カスタマーサポートをAIで改革、「問い合わせ前」に着目したスタートアップの新発想
人手不足やカスタマーハラスメントなど、さまざまな課題をはらむカスタマーサポート。そこに「問い合わせ前」のWebサポートを起点に、これまでにない発想で挑んでいるのがRightTouchです。

執筆:Universe編集部
いま注目のスタートアップが提供するプロダクトを深掘りして紹介する「Next Wave」。
今回は、顧客からの問い合わせやクレーム対応などを行うカスタマーサポート部門の負に、これまでにない発想で挑むRightTouchを紹介します。
(※記載の情報は記事掲載時のものです)
カスタマーサポートに起きている変革の波
カスタマーサポート領域には、いま大きな変化が求められています。
その1つに挙げられるのが人手不足への対応です。クレーム対応などストレス負荷の高い仕事が求められるカスタマーサポートは、以前から離職率が高い傾向にありました。『月刊コールセンタージャパン』によると、入社1年以内のオペレーターの離職率が71%以上であると答えた企業は全体の22%も存在しています(※1)。これは日本の平均離職率15.4%と比較しても高い数字です(※2)。
さらに近年は労働人口減少のあおりも受け、オペレーターの確保がますます難化。コールセンターを抱える事業会社は、サービスの改善やFAQの充実を通じて問い合わせ自体を減らすなど、オペレーターの働きやすさを向上させるためのさまざまな策を講じています。
他方、カスタマーサポートの接点をCX(Customer Experience:顧客体験価値)向上の場と捉え、その価値を見直す動きも広がっています。
人口が減少していく日本においては、新たな顧客を獲得するだけでなく、既存顧客との関係性を強化し、1人あたりのLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を増やすことも重要です。顧客とダイレクトにやりとりをするコールセンターはCXに直結するため、上手く関係性を構築できれば、その後も企業のファンであり続けてくれる可能性が高まります。実際、コンタクトセンター戦略において「CX向上」を重要と認識している日本企業の割合は63%と高い割合を示しています(※3)。
人口減少やCX改善の流れなどを受け、これまでより一層イノベーションが求められているのがいまのカスタマーサポート領域の状況です。
異業種の考え方を活かした新発想
このカスタマーサポートの分野に「顧客が問い合わせる前」の顧客接点に着目し、サポートデータとAIを駆使して最適な顧客体験を提供するという新たな発想で挑んでいるのが、RightTouchです。
同社は「RightSupport by KARTE(以下、RightSupport)」と「RightConnect by KARTE(以下、RightConnect)」というプロダクトを軸に、複数のプロダクトを統合的なソリューションとして展開しているコンパウンドスタートアップです。
RightSupportは、問い合わせをしようとしている顧客のWebサイト上での行動をもとに、つまずく要因をデータで把握し、予測される困りごとに応じた解決策を先回りして提示するソリューションです。
「その顧客がサイトのどのようなページを見ているのか」「どのようなデバイスを使っているのか」「何度サイトに来訪しているのか」などのデータを解析し、問い合わせに至る原因を検知。困りごとに対応する解決策をポップアップで出したり、適切なFAQに誘導したりして自己解決を促します。
問い合わせの要因分析から、サイト改善やWebサポート施策の実装までノーコードで対応できるため、カスタマーサポート部門の担当者だけでPDCAの内製化が可能。電話による問い合わせ数の減少や、スムーズな困りごとの解決で快適なCXを提供し顧客満足度向上につなげられます。
そしてRightConnectは、Web上で解析した顧客データをコールセンターのオペレーターにリアルタイムに連携し、迅速な課題解決を実現するソリューションです。
同ソリューションを使うと、オペレーターは入電があった時点で、電話の先にいる顧客がどのようなWebページを見ており、どこでつまずき、どのようなデバイスを利用しているかなどがわかるようになっています。電話口で顧客がイチから話す必要がなくなるので、自分の困りごとを言語化するのが難しい顧客であっても、オペレーターがスムーズに用件を把握でき、スピーディーな課題解決が可能となります。
また、サイトを利用する顧客の行動をリアルタイムに収集できるため、受電前に顧客の問い合わせ内容を把握し、内容別にオペレーターを振り分けることも可能。オペレーターの習熟度や知識レベルによって対応しやすい問い合わせを割り当てられるため、顧客は短時間の電話で課題が解決され、コールセンターでのEX(Employee Experience:従業員体験)も向上します。
実際にRightTouchのソリューションは多くのエンタープライズ企業との取り組みで成果を出しています。RightSupportの導入後、これまで受電可能性があった月4,000件の困りごとを自己解決に繋げた事例や、RightConnectによってオペレーターの離職率を50〜60%から10%以下に低減できた事例もあるといいます。
「顧客のサイト上での行動を分析する」というWeb解析の考え方は、マーケティング業界では一般的な考え方です。しかし、それをカスタマーサポートの分野に転用したプロダクトはこれまでにほとんどありません。
RightTouchはマーケティング支援サービスを展開する株式会社プレイドのグループ会社であり、Webマーケティングという異業種の観点からカスタマーサポート領域を見つめたからこそ、この発想につながったのかもしれません。
RightTouchとカスタマーサポートの今後
RightTouchは今後、高性能ボイスボットやVoC分析、さらなる生成AIを活用した新プロダクトなどの展開も予定しているとのこと。問い合わせ前の顧客データという独自の資産を持っているRightTouchであれば、その他の顧客体験の分野においても提供できる価値は大きくなりそうです。
カスタマーサポートは、前述した人手不足に加えて「カスハラ(カスタマーハラスメント)対策」の側面からも改革が求められています。すでにカスハラ対策にもつながるような生成AIを用いたコールセンターシステムも公開され始めており、カスタマーサポートにおけるデジタル化の流れは加速しそうです。
人手不足、CX向上、カスハラ対策などさまざまな角度から変革の波が訪れているカスタマーサポートの領域。問い合わせを待つのではなく、問い合わせ前のデータから先回りするという独自の切り口を持つRightTouchがどのようにこの波を乗りこなすのか、注目されます。
参考
※1:株式会社リックテレコム(2024). 「月刊コールセンタージャパン 2019年1月号 <特集> 早期離職を防ぐ 「最初の90日」の乗り越え方」. コールセンタージャパン. https://callcenter-japan.com/article/3703/1/, (参照2025-03-26)
※2:厚生労働省(2024). 「令和5年雇用動向調査結果の概況」. 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/gaikyou.pdf, (参照2025-03-25)
※3:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(2023). 「2023 グローバルコンタクトセンターサーベイ日本版レポート」. デロイトトーマツ. https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/operation/crm/jp-crm-global-contact-center-survey-2023-japan.pdf, (参照2025-03-26)