うつ病に「ニューロモデュレーション」で挑戦するFlow Neuroscienceに投資する理由

電気刺激療法と行動療法を組み合わせた世界的にも珍しい独自性のあるソリューションを提供するチームです。

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執筆: Universe編集部、共同執筆:守口毅、阪川洋一、重富渚

GBは新たな投資先として、うつ病の課題に挑戦するスウェーデンのスタートアップ「Flow Neuroscience」への出資を公表しました。Flow Neuroscienceはうつ病に対する電気刺激療法と行動療法を組み合わせた世界的にも珍しい独自性のあるソリューションを提供するチームです。

彼らの展開する「デジタルセラピューティクス」は臨床グレードホームケアデバイス(治療デバイス)とサービス(行動療法デジタルアプリ)を組み合わせたもので、治療効果が見込めることから既にCEマークを取得し、欧州で販売を開始しています。現在は約2,000人以上の方々にホームケアにて利用いただいており、85%の患者の気分が改善し30%の寛解を確認できています。

今回のラウンドでは、戦略的パートナーとして「医と食を繋ぐ」キリンホールディングス株式会社のCVCファンドKIRIN HEALTH INNOVATION FUNDより出資しています。サイエンスに基づいた機能性素材を持つ同社だからこそできるご支援を、食文脈で中長期的に探索していく方針です。

Flow Neuroscienceはこれまでに蓄積したリアルワールドのデータを活用して、デバイスとデジタルセラピューティクスのさらなる進化を目指し、現在2.6億人を超えると推計されるうつ病患者へ届くよう、今後は保険適応などを見据えたグローバル展開を推進していきます。

メンタルヘルスで悩む人々

世界におけるうつ病患者数は年々増加しています。

現在は2.6億人以上が罹患していると推測されており、うつ病以外のメンタルヘルスも含めると世界人口の約10%(7.9億人)が発症していると推測される大きな社会課題です。

一方、既存の抗うつ剤治療では通院の手間や副作用などの問題から継続治療に課題があり、治療開始から約3カ月後に50%、半年で約70%の方が治療を途中でやめてしまう、という報告もあります。その点、Flow Neuroscienceのソリューションは家庭内の利用が可能であり、副作用も少ないことから継続治療へのハードルを下げることに成功しています。

うつ病への対応策

Flow Neuroscienceの特徴は、自宅で使える臨床グレードの脳刺激デバイスと、認知行動療法アプリの組み合わせです。脳刺激方法は大きく分けると電気、磁力、超音波があり、薬剤治療をドロップアウトした患者にも効果があるため注目されています。

磁力や超音波は脳の深部まで到達する刺激により、薬剤と同等かそれ以上の効果を出すことが研究で知られておりますが、機器が大型になるため自宅では使えず、患者は通院する手間がかかります。その点、電気刺激(TES: transcranial electric stimulation)は簡便で副作用も少なく、自宅での利用に向いており、磁力や超音波と同等の効果を出すため、幅広いユーザーに使ってもらえる可能性を秘めていました。

電気刺激の中でも特にtDCS(transcranial direct current stimulation)は研究やエビデンスも十分蓄積されています。そのためグローバルでtDCSを使ったスタートアップは少なくありません。

例えば「Soterix Medical」や「Neuroelectics」はクリニックでも使われているtDCS企業であり、「Sooma Oy」はHome-useのtDCS企業です。一方で認知行動療法のデジタルアプリは世の中に多数あり「MeruHealth」や「BigHealth」、「Selfapy」や「HelloBetter」などがあります。日本においても同様のサービスは既に展開されています。

Flow Neuroscienceはこれらの技術を組み合わせることにより、単体より効果が高く継続性のあるソリューションを実現しています。同様のチャレンジをしているプレーヤーも出てきていますが、専門性および海外展開に関しては先鞭を付けており、この分野のリーディングカンパニーとして注目を集めています。

特に今回のラウンドでは、GBが他の投資先でも協調投資しており、またデジタルヘルス領域に強いと定評のあるKhosla VenturesやSOSVも参加しています。

うつからメンタルヘルスへ

Flow Neuroscienceのデバイスのように頭蓋内の電気療法を「ニューロモデュレーション」と言います。世界におけるニューロモデュレーション市場は2019年に約81億米ドルあり、2020年から2027年には13.1%を越える成長率で推移すると予想されています。

ニューロモデュレーションによって治癒できる疾患は幅広く、うつ病以外にも不安症やアルツハイマーといった他のメンタルヘルス領域や、脊椎損傷、慢性疼痛、脳卒中後疼痛の治療に有効であると言われています。

メンタルヘルスの領域は世界中で苦しんでいる方が多数いる一方、既存の治療やケアだけではまだ不十分で課題があります。当社の経営陣は精神心理学のエキスパートで起業経験もあり、さらにうつ病治療の世界的権威のある研究者もアドバイザーとして参画しています。

現在はうつ病を対象としておりますが、対象治癒領域を拡大できる可能性は十分にあり、不安症やPTSDなど他のメンタルヘルス領域への展開も期待しています。

また、昨今の新型コロナウィルスによる環境下で、うつ病などの精神疾患の罹患者数が国内外ともに増加していると言われる中、当社のような自宅で簡単にケアできるソリューションが一早く苦しまれている方に届くよう、GBとしても支援していきたいと考えています。