明治安田が「習慣化」スタートアップと挑戦する、新たなヘルスケアの取り組み
明治安田の新たな保険商品「循環器病 対策Pro」には、人の習慣化を支援するWizWeのサービスが組み込まれています。経済的な保障により安心をお届けする「保険商品」に、一見すると異色なサービスが含まれることになった経緯や、両社が感じている親和性について伺いました。

執筆: Universe編集部
2025年1月、明治安田生命保険相互会社(明治安田)は、循環器病の進行(重症化)予防の段階から健康状態の変化に応じて、「保障」と「サービス」を組み合わせ、新たな価値をお届けする新商品「循環器病 対策Pro」を発売しています。その付帯サービスの1つとして、勉強や運動を継続できる仕組みを提供するスタートアップ WizWeの「習慣化支援サービス」が組み込まれています。
「保険商品」に、なぜ「習慣」に関するサービスが含まれることとなったのか。また、数あるスタートアップの中から、なぜWizWeとの協業を選んだのか。新商品開発の経緯や協業のポイントについて、明治安田 企画部 ヘルスケア事業企画室 主任スタッフの末吉 沙妃氏、WizWe代表取締役CEOの森谷 幸平氏、Solution Sales部ディレクターの正木 千香子氏に話を伺いました。
(※所属、役職名などは取材時のものです)
明治安田がWizWeに感じた「親和性」
──新商品「循環器病 対策Pro」の開発経緯をお伺いさせてください。
末吉:当社は、2021年3月に国立循環器病研究センターと包括連携協定および共同研究事業契約を締結し、循環器病の制圧に寄与するための共同研究を進めてまいりました。
循環器病は、がんの約1.4倍の患者数を抱え、死亡原因としてもがんに次いで第2位となる恐ろしい病気です。しかし、世間での認知度はまだまだ高くありません。生活習慣の改善や適切な治療によって予防・進行抑制が可能な病気でもあるため、健康・未病の段階からお客様と長くお付き合いできる生命保険会社だからこそ、「保障」と「サービス」でお客様に寄り添い、循環器病にかかる社会課題解決に貢献したいという想いから商品開発に至った経緯があります。

循環器病は食生活や喫煙習慣、運動習慣など生活習慣の改善によって予防・進行抑制ができますが、最も難しいのは生活習慣を変え、それを「継続する」ことです。
そこで、WizWeさんが提供する「習慣化支援サービス」を活用することで、当社だけでは解決できない課題を一緒に乗り越えられると感じ、循環器病の対策を行う今回の新商品と親和性を感じたので、協業のご相談をさせていただきました。


──健康管理を行う事業者は複数いますが、中でもWizWeさんとの協業を決めた理由は何でしょうか。
末吉:WizWeさんが、お客様にとって本当に価値のあるものは何かを一緒に考え、向き合ってくださったのが大きかったです。WizWeさんの既存のサービス「Smart Habit」をお客様に取り次ぐだけではなく、お互いの強みを活かし、お客様にとってより良いサービスを一緒に考え、「習慣化支援サービス」を共同開発するスタンスでいてくださいました。
森谷:明治安田さんは、私たちが提供する人によるサポートとテクノロジーを組み合わせた習慣化の価値を、初期から深く理解してくださいました。私たちはこれまでもさまざまな大企業と協業をしてきましたが、互いのケイパビリティの理解度が成功を大きく左右すると感じています。その点で明治安田さんとは最初の対話から手応えを感じられました。またお客様へ価値が届いてこそだという意識を高く持たれている会社でしたので、協業のお話は光栄でありがたかったですね。

末吉:WizWeさんはさまざまなピッチコンテストに出られていたので、事業内容は以前から知っていました。またWizWeさんには弊社CVCから出資も行ったので、CVCチームと情報連携できていたことも事業に対する理解度を高められた要因かなと思います。
開発の中で感じた、両社のシナジー
──具体的にどのようなプロセスで開発を進められたのでしょうか。
正木:協業のディスカッションを始めたのは2023年5月ごろからです。明治安田さんからのリクエストもあり、まずは社員の方々に私たちのサービスを体験していただきました。どういったメッセージがユーザーに届き、習慣を促すためにどういったシナリオが組まれるのかを、1ヶ月かけて体感していただいた形です。
その後、合計3回のPoCを実施しながら協業の解像度を高めていきました。PoCでは「お酒は週1〜2回に控える」など、お客様に提示されるいくつかの行動目標をどうすれば習慣にしやすくなるかに焦点を当てて検証を実施。テストユーザーの生活習慣の記録状況やどういうメッセージが響いたのかを確認して、シナリオの精度を高めていきました。

