベーションを生むきっかけの場となっていれば幸いです。