【マインドのDNA】グラフェンは「私たちが想像できない世界」を作る/株式会社エアメンブレン 長谷川 雅考
高品質な単層グラフェンの量産技術を持つ、株式会社エアメンブレン。本記事では、同社を率いる代表取締役・社長 長谷川氏のパーソナルな一面や夢を深堀りし、その素顔に迫ります。

執筆:Universe編集部
「マインドのDNA」では、いま注目のスタートアップ起業家をピックアップし、現在の価値観やマインドをさまざまな角度から深掘りしていきます。
今回登場いただいたのは、株式会社エアメンブレン 代表取締役・社長 長谷川 雅考氏です。
長谷川 雅考
工業技術院電子技術総合研究所、国立研究開発法人産業技術総合研究所、技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構にて炭素材料(ダイヤモンド、グラフェン)の研究開発に従事。工業材料の観点で量産技術、ハンドリング技術が課題となっている夢の材料グラフェンの社会実装を目指してエアメンブレンを起業。
──なぜ起業という選択を?
起業を検討した当時、グラフェン(※)の工業材料としての成熟度は低く、大企業は手を出しにくい状況でした。一方で、意思決定が早く小回りの利くスタートアップ企業は、成熟度を上げることでアドバンテージを獲得できます。ここに大いにビジネスチャンスがあると考えて起業しました。
(※炭素原子が平面的に並んだ単層の炭素同素体。強度と軽さ、透明性、柔軟性、導電性の高さなどから注目を浴びる物質)
──貴社の技術的な強みは?
グラフェンはその優れた導電性と応答性により次世代デバイスへの応用が期待されていますが、その製造の難しさから、工業用材料としての活用が進んでいません。
当社では、産業技術総合研究所での研究成果をもとにした、きれいな原子層グラフェンを高効率で生産する技術を有しています。また、原子層グラフェンを品質高くさまざまな種類の基材にハンドリングする技術(転写技術)を持っていることも強みの1つです。
──困難に臨むときの心境は?
私がいた国立研究所の仕事は、まだ実現できていないことを実現し、国の産業競争力の強化につながる技術を開発することです。
高品質グラフェンの量産技術開発はまさにこれにぴったりのチャレンジでした。困難な挑戦ではありましたが、こうした良いテーマに巡り合えたのは運がよかったなと感じます。
──失敗・挫折にはどう向き合っている?
一般的に期待通りにいかないことを失敗と呼ぶと思いますが、いろいろ試して失敗を経ないと成功にはたどり着けません。
なので失敗を気にしたことはありませんし、貴重な財産だと思っています。一緒に働く皆さんにも早く失敗してくださいと激励しています。
──最もゆずれないものは?
「まずはやってみる」。これをモットーとしています。
実は過去に、いろいろ考えているうちに先を越されてしまったことがありました。考えても結果を予想できないことは往々にしてあるので、まずはやってみる。そうすれば必ず結果が出ます。
──チームをひとことで表すと?
「雑多な集団」ですね。わずか数名の小さな会社ですが、それぞれ本当にバラエティに富んだメンバーが集っています。
私はヒューマンウォッチングが好きなので、メンバーをいろんな方向から眺めてこっそり楽しんでいます。
のんびりした人、計画を立てるのが上手な人、よく気が付く人、手先が器用な人、人の話を聞くのが上手な人、整理整頓が得意な人、じっくり考えるのが好きな人、穏やかな人、集中力のある人、などなど。
どの資質も会社に必要不可欠ですが、1人で全部持っている人はいません。メンバーを組み合わせてなんとかする、これも経営の面白さだと思います。
──心身ともに疲れたときのリフレッシュ方法は?
何も考えないでぼおっとしたり、歩いて気分転換したりしています。
──自分を突き動かすエネルギーは?
最先端を切り拓く醍醐味です。最先端って楽しいですよね。どんなに小さなことであっても、何かを見つけたら「これを知っているのは自分だけだ」って感慨に浸ることができます。
でも仕事ではあるので、すぐにそれを手放して世の中の評価を仰がねばなりません。最先端の開発はこれの繰り返しだと思います。
──CEOに必要な資質とは?
生き残る方法を見つける能力だと思います。
グラフェンはまったく新しい材料だったので、いろいろなプロジェクトをつなげて1年でも長く研究開発を続けようと頑張ってきました。諸外国のグラフェンプロジェクトと比較して特色ある成果を出すことに注力し、多くの人に助けていただいて開発資金を獲得してつなげてきた経験があります。
国内外の競合に埋もれないよう、尖った技術を開発することを心掛けてきました。だからこそ生き残る方法を見つける能力の大切さは強く感じていますね。
──最後に今の夢を教えてください
良い材料とは、エネルギー効率とスピードを考えると「薄くて小さいもの」になっていきます。グラフェンはこの究極にある材料です。私たちはこのグラフェンを、感度が高くて、速く、かつ消費電力が小さいセンサーとして社会に送り出したいと考えています。
人類が鉄に出会った時期については諸説ありますが、その当時鉄が文明の根幹をなす今日の姿を誰が想像したでしょうか。グラフェンはいままさにその状態にあり、そこに立ち会えるのは本当に幸せなことだと感じています。鉄と同様に、何千年もかけて技術を磨き続けることで、いまを生きる私たちが想像できない世界がグラフェンで作り上げられていることでしょう。
グラフェンはそれくらい尖った材料であり、当社はそれを磨き上げる尖った存在になりたいと考えています。
株式会社エアメンブレン

グラフェンを高品質かつ高効率に量産する技術を有するスタートアップ企業。グラフェンの稀有な電気伝導性、機械的強度、熱伝導特性を利用したトランジスタ、透明電極フィルム、放熱フィルムなども提供している。グラフェンは一原子の厚さしかない繊細な素材だが、同社は清浄度の高い量産技術とシワや破れを抑制した高品質なハンドリング技術を所有しているのが特長。