支援先のスタートアップに「福利厚生」について聞いてみました

組織力強化のためにも重要となる「福利厚生」について話を聞いてみました。

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執筆: Universe編集部

世界的なスタートアップへの投資額は前年比で倍近くの6,400億ドル規模に拡大、アジア地域においても年間の投資額は1,600億ドル以上とこちらも前年比で50%近くの上昇があったというレポートもあります。

この資金流入により激化しているのが各企業における組織力強化の動きです。平たく言えば人材の獲得競争ですが、スキルマッチが正しくともカルチャーが異なれば、人はすぐに離れてしまいます。スタートアップでも「同じ方向を向けているのか」という点を重要視しない経営者はいないはずです。

今回Universe編集部では、支援先のスタートアップへカルチャー醸成のヒントとなるような取り組みについて、いくつかの切り口で話を聞いてみました。前後半に分けてお届けします。

個性的な福利厚生がカルチャーを表現する

スタートアップの報酬はSO(ストックオプション)などの株式や給与の他に、カルチャーに根ざした取り組みが用意されていることがあります。その際たる例が福利厚生です。例えばメルカリではいち早く人事の取り組みを「mercibox(メルシーボックス)」としてPRし、社員にやさしい企業というブランディングに成功しました。当時まだ数百名だった規模の同社の人材獲得に大きく貢献したと言われています。

福利厚生への取り組みは各社活発です。スポーツテックに取り組むユーフォリアは、事業と親和性のある福利厚生を用意していました。

「ユーフォリアらしい福利厚生として、『スポーツ用品支援金』と『デバイス補助』があります。スポーツ用品支援金制度は、誕生日月とその前後を含めた3カ月内にスポーツウエアやスポーツシューズ購入に充てられる補助が出るものです。会社からの誕生日プレゼントですね。アスリートのサポートをしていますので、私たち社員もスポーツすることを促進する制度です。

もう一つのデバイス補助とは、スマートウォッチやスマートリングなどセンサー機能を備えたウエアラブルデバイスの購入補助制度になります。トレンドや機能など最新情報を掴んでおきましょうというもので、社員のOura Ring 保有率はとても高いです」(同社広報)

発酵テクノロジーの開発を進めるファーメンステーションでは、定性的な社会活動を可視化してフィードバックしようとしています。会社のコミットメントと連動した「インパクトボーナス」は、通常の業績連動や目標管理制度に紐づくボーナスではなく、同社が大切にするコミットメントに対して各部門が目標を設定し、その成果に対してボーナスを支給するという制度だそうです。

「ファーメンステーションは、事業性と社会性、2つのポジティブなインパクトを会社や事業の規模に関係なく常に両立させ、拡大し続けることを、コミットメントを通じて宣言・約束しています。とかくスタートアップとしてトップライン拡大等の事業性にのみ焦点が当たりがちですが、社会性の重要性を同等のものとして全社で共有し、“おまけ”ではなく主業務として社員の貢献に報いる制度です。

具体的には、未利用資源のアップサイクルの実現レベルや、製造工程のLCA(ライフサイクルアセスメント)を通じた環境インパクトの可視化など、ソーシャル・サステナビリティへのインパクト創出を日々の業務に組み込み本制度で加速しています。社員全員で他部門の成果や目標に対して意見をするなど、全員で学ぶカルチャーの醸成につながっていますし、Slackではサステナビリティチャンネルがあり日々ニュースや事例の共有、議論が活発に行われています」(同社広報)。

ただ、やはりこういったソーシャル・サステナビリティに関する成果を定量的に可視化することは難しいようで、こういった制度を通じて会社のパーパス、コミットメントの本質を考える良い機会としている、というお話でした。

SO制度に一石を投じた「KAUCHE de WORK (カウシェ・デ・ワーク)」

カウシェの福利厚生制度はソーシャル上でも話題に
カウシェの福利厚生制度はソーシャル上でも話題に

ソーシャルメディアで話題になった福利厚生、それがシェア買いを展開するカウシェの作った「KAUCHE de WORK (カウシェ・デ・ワーク)」です。同社の説明によると、メンバーが自律し、主体的に行動することでカウシェのバリュー「Enjoy Working」(泥臭くハードな事も含めて心から仕事を楽しむ)を実現するため、制定した制度です。

「副業メンバー向け昇給・ジョブローテーション等、正社員・副業という形態にかかわらず活躍できる環境を整えています。一定期間カウシェに在籍し貢献した役職員全員に対し、業種タイトルを問わずSOを付与し、一定期間就労後はたとえその後雇用契約が終了してもSOの権利を保有し行使することが可能となる制度も整えています。また、SOというあえて外部には語られることの少ない話題を世の中に提起することで、SO制度について議論のきっかけを作りました。今後もカウシェは“働き方の多様性”を実現していくことで、社内だけでなくスタートアップをはじめとする世の中に対し、ポジティブな動きを作ることを意識していきたいと考えています」(同社広報)

メルカリもそうでしたが、スタートアップが福利厚生という「内向きの制度」をあえて外向きに発信することで、企業としてのスタンスが明確になり、ソーシャルメディアなどを通じて届けたい潜在的なチームメンバーに届けることも可能です。カウシェの制度はまさにその好例と言えるのではないでしょうか。

IoTプラットフォームを提供するMODEの取り組みもまた、彼らの会社をよく表しているかもしれません。シリコンバレーと日本を拠点に、グローバルで活動する彼らにとって自律的に考え、行動することは重要な成長の鍵を握ります。そこで用途を限定される福利厚生の「手当」ではなく、あえてボーナスとして支給することで彼らの大切にするカルチャーを守っているそうです。

「パンデミックになってほぼ完全リモートワークになったため、社員に環境を整えるための臨時ボーナスを提供し、健康増進のための有給休暇を追加しました。MODEのカルチャーはお互いを大人として扱うということですので、なるべくルールや制度を作らないことにしています。ルールでがんじがらめな環境では自由に良いものを作れないので。

しかし、社員の健康と幸福への支援は当然していきます。突然変わってしまった働く環境に適応するのに必要なサポートとして、税金の控除も受けられる手当の支給を検討しましたが、あえてボーナスとして支給しました。手当にすると社員に対して用途を限定してしまい、報告義務を課してしまいます。それよりも社員が自分の判断で好きなように使ってくれたほうがいいからです。

休暇についても同様で、ワクチン接種後の副反応で体調が悪いときには遠慮なく休んでほしい。でも、休むほどきつくないこともあるだろうし、パンデミックで大変な思いをしている家族とゆっくりすごす時間があるほうが嬉しいというひともいるでしょう。そこで、あえてワクチン接種休暇ではなく社員本人が自分の心身の健康のために好きに使える健康増進休暇を付与しました」(同社広報)

前半ではスタートアップの福利厚生制度についてご紹介しました。後半では、スタートアップにおけるパパ・ママの働き方についてお届けします。