資金調達のきっかけは相談会──さかなドリームとグローバル・ブレインが培ってきた関係性とは
独自の新規養殖魚を開発・生産・販売するさかなドリームが、独立系VCグローバル・ブレインのカジュアル相談会「GB Pit In」へ参加してから資金調達の実現に至るまで、キャピタリストともに歩んできた道のりについてご紹介します。

グローバル・ブレイン(GB)では、主にシードステージのスタートアップを対象としたカジュアル相談会「GB Pit In」を行っています。
2023年にこの相談会に参加いただいた水産スタートアップ・さかなドリームが、GBの運営するCanon Marketing Japan MIRAI Fundを含む複数のファンドから資金調達を実施。「GB Pit In」参加からシリーズA資金調達に至るまでのストーリーを、さかなドリームCEOの細谷氏と、GBのキャピタリストである木塚・向井で振り返りました。
さかなドリームの事業概要
革新的な魚類の品種改良技術によって「世界一旨い魚を創り、届ける」ことを目指す水産スタートアップ。東京海洋大学発の養殖手法をもとに、日本近海に生息する4,000種以上の魚から真に美味しい魚を厳選して掛け合わせ、付加価値の高い独自の新規養殖魚を開発・生産・販売。すでに販売を開始しているカイワリとマアジを両親に持つ世界初の養殖魚「夢あじ」はミシュランガイドに掲載される国内外のレストランや流通事業者、一般消費者からも高く評価されている。
最初の接点に相談会を選んだ理由
──まずは「GB Pit In」に申込いただいた経緯を教えていただけますか?
細谷:2023年の9月にシードラウンドの資金調達を実施したのですが、その年の12月にGBが「GB Pit In」という相談会を行っているというニュースを見つけて申し込みました。
もともとどこかのタイミングでGBに面談をお願いしたいと思っていたんですが、やはり大きなVCは身構えるというか、ある種ハードルの高さのようなものを感じていたので、一定の気持ちを高めたうえで臨みたいと考えていました。GB Pit Inはカジュアルな相談会ということで敷居が低く、まずはここでお話しさせていただきたいと思ったのがきっかけですね。

──壁打ちや相談会は他にもあるかと思いますが、その中でGBを選んでいただいた理由はどこにあったのでしょうか。
細谷:実績のあるVCに相談したい、というのはスタートアップからすると自然な話です。IPOやM&AしかりどれだけExit実績があるのか、どれくらいの規模のファンドを運用しているのかを含めて、そういった大きな世界感で仕事をしているVCだからこそ見えるものってあると思っています。
スタートアップですから当然事業を大きく成長させていきたい中で、そういったVCのキャピタリストからのアドバイスが必要だと感じていました。これまで自分からご連絡したVCはGBだけですね。
次の資金調達を見据えて、私たちの事業は他のVCからどのように映るのか、次の調達までに理想とする基準や、その基準に満たない場合のオプションなどをフラットにアドバイスいただきたいと考えていました。
向井:さかなドリームさんは、当時シードステージで調達されたばかりのタイミングでしたので、GB Pit InではシリーズAに向けたマイルストーンをどこにおくかの目線合わせができるよう準備をしました。
また、個人的には起業家さんと共通の話題を探すようにしています。細谷さんは丸紅出身で私は三菱商事出身なので、同じ商社のバックグランドであることと、私が前職で養殖のM&Aなどに関わった経験があることをお伝えし、GBに相談して良かったと感じてもらうことはもちろん、今後のパートナーとして選ばれるように準備をしたうえで臨んでいます。

