「口だけではなく、体を動かす」——外部から支援する上で重要なこと(JX通信社)

VCのハンズオン支援において欠かせないこととは何か。具体的なケーススタディを通してその一端に迫ります。

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執筆: Universe編集部

スタートアップの成長をどう支援するのか、ベンチャーキャピタル、スタートアップ・ファンドにとって大きなテーマのひとつです。グローバル・ブレイン(以下GB)では、この問いに対してここ数年、さまざまな角度から答えを見つけるべく、体制を整えてきました。

その具体的な事例として、実際のケーススタディを定期的にご紹介していきます。まず最初の1社は報道テクノロジーを手がけるJX通信社です。2008年に学生起業としてスタートアップし、その後、AIによりニュース・ソースをいち早く収集するエンジン開発に成功。リスク情報収集・配信サービス「FASTALERT」は報道機関を中心に導入が拡大していきました。2016年には国内通信社最大手の共同通信社と資本業務提携し、事業をさらに拡大させていきます。

同社代表取締役の米重克洋さんと、GBから支援に入ったValue Upチームの慎正宗にその取り組みについてインタビューしました。(太字の質問はすべてUniverse編集部)

米重克洋:1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、JX通信社を創業。ビッグデータリスク情報SaaS「FASTALERT」や500万DL突破のニュース速報アプリ「NewsDigest」や世論調査ソリューションなど、ニュース&リサーチ領域の事業を手がける。

慎正宗:三陽商会、ボストン・コンサルティング・グループ、カートサーモン等を経てGBに参画。投資後の支援を専門とするValue Upチームを立上げ、チームのリーダーとして投資先の投資後の成長支援をリードしている。

JX通信社は2008年に創業していますが、GBが支援を始めた頃の話をお伺いできますか?

米重:元々「ニュースオタク」だったということもあり、19歳のときに起業してから「ニュース」や「報道」の領域でずっとやっています。一方で、事業としては大きなピボットを2回しています。

これは本当に厳しいと感じたのは、2回目のピボットを考えた2014〜15年頃です。厳しい状況の中でどうすべきか考えた時に、報道現場のより本質的な課題に注目しました。もともと解決しようとしていた編集コストの課題ではなく、取材に関わる部分の課題を我々の技術で解決できるんじゃないかと考え、改めてピボットを模索し始めたのがその頃でした。

2015年には共同通信社から出資を受けられています

米重:まさに共同通信デジタルさんに資本参加いただくちょうどその頃が、2回目のピボットのど真ん中に当たる時期ですね。当時我々が作り始めていたのが、一般向けに出しているニュース速報アプリの「NewsDigest」でした。

能動的に情報を集めたい「情報オタク」みたいな人じゃなくて、もっとマスにしっかり刺さるものって何か作れないだろうかと考えた時に、そもそもネットやスマホのニュースってめちゃくちゃ遅いよねということに気付いたわけです。我々の技術を使えばテレビ並みかそれ以上にニュース速報を速く届けられる。その仮説を確かめるべく、プロトタイプを作り始めたのがそれぐらいの時期です。

たまたま、その技術を実際に共同通信さんにお見せする機会がありました。結果、海外の事件が日本国内で報道されるよりもかなり早くキャッチできたと高く評価いただきました。当時、報道機関のコアコンピタンスは速報性だと、彼らからも助言いただきましたし、我々もそう確信しました。そこで「NewsDigest」が、その後に共同通信さんの報道現場の声から「FASTALERT」が生まれて、そんなタイミングで資本参加いただいた、という時期でしたね。

グローバル・ブレインが2019年と2021年に参加されたと。慎さん、こうやって成長しているJX通信社を見てみて、最初の感想はどうでしたか?

:僕らが一緒に始めた時は、まだ40人くらいの人数で3事業やってらっしゃいました。それぞれ成長余地がある中で、どうやって伸ばしていくかを走りながら見つけていかなきゃいけないわけです。最初に支援に入った時は、すごく大変なチャレンジをされていると思いましたね。

どういう風に支援の組み立てをしていくのでしょうか?

:いろいろありますが、まず取りかかるのはプロダクトの競合調査ですね。ターゲットの議論や、設定したターゲットへのインタビューの提案、プライシング設定の議論などから入りました。競合対象の価格体系や主な機能はどうなっているのか。それに対する僕らの示唆も含めてです。

競合調査資料の一部(数値や条件は非公開)
競合調査資料の一部(数値や条件は非公開)

業界の相場やオプションの詳細も全部調べ切った上で、差別化のポイントを探っていく。競合の導入顧客も全部調べ、彼らはどういうターゲット設定しているのか、じゃあ僕らはどこかといった具合に考えていきます。

ターゲットを定めたらそのリストを作り、GBのLPネットワークや、株主様を通じてひとつずつあたっていきます。JX通信社でもそうして顧客インタビューでニーズを把握しながら、プロダクトの形にしていくことをご一緒させていただきましたね。

米重さん、サポートを受けてどの辺が一番助けになりましたか?

