初めてCESに参加して感じた、グローバルにおける新たな潮流【CES2025レポート】

CES2025に参加した現地キャピタリストが体感した、グローバルにおける新たなトレンドの動きについてレポートします。

初めてCESに参加して感じた、グローバルにおける新たな潮流【CES2025レポート】のカバー画像

執筆:栗田 仁也

グローバル・ブレイン(GB)でアメリカ西海岸から投資を担当している栗田です。

2025年1月にラスベガスで行われた世界最大のテックイベント「CES」に参加してきました。ニュースでも連日取り上げられていましたが、どのブース展示も非常に活況で、世界の 最前線を直に体感。個人的にもいい経験をさせていただきました。

今回CESに参加してみて感じた、トレンドの動向について簡単にお伝えできればと思います。

CESを体験して見えたトレンド

注目を集めていた領域の中でも印象に残ったのは、EV、テレビ、スマートホームデバイス、AI搭載ガジェットです。各ブースを回ってみて感じたのは、「AIによる変革」「Software Defined Vehicle」「協力的なエコシステム」「サステナビリティへのコミットメント」の4つのトレンドが非常に目立ったことでした。

1. AIによる変革

生成AIやエージェント型AIは、プロダクトの設計、エンジニアリング、製造、そして安全性に至るまで、様々な分野を変革しています。

設計プロセスにおいては、従来数週間かかっていたアイデアのプロトタイピングをAIが短時間でシミュレーション・評価できるようになりました。また、エンジニアリング分野では、AIがメンテナンス時期を予測することでダウンタイムを最小化し、製造ラインの最適化にも寄与しています。

また、日本での実証実験を発表したWaymoも体験しましたが、車両に搭載されたカメラ、LiDAR、レーダーなどのセンサーから得られるデータをAIがリアルタイムで処理し、周囲の状況を正確に把握。これにより他の車両や歩行者、障害物などを認識し、安全な走行経路を判断していました。サンフランシスコのダウンタウンは車の交通量や歩行者も多く、坂道、一方通行、縦列駐車も多くある環境下、約300台ものEVタクシーを24時間体制でサービス展開しており、自動運転サービスが十分に成立してる印象です。

そういった様子を見ながら、AIはもはやバズワードではなく、当たり前に活用される段階に来ていることを改めて感じました。

街なかで普通に見かけるようになったWaymo。

2. Software Defined Vehicle(SDV)

外部との双方向通信機能により、車を制御するソフトウェアを更新するSoftware Defined Vehicle。継続的なアップデート、シームレスな体験、アジャイル型アーキテクチャ開発により、「車を所有する」ことの意味が再定義されていっています。

定期的なファームウェアアップデートによって購入後も機能が向上するため、車は「買った時がピーク」の存在ではなくなりつつある。メーカー中心の世界から、消費者中心の世界への進化は着実に進んでいくと思います。

3. 協力的なエコシステム

どの展示からも一様に複数の企業との総合力で戦うことの重要性を感じました。特に異業種間の連携が目立ち、自動車メーカーだけでなく、クラウドサービス企業、AI開発企業、さらにはエネルギー供給会社との共同プロジェクトが次々に発表。スマートシティや自動運転社会の実現に向けた統合的な取り組みが加速しています。

自動車メーカー、部品メーカー、テクノロジーのイノベーター、サプライチェーン関係者の間でのパートナーシップが、より必要なものとなることを実感。協力的なエコシステムを構築することが、差別化要因となり得る時代であると感じます。

4.サステナビリティへのコミットメント

環境への意識は選択肢ではなく、すでに必須事項であることがひしひしと伝わってきました。

持続可能なサプライチェーンを構築するため、地域経済やエコシステムに配慮したパートナー選定を行っている事例も多く見られました。これにより、環境負荷を減らしつつ、地域と共に成長するビジネスモデルが注目を集めています。今後もこうしたコミットメントが企業競争力の指標として重要性を増していくと思います。