領域知見の深いキャピタリストとの本音の壁打ち
──実際に相談会に参加されてみた感想はいかがでしたか?
細谷:普段VCの方々と面談をする際は、私たちの事業をご説明したあとに、ファンドサイズ・チケットサイズ・対象のステージ・ディープテックかつフードテックに投資するのか、などの条件等をお伺いして終わることが多いです。
ただ、GB Pit Inには明確に相談するためにアプローチしているので、どういう観点でスタートアップや業界をみているか、調達に向けて何をどこまでクリアすべきか、上場するときのバリュエーションの付け方はどうなると思うかなど、根ほり葉ほり聞かせていただきました。木塚さん・向井さんがその場で回答し続けてくださったことを覚えています。
木塚さんは我々の領域に近しい事業を検討されてきた経験をお持ちですし、向井さんは前職で養殖に関するM&Aを支援されていて水産業に一定の知見をお持ちです。そういったことも非常に印象的でしたね。当社の事業にシナジーのあるメンバーを調整できるGBのキャピタリストの層の厚さには驚きました。
木塚:細谷さんが仰ってくださったように、GB Pit Inはなるべく敷居を下げて、気軽にGBのメンバーと壁打ちする場にできればと思っています。その中でも、細谷さんはこの場をより有意義な形で上手く活用してくださったなという印象です。事業やIPOに向けた相談を整理して持ってきてくださったので、私が担当しているフードテックやディープテックの事例や経験をお伝えさせていただきました。

細谷:改めて相談会当日の質問を振り返ると、割とスタートアップ側がVCに聞くのに勇気がいるものが多かったように思います。たとえば「実際IPO時のバリュエーションってどうなりますかね」という質問もさせていただきましたが、自分で考えてと思われてもおかしくないですよね。相談会という立て付けがあったからこそ、本音の質問を全部聞かせていただきました(笑)。
VCの方に本音を聞きたい一方で、聞く場所やタイミングを間違えてしまうと本当の情報が聞けなかったり、さかなドリームの代表イケてないよね、って思われてしまうリスクもあります。いい機会がないかなと思っていたところに、経験豊富なキャピタリストに何でも相談できるGB Pit Inの趣旨は、私たちにすごくフィットすると感じましたね。
──ありがとうございます。ちなみにGB Pit In以降はどのようなコミュニケーションをされていたのでしょうか。
木塚:2024年の4月ごろ、そろそろさかなドリームさんの状況をキャッチアップしようとオフィスで向井と話していたタイミングで細谷さんから改めてご連絡をいただいたんですよね。向井との話を終えて席に戻るとちょうど連絡が届いていて。私たちの会話を聞いているかのようで本当に驚きました(笑)。向井と「これもまたご縁だね」と話したのをよく覚えています。

