ソーシャルeコマース「シェア買い」X Asiaに投資する理由

シェア買いアプリ「カウシェ」を展開するX Asia。中国を中心に大きく躍進するソーシャルコマースの状況を紐解きつつ、彼らの魅力と可能性についてお伝えしたいと思います。

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執筆: Universe編集部、共同執筆: 鈴木 祐介

2020年11月30日、グローバル・ブレインは新たな投資としてシェア買いアプリ「カウシェ」を展開するX Asiaへの出資を公表しました。本稿では私たちが彼らに注目する理由、中国を中心に大きく躍進するソーシャルコマースの状況を紐解きつつ、彼らの魅力と可能性についてお伝えしたいと思います。

中国で先行するソーシャルeコマース市場

彼らを語る前にやはり注目したいのは中国市場の動向でしょう。同様のソーシャルeコマースの先例である中国Pinduoduo(拼多多・PDD)は、創業わずか3年でNASDAQに上場。その後も急成長を遂げて中国ECシェア10%、中国EC第2位のMAUにまで成長したお化けスタートアップとして話題に挙げられます。一方、中国でのソーシャルEC拡大に不可欠であったスマホ、メッセアプリ、モバイルペイメント(キャッシュレス決済)の3要素が、日本でもようやく揃ってきており、市場創造の前提は整いつつある状況です。

またPDDの成長を支えた主要因の一つに、ユーザー間の拡散効果やゲーミフィケーション等により、ユーザーが自発的に新規ユーザー獲得や既存ユーザー維持を行う仕組みが功を奏し、顧客獲得単価を劇的に減少させたことが挙げられます。今回のX Asiaへの出資はこうしたサービスが日本に定着して、買い物の楽しさをオンラインでも実現し、事業としても魅力的なECサイトを日本にローカライズできるかという壮大なトライアルになります。

あえて1人では買えない「シェア買い」という体験

カウシェは一言でいうと「1人では買い物できないECアプリ」です。

友人や家族、またはTwitterやInstagramなどのSNS上の誰かと一緒に買い物するショッピング体験を作っています。2人以上で一緒に購入する「シェア買い」をすることで、通常価格から定価の最大70%引きの割引価格で商品購入できるのが特徴のひとつです。このシェア買いを成立させるには、自分が購入した製品を、誰か他の人にも購入してもらう必要があります。シェア買いを成立させたいユーザーがSNS等を通じて商品情報を拡散するため、出品サプライヤの方にとっては、ユーザーが自発的に商品PR活動を行ってくれているかのような効果が期待できます。

X Asiaは2020年9月からこのシェア買いアプリ「カウシェ」の提供を開始し、リリース初日にはソーシャル上でも話題になり、1,000リットル以上の水が「シェア買い」されるなど、多くの方にその購入体験を試していただきました。iOS版アプリリリースから今日まで「カウシェ」に掲載された商品数は1,000点以上にものぼります。また、11月30日にはAndroid版アプリがリリースされ、更に多くの方に利用いただけるようになりました。

日中経験を持つ創業者、支える連続起業家

創業者の門奈剣平さんについて紹介させてください。彼はコロナ禍において感じた「モノの流通の停滞」を契機にX Asiaを創業しました。飲食店は仕入れを止め、卸売市場も仕入れを控え、モノが捨てられざるを得ない状況を身近で見てショックを感じた方も多いのではないでしょうか。彼もまたその一人でした。

一方、日中ハーフの門奈さんの母国である中国では状況が少し異なります。世界で最もEC化が進む中国は、Alibaba(阿里巴巴)、JD.com(京東商城)、PDD等があり、休業中の店舗の販売員もライブコマースなど、「オフラインに代わる手段での販売」ができていたからです。この体験から日本のECにはまだまだ進化すべき余白が沢山あること、そしてECはより重要な生活インフラになると強く思い、X Asiaの創業に突き進むこととなりました。

もう一つ、彼にはLoco Partners2人目のメンバーという顔もあります。

2人から200人、シード前からM&A後のPMIまでを体験した経験ももちろんですが、その実績をともに築いてきたLoco Partners創業者の篠塚孝哉氏が社外取締役に参画しています。また創業メンバーとして門奈氏の大学時代からの旧友で、メルカリのグループ会社、メルペイでiOSテックリードとしてサービスを立ち上げたCTOの深谷哲史氏、門奈氏と同じくLoco Partnersでプロモーション責任者として成長を支えたCOOの前本航太氏を中心に事業を推進しています。

そして何よりGBにとっては、KDDI Open Innovation Fund(KOIF)の投資先であったLoco Partnersメンバーと2回目のチャレンジになることは、日本のスタートアップ・エコシステムを積み上げてきた一員として感慨深いものがあります。

Loco Partnersの担当だった立岡恵介が、当時から門奈さんの働きぶりの力強さ、ドライブ力、誠実さを知っており、彼ならば大丈夫と信じられたことは大きなポイントです。私たちとしてもPDDのソーシャルeコマースの動きを日本にローカライズできるか非常に興味があった中、それを実現できるチームに出会えたことを嬉しく思っています。

創業メンバー。左からCOO前本航太氏、CEO門奈剣平氏、CTO深谷哲史氏。
創業メンバー。左からCOO前本航太氏、CEO門奈剣平氏、CTO深谷哲史氏。

起業家と共に新たな日本のコマースシーンを作る

最近、C向けサービスの起業が相対的に少ないと言われることがあります。

GBは日本にソーシャルeコマースという領域を作ることで、私たちが支援したメルカリのように社会に新たな文化を生み出し、価値を創造していける潜在的な可能性を大いに期待しています。もちろんまだ「カウシェ」の歩みは始まったばかりですが、「Findy」のようにGBにとって支援先スタートアップのメンバーであった起業家との旅立ちを楽しみにしつつ、彼らと共に大型ECを作り出す壮大な実験に賭けてみたいと思います。

「コロナ禍で制限を余儀なくされた、家族や友人と楽しく買い物をする体験」。

これをECでも実現し、オンラインでも人とつながれる、オンラインでも家族・友人と買い物で盛り上がり楽しみをシェアできるような、楽しいショッピング体験をつくることに挑戦していきます。目指すは、数年後に既存の各ECサイトに匹敵するようなソーシャルeコマース市場を日本に創出し、日本のEC化比率向上に寄与することです。