地銀の強みは「地盤」——京都銀行がスタートアップを支援する理由

GBとともに地方における共創へ取り組む京都銀行に、その具体的な活動について伺いました。

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執筆: Universe編集部

リモートワークが浸透したことで、自分の好きな場所での起業を考える方も見られるようになってきました。アメリカではシリコンバレーからテキサスに移る企業も出てきており、同様に日本でも地方への分散化は進んでいくと思われます。

この潮流を踏まえると、地域経済を活性化させ企業場所の選択肢を増やしていくことは、日本全体の成長につながると考えています。また同時に、地方の優れた技術やビジネスのタネを発掘し、その事業を支援していくことも重要です。

グローバル・ブレイン(以下GB)は各地域の金融機関と連携し、将来の成長を支える新しい経済・産業の創出を支援すべく、まずは京都銀行とともに、関西地区の地域活性化やオープンイノベーションの支援に取り組んでいます。

今回、同行営業本部法人総合コンサルティング部、部長の雨宮氏、創業成長支援グループ長の福岡氏、調査役の間宮氏とGBのGeneral Partnerである熊倉とで、地方における共創への取り組みに関してインタビューを行いました。

京都銀行さんはグローバル・ブレインの8号ファンドにLPとして出資されました。まず、その背景からお伺いできますか?

雨宮:出資した大きな理由は1つで、我々のベンチャー支援業務のステージを上げたいというものです。そのために誰がパートナーとして最適かを考え、パートナーとして選ばせていただきました。

京都銀行も地域金融機関としての様々な業務がありますが、実は創業・ベンチャー業務にも歴史があり、京都銀行の強み、そしてカルチャーとしてやってきたというある程度の自負があります。

第1ステージとして2000年に歩み出しておりまして、当行初のLP出資となる二人組合のベンチャーファンドを作るなどしながら、ベンチャー企業への融資以外の支援を始めました。ソーシングや投資判断、その後のハンズオンなどを横で見ながら勉強していった、というのが2015年ぐらいまでの出来事です。

その後の第2ステージが2016年ぐらいからと位置づけていまして、2016年にようやく当行の独自ファンドである「京銀輝く未来応援ファンド」を設立しました。GPとなる関連会社に行員を出向させ、運営ノウハウ蓄積や投資先発掘を頑張ってきたのがこの時期です。

そして去年ぐらいからより大きく成長したいと、我々のステージアップを考え、その目標が地域のトップベンチャーキャピタルを目指すということだったんです。

できれば「これは」という企業にはリード投資をしたいと思っていますし、我々は広域型地方銀行としてやっていますので、京都以外のエリアに関しても有望ベンチャー発掘の力をつけたいと考えています。そこで今回の包括連携協定の締結に至った、というわけです。

京都銀行としての出資に対する考え方はどのようなものでしょうか

福岡:当然、今後の成長性やビジネスモデル、技術の可能性はしっかり見極めます。その上でビジネスの社会性、今で言うとSDGsかもしれませんが、その会社が儲る一方で不幸な人が生まれるようなビジネスにはやはりご協力できないですね。そういったポリシーは当初から目線として持っています。

熊倉さんは今回の連携のお話をどのように受け止めていましたか

熊倉:我々も東京でしか仕事ができていないという課題感を持っており、忸怩たる思いがありました。地域での事業も共創していく事を考えた時、さて、どこがいいのだろうかと。

アメリカを見るとコロナ禍におけるリモートワークの推進でテキサスに企業が出てくるなど、スタートアップも事業によってはサンフランシスコ一辺倒じゃなくなってきています。

ただ、日本において地域で共創しようと考えた時、正直我々にもノウハウがありませんでした。代表の百合本も大学が京都であることもあってもともと気にはかけていたんですが、京都で大きくなって世界に出て行く企業を見ていると、必ず京都銀行さんのお名前が出てくる。

地域から全国へ、全国からグローバルへといった取り組みを一緒にご支援していくためにも、地方の優れた技術やビジネスの種をちゃんと経営につなげて、私たちがファンドとして関わっていくところを一緒に協業できれば、もっと面白いんじゃないかなと思っていますね。

地域における共創というキーワードが出てきました。オープンイノベーションはここしばらくのテーマでもありますが、地域共創における京都のポジションなどをお話いただけますでしょうか

雨宮:私だけの個人的な見解かもしれませんが、京都ってちょうどいいエリアだと思っています。歴史の長い企業もありますし、大学というリソースもあります。世界企業である任天堂、京セラ、日本電産、村田製作所、そしてそれらを支えるサプライチェーン・ネットワーク群、これからの成長予備軍もあります。

