世界最大の成長市場「アフリカ」に眠る、日本企業のチャンス/グローバル・ブレイン主催「AMA」レポート

独立系VCのグローバル・ブレインが主催した、アフリカ市場のいまを伝えるイベント「Alliance for Market Acceleration in Africa(AMA)」の内容をご紹介します。

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2025年8月、独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレイン(GB)は、アフリカ市場に特化した独自イベント「Alliance for Market Acceleration in Africa(AMA)」を開催しました。

本イベントは、第9回アフリカ開発会議「TICAD 9」のパートナー事業にも認定。日本企業とアフリカのスタートアップ、投資家、官民関係者が一堂に集い、これまでにない視座とネットワークを築く場となることを目指して開催しました。

アフリカ市場は、いま世界で最も急速に変化し、成長を遂げているフロンティアです。アフリカスタートアップへの投資も積極的に行っているGBは、アフリカ市場の将来性や日本企業との連携可能性の高さを間近で感じ続けてきました。

私たちGBは単なるベンチャーキャピタルではなく、イノベーションプラットフォームを目指しています。今回のAMAでも日本とアフリカがさらに連携を強め、イノベーション創出のきっかけとしていただけるようなセッションを複数用意しました。本記事では、各セッションで語られた内容をダイジェストでレポートします。

HAKKI AFRICAにみる、日本×アフリカの親和性

はじめに行われたのは「低金利日本×高成長市場:日本発グローバルFintechの新たな方程式」と題したパネルディスカッションです。

登壇者

  • HAKKI AFRICA Co-Founder, COO 時田 浩司氏

  • SMBCベンチャーキャピタル 次長 今枝 秀彬氏

  • Bolt, Head of Business Development Georges Azzi氏

HAKKI AFRICAは、ケニア、南アフリカ、インドの3ヶ国でタクシードライバー向けにマイクロファイナンス・リース事業を展開するスタートアップです。同社はシリーズCラウンドにて、SMBCベンチャーキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、GBから資金調達を実施。また、アフリカ最大級のライドシェアリング企業であるBoltとケニア、南アフリカにて事業連携するなど、日本とアフリカを股にかけてビジネスを展開しています。

ケニア生まれの日本人として稀有な経験を有するHAKKI AFRICA共同創業者、時田氏は、アフリカで事業を行う理由について「高い経済成長が期待でき、多くの人の生活に影響を与える課題がある」と説明。資金調達のしやすい日本に本社を置いてファイナンスを行いながら、成長性の高いアフリカで事業展開することを戦略的に目指したと話し、日本とアフリカをクロスさせるスタートアップのあり方の可能性を語りました。

HAKKI AFRICA 時田 浩司氏

SMBCベンチャーキャピタルの今枝氏は、アフリカ市場に挑むスタートアップへの投資判断において「経営陣や彼らとのコミュニケーション、人間関係を重視している。きちんと現地でビジネスモデルやビジネスの状況を見ることも大事」と強調。実際にHAKKI AFRICAへの出資のためにケニアに何度も赴いたと語ると、時田氏は「今枝さんはHAKKI AFRICAのほとんどの社員の顔と名前を覚えてくれている。とても嬉しい」と、両社の良好な関係性が垣間見えるエピソードも語られました。

SMBCベンチャーキャピタル 今枝 秀彬氏

そして先述したように、HAKKI AFRICAはアフリカ現地の大手ライドシェアリング企業であるBoltとも連携し、ビジネスを成長させています。締結したパートナーシップでは、Boltで専念して働くことを宣誓したドライバーに対し、HAKKI AFRICAが低い頭金で融資を行う体制を構築。これによってBoltは安定した車両を持ったドライバーを確保できるようになり、HAKKI AFRICAは融資先の獲得に繋げられました。このWin-Winの関係は、顧客の増加と市場シェア拡大に繋がる好循環を生み出しています。

BoltのGeorges Azzi氏は連携の背景について「HAKKI AFRICAはオペレーションの良さと資金へのアクセスを両立できる稀有な存在であり、経営幹部との良好な関係が連携を後押しした」と説明。また、ナイジェリアでは2050年に人口が倍になると予測されることから、アフリカ全土での交通サービスへのニーズは今後も高まるとして、今回の協業モデルを他国でも展開できる見込みであると語りました。

Bolt Georges Azzi氏(オンラインでの参加)

最後に語られたのは、日本の低金利な現状とアフリカでのビジネスの親和性についてです。

時田氏は自身の経験から、低金利で資金を借りやすい日本の状況と、ビジネスチャンスに満ちたアフリカの現状を指摘。日本の金融機関から調達した資金をアフリカでの起業に活かすことで、日ア双方に利益が生まれると提言しました。また、アフリカでビジネスをする際は同社が行っているように、オペレーションができあがっている現地企業と連携することも成功の鍵となるとのことです。

アフリカでの協業を実現した、日本企業の実践例

スタートアップのみならず、日本の大企業においてもアフリカでの協業事例は増えつつあります。次のセッションでは、日本とアフリカをつなぐ実践的な2つの事例が紹介されました。

