スタートアップと大企業がシナジーを探る、共創の場/GBAF 2024レポート
グローバル・ブレインの年次イベント「GBAF」。代表の百合本によるキーノートや、ゲストスピーカーを招いたセッションで語られた内容などをダイジェストでまとめました。

執筆: Universe編集部
2024年12月、「Global Brain Alliance Forum 2024(GBAF 2024)」が開催されました。本イベントはグローバル・ブレイン(GB)が年次で開催している、スタートアップの最先端トレンドを探り、大企業との協業を促進するためのイベントです。
今回も弊社代表の百合本による市場動向の解説や、多くのゲストスピーカーを迎えたパネルディスカッション、スタートアップによるピッチバトルなどを開催しました。
イベントの最後にはスタートアップと大企業によるネットワーキングパーティーも実施。会場では新たなビジネスの可能性を模索する参加者の姿が多く見られました。本記事ではGBAF 2024の様子をダイジェストでお届けします。
スタートアップ市場動向とGBの新戦略

はじめに、百合本が「グローバルにおける投資環境の新潮流」と題したキーノートを実施。スタートアップへの投資金額や件数、時価総額と調達金額の比較などのデータをもとに、市場概況について詳しく解説しました。
米国市場については、2021年第4四半期から続く投資の冷え込みの影響が依然として続いています。生成AIなど特定分野は好調なものの、新規採用を控えるスタートアップが増加するなど、全体的には依然として厳しい状況です。一方で、日本市場では大きな落ち込みは見られていません。IPO件数も減っておらず、調達金額も上昇傾向にあることから、欧米と比較してポジティブな要素が多いことを示しました。
しかし、グローバル全体としてみるとまだまだスタートアップ市場は「冬の時代」を抜けきっていません。こうした環境下ではあるものの、百合本は「むしろ日本企業やスタートアップにとっては大きなチャンスが広がっている」と強調。米国での人材採用が打ち止めとなっている状況は日本企業が優秀な人材を獲得できる機会となり、また時価総額が低迷している海外スタートアップのM&Aも検討しやすい環境にあると語りました。
リーマンショックなどの不況時には、Uber、Airbnb、ラクスル、メルカリといった、次の時代を牽引するイノベーティブなスタートアップが数多く登場してきています。「日本の大企業の皆さんはオープンイノベーションの火を消さず、いまこそスタートアップとの連携を積極的に推進していただきたい」と強く訴えかけました。
GBAFの午後の部では、百合本がGBの新戦略を発表。2024年の投資件数や設立したファンドの概要、ファンドパフォーマンスなどを振り返りました。GBの新戦略については、こちらの記事でも簡単にご紹介しています。
多くの業界が注目する「合成生物学」とは

次に行われたのは、GBのキャピタリストである上田による「合成生物学の動向とポテンシャル」と題した登壇セッションです。大塚製薬で腸内細菌の研究に従事していた経験を持つ上田は、現在GBにて食品、微生物、バイオ、ヘルスケア、アグリテックなどの領域への投資活動を行っています。
上田はまず、バイオテクノロジーを用いて有用な機能をもった生物(スマートセル)の開発によって、有用物質を生産するDeep Tech領域である合成生物学について解説。この技術によって生産される有用物質は、医薬品、食料、燃料、高機能素材など、幅広い分野での応用が期待されており、既存の産業を大きく変革する可能性を秘めていると指摘しました。
また、合成生物学領域のスタートアップのなかでも特に「あらゆる分野に応用できる基盤技術(プラットフォーム)を持つ企業には可能性がある」と話し、その具体例としてGBの投資先企業であるbitBiomeやエンドファイトの名を挙げ、両社の事業概要や現在進行中の他社との共同研究プロジェクトなどを紹介しました。
3年目を迎えたGBのアクセラ、採択企業が登場

GBでは2022年からアクセラレータープログラム「XLIMIT(クロスリミット)」を開催しています。GBAF 2024では「XLIMIT Showcase」と銘打ち、XLIMITの3rd Batchに採択されたシードスタートアップ5社が事業についてのプレゼンテーションを行いました。
今回はXLIMIT初の採択となった海外企業も登場。営業DXを進めるSaaS、認知症スクリーニングソリューション、VTuber関連事業など多種多様なシードスタートアップが登壇しました。
※こちらの詳細は別記事で改めてお伝えいたします。
GBが新たに取り組んだ2つの試み
GBAF 2024では、GBの最新の取り組みをお伝えするセッションを2つ実施しました。

