コロナ後の世界で加速する「全産業デジタル化」と投資戦略 / GBAF 2020レポート

本稿では全体戦略とセッションステージで語られたハイライトをまとめる。

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執筆: Universe編集部

12月4日に開催したグローバル・ブレインの年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2020(GBAF 2020)」は感染症拡大の影響もあり、完全オンラインでの開催となった。来るべきコロナ「後」の世界を見据えたGBの新たな戦略やアジア各国におけるデジタル化推進・オープンイノベーションなどが壇上で語られ、そして終盤では、毎年恒例となっている「Startup Pitch Battle」も披露した。

本稿では全体戦略とセッションステージで語られたハイライトをまとめる。

運用総額1524億円、グローバルでのExitケースも

グローバル・ブレインの新戦略。百合本 安彦。
グローバル・ブレインの新戦略。百合本 安彦。

ステージに登壇したグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦は冒頭、「コロナによって発生したパラダイムシフトは100年に一度の機会。コロナ後において大手企業はスタートアップの技術を活用し、デジタル・トランスフォーメーション(DX)をより推進していく時代になる」とキーノートの口火を切る。

2021年はグローバル・ブレインにとってファンド設立20周年の節目の年となる。2020年は新たにキリンホールディングスや農林中央金庫、セイコーエプソン、そしてヤマトホールディングスと共同でファンドを設立し、それぞれの産業イノベーション加速を目的に200億円規模の資金を確保した。三井不動産とは2号ファンドも開始し、現在の運用残高は1524億円となる。また来年の計画として8号ファンドおよびグロースファンドの設立についても言及しつつ、モビリティやエネルギーなど、これまで手をつけていなかった領域についても取り組みの意欲を見せた。

現在の体制は70名規模。日本、韓国、インドネシア、シンガポール、ヨーロッパ、アメリカに拠点を構え、年間100件の新規・追加投資案件に対し、150億円ほどの資金を注入した。また、Exitについては1,000億円の評価額を超えることとなったウェルスナビをはじめ、ハンドメイドコマースのクリーマ、韓国KOSDAQに上場予定のNBTなど4件のIPOが生まれた。買収については今年1月、出資先のイスラエル企業Loom Systemsが業務プロセス大手ServiceNowの傘下となっており、「海外投資先のイグジット成功モデルが完成しつつある」と成果の意義を強調する。

昨年、イスラエルの出資先であるAspectivaがWalmartに15カ月で買収されたのですが、これはJVPというイスラエルナンバーワンVCとの共同投資でした。Loom Systemsも実は同じくJVPとの共同投資で、売却先のServiceNowはニューヨーク証券取引所に上場している10兆円規模の企業です。このような形で海外のExitも増えてくるのではないかと考えています。

加えて海外投資における注目地域は中国とインドだ。特に中国はアメリカとの対立によってその他地域、特に隣国である日本との関係に微妙な変化が生まれつつある。また、中国版NASDAQと言われる新興市場「科創板(Science and technology innovation board:STAR Market)」が開始するなどテック投資の盛り上がりも顕著だ。百合本はこのような背景を含め、現在の市場をこう分析する。

グローバル・ブレインでは日本をはじめ韓国、インドネシア、シンガポール、ロンドン、サンフランシスコに拠点を構えており、これを更に拡大したいと考えています。というのも、アメリカが世界のリーダーとしての地位を放棄したことで秩序のない状況が生まれており、これは我々のグローバル戦略にとって非常にチャンス。更に今まで開いていなかった中国スタートアップへの窓が開くようになった。中国とアメリカの対立によって、日本側のスタートアップや大手に対して中国側が非常に関心を寄せている。関係構築するチャンスだと考えています。

中国はこれまで国外への資金持ち出しが厳しく制限されていたが、今年になってそれが緩和されたのも大きい。「中国に安心して投資できる環境になった(百合本)」ことからグローバル・ブレインはこのプレゼンテーション中に2021年中の中国、上海事務所開設を公表している。また、インドについても同じく来年のバンガロール事務所開設を予定とした。

ライフサイエンスにインパクト投資、投資領域の拡大

プレゼンテーションではグローバル・ブレインの注目投資領域についても言及があった。特に強調されたのがライフサイエンスだ。現在、研究者出身のチームを構成しており「投資案件についても5件と実績が出てきた。注目領域はアドバンスドセラピーと呼ばれる、遺伝子治療やマイクロバイオのようなテーマ。また、デジタルヘルスについても力を入れようと考えてまして、既存医薬品、医療機器のような分野を進化させたい」と、この分野への投資を強調した。

