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これからどうなる「SPAC」上場

SPACのスキームの現段階における手法やケーススタディ、そして課題についておさらいをしてみたいと思います。

Photo by Pixabay from Pexels.
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執筆: Universe編集部、共同執筆: 一宮 翔平

昨年から米国テック・スタートアップ投資の話題としてトレンドになっているのが「SPAC(特別目的買収会社)」です。GB Universeをチェックいただいているみなさんであれば、少なくともこのキーワードを目にしたことはあると思います。具体的にはSPACというスキームを用いた未上場企業の公開化のことで、ここ直近では東南アジアで配車サービスなどを展開するGrabがこのSPACを使って上場することになり、その時価総額が390億ドルを見込んでいることから歴代で最大規模のSPAC上場と伝えられています。

本稿ではSPACのスキームの現段階における手法やケーススタディ、そして課題についておさらいをしてみたいと思います。

SPACとは

では改めてSPACというスキームについて簡単に整理します。特別買収目的会社とは特定の事業を持たず、未公開会社や事業を買収することだけを目的とした投資ビークル(組織体)で、英語ではSPAC(Special Purpose Acquisition Company)と呼びます。何も入っていないことから空箱や、後ほど出てくるブランク・チェック・カンパニー(白紙の小切手)などと呼ばれることもあります。

このSPACを「先に」株式市場に上場させ、その後に実際の事業を持った企業を買収することで未公開企業の株式を市場に流通させるのが「SPAC上場」の基本的な考え方です。この株式公開化・資金調達手法のメリットはやはりスピードです。一般論としてSPACは従来のIPOプロセスより早い公開化が可能で、ディールストラクチャの柔軟性が高く、株価をより早くフィックスできるなどのメリットがあると言われています。

一方で、必ずしも通常のIPOより費用は低くなく、株主構成や対外プレスのコントロールが相対的に少なく、従来のIPOの方が高い時価総額になる可能性がある点も指摘されています。つまり投資家に対して“Optics”が良くない可能性があるわけです。注意すべきは従来のIPOより「良い・悪い」という議論ではなく、公開化などを目指すベンチャー企業にとってSPACというスキームが合っているかどうかが検討のポイントです。

GrabがSPAC上場へ

米国のテック企業を中心にほぼ毎日のようにSPACの話題が出ています。この背景には長年続く金融緩和の影響もあり、金余りの状況で投資先銘柄が不足する需給バランスの問題が影響しているように感じます。日本ではマザーズのように企業評価で100億円前後の上場も珍しくありませんが、米国ではその規模は大きく変わります。一方、そこまで成長するには当然時間がかかるわけです。SPACはこういった需給バランスの問題から顕在化してきたと考えてもよいと思っています。

一方、SPACでの上場を「裏口」と表現する人がいるように、通常のIPOを選択できなかった企業の裏技と取る向きもあります。創業者の辞任や上場の断念で話題となったWeWorkもSPACを使った上場を準備していると報じられています

課題も多く最近でもSPAC王と言われてきたChamath氏がスポンサーしたSPACが軒並みに株価が不調な状態になったり、SPACへの訴訟(開示が不十分なケース)が増えており、今後これらのトラブルはもっと増えるのではと指摘する弁護士事務所も存在しています。

一方、アジア圏におけるSPAC上場はまた異なる視点も加わります。特に株式市場が弱く流動性が少ない東南アジアでは海外市場への上場が自然とターゲットに入っており、歴代で最大規模(時価総額は390億ドルの見込み)のSPAC上場となるGrabのようなケースが生まれたりしています。ちなみに現時点(記事執筆時は5月20日)でUberの時価総額はおおよそ1,000億ドル、ライバルのLyftが200億ドルです。

これからどうなる「SPAC」上場

SPACの歴史自体は古く、1980年代頃からシステムとして登場しています。当時のアメリカ株式店頭取引は現在ほど規制が厳しくなったこともあり、未上場・未登録の株式が取引される市場は不正の温床とされていました。「ブランク・チェック・カンパニー」などの用語はこの頃に登場していて、例えばブランク・チェック・カンパニーを通じて資金を調達し、買収候補のうわさなどで株価を吊り上げたら売り抜くような不正や、自らが出資した会社を高い価格で買収させる方法、調達した資金を私的に流用するなど多くのトラブル・訴訟が発生したことを受け、1992年に米国証券取引委員会がブランク・チェック・カンパニーの規制を強化して、現在のSPACに至っています。

そして2000年に勃発したITバブルによってSPACは一旦、その存在を潜めていきます。ブームが復活したのはここ1年で2020年に入ってからSPACの組成が急増しています。こちらのリサーチによれば、 SPACを使った上場数は2017年に34件だったのに対し、2020年は248件、2021年は5月時点で324件と4年で10倍近くに膨れ上がっています。ただ、直近の数は流石に価格パフォーマンスが芳しくない状況で組成は大幅に減少しています。 また、一般論としてSPACによる希薄化を考慮すると、時価総額は組成金額の3〜5倍に落ち着いているようです。

現時点でSPACという手法を使った上場は国内では認められていません。また、日本ではまだテックセクターが資本市場における力が相対的に弱かったり、需給バランスが崩れつつある米国で発生したのと同じような背景でSPACブームがやってくることはなさそうです。

一方、SPAC自体のスキームが進化していく可能性は高いと考えています。既に従来のスキームを一部変えるなどのイノベーションが起こっており、件数が大幅に増えていることや、今回のGrabのようにメインストリームの会社がSPACを利用することにより成熟が進むのではないでしょうか。

SPACにはもうひとつ、ウォール街を中心とした世界からシリコンバレーが主導する金融の世界へシフトしているトレンドの一環という見方もあります。伝統的にウォール街の投資銀行がパブリックマーケットに上場できる・できないの鍵を握っていたことから「ゲートキーパー」と呼ばれていた彼らへリターンの一部を“IPO Pop“などを通じて一部ロストしているため、Direct ListingやSPACなどのスキームを魅力的に感じるVCも多いのは事実です。