防衛装備庁と日本政策金融公庫が語る、スタートアップ向け支援の全容と活用法

グローバル・ブレイン(GB)は、防衛装備庁と日本政策金融公庫の担当者を招き、投資先企業向けの勉強会を開催しました。その際に解説されたスタートアップ向け支援の内容と活用法を紹介します。

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【Summary】

  • 防衛装備庁はスタートアップ技術を早期調達する制度「ファストパス調達」を新設

  • 日本政策金融公庫はスタートアップの成長に合わせた3つの資金支援制度を保有

  • GBには公的支援の活用を支援するGovernment Relationsチームが存在

国内最大級の独立系VCであるグローバル・ブレイン(GB)では、先日投資先企業を対象に、「スタートアップを対象とする公的支援策の勉強会と題したイベントを開催しました。主催したのは、GBにおいてスタートアップと国や自治体をつなぐ支援を専門に行う、Government Relations(GR:公共政策)チームです。

勉強会には、防衛装備庁と日本政策金融公庫の担当者が登壇し、スタートアップ向けの最新の連携スキームや資金調達支援策について解説を行いました。本記事では勉強会で語られたナレッジをまとめてお伝えします。

勉強会当日の様子
勉強会当日の様子

防衛装備庁によるスタートアップ連携のいま

最初のセッションでは、防衛装備庁の防衛産業政策室長を務める甘粕 浩司氏が登壇し、防衛産業へのスタートアップ参入促進の取り組みや支援体制について解説が行われました。

防衛装備庁 防衛産業政策室長 甘粕氏
防衛装備庁 防衛産業政策室長 甘粕氏

近年、イラン情勢やロシアによるウクライナ侵攻など世界の安全保障環境が激変しています。こうした状況を受け、甘粕氏は「防衛や災害対策を目的として、AIやロボティクスなどスタートアップの皆様が持つ優れた技術を積極的に取り入れることを目指していると述べました。

スタートアップ参入促進のためのイベント・制度

防衛分野へのスタートアップ参入を促すために、防衛装備庁では複数の取り組みを行っています。たとえば、スタートアップや中小企業とのマッチングを目的とする合同推進会や展示会を積極的に開催しており、直近2回の展示会では累計103社が出展し、約1,800名が来場するなど大きな反響を呼びました。

また、民生先端技術を早期に実装するため、2024年10月に東京・恵比寿に「防衛イノベーション科学技術研究所を新設。基礎研究を公募する「安全保障技術研究推進制度も大幅に拡充され、2015年度には3億円だった予算が2026年度予算では129億円にまで増額されていることが紹介されました。

優れたスタートアップを発掘するためのイベントや表彰にも取り組んでいます。米国の国防イノベーションユニット(DIU)と共同で実施したイベントでは、AIスタートアップのSakana AI株式会社が敢闘賞を受賞。さらに、「日本スタートアップ大賞2025」では新たに防衛大臣賞が創設されるなど、防衛分野におけるスタートアップの活躍の場が広がっています。

スタートアップ技術を早期調達する「ファストパス調達」

甘粕氏のプレゼンテーションでもメインとなったのが、スタートアップの有する技術を素早く調達するための新制度「ファストパス調達です。この制度は大きく3つのアプローチから構成されています。

1. 防衛版SBIR制度の活用

国の省庁がスタートアップの研究開発を支援する制度の1つに「SBIR(Small/Startup Business Innovation Research)制度という内閣府のスキームがあります。これは、国が公募したテーマに則した研究開発を行うスタートアップを段階的に支援していく仕組みで、2026年度からは新たに防衛省もこのスキームを活用し始めるとのことです。

防衛装備庁では正式なテーマの公募に先駆けて、スタートアップからの自発的なアイデアも同庁の窓口で受け付けているとし、柔軟な対応を行っていると説明しました。

2. スタートアップ技術提案評価方式(スタートアップ随意契約)

通常の公共調達は、一般競争入札によりスタートアップ以外も含めて契約相手を募ることが一般的です。各省庁が特定の企業を選定する随意契約という方式もありますが、企業の選別や予算要求、法令上の要件を満たすことが求められるなど、相当の手間がかかっていたことから、契約までに1年以上かかることもありました。

しかし、スタートアップ技術提案評価方式では、まず官公庁側が「解決したい行政課題」を提示し、スタートアップが解決方法を提案します。その提案をもとに官公庁側とスタートアップが協議を重ねて一緒に仕様書を作り上げていくプロセスとなるため、時間をかけずに随意契約を行うことが可能です。この手法により、約3ヶ月半という短期間で契約に至った実績もあるといいます。

なお、この新しい方式で第1号契約となったのは防衛装備庁の案件であったとし、甘粕氏は、防衛装備庁がスタートアップとの契約に積極的な姿勢で臨んでいることを強調しました。

3. アジャイル型の調達

自衛隊の現場を巻き込んだスタートアップ連携の取り組みも進んでいます。

アジャイル型調達の方式とは、スタートアップの技術や製品を自衛隊の部隊などと企業が一体となって試験運用を行い、その検証結果をスタートアップにフィードバックして改修を重ねていくことで、製品や技術の量産化・装備化を目指す取り組みです。このサイクルを短期間で回すことにより、スタートアップの強みであるスピードを活かしながら、自衛隊のニーズに早期に適合した製品・技術へと改良していくことができます。

