【マインドのDNA】光量子コンピュータで人類を「500年分」進化させる/OptQC株式会社 高瀬 寛

光量子コンピュータの早期実現を目指す、OPtQC株式会社。本記事では、同社を率いる高瀬氏のパーソナルな一面や夢を深堀りし、その素顔に迫ります。

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執筆:Universe編集部

「マインドのDNA」では、いま注目のスタートアップ起業家をピックアップし、現在の価値観やマインドをさまざまな角度から深掘りしていきます。

今回登場いただいたのは、OptQC株式会社 代表取締役 CEO 高瀬 寛氏です。

高瀬 寛氏
1994年:兵庫県生まれ。田舎町で自然に囲まれて育ち、科学に興味を持つ。
2013年:東京大学入学。英語演劇に没頭。
2016年:卒業研究で古澤研究室に配属。優秀卒業論文賞。
2017年:東京大学大学院工学研究科物理工学専攻。古澤研究室で本格的に光量子コンピュータの研究を始める。
2019年:修士号取得。田中昭二賞。
2022年:博士号取得。同年古澤研究室の助教に着任。
2024年:OptQC株式会社を設立、代表取締役CEOに就任。

──なぜ起業という選択を?

光量子コンピュータを高性能化させるいいアイデアを古澤研(光量子コンピュータの研究を行う、東京大学の古澤研究室)での研究中に思いついたのがきかっけです。量子コンピュータは方式ごとに一長一短ですが、自分の研究は光方式の苦手な部分を大きく改善するものでした。

このアイデアを古澤研のこれまでの技術の蓄積と合わせればすごいことができそうだと感じていたんですが、大学で続けるだけでは基礎研究で終わってしまいそうという懸念もあって。そこで自分とチームの成果を社会に還元するために、会社を立ち上げました

──過去の失敗・挫折にどう向き合ってきたか?

物事はうまくいかないのが通常なので、失敗することに耐性はある方だと思っています。

たとえば、研究というのは1~2年かけて結果を出すサイクルであり、最終的に結果が出るまでは失敗を積み重ねるプロセスになるものです。私自身、研究のテーマ選びや、その他人生のイベントでもいろいろ失敗してきました。

そのため、完璧主義になってしまうと何もできないというのがポリシーです。要は勝負どころでうまくいけばよく、そこで結果を出すためにどんどん失敗すればよいと思っていますね。

ただ、勝負どころで勝つための失敗はかまわないけれど、勝負どころで失敗することに慣れてはいけません。重要な局面での失敗は心にとどめ、次の勝負どころでハングリーになるための糧にしています

──最もゆずれないものは?

知的資源を破壊しないことです。

OptQCの母体となった古澤研は、一流の人材が20年以上かけて知と技術を蓄積してきた場所です。いずれ古澤研がなくなればこの蓄積は失われてしまうかもしれず、もしそうなれば許せない資源破壊だと考えています。それを防ぐ方法の1つが起業でした。

また、OptQCに現在関わっている&関わることを表明している人材も一流の人材ばかりです。彼/彼女らの能力を引き出せずに腐らせてしまうことも絶対に避けたいと思っています。

──チームをひとことで表すと?

「一流」です。

研究者・技術者は世に無数にいて、そのレベルはピンキリです。しかし、古澤研は世界トップレベルの研究室であり、日々の活動や外部との交流などから、一流がどういうものかをずっと見てきました。

いまのところ弊社は申し分ないチームメンバーを構成できていると思いますし、このメンバーで成功しないならどこにもできないと考えています。

(OptQCより提供)

──心身ともに疲れたときのリフレッシュ方法は?

メールやslackを見ないことですね。外の世界と接続しているとやはり疲れます。意識しないと四六時中メールを見てしまうので、リフレッシュしたかったらまずは自分の目の届く範囲にある物事だけに集中するのが大事です。そのうえで、入浴したり音楽を聴いたりと好きなことをしています。

──自分を突き動かすエネルギーは?

「何か面白いことしたい」という気持ちと、先ほどの述べた「知的資源の破壊を防ぎたい」という責任感が原動力です。

その2つが重なる部分が今回の起業だったと思っています。この2つがないと会社経営のような途方もなく大変なことはできません。

「何か面白いことしたい」というのは、自分の中では「何か新しい世界を見たい」に近いと感じています。学問の世界というある種閉鎖的な世界から起業したいまは毎日が新鮮で、思ってもみなかった出来事が起きるので非常に面白いです。自分の世界が広がり、初めて海外旅行に行った時のようなワクワク感があります。今後も事業を拡大し、もっと自分の世界も広げてみたいですね。

──CEOに必要な資質とは?

メンバーが正しい努力をできる環境を作ることです。OptQCのようなディープテックスタートアップでは特にこの資質が大事かなと思っています。

「何か面白いことしたい」が信条ではあるんですが、好き勝手に開発を進めるだけではすぐに会社が潰れてしまいます。大学発ディープテックでは、「ユニークだが、よく考えると優先順位の低い研究開発」にエフォートを割いてしまうという罠にはまりやすい気がします。技術と事業の両方の視点から納得感のある目標を設定し、メンバーの能力を有効活用しなくてはならないですね。

──価値観を形作った本は?

「嫌われる勇気」

すべての人に共通する目標は「幸せになること」ですが、人生にはあまりにも多種多様な悩みがあり、目標達成は困難に思えます。ですが本書は、人生は非常にシンプルであり幸せになるのは簡単と説明しています。

起業はおろか研究者になる前、20歳ごろに本書を読み、自分のための人生を生きるといういまの価値観が形成されました。

──最後に、いまの夢を教えてください

光量子コンピュータを実現し、次の50年で人類を500年分進化させることです。

量子コンピュータの応用としては、製薬や材料開発の高速化、機械学習の高性能化、量子シミュレーションなどが挙げられることが多いですが、結局どのように世の中の役に立つのか分かりにくいという現状があります。

ですが、コンピュータはいまや人類のほどんどの活動の基盤になっており、文明進化の原動力です。光量子コンピュータは究極のコンピュータとして、人類をもっとも効率よく進化させるツールになるというのが私の意見です。

光量子コンピュータの早期実現により、現在のコンピュータ社会では実現できないイノベーションが次々と生まれる様子を自分の目で確認する。これが私の夢です。

短期的な目標でいうと、「量子コンピュータといえば光量子コンピュータで、OptQCだ」というポジションになりたいと思っています。ユーザー目線で言うと、光量子コンピュータは他方式に比べ導入コストが非常に安く済むというメリットがあると思います。こうしたメリットを地道に伝えていきたいですね。

OptQC株式会社

(OptQCより提供)

OptQC株式会社は光量子コンピュータの早期実現を目指すスタートアップ。光量子コンピュータはプロセッサが常温常圧で動作し、さらにスケーラビリティが高いという特徴から、次世代の情報処理技術の基盤となりうる技術。

OptQCは2026年に商用機をクラウド公開予定。このような実際に動作するマシンを中心にユーザーやコンポーネントベンダーのエコシステムを構築し、光量子コンピュータの社会実装を推進している。