また、昨今のSDGsなどに現れている、社会的な要請に基づいた活動についてもインパクト投資という形で積極化させる。

インパクト投資は社会的だけでなく、経済的リターンを追求するという点でESG投資とは異なります。社会的なペインをテクノロジーで解決できるようになった。Apeel Sciencesという食品をコーティングする企業があるのですが、これによって食品の保存期間を伸ばすことができる。結果、フードロスを解決したり、冷蔵設備のない場所に食品を提供するといったことが可能になる。ここにはAndreessen Horowitzやビル・ゲイツ財団などが出資しています。

この他にも地球温暖化が持続可能な社会を実現するための技術については、グローバルにおける必要性はもちろんのこと、日本でも菅総理大臣が所信表明演説で「2050年までの温室効果ガス排出ゼロ」を宣言するなど、脱炭素社会への方向性が揺るぐことはなさそうだ。

キーノートでもこれらの技術への注目、投資の加速が言及されていた。全体戦略の詳細については別項にてお伝えしたい。

DXにインド、ライフサイエンス、GBAFで語られた重要テーマ

入山章栄氏と津脇慈子氏。
入山章栄氏と津脇慈子氏。

さて、GBAFではいくつか重要テーマについてのセッションも披露されたのでいくつかピックアップしてお伝えしたい。最初にご紹介するのは今、日本のテック業界で最も注目を集めていると言ってよいだろう、産業デジタル化をテーマに話題の二人がセッションに登場した。

「After コロナのDX推進とオープンイノベーション」と題されたステージには「世界標準の経営理論」などでグローバルの企業経営戦略の研究を続ける早稲田大学ビジネススクールの入山章栄氏と、デジタル庁の立ち上げで一気に注目度が上がった国内デジタル戦略を担当する経済産業省の大臣官房企画官、津脇慈子氏が登壇した。

入山氏はかつて日本の企業が辿ってきた道のりが今を縛り、これまでのデジタル化やダイバーシティへの許容を阻んできたと「経路依存性」の問題点を指摘する。その上で、今回のコロナ禍がそれらをリセットする機会になるのではと、産業全体のデジタル化加速に期待を寄せた。

(コロナ禍があった結果)結構全部変えられそうなのですよ。評価制度もリモートだったらデータがいくつも入ってくることになるので当然変えられるチャンスになる。全部を変えられる企業は新しいものを生み出せる。けどそうじゃない企業は負けてしまう。最後のチャンスだと思ってその手段を進めて欲しい。

また、インド市場については「イノベーション大国に変貌するインド」として元ソニー・インディア・ソフトウェアセンター 社長の武鑓行雄氏が登壇し、世界各国のメーカーなどが巨大な開発拠点を展開するインドという市場について解説した。ソニーが国外で展開する最大規模の開発拠点はインドにあり、武鑓氏が代表を務めた2008年~2015年の間に、当初600人ほどだった体制が3倍に拡大したそうだ。テクノロジーのイノベーションについてはシリコンバレーに目が行きがちだが、武鑓氏によれば、こういったシリコンバレー企業の多くがソニーと同様にインドに進出し、拡大している状況があると語った。

元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長の武鑓行雄氏。
元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長の武鑓行雄氏。

インドのIT産業は2000年当時に80億ドルの売上だったものが現在は1910億ドル、産業として23〜4倍に拡大しています。またGDPは当時に比較して6倍に拡大していますが、まだ日本の半分。ただこれもあと10年するとちょうど日本と並ぶと言われています。中国(のGDP)を振り返ると10年前に日本と並んで今の状況があるので、インドのこれからの10年で何が起こるのか、ぜひみなさんにも考えていただきたい。

その他にも大企業とスタートアップの協業事例としてKDDIやJR東日本スタートアップの取り組みが紹介されたほか、「神経難病への挑戦―科学者、教育者、そして起業家の視点から」という題目で慶應義塾大学医学部の教授で、同時に起業家でもある岡野栄之氏による講演が披露された。

GB青木とJR東日本スタートアップ株式会社 隈本伸一氏。
GB青木とJR東日本スタートアップ株式会社 隈本伸一氏。
GB山口とKDDI株式会社 舘林俊平氏。
GB山口とKDDI株式会社 舘林俊平氏。

岡野氏は再生医療及びiPS細胞の研究で第一人者であると同時に、東証マザーズに上場するサンバイオの創業科学者として関わりを持つ「起業家」という顔を持つ。バイオベンチャーがどのような過程で研究と事業を両立させるのか、その道のりを語った。

慶應義塾大学医学部の岡野教授。
慶應義塾大学医学部の岡野教授。

なお、これらのセッションはGB Universeで改めて詳細を別項としてお伝えしたい。