米重:実は既存サービスの地続きの部分を含めて、それ以前にもお客様に話を聞いたりしながら模索していたところはあったんですね。ただ、その時に筋が悪くてもいったん検証して軌道に戻していったり、あるいは掘り下げるべきところをちゃんと仮説を立てて検証し、解像度を上げていくといった作業をチームとしてやりきれてないところがあったんです。

助けになったことはいろいろありますが、究極的にはその仕組み化や、物事の解像度を高め、仮説を立てて検証していくことを、所作としてインストールしていただいたのが非常に大きかったのかなと思っております。

チームの反応はいかがでしたか?外から株主に指摘されることに、抵抗感もあるかもしれないですが。

米重:最初の段階から社内でよく言っていたのは、あんまりこういう言い方すると良くないかもしれないんですけど、私自身も基本的に人の話を聞かなくて昔うまくいかなかったっていうのがありまして(笑

やっぱり成長するためには素直に生きる必要があり、とりわけベンチャーでは重要だと考えています。社内でも「株主の人」といった壁で隔てた認識ではなく、もうパンツを脱ぐぐらいの覚悟で情報はすべて共有し、相談するスタンスでやりましょうという話をしました。それに対しては特に抵抗はなく「なんでいるの」みたいな話はもちろんなかったですね。

慎さんに是非聞きたいんですが、外部から支援する上で、チームがスムーズに動くようになるためには何が必要だと思いますか?

:正しい課題を理解することが重要です。それって外から眺めてるだけだと分からないんですよね。なので、我々は現場のチームと一緒にお客さんに会いに行きます。文字通り口だけではなく、体を動かす。

やっぱりスタートアップって自分のプロダクトにすごく集中してしまうので、使っていただいている人のニーズや課題を聞きにいくようにしています。あとは他と比べてどう見えるかなど、中の仕事も分かりつつも視野を広げられるような接し方は大事ですね。

だから、やっぱり時間が必要ですよね。我々もメンバー4人ぐらいで腰を据えて、相当な時間をJXさんとご一緒させていただいてます。取締役会から経営会議、現場の週次ミーティングにいたるまでご一緒させていただいて、今何が起きているのか、どこにリスクが発生しそうかなど、常にキャッチアップできていることもあり、アドバイスに関しても聞いていただきやすいのかなと思います。

いろんな課題が出る中、米重さんが組織に対して持っていた課題感はどの辺りにありましたか?

米重:人数が増えて一番大きく感じた変化は、経営のメッセージや考えを、会社に集う仲間全体に行き渡らせるために、非常にエネルギーが必要になったことです。今までと同じように進めていると到底行き渡らないというのが、一番大きな課題だと思っています。

経営のメッセージにはいろいろあります。事業の方向性や戦略、目指すビジョン、とるべき戦略、あるべきカルチャーのためのコミュニケーションなど、すべてが経営のメッセージなんですよね。

正直、30〜40人だったら全然できていたなということが、70人規模になるとできない。やっぱり、巷でよく言われる「50人の壁」って数学的にも何らかの理由があるんだと思うんです。そんな時にミドルマネジメントがいかに重要か肌身を持って理解し、去年の後半にそこを仕組みとして作っていこうと動いてました。今もまだ感じている課題はありますので、今後より大きく成長するために「組織のOS」を作っている状況です。

慎さんは外から見て組織やチームの問題をどういう風に見ましたか?

:経営陣に対して、それぞれの事業やチームを独立してリードできるミドルマネジメントが少なかったんですよね。個々には面白い方がいるんですが、マネージャーとしてまとめられる、経営の意思をチームに伝えて実行につなげる役割が足りていなかったため、各所で採用を進めていました。

今年に入って、ようやくその体制が整ってきました。当初はやっぱりミドルマネージャーがいないことがすごく課題意識としてありましたね。

皆さん同じように口を揃えてこのあたりの課題は言われますが、どこの部分からアプローチすればいいのか。その辺り具体的に教えていただいてもいいですか?

:新しい人が入ったタイミングでそのチームのOKRを一緒に作らせていただいたことがありました。その期間にやるべきこと、やらなくてもよいことを確認し、けっこう思い切った目標を掲げたんです。

その結果、時間のかかる、重たい施策の意思決定にある程度コミットできた。そこを頑張ってやり切ろうと、経営陣と本人がしっかり握り、進捗を週次でちゃんと追うことで、「経営とミドルマネジメント」「ミドルマネジメントと現場」の約束事ができ、それをちゃんとを回せるんだっていう信頼感もできたと思いました。

ミドルマネジメントが入るタイミングで、役割ややるべきことをなるべく絞り込んで、それがちゃんとできるようにサポートすることがすごく大事かなと。

結構あるあるなのは、外から入ってくるメンバーに対して非常に期待値が高くて、とりあえず何でもお任せしてしまうこと。でもそれは当然できないんですよね。結果として「期待外れだったな」みたいになってしまって、急に降格とか、採用基準に問題があるという話につながってしまう。最初にその人の経験やケイパビリティを含めて、「ここまではこの3か月、半年でやろう」のように経営とミドルマネジメントがしっかりすり合わせることが大事です。

そしてそのためのフォローを経営陣ができると、ミドルマネジメントの採用と彼らの走り出しがうまくいくんじゃないかなと思います。各事業とも、優秀な人が非常にうまく入ってきてくれています。それは経営チームのサポートがとてもいいからだと思いますね。

米重さん的にミドル層を集める時の難しさだったり、自分はこうやってるというようなお話を聞かせてください。

米重:1つはカルチャーですね。組織のカルチャーには、いいところもあれば変えていきたいところもあったりするわけです。理想のカルチャーに対してちゃんとフィットできるかどうかを見極めるのは結構難しいなと常日頃思っています。結果としてそんなに失敗はしてないものの、採用時にそこの見極めはものすごく重要だと感じてますね。

また、拡大期のベンチャーだとどうしても、短期間でチームのメンバーが急増して雰囲気がガラッと変わることがあります。それは良い方向にも悪い方向にもあって、悪い方向にドライブしてしまうとまずいです。それを避けるために、バリューや行動指針、カルチャーなどをちゃんとすり合わせていくことが大事だと思っています。