ラストワンマイルデリバリーに価格破壊、YOURS Technologiesに投資する理由

ラストワンマイルにまつわる物流テクノロジーの状況や展望を解説しつつ、彼らの魅力をお伝えしたいと思います。

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執筆: Universe編集部、共同執筆: 深山 和彦、青木 英剛、岩間 菊子

2020年12月17日、グローバル・ブレインはヤマトホールディングスと共同で運営するファンド「KURONEKO Innovation Fund」を通じてラストワンマイル・デリバリーのYOURS Technologies(以下、YOURS)への出資を公表しました。本稿では私たちが彼らに注目する理由、ラストワンマイルにまつわる物流テクノロジーの状況や展望を解説しつつ、彼らの魅力をお伝えしたいと思います。

中国・自動運転デリバリーの担い手

YOURSは2018年3月に創業したスタートアップで、自社開発のコンピュータービジョンによる自動運転技術を活用し、次世代物流及び小売店向けに「ラストワンマイル」の配送ロボットソリューションを提供しています。YOURSの大きな特徴と差別化のポイントは独自のコンピュータービジョンアルゴリズムで、高額なLiDARセンサーを必要とせずどのような光の環境下でも物体の3D輪郭特徴を抽出でき、高精度地図の作成及び位置の特定を可能にしました。

中国国内でも複数の室内配送ロボットのスタートアップがありますが、コストに対応しようとシングルチャンネルのLiDARを使用したソリューションが多く、これでは広々とした環境下での3D高精度地図とローカリゼーションができません。つまり大型のショッピングモールや屋外の歩行者天国では自律走行ができなくなるのです。

一方、YOURSのコンピュータービジョンのアルゴリズムは、そもそもこの高額なLiDARを必要としないため、どんな光の環境下でも物体の3D輪郭特徴を抽出でき、高精度地図の作成及びローカリゼーションに使用ができます。

現在「YOURS 配送」と「YOURSリテール」という二つのサービスを展開し、すでに北京では50以上のショッピングモール、歩行者天国等でロボットの導入契約を獲得しています。将来的には物流会社、フードデリバリーサービス会社向けに事業を拡大する予定です。

配送ロボットが稼働する様子。
配送ロボットが稼働する様子。

求められる8兆円市場の「ラストマイル」と課題

経営陣で現在CEOを務めるPeisen Lin氏は、2010年からRobot Operation systemの開発に参画してラストマイルデリバリーの運営を経験した人物で、同じくCTOのBo Jiang氏は10年以上のSLAM開発やロボットのシャシー開発経験があり、当該分野における特許も複数保有しているベテランです。

彼らが目指しているラストマイルデリバリーの市場は2030年には8兆円を超えると言われる巨大市場です。2021年には既に1.2兆円の市場規模が見込まれ、成長率はCAGR24.4%、特に北米・欧州では成長が早いとされています。物流業界は配送人員やドライバー不足に直面しており、デリバリーロボットなどのテクノロジーが期待されている分野になります。特にドローン、自動運転車、デリバリーロボットの中ではデリバリーロボットの展開が一番早いと注目が集まっています。

一方でまだまだ課題もあります。特に大きいのがコストの問題です。自動運転、つまり無人でのデリバリーを実現しようとすると、単純に配達する機体のコストやメンテナンスだけでなく、高額なセンサーなどの盗難といった事態も想像しなければなりません。

特に小売店はコストにシビアです。ロボットのコストが高すぎると一気に事業ハードルが上がるため、実はこういった低速自動運転の実用化の最大のチャレンジは低コストかつ低コンピューティング、そして低消費電力での自律走行の実現がポイントになるのです。

実際、ラストマイルデリバリーはファンドを共同運営するヤマトホールディングスの注力領域のひとつでもあり、彼らもまた実際に配達の現場に導入する上で、顧客の利便性向上、安全性の担保とコストの低減を同時に実現できているかを最大の課題と注目していました。

そこで共同で新ファンドを設立した後も共に世界中の配達ロボットスタートアップを視察し、国内外世界中の競合を調査した結果、完成度とコストの面で他社をリードしていたのが彼らだったのです。加えて各国の規制がまだ厳しい中、中国で既に実用段階にあり、走行データの蓄積ができている部分も評価が高く、今後の日本展開に向けて前向きに協議ができると判断しました。

創業者を含め比較的若いチームですが、現状の従業員数と調達金額、時間軸を総合的に判断すると完成度は高く、また、技術だけでなくビジネスモデルの模索という側面でも早々にショッピングモールへの導入実績を作るなど、展開がスピーディーです。

将来的には特定のコミュニティ内や大学構内、工場構内等でのデリバリーサービスが検討されています。また、アルゴリズムが強みですから物流会社やフードデリバリーオペレーター事業者向けにサービスを提供したり、サービス会社のパートナーとしての事業展開という可能性も検討しています。