以上がまず強く感じたことですが、それ以外にも多くの収穫がありましたので、その他の印象に残った点についてもご紹介します。

活動の幅を広げるAWS

新製品を発表したNVIDIAやホンダなどはニュースでも数多く取り上げられていましたが、個人的にはAWSのブースも印象に残りました。

ホンダのSDV(Software Defined Vehicle)の開発支援を始め、オペレーティングシステムのクラウドソリューションを展開するAWSは、自動車業界だけでなく、輸送・製造業向けにもソリューションサービスを紹介していました。

生成AI、製品エンジニアリング、サステナビリティ、新たなデジタル顧客体験、コネクテッドモビリティ、自動運転など、多岐にわたる分野をカバーしており、着実に顧客カバレッジを拡げ、特に自動車業界におけるクラウド技術の重要性と価値を強調していたように思います。

韓国企業の台頭

今回のCESでは、多岐にわたる分野で韓国企業が大きな存在感を示していたのも印象的でした。

LG、サムスン、SKグループ等の大手企業をはじめ、生活家電・デジタルヘルス・AI・スマートホーム分野を含め過去最大規模の約900社が出展。スタートアップが集まるEureka Parkには約127社(日本の約4倍)が参加し、その内の多くがイノベーションアワードを受賞したようです。

韓国からのCES参加団体ツアーもかなり多く、展示会場のあらゆる場所で「Korea」や韓国国旗を目にしましたし、官民一体となってCESへの注力を感じました。総じて韓国企業の勢いは強く、多様な分野での技術革新と国際的な影響力を示していたように思います。

AI・ソフトウェアを軸に変動する各業界

今回AIやソフトウェアによってダイナミックな変化が起きるという話は、自動車業界や物流業界を始め、いろんなセッションで見聞きしました。

一方でソフトウェアが複雑化する中で信頼性をどう確保するのか、メーカー・サプライヤー・ソフトウェア企業間のエコシステム構築をどうしていくのか、人材確保及び育成をどうしていくかなどの課題も山積みです。

特にトヨタのブースで聞いた話は、個人的に印象に残りました。

車両デザインや技術開発を含めた顧客ニーズは通常、ディーラー担当者が各顧客からヒアリングし、OEMに共有され、その後部品メーカーへと展開されていきます。これが外部との双方向通信機能により車を制御するソフトウェアを更新し、販売後も機能を増やしたり性能を高めるSDVが増えることになれば、これまでのディーラーや部品メーカーとのコミュニケーション方法も変わります。

例えばハンドリング、ブレーキング、アクセルといった運転の癖をソフトウェアが把握し、全車両のデータが部品メーカーにリアルタイムで共有される世界です。当然、長期的には製造・メンテナンスのサプライチェーンも変化していくと考えられます。

短期的には車1台当たり20GB/日と言われる大量データとAI/MLを活用して、現存のサプライチェーン効率化、レジリエンス(弾力性)、顧客満足度を向上させる重要性を感じました。

プロダクト展示にあったブースデザインで、そのセンスを発揮していたクボタのブースも非常に印象的でした。

グローバルで挑戦していくために

日本から世界に進出していく難しさを実感できたことも、グローバルに展開するVCの人間として大きな収穫でした。今回のCESでは多くの日本企業も出展されていましたが、お話を伺う中で、サプライチェーンなども含めていかに現地の企業と協働できるかであったり、いかに現地で活躍できる人材を育成できるかであったり、海外進出における課題は、多くの企業で共通していたように思います。

GBはグローバル各地域と領域のキャピタリスト、支援チーム、ファンド管理チームと連携し、投資育成や事業開発を行える体制を整備してきました。これには採用、育成含めた体制を整える時間、そこにかかるコスト、成功体験の蓄積が必要であり、一朝一夕にできないというのは身をもって実感しています。

そういう体制を持つGBだからこそ、グローバルに挑戦するスタートアップを支援する余地がまだまだあるのではないか。そういった思いを改めて強くするきっかけとなった「初CES」でした。

今後も折に触れて現地からの情報をお届けできればと考えていますので、楽しみにしていただければ幸いです。

日本でも流行りつつあるピックルボールですが、今回のCESでは展示会場の中心にコートが設置され、おそらく著名な選手と一緒に試合するため長蛇の列ができていました。