細谷:すごい偶然でしたよね、「ちょうど2人で話していました」とご返信が届いて私も驚きました(笑)。2回目にお会いしたときは、こちら側のアップデートをお伝えするとともに、バリュエーションの目線合わせや、GBが運用されているフラッグシップファンドとCVCファンドの種類や投資体制などについて、具体的に説明していただきました。
今回のラウンドでは、中長期で応援してくださる方にジョインしていただきたいと思っていたので、バリュエーションは皆さんの目線を重視すべきだと考えていました。希望を通そうと思えば通せるものなのかもしれませんが、私個人としては、貫き通しても仕方ない部分もあると思っています。実態と合わないバリュエーションになってもその先が続かなくなってしまうので、皆さんからの本音ベースのアドバイスは非常に参考になりました。
それ以降は、魚を海に出せたなどのアップデートを随時ご報告させていただきながら、もう少し具体的なバリュエーションやラウンドのご相談をさせてもらっていました。
株主となるVCにスタートアップが求めること
──調達に向けて準備を進める中で感じたGBの印象はいかがでしたか?
細谷:実は他の起業家さんの情報で、GBはDDを細かく見るという話を聞いていたんですが、それが非常に助かったことの1つでした。チューリングさんのnoteで、GBのアドバイスをもとにどのように資料を用意したのかを公開されていて、その記事を参考に準備できたのは大きかったです。
GBは業界のスタンダードを一段引き上げていらっしゃるVCだと思います。業界内でも細かく見てくださるGBのアドバイスを参考に準備できたことで、他社のVCからもちゃんとしているね、という印象を持っていただけた気がしますし、ラウンド自体もスムーズに進みました。
向井:私たちGB側でいうと、初めてお会いしたときから継続的にコミュニケーションをとる中で、投資家側の視点はあらかじめ共有できていたこともあり円滑に進みました。出資検討のタイミングで初めてお話しするのとは違って、お互いのフィット感も含めて目線があった状態で動けたことも大きかったですね。
細谷:以前木塚さんと向井さんが、弊社の事業を整理した図を共有してくださったんですが、「この資料を自分達のプレゼン資料にしたい」と思うくらい洗練した形でまとめてくださっていたのが印象的でした。
木塚さんと向井さんは、純粋に自分の腕で選ばせるタイプのキャピタリストです。必要なことを非常に端的に伝えてくださいますし、このふたりがうちに対して頭をひねってくださるなら絶対にプラスになるというのが会話を重ねる中で明確にイメージできたんですよね。
これはスタートアップにとってものすごく重要なポイントだと思っています。チケットサイズに関わらず株主は株主。絶対にリスペクトすべきですし、株主の意見は必ず検討すべきです。ただ、自分たちのことを全然理解してくれていないアドバイスや、スピード感での大きなズレがあると、会社の経営が止まってしまうリスクにもなり得ます。
おふたりの場合は、さかなドリームという会社を深く理解してくださっているし、これからいろんな変化があったとしてもすぐに理解してくれる。私たちがもし近視眼的に熱くなってしまったとしても、こういう考え方もあるんじゃないですかと、1歩引いてフラットに言ってくださるという確信を強く持つことができました。そういう意味でさかなドリームの船に乗って欲しいという気持ちは強かったです。
実は相談会以降、ずっと会社のメンバーに「GBの木塚さん・向井さんから投資を受けたい」と話していたんですよね。初めておふたりとお話しさせていただいた日、弊社のCMOである石崎と私で魚に餌やりをしながら「やっぱり一流のVCは凄かったね、圧倒的だよ」「ご一緒できるように頑張ろう」と話したことを鮮明に記憶しています。

投資への確信につながったさかなドリームの魅力
──GBの2人から見て、さかなドリームさんの印象はどうでしたか?
木塚:私は特に技術系の領域に注目しているのですが、一次産業のスタートアップってテーマが限られるなかで、まずサイエンスをビジネスにするのが難しい。そしてそれが急激に成長するスタートアップになり得るのは、感覚的にその100分の1というか、ものすごい確率だと思っています。さかなドリームさんはその企業になりえるポテンシャルを持った企業だと、初めてお会いしたときに感じました。
事業と組織体制含め、会社としての全体のレベルの高さを感じたのは初回からずっと変わりません。定期的にコミュニケーションをとる中で、設定したマイルストーンはほぼ達成しつづけてくださる姿も安心感がありました。そのコミットし続けてくださる姿勢をみて、私たちとしてはぜひご一緒させていただきたいという気持ちが強くなりましたね。
向井:木塚と同じく、さかなドリームさんは経営陣4名の産業知見や圧倒的な実行力は目を見張るものがあると感じています。加えて、経済性・社会性・環境価値が両立している「三方良し」の市場ポテンシャルと、独自性のある技術を有しており、実際に開発・販売面で実績を作っていた点も好印象でした。ビジネスモデルの観点からも、事業の成長性と収益性を上手く練られていると感じました。
また、一次産業は幅広いシナジーを考えられるので、GBが運営するCVC各社へご紹介した際も好印象でした。キヤノンマーケティングジャパンの例だと、映像技術の養殖現場での活用やサプライチェーンのトレーサビリティなど、中長期目線の協業余地をお話しさせていただいています。
将来的にスケールする中で、幅広い事業会社とのコラボレーションも十分に考えられますし、自治体とのダイナミックな取り組みなど、各方面に自信をもって推していける企業ですね。