GBは日本のVC/CVCとして唯一、シンガポール企業庁の傘下にあるDeep Tech向けVCファンド「SEEDS Capital」の共同投資パートナー(CFP)に任命されました。1つ目のセッションでは、このシンガポール企業庁とGBの連携の詳細について発表。シンガポール企業庁 東京拠点の責任者であるAmanda Dizon氏とともに、GBのシンガポール拠点で投資活動を行うYing Jian Ngが登壇しました。
Ying Jianは、共同投資パートナーにGBが選出された理由について「Deep Techへの投資実績、事業化のための支援能力などが評価された」と説明。また、今回の連携によってGBのフラグシップファンドや二人組合となっているCVCファンドが受けられるメリットにも言及しました。
Amanda氏は「シンガポールのスタートアップエコシステムは活力に満ちている。ぜひGBとの取り組みを契機に日本のさまざまな企業とのシナジーを拡大していきたい」と展望を語り、セッションを締めくくりました。
続く2つ目のセッションで行われたのは、GBのESGの取り組みについての発表です。

GBは2021年からESGに関する取り組みを段階的に行っています。これまでにESGポリシーの策定や国内外のすべての投資先企業のESG実態調査などを実施。2024年には、責任ある投資を推進するための国際的な原則「PRI(Principles for Responsible Investment:国連責任投資原則)」への署名も完了しました。また、さらなるESG強化のために新たなメンバーも入社しています。
ESGポリシーマネジャーである重富は「今後も責任ある投資とサステナブルな社会の実現に向けて、ESGの支援体制を強化していきたい」と展望を語りました。
Sakana AIが語る、自社の技術と戦略

続いて行われたのは「AI技術革新の最前線とSakana AIの戦略」というセッションです。セッションは二部構成で実施。前半では、AIスタートアップであるSakana AIの伊藤 錬COOによる、同社の技術や今後の展望についての講演が行われました。
伊藤氏は、大手AI企業が軒並み大規模言語モデルの開発に注力するなか、まったく異なる方法でAIモデルを開発しています。同社が提唱する「進化的モデルマージ」という手法によって、巨額の資金投資やデータ投入をせずとも高性能なAIモデルを実現していることについて解説しました。
さらに伊藤氏は、AIモデルの作り方だけでなく、その活用方法においても独自のアプローチを追求していると強調。その1つが、複数のAIモデルを組み合わせて活用する「エージェンティックミドルウェア」の概念です。この技術は、複雑な企業の中の業務プロセスの効率化にも応用できる可能性があると説明しました。
最後に伊藤氏は将来の展望として「日本の課題を解決したい。さまざまな分野の企業と連携し、実用的なAI開発を進めていきたい」と意欲を示しました。
後半では、GBでAIスタートアップへの投資活動を行う御手洗と伊藤氏によるトークセッションを実施。Sakana AIのAIエージェント開発の進め方や、AIモデルの研究方針、AI市場の捉え方など、多岐にわたるテーマで活発な議論が交わされました。
「成果を出せているCVC」がやっていること

GBはさまざまな企業のCVCを二人組合方式で運営しています。そのうちの2社である三菱電機と三井不動産は、スタートアップへの投資から協業までを円滑に成功させている企業です。
今回のGBAFでは、この2社のCVC担当者および協業を実施したスタートアップの代表をお招きして、その成功法則を伺うセッションを開催しました。
※こちらの詳細は別記事で改めてお伝えいたします。
恒例のピッチバトルには、期待の8社が登壇

GBAFの恒例イベントである「Startup Pitch Battle」。直近約1年の間に弊社が投資決定した、いま注目のスタートアップ8社に登壇いただきました。
商品データのビジネス活用を進めるSaaSやAIセキュリティサービス、海外旅行者向けのeSIMサービスや福利厚生プラットフォームなど、多様な領域のスタートアップが集まり、事業概要や自社の可能性について披露しました。
※こちらの詳細は別記事で改めてお伝えいたします。
スタートアップと大企業が交流を深める場も

メインセッションが終了した後は、次世代を牽引する40社以上のスタートアップがブースを出展するネットワーキングパーティを開催。XLIMIT採択企業やピッチバトル登壇スタートアップに加えて、AI、フィンテック、バイオ、ヘルスケアなど、さまざまな領域の企業が一堂に会する場となりました。
会場では、スタートアップとCVCや大企業の担当者が盛んにコミュニケーションを実施。活発な雰囲気の中で事業機会を探る様子が多く見られました。GBAF 2024が1つでも多くの共創を生むきっかけの場となっていれば幸いです。