最後のPoCでは、本番と同じシナリオとメッセージでプロダクトを準備。お客様が健康習慣を続けたくなるリワード(報酬)の仕組みまで含めて実証を行いました。
──開発を進める中で、両社の強みを特に活かすことができたと感じた場面はありますか。
正木:明治安田さんのお客様への高い解像度と、私たちの習慣化に関する知見は良いシナジーがあったと感じます。明治安田さんは今回のサービスに先立って市場調査もされていて、お客様の情報をすごく把握されていました。お客様に対する知見を持つ明治安田さんと、習慣化の知見を持つ私たちが一緒になってターゲット層を設定し、シナリオを作成したことで良いアウトプットにつながったと感じます。
森谷:明治安田さんのお客様への意識の高さや目指すクオリティの高さは、私たちにとっても大きな学びとなりました。1つ1つの言葉遣いやお客様への寄り添い方について、末吉さんが当事者意識を高く持ってフィードバックをくださったことで、弊社のクオリティの基準も自然に上がっていったと感じます。
スタートアップである私たちにとっては、明治安田さんとご一緒させていただいている事実自体が大きなプラスではありますが、全社的なサービスの質向上ができたことも協業の成果ですね。
「協業における壁」と「乗り越えるための鍵」
──サービス開発を進める中での壁や課題はあったのでしょうか。
正木:「循環器病 対策Pro」では、お客様に提案する行動目標の候補が70種類ほどになります。この提案する目標の多さが最初の壁でした。
私たちの既存サービスであるSmart Habitでは、ユーザーのゴール──たとえばTOIECのスコアアップなど──を目指すための学習プログラムはある程度型ができており、どのタイミングで通知をすると習慣が継続するかという知見も溜まっています。
しかし、今回はお客様ごとに目指す健康のゴールが異なっています。しかも70種類のなかからお客様が選んだ目標に応じて、セグメント分けやフォローをしないといけません。この複雑な設計をゼロから行うことが大きなチャレンジでした。
私たち運営側から見て効率的なサービスの仕様だったとしても、それがお客様にとって行動したくなるものになっているとは限りません。弊社メンバーや末吉さんなどさまざまな方の視点で見て、お客様にとって最適なものになるよう考えていきました。
末吉:目標の多さは確かに苦労したポイントですね。週次のミーティングをさせていただくなど、密に連携をしてくださったWizWeさんには感謝しかありません。
また、今回の「循環器病 対策Pro」ではWizWeさん以外にも多くの付帯サービスを備えています。どうすればお客様が自分に適したサービスを選びやすくなるかも頭を悩ませたポイントでした。
──そうした課題を経たうえで感じる、協業を成功させるためのポイントを教えてください。
末吉:3つのポイントがあると考えています。1つ目は、担当者同士の熱意です。WizWeさんと一緒にサービスを作り上げたいといった当社の想いに共感していただき、互いに情熱を持って取り組めたことがポイントだと感じました。
2つ目は、将来のビジョンの共有です。協業をすることがゴールではなく、その先で本来目指すべきお客様への価値提供のビジョンを一致させておくことが大切だと感じました。私たちも今回のローンチをゴールとは考えていません。お客様の反応をモニタリングしながら、どのようなサービスが健康増進に役立つのかを追求していきたい。この将来ビジョンを共通認識とできるかが重要だと思います。
3つ目は、スケジュールの透明性です。スタートアップにとってスピードは命ですが、私たちは関係部署も多く、意思決定に時間を要してしまうことがどうしてもあります。そこで心がけたのは、社内の状況を包み隠さず逐一お伝えすることです。
「いまこのような状況で止まっている」「日程が後ろ倒しになるかもしれない」などを随時共有し、率直に相談させていただきました。こうした状況であっても、WizWeさんがパートナーとしての歩みを止めずに伴走してくださったからこそ、いい形でローンチできたのだと思います。
森谷:私たちからすると明治安田さんの意思決定はとても速く感じました。「担当者の熱意」という言葉がありましたが、まさに末吉さんに熱意を持って明治安田さん側の社内調整などをしていただけたからこそ、円滑に進めることができたと感じます。またPoCをしながら改善をするというスタートアップらしい“走りながら考える”アプローチで推進してくださったこともありがたかったですね。

末吉:ありがとうございます。私自身WizWeさんのサービスは素晴らしいものだと感じていたので、PoCの結果をただ社内に伝えるのではなく、この協業の先にお客様にどういう未来が待っているのかも含めて伝えることで、社内合意を得ていくことができました。徐々に耳を傾けてくれる仲間も増え、結果的に円滑に進めることができたのかなと感じます。
「新しい連携の可能性も広がっている」
──「循環器病 対策Pro」も含めて、今後両社で進めていきたい取り組みの展望をお聞かせください。
森谷:「循環器病 対策Pro」は、「習慣化支援サービス」だけで成立しているものではなく、あらゆる共創パートナーから成り立っています。そうした周囲のパートナー企業・団体との連携もより強化し、新たな展開を考えていきたいですね。
「循環器病 対策Pro」をお客様に届けてくださるのは、明治安田さんの営業職員の皆さんなので営業職員の方々からの情報をもとに、よりお客様の課題を解決するサービスにしていきたいと考えています。
また、今回の取り組みを通じて、創薬などの企業からも連携のお話をいただきました。「循環器病 対策Pro」を軸に、新しい連携の可能性も確実に広がってきていると感じます。
正木:健康寿命を伸ばすことや健康的な行動をとっていくことは、これからの日本人にとってますます重要であり、そこに関われるのは幸せなことです。より多くの方に健康習慣をつけていただくためにも、営業職員の皆さんとも連携しながら私たちのサービスをご提案いただける環境づくりをしていきたいと感じています。
末吉:おふたりの話にも通じますが、「循環器病 対策Pro」を通じて得たお客様の声をさらにサービスに活かしていきたいですね。特にWizWeさんとの取り組みで用いているお客様とのLINEのトーク内容も今後は活用できると良いなと考えています。
ヘルスケアや健康領域のサービスはますます増えていくと思いますが、大切なのはそれをきちんと習慣化できるかどうかです。そこに挑戦し、1人でも多くの方の健康増進に携われる今回の取り組みは本当に意義深いことであり、これからもさまざまな価値提供の仕方を考えていきたいと思っています。