調達後に感じた支援体制の厚み
──さかなドリームさんに伺いたいのですが、GBを株主に迎えてくださったあと印象的なことがあれば教えてください。
細谷:GBが持つ支援体制の手厚さに驚きましたね。百合本さんが「世界で一番尊敬されるVCを目指す」とお話しされていたPodcastを聞いたことがあるのですが、実際に支援を受ける側になって、まさに代表自ら強烈に意識していないと、こういったサポート体制は築けないだろうと感じます。
スタートアップのバリューアップ支援というのは、直接的にはお金にならないわけじゃないですか。でもスタートアップからすると、そのVCとご一緒したいという強いインセンティブになる。支援を通じてスタートアップの成長が大きく加速すれば、その結果VCの皆さんにも恩返しできる。これは素晴らしい取り組みだと思います。
また、10Xの矢本さんと百合本さんの対談記事で「GBの知財チームは、世界でもトップクラスだと自負している」というのを拝見して、私たちも知財支援をお願いしたのですが、ディープテックのテクノロジー部分において、知財面でもこんなご支援が受けられるのかと驚きましたね。知財戦略の考え方や進め方がクリアになりましたし、外部からサポートいただける弁理士の先生をご紹介いただいたりもしています。私たちの知財に対する向き合い方も急速に変化しました。
代表の百合本さんの想いが体現されている、強固な支援体制を持つGBは、全ての起業家が一度はご相談すべきVCだと心から思います。

水産業の未来を創る、さかなドリームが目指す未来
──嬉しいお言葉をありがとうございます。では、今後の展望についてお伺いできますでしょうか。
細谷:私たちは「世の中にいろいろな養殖業を生みだすことで、突き抜けていく」ということを創業期から変わらずに大切にしています。秋刀魚とサーモンは、同じ魚でもまったく味が異なるように、新しい種類の魚が生まれるたびに、そこに新たな価値を感じてもらえると考えています。まだ皆さんが味わったことのないような美味しい魚を世の中に届けていくために、今回調達させていただいた資金をもとに、研究開発や生産をさらに加速する計画です。
一方で、水産は課題が大きい領域です。我々も2年事業を行う中で、養殖以外の文脈でもお声がけをいただくことが増えてきました。今後5年、10年と考えた先に、養殖以外の文脈でも事業を拡げうると確信しています。長期的な展望から逆算して、どんな風に会社の舵をとっていくか、GBの皆さんにも引き続きお力添えいただきたいです。
向井:水産養殖業界は漁師の高齢化とともに担い手は不足し、漁獲量も減るなど大変な状況にあります。そんな中で、新しい魚を届けるというのはサプライチェーンに抜本的に新しい価値をアドオンするという取り組みで、社会課題の解決に資する部分もある。
一次産業は各事業会社と幅広いシナジーを考えられます。将来的にさまざまな事業会社や自治体とのコラボレーションにも発展していけるよう、伴走していくつもりです。
木塚:経済性と社会性というのは基本的には一緒で、「売れるモノ=みんなが喜んで買っている幸せの総量」だと思っています。養殖を通じて美味しい魚を創り出すことは、非常に意義のある取り組みですし、さかなドリームの皆さんの挑戦をGBもチーム一丸となってサポートしていきたいと思います。

──最後に今後GB Pit Inへ参加される起業家の方へのメッセージがあればお願いします。
細谷:周りに聞けないこと、VCに聞けない・聞けなかったことって、すべての起業家に多かれ少なかれあるんじゃないかと思います。GB Pit Inは長年解消できなかった疑問について、キャピタリストに直接本音を聞ける場として活用するのがおすすめですね。GBはプロ中のプロだと思っているので、ここで聞いてわからなかったらそれはもう解なし、ということかもしれません(笑)
とはいえ、これだけ歴史や実績のあるGBにご連絡するのはハードルが高いことも事実だと思います。本命のVCさんほどアプローチの仕方を悩むものですが、GB Pit Inは相談という形から接点を持つことができますし、自身の事業領域に詳しい担当者と話すこともできるので、ぜひ積極的に活用してほしいなと思います。
※所属、役職名、数値などは取材時のものです
(取材・執筆:Universe編集部)