従来のロボットとは“次元が異なる”──RLWRLDが手掛けるフィジカルAIの可能性
フィジカルAIで世界を牽引するスタートアップRLWRLD(リアルワールド)が、ピッチイベント「Morning Pitch」で明かした事業内容や大企業との協業事例などをご紹介します。

【Point】
- 従来のロボットの次元を超える「VLA技術」
- RLWRLDは特に製造業やサービス業との協業に意欲
- 世界初のユースケースを生むためにGBも積極支援
先日、ベンチャー企業と大企業の事業提携を生み出すことを目的としたピッチイベント「Morning Pitch」に、グローバル・ブレイン(GB)の投資先企業であるRLWRLD Inc.日本代表の李 勲氏とGB代表取締役社長の百合本 安彦が登壇しました。
「VC推薦シリーズ Nextユニコーン特集」と題された当日のセッションでは、GBに加えて国内のVC3社とその推薦スタートアップも登壇。会場には大企業関係者が多く集まり、協業やファイナンスに関する熱量の高い議論が交わされました。本記事では、RLWRLDが披露した事業内容や、同社と大企業による協業の具体例などをご紹介します。
世界を牽引するRLWRLDの技術
RLWRLDは「現場適用に最適化されたフィジカルAI」を提供するスタートアップです。独自のロボット基盤モデル「VLA(Vision Language Action Model)」を開発し、それを産業別にファインチューニングすることでフィジカルAIとして提供しています。昨年設立された同社はアメリカに本社を置き、日本と韓国に子会社法人を持っています。
これまでと次元が違う「VLA技術」
李氏ははじめに、同社が開発するフィジカルAIおよびVLAは「従来の産業用ロボットや協働ロボットとは次元が異なる技術」だと説明。そのことをこれまでのVLM(Vision Language Model:視覚言語モデル)との違いから解説しました。
まず、VLMとは、GPTのような大規模言語モデルにビジョン(視覚)を付け加えた技術です。たとえば、GPTを使ってアニメ風の絵を描くことができますが、これも日常生活に浸透しているVLMの例だと言えます。
一方、VLAはVLMの推論力と知性に「ロボットのアクション」を紐付けたものです。GPTなどと同じく学習を通じて進化し、十分に学習が進めば従来のロボットにはなかった汎用性を獲得してくことから、人間のように柔軟かつ創造的に働けるロボットの実現が期待できるとして世界中から注目を集めています。
李氏は「GPTがテキストの世界を変えたように、VLAは実世界(フィジカルな世界)を変える可能性を秘めている」と発言。また「VLAがマスターされた瞬間、それはAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)への道筋を示します」とも述べ、その可能性を強調しました。
人間に比肩するロボットの動作性
RLWRLDの強みは、ロボットハンドの動作性にあります。同社は、独自開発のロボット「アレックス(ALLEX)」を保有しており、その性能は他社のヒューマノイドロボットと比較して「2世代進んだロボット」だと高い評判を得ています。
一般的に言われる人間の手の自由度(Degree of Freedom)を表す数値は27であり、従来のロボットは6程度です。一方、RLWRLDのロボットは15の自由度を持っており、この自由度の高さが従来のロボットでは成しえなかった繊細な動作を可能にしています。
ピッチでは、同社の基盤モデルであるRLDXによって自動で動くアレックスの動画が紹介されました。どの位置にコップがあっても牛乳瓶の蓋を開けて正確に牛乳を注ぐ動作や、棚の前で箱を開けて人形を陳列する動作などに加え、従来のクリップ式や吸着式のロボットでは扱いが難しかった、招き猫のような複雑な形の物体を陳列する様子も示されました。
アレックスのデモンストレーション動画
日本での実証事例も進んでいます。日本のコンビニではカップラーメンが常に客側にロゴの面を向けてきれいに陳列されていますが、RLWRLDのアレックスも同様に、ロゴの位置を把握し、面を揃えて並べることが可能です。同社ではこうしたデモンストレーションを大手コンビニ企業や通信企業と実施してきました。
ターゲット市場と協業ニーズ
李氏は、RLWRLDの最も大きなターゲット産業は製造業であると説明。製造業はその業務の30~40%程度しか自動化が進んでおらず、市場規模も大きいことから注力していきたい領域だと語りました。
また、サービス業での活用可能性についても話を展開。たとえばホテルの宴会業務では、スプーンやフォークをタオルで磨くといった単純な作業を何千回と繰り返しています。これらの反復作業は、同社の現在の技術でも対応できるものであり、サービス業には膨大なポテンシャルがあると述べました。
ピッチの結びとして、李氏は韓国のロッテホテル社長が語った「人間の仕事をヒューマノイドロボットに代替させることは歓迎できない。なぜならこれはコスト削減につながるのではなく、人件費がテック企業に流れるだけだからだ」という言葉を引用。RLWRLDが目指すのは、この懸念を解消するビジネスモデルであることを強調します。
「顧客企業が自社の現場データを提供し、RLWRLDがそれをもとにファインチューニングしたVLAモデルを開発していく。そうすることによって、顧客企業は自社の現場に最適化されたVLAモデルを保有し、さらにそれを両社で共同開発・共同販売して収益を共有するビジネスも生み出していけるようになる──」
李氏はそう話し、こうしたビジネスモデルを日本の大企業と積極的に推進したいと力説。現在シード2の資金調達中であることも明かし「協業面でもファイナンス面でも大企業との連携を心から望んでいる」と述べてピッチを締めくくりました。
GB百合本が語るRLWRLDの意義深さ
RLWRLDを推薦したGBの百合本は、同社について「フィジカルAIで世界を牽引している会社」とコメント。デジタル空間の進化が進む中で、実世界にチャレンジしていることが非常に意義深いと評価しました。
また、GBでは昨年リード投資家として投資して以来、同社と大企業とのリレーション構築を支援し、世界初のユースケースをともに作り上げることに挑んでいます。百合本は会場にいる大企業関係者に向けて「RLWRLDと大企業の協業はまだまだ増やしていきたい。資金調達中でもあるため、投資でも関心のある大企業の方はご相談させていただければ嬉しい」と強く要望しました。
積極的な議論が続いたネットワーキング
セッションの終了後には、登壇者と参加者によるネットワーキングも実施。李氏をはじめRLWRLDのメンバーと交流する大企業の方の姿も多く見られ、活発な議論が引き続き展開されていました。
GBでは今後も「未踏社会の創造」というミッションのもと、投資先企業のさらなる成長に寄与するような大企業との協業促進を積極的に支援してまいります。
※所属、役職名、数値などは取材時のものです
(執筆:GB Brand Communication Team)