支援する金融機関についても、メガバンクさんが大きなブランチを構えていたり、全国で5位以内に入るような信金さんが2つもあったりします。こういったものすべて含めて地域の価値を作り出すと思っているんですね。だからこそ、京都銀行もうかうかしてると、そこでの存在意義を失うかもしれないという危機感は正直あります。

熊倉:実は僕も学生時代は京都にいましたが、何か新しいものを生み出すには関西の中でもすごく恵まれた環境の1つだと思いますね。確かに東京から少し距離がありますが、京都からこれだけグローバルな企業が多く出てくるのは何か理由があると思ってます。

距離があるからこそ、東京とは違うことができるという考え方も重要です。距離というディスアドバンテージを補いながら、一緒に同じ方向を向いて議論することができると地の利をさらに生かせる。まだまだこれからですが、そうしなければならないと思っています。

距離の問題がお話に挙がりましたが、地域におけるスタートアップエコシステム構築の課題はどのようなところにあるでしょうか

雨宮:「種」はいっぱいあるんです。その種を育てるための光や水、つまり投資マネーやハンズオン支援などソフト面での人材不足は感じます。

京都銀行としてはやはり融資に偏重してるようなところもあって、首都圏と比べて投資やハンズオンがしっかりできる体制が圧倒的に少ないのでは思っています。

起業する人が少ないという課題もありますね。どこかの会社で経験値を積んでから、自分のやりたいことのために起業するケースがありますが、京都はまだ全然そんな状態じゃない。グローバル企業が多く、経営も安定してますし、今の状態に満足してるのかもしれません。加えて、起業する人材が出てきたとしても東京に出ていってしまうという問題もあります。

そういう意味ではまだまだ京都のエコシステムのことや、京都のベンチャーキャピタルが起業家に全然知られてないというところも課題です。京都全体のエコシステムを形成している各機関の間でも共有して、もっとアピールしていかないといけないですね。

熊倉:まずプレスリリースに載るような例ができたらいいですよね、とお話しています。ニュースバリューがある取り組みが出てくると、それを5個、10個、20個と積み重ねていけば必ず事業としてのエコシステムができるようになる。

そのため課題は手数を出すことだと思っていまして、そうすることで仲間が増えていき、スタートアップ投資にお金が集まり、収益も生まれてくる。こういった状態をまずは作って、そのためのパートナーを増やす活動を地道に繰り返すことが重要だと思っています。

では最後に実際の支援事例などを教えていただけますか?

間宮:グローバル・ブレインさんとの月例会で、パンフォーユーさんをご紹介いただきました。実は京都はパン屋さんが多くて、関西でも京都市や堺市、神戸市はパンの消費量が多いエリアなんです。

そこでパンフォーユーさんの「パンスク(パンの定期便サービス)」や「パンフォーユー オフィス(オフィス向け定期便サービス)」が関西に広がっていったら、個人の消費者の方もそうですし、オフィスワーカーの方にも全国の美味しいパンを届けられるのではないかなと思ったのがきっかけでした。

具体的にどういう取り組みを実施されたのでしょうか

間宮:私の方でまず、京都のパン屋さんをリストアップして2社ほど訪問させていただきました。1社は本当に老舗のかなり人気のあるパン屋さんでして、パンフォーユーさんの冷凍技術のお話を聞いて提携の話が進みましたね。もう1社の方はパン屋さんを開店されたばかりの方なんですが、もちろん、売り上げの拡大目的でもあると思いますが、より全国のみなさんにパンを食べて欲しいと思われており、実際そのきっかけになっています。

お話が持ち上がってからみなさんの共創事例に繋がっていくまで、どれぐらいのスピード感で動かれていたのですか?

間宮:ここは銀行営業のフットワークの良さが出たかもしれません。リストを上げてから大体1週間ほどのリードタイムで繋がっていきました。

熊倉:パンフォーユーの経営者さんも非常に喜んでらっしゃいましたが、実はパンフォーユーだけじゃなく、パンフォーユーに出資している投資会社がこの動きの速さに感動されていましたね。

雨宮:京都銀行が広域店舗網をなくさない理由がそこにあるんです。

京都銀行は174店舗あるんですが、そこでの対面の体制、お客さまとの関係性こそが付加価値であると考えているんですね。対面での繋がりこそが地銀の地盤であり、関係性の強みなんです。3,000名規模の組織ですが、全員がお客さまの課題に敏感になれるよう、行員を育てています。

単にお金を借りてください、預けてくださいではなく、お客さまの全方位の課題に寄り添うことが銀行員の目的、行動の目的になってるので、本当に一気に広がるんです。今後もその姿勢をぶらすことなく、支援を続けていきたいと考えています。