「エンジニア」と「非エンジニア」の理想的な関係とは?リセが実践したカルチャー改革
ビジネスチームとの連携で、アジャイル開発が大幅に効率化。その取り組みの全貌を伺いました。
執筆: Universe編集部
エンジニア出身ではない起業家によるスタートアップの多くが、ぶつかる壁。それは開発チームと、経営層やビジネスチームの間の「コミュニケーション不全」です。
日々顧客に接するビジネスチームは、彼らのニーズや声を受け取りやすい立場にいます。しかし、顧客からの声を開発チームに伝えるのを遠慮してしまったり、多忙を理由に後回しにしたりと、連携不足が原因で本質的なプロダクト開発が進まないという事象はよく見られます。
契約書レビュー支援AIクラウド「LeCHECK」を提供する株式会社リセも、こうした部門間のコミュニケーションに問題を抱えていました。そこでリセ社は、この壁を打ち破るために複数の取り組みを実施。いまでは営業メンバーやCEOも毎日のスクラムイベントに参加し、顧客の声をスピーディーに開発に活かせるようになりました。
こうした“全社アジャイル”とも呼べるようなカルチャーを生むために工夫したポイントや施策について、リセの代表取締役社長 藤田美樹さん、開発マネージャーの寄合龍太さん、今回の開発支援を行ったグローバル・ブレイン(以下GB)の二宮啓聡に伺いました。(太字の質問はすべてUniverse編集部)
文字通り、暗中模索の日々…
ーいまでこそアジャイル開発をスムーズに進められているリセさんですが、かつては苦心されていたと伺っています。当時の開発チームはどのような状況だったのでしょうか。
寄合:すごく試行錯誤していました。アジャイルでやっていきたいというチームの共通認識はあったものの、開発が効率的にまわっている感じがしなくて。私も含めてアジャイルの経験があるメンバーもいましたが、前職で取り組んでいたことをリセでどう適用したらいいのかが分からなかったんです。
藤田:寄合は私にも相談してくれていましたが、私はもともと弁護士で開発は専門外。悩みは聞くものの適切なアドバイスをできずにいました。
寄合:「仕様会議A,B,C…」と会議体を何度も変えたり、メディアで発信されている手法を取り入れてみたり。いろいろ試してはみるんですが、それがうまくいっているのかどうかを検査することもできず…気持ち的にはまさに暗中模索でしたね。
ターニングポイントとなった1on1
ーそうした状況でGBの開発支援にお声がけいただいたわけですが、二宮さん、この時の流れはどのようなものでしたか?
二宮:GBには「Value Up Team」という、投資先企業に事業支援を行うチームがあります。リセさんの支援に入る際の全体キックオフをさせていただいてから、1カ月後くらいに寄合さんから「壁打ちしませんか」とお声がけいただきました。
寄合:いま思うと、その最初の壁打ちが大きな分岐点だったなと思っています。第三者目線でリセがどういう状況なのかを見ていただけたのは、目の覚めるような機会でした。私自身もいろいろと吐き出せて気づくことも多かったなと。この1on1はいまでも継続させてもらってます。
二宮:次にリセの全エンジニアの方へ「いまの開発プロセスについてどう思っているか」などをヒアリングをさせていただきました。その内容を踏まえて寄合さんと課題の特定を行った結果、コミュニケーションの仕組みや体制を改善していくのがよさそうだ、となって。そこで、アジャイルを実践している外部の会社に協力いただいて、そこでの働き方を見学させてもらいました。また、その会社さんとリセのさまざまな部署の方を交えて、アジャイルの勉強会も開催し、「心理的安全性を保つための方法」や「モブプログラミングのようなチームでの開発の進め方」などをディスカッションしました。
寄合:アジャイルの現場を見た上で行ったこの勉強会は、リセのメンバーにとって大きな刺激になりましたね。実際に勉強会をきっかけに変わったことや、仕組み化されたこともたくさんあって。
営業メンバーも参加する“全社アジャイル”が確立
寄合:具体的にいうと、スクラムイベントの進め方や出席するメンバーが変わりました。営業やコンテンツチームなど、ビジネスのメンバーも参加するようになったんです。彼らから「これってできますか?」みたいな相談や、プロダクトへのフィードバックがしてもらいやすくなりましたね。あとは、1つのZoomを部署ごとのブレイクアウトルームにわけて常時相談ができるようにする「全社Zoom」の文化も生まれました。