伴走支援体制の整備

防衛装備庁では、スタートアップの活用をさらに推進するために「スタートアップ活用伴走支援グループも新設。スタートアップと幕僚監部のマッチングを行ったり、契約締結時のサポートを行ったりする伴走支援を実施しているといいます。

最後に甘粕氏は「防衛装備庁では関係者がチームとなってスタートアップの皆様と一緒に走り、調達に向けたサポートを行っていきます」と力強く語り、プレゼンテーションを締めくくりました。

日本政策金融公庫が明かす、スタートアップ支援の全体像

続くセッションでは、日本政策金融公庫の新事業・スタートアップ支援室で室長を務める園田 哲朗氏が登壇。政府系金融機関としてのスタートアップ支援とベンチャーデットの活用法について解説しました。

日本政策金融公庫 新事業・スタートアップ支援室長 園田 哲朗氏
日本政策金融公庫 新事業・スタートアップ支援室長 園田 哲朗氏

日本政策金融公庫は政策金融機関であり、スタートアップ支援においてはアグレッシブにリスクテイクを行っています。園田氏は「J-Startup選定企業約270社のうち176社(約7割)と取引があり、2024年にIPOを果たした86社のうち50社が当公庫の支援を受けていると実績を紹介。シード・アーリー期には数千万円規模で支援し、ミドル・レイター期へと成長した段階では数億円規模の融資を行うという、成長ステージに合わせた一気通貫の支援体制が敷かれています。

融資先の約8割が設立10年以下、約9割が赤字企業でありながら、平均融資期間は9年と長いのが特徴です。一般的なベンチャーデットでは短期間での返済となるのに対し、日本政策金融公庫はじっくりと腰を据えて事業成長を後押しする姿勢が貫かれているといいます。

ベンチャーデットの活用法

続いて園田氏は、スタートアップにとって重要な資金調達手段である「ベンチャーデット」の活用意義を解説しました。

スタートアップが成長資金を調達する際、すべてをVCなどからのエクイティ(株式)で賄おうとすると、資本コストが高くつくうえに、経営者の持分比率が低下する「ダイリューション(希薄化)の問題が生じます。一方で、収益基盤が不安定なシード・アーリー期にデット調達に過度に依存すると、赤字によるキャッシュアウトで早期に債務超過へ陥るリスクがあります。

そこで園田氏は、リスクの高いシード・アーリー期では基本的にエクイティ調達を中心としつつ、黒字化の見通しが立てられるミドル・レイター期にはエクイティ調達と併せてデットの資金調達も行うという活用方法を提唱。「エクイティの希薄化を防ぎつつ、レバレッジを効かせた効率的な資金確保が可能になる」と説明しました。

なお、日本政策金融公庫では、2023年よりスタートアップに特化した支援資金の取り扱いを開始。以下の3つの融資商品を提供しています。

1. 新株予約権付融資

アーリーからミドル期において最も活用されるのが「新株予約権付融資です。貸付と同時に新株予約権(ストックオプション)を日本政策金融公庫に付与することで、無担保・無保証人で最大20億円の融資を受けることができます。

付与する新株予約権の割合については、時価総額の1%〜2%程度を目安に抑えており、将来のCXO採用などに必要なストックオプション枠を圧迫しないよう配慮しているとのことです。金利も基準利率(上限3.0%程度)に抑えていると言います。

2. 挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)

ミドルからレイター期のスタートアップは、「資本性ローン」を活用するケースもあります。

無担保・無保証・一括償還の借入金ですが、金融検査上は「自己資本」とみなすことができるため、財務体質の強化や他行からの協調融資を受けやすくなるメリットがあります。限度額は15億円です。

3. 固定金利型

さらにステージが上がり、早期に安定した利益が出ることが見込まれるスタートアップ向けには通常の融資制度である「固定金利型が推奨されます。

独自ネットワークを活用した支援

さらに園田氏は、スタートアップへは資金供給だけでなく「事業成長の支援」にも力を入れていると語りました。たとえば、日本政策金融公庫が全国に抱える約6万社の中小企業の顧客基盤を活用し、スタートアップの技術と地域企業の課題をマッチングするイベント「Grow UP!」を累計で8回開催。これまでに2,300社超が参加し、850件超の商談を生み出しているなど、独自のネットワークを活かした伴走支援を行っています。

最後に園田氏は「日本政策金融公庫はスタートアップ支援を積極的にやっており、融資においてはリスクテイクをしながら踏み込んだ支援をしている。スタートアップの皆様には資金供給はもちろん、私たちが持つ顧客基盤なども活用してもらいたい」とメッセージを送りました。

公的支援の活用で事業成長を加速させるために

本勉強会を通じて、防衛分野という市場がスタートアップに大きく門戸を開いていることや、日本政策金融公庫によるベンチャーデットが柔軟かつ長期的にスタートアップの成長を後押ししていることが強調されました。

しかし、こうした有益な公的支援策や参入スキームも、その存在を知り、適切なタイミングで正しくアプローチできなければ活用することはできません。

そこでGBのGRチームでは、投資先スタートアップが国の支援策活用を検討する際のアドバイスやサポートを行っています。「規制改革に取り組みたい」「公的支援策を活用したい」「国や自治体と契約したい」といったニーズを持つGBの投資先企業の方は、ぜひ担当キャピタリストにGR支援についてお問い合わせください。

GBでは今後も「未踏社会の創造」というミッションのもと、スタートアップの事業成長に資するような発信や活動を継続して行ってまいります。

(編集:GB Brand Communication Team)