登壇者

  • 武蔵精密工業 CIO (Chief Innovation Officer) 伊作 猛氏

  • ARC Ride, CEO Joseph Hurst-Croft氏

  • 阪急阪神エクスプレス グローバルセールス部 部長 森河 淳氏

  • INTRASPEED SOUTH AFRICA, Managing Director Bruce Emslie氏

自動車部品を手掛ける武蔵精密工業は、ケニアの電動バイクスタートアップ ARC Ride と提携しています。この協業では、ARC Rideがケニアのナイロビ市内で武蔵精密工業製の安価な交換式バッテリーの運用サービスを提供。これによってバイクを低コストで導入できるようになるため、ケニアでの電動バイクの利用者拡大につなげることが可能です。

武蔵精密工業の伊作氏は、日本とアフリカという離れた土地での協業を実現できた理由について「自社の見方を変えることが重要」と発言。自動車部品メーカーではなく、テックで社会課題を解決する会社と定義し直したからこそ、課題が山積するアフリカで自分たちのリソースを生かせるビジネス機会を見出せたと述べました。

ARC RideのJoseph氏も今回の日本企業との連携を振り返ってコメント。「プロセスとシステムへ着目して、長期的な視点で共創とイノベーションを生むことへの重要性を再認識した」と語りました。

(左)武蔵精密工業 / 伊作 猛氏、(右)ARC Ride / Joseph Hurst-Croft氏

もう1つ紹介されたのが、物流分野における協業の取り組みです。国際輸送や通関業、貿易代行などを主要事業とする阪急阪神エクスプレスは、サハラ以南のアフリカで貨物輸送を手掛けるINTRASPEED SOUTH AFRICAを2018年に子会社化しています。

森河氏は、アフリカでのビジネスを行ううえで困難な点を問われると「災害や治安など、予測不可能性が高いこと」と説明。しかし、これは現地パートナーとの信頼構築や、各国のシステムや文化の徹底的な調査によって克服することができるとポジティブな面も語りました。

INTRASPEED SOUTH AFRICAのBruce Emslie氏は、阪急阪神エクスプレスという日本企業のチームとなったことを振り返り、「率直さ、透明性、信頼関係を重視すること」が非常に新鮮であったと評価。また、M&Aを通じて、アフリカ特有のキャッシュフロー制約から解放されて年間2桁成長を達成したと述べました。

(左)阪急阪神エクスプレス / 森河 淳氏、(右)INTRASPEED SOUTH AFRICA / Bruce Emslie氏

日本とアフリカの企業がコラボレーションを深めるために何が必要かという問いに対しては、各登壇者からさまざまな提言も。Joseph氏は「日本企業は積極的にアフリカを訪れて、まずは挑戦してみることが大切」だと発言。逆にBruce氏はアフリカスタートアップに対して「日本企業と信頼関係を結んで新鮮なパートナーシップを組み、チャンスを掴むべきだ」と述べました。

一方、日本企業の立場から伊作氏と森河氏は、トップの意思決定や迅速さの重要性を述べ、アフリカのスタートアップのスピードに合わせて、日本企業側もあり方を調整することが鍵であると強調。製造と物流という異なる領域で事業に挑む立場でありながら、会場に向けて共通したメッセージを送り、セッションは幕を閉じました。

急成長中のアフリカスタートアップが登壇

次のセッションでは、GBの支援先であるアフリカスタートアップ3社がそれぞれの取り組みを発表しました。

登壇者

  • Chefaa Co-Founder, COO Rasha Rady氏

  • Beacon Power Services (BPS) Director of Strategy Zaina Otieno氏

  • Rise Co-Founder, CEO Abe Abdulla氏

Chefaa

Chefaa / Rasha Rady氏

Chefaaは、エジプト発でデジタル薬局を主軸に包括的な医療サービスプラットフォームを提供するスタートアップです。

同社のCo-Founderであり、医師でもあるRasha Rady氏は、エジプトでは薬局ごとに医薬品の在庫状況が異なり、その結果、慢性疾患を抱える患者に十分な医薬品が届けられていないという課題があると説明。この課題に対してChefaaでは、患者が処方箋をアップロードするだけで、最寄りの薬局から薬を効率的に配送するモバイルアプリを開発・提供しています。

この仕組みによって患者の利便性が大きく向上するだけでなく、製薬会社へ患者のデータを提供したり、薬局のデジタル化を推進したりすることも可能。保険会社とも連携し、保険受注の不正を検知するAIも提供するなど多角的に事業を拡大していると明かしました。

さらに、エジプト政府は2016年に掲げた「エジプト・ビジョン2030」の一環として、公共サービスの全面的なデジタル化と、国民皆保険制度の加速に取り組んでいます。Chefaaも政府と協力し、モバイルアプリを通じたAPI連携の準備中であり、国民への医薬品アクセスの拡大に向けた重要な役割を担っていると述べました。