藤田:あの勉強会のあと、多くのメンバーから「やっぱりコミュニケーションの大切さを痛感した」という話が出ました。営業もコンテンツチームも開発も、思っている以上に密に連携していくのが大事なんだと気づけたんですよね。そこは経営層である私自身も強く感じた部分でした。
ーアジャイル開発というとエンジニアだけが取り組むものだと思われがちですが、開発チーム以外も含めて“全社アジャイル”になったと。
藤田:そうなんです。かつては「開発メンバーへの相談は基本的にSlackで連絡する」としていた時期もありました。ただ、それだと「そこまで大きな話ではないから会ったときに話せばいいや」になってしまいがちなんですよね。1日に1回、スクラムイベントで必ず顔を合わせることでタイムリーにコミュニケーションできるようになったなと感じます。
二宮:リセさんのすごいところは、藤田社長も毎日のスクラムイベントに参加していることだと思います。これはほかの会社ではなかなか見られない光景ですよね。プロダクトの人とビジネスの人が本当の意味で一緒に働けているということなわけで。
藤田:ありがとうございます。「このシステムはどういう風になっているのか?」「この機能はできるのか?」といった私も現場に出ないとわからないこともあるので、参加するようになって良かったなと感じますね。
ー開発以外の方がスクラムイベントに参加しても、遠慮してなかなか意見が出てこないこともよくあるかと思います。発言を促すために工夫していることはあるのでしょうか。
寄合:トピックを設けて話すというのはやっています。開発も開発以外のメンバーも、お互い負担にならないようにバランスを取るのは注力しているところですね。あとはやはり、数です。毎日コミュニケーションをして、何度も話をして、なるべく同じ目線で認識を合わせて話しやすい状況を作っています。
藤田:あまり連絡事項がない日もあるんですが、「何かありませんか?」って言われると出てくるんですよね。スピーディーにアジャイルをやっていくには、やっぱり日次でコミュニケーションするのはいいなと感じます。
思いがけず習慣化したことも
ー社内のコミュニケーションを促すアクションとして、そのほかに意識するようになったことはありますか?
寄合:ドキュメント化はだいぶ意識するようになりましたね。人数が少なかった時には口頭で認識合わせしていたような小さなことでも、メンバーが増えてくると「あれ、どうだったけ?」となってしまう。アジェンダとネクストアクションを明確にして、あとから誰が見ても過程がわかるようにしておくのはコミュニケーションにおいて大切だなと感じます。
ードキュメント化は習慣にするのが難しいと言われています。社内にドキュメント化を浸透させるために工夫はされたのでしょうか。
藤田:議事録を全員で回すようにしてくれたのは寄合さんでしたよね?
寄合:そうだったと思います。全社会議の議事録は担当を全員で回すようにしました。そこをきちんと繋いでくれていたり、ドキュメント化が得意なメンバーが率先して推進してくれていたりはしますね。そこはメンバーにもとても恵まれました。
二宮:ほんとうに継続が大事ですよね。それが会社の文化になりますから。
GB支援について思うこと
ー今回、GBとともにアジャイル体制の強化を行われましたが、振り返ってみていかがでしたか。
藤田:正直、ベンチャーキャピタルからの支援というものに対して若干の不安もあったんです。かなり細かく指示をされるんじゃないかと。でも実際に始まってみると、最終的な決定権は自分たちにあって、その選択のために必要な支援をいただけるという感じでした。
寄合:私も最初は不安はゼロではありませんでした。距離感を測りかねていたというか、探りを入れていましたね(笑)。
二宮:確かに最初はガードが固かった気がします(笑)。
寄合:ただ、1on1の壁打ちの場を設けさせていただいて、いろいろお話できたのは嬉しかったんですよね。同じ開発者の目線で相談できるなと感じました。そこからすぐに不安はなくなりましたね。
藤田:勉強会などの具体的な支援ももちろんですが、私としては寄合に寄り添ってもらえたのが一番ありがたかったなと思っています。GBさんは弊社に投資いただいている立場なので、同じ船に乗っているというか、そういった安心感もありました。
寄合:これから私たちとしては、GBさんからの支援をもとに自走していくことを目指したいですね。吸収させていただいたことを、社内でどんどん仕組みにして、いい意味で卒業することを目指したいなと思っています。