現在、Chefaaは月間アクティブユーザー数350万人以上を擁しており、今後はエジプト全土への展開を進めていくとのことです。

Beacon Power Services(BPS)

Beacon Power Services / Zaina Otieno氏

アフリカでは電力会社による送配電時の課題が根深く、年間最大100億ドルの収益を損失しているという現状があります。この課題に対してBPSでは、複数のソリューションで解決に挑んでいます。

電力会社向けの顧客と資産を管理するクラウドサービス「CAIMS」では、送電網のレイアウトの管理やシステムのメンテナンスを効率的に行うことが可能。さらに、自社の電力網をデジタルツインでリアルタイム監視・管理できる「ADORA」というサービスも提供するなど、アフリカの電力会社ニーズに応えるサービスを複数展開しています。

同社のZaina Otieno氏は、こうしたサービス群を通じてガーナの電力会社では収益を3倍にできた実績もあると説明。また、ナイジェリア、ガーナ、ザンビア、タンザニア、トーゴなど、5カ国で年間6億ドル(※確認中)の追加収益に貢献しているとし、同社の実績を強調しました。

Rise

Rise / Abe Abdulla氏

Riseは、エジプト発のFinTechスタートアップです。同社はエジプト国内で個人向けにモバイルファーストのデジタル銀行の提供を企図しています。

同社のAbe Abdulla氏は、エジプトで人口の85%が銀行口座を持っておらず、クレジットカード普及率も1%に満たないという金融包摂の課題を提言。これに対し、Riseではブラジルで成功したFinTech企業NuBankのような、デジタル銀行サービスを提供することを目指しているとしました。

Riseは、エジプト中央銀行よりデジタル銀行ライセンスが取得できた際には、クレジットカードを低コストで提供する想定であるとのこと。これは、エジプト政府が掲げるデジタル化・金融包摂の政策とも合致しており、外的要因の観点でもRiseには追い風が吹いてると示唆しました。

最後にAbe Abdulla氏は「2031年までに750万口座獲得し、エジプトの金融変革を牽引することを目指す」と展望を語って締めくくりました。

アフリカVCが語る、日本企業へのアドバイス

AMAの最後を飾ったのは、「アフリカVCが語る『日本企業との連携可能性とは?』」と題したセッションです。アフリカの最前線で活躍するVC4社の立場から、日本とアフリカの連携について語りました。

登壇者

  • Norrsken22 Managing Partner Natalie Kolbe氏

  • Novastar Ventures Partner Brian Waswani Odhiambo氏

  • LoftyInc Capital Founding Partner Idris Ayodeji Bello氏

  • IFC – International Finance Corporation Associate Investment Officer, Disruptive Technologies & Funds / Africa Aya Imai氏

はじめに語られたのは、日本企業にとってのアフリカ市場の魅力についてです。Norrsken22のNatalie Kolbe氏は、アフリカでは13億人いる人口のうち大部分が19歳以下の若者である点を踏まえ、デジタルファーストな世代にテックプロダクトを売り込める魅力的な市場だと説明。また「貧困層の多いアフリカでも売れる製品を生み出せれば、世界中どこでも成功できる」とし、事業を行う場所としてのポテンシャルを語りました。

そこから議題は、日本企業がアフリカ市場に参入する際に活かすことができる強みの話に。を。IFCのAya Imai氏は、日本企業が持つAI、ものづくり、モビリティに関する優れた知識を活かすことで、アフリカで必要とされる基盤インフラの構築に早期から協力できると指摘。SBIや商船三井など、複数の日本企業をLPに迎えているNovastar VenturesのBrian Waswani Odhiambo氏も、日本企業のノウハウをアフリカのサプライチェーンや流通チャネルに組み込むことは大きな価値になると語りました。

(左)IFC / Africa Aya Imai氏、(右)Novastar Ventures / Brian Waswani Odhiambo氏

一方で、アフリカと連携するためには変化が求められる場面もあると話したのは、LoftyInc CapitalのIdris Ayodeji Bello氏です。アフリカでは状況が急速に変化するため、迅速に意思決定できるような体制構築が不可欠だと強調。日本企業がスピード感を高め、リスクを避けるのではなくチャンスを生かすことに慣れる必要があるという言葉が印象的でした。

最後に日本企業へのアドバイスを求められると、登壇者全員が「小さく始めること」を推奨。アフリカでのビジネスに一度に多額の資金を投入するのではなく、少額の投資やファンドとの提携から始め、現地の状況を学び、信頼できるパートナーを見つけることを大切にしてほしいという意見で一致しました。

Natalie Kolbe氏は「アフリカはこれからの世界の未来となる場所で、労働力の中心地にもなる。ぜひ現地に来て少しづつ関与し始めてほしい」と力強くメッセージを送りました。

(左)LoftyInc Capital / Idris Ayodeji Bello氏、(右)Norrsken22 / Natalie Kolbe氏

日本とアフリカのイノベーション創出のために

メインセッションが終了した後は、登壇者および参加者が交流できるネットワーキングパーティを開催。ゲストの方々がセッション内容について深く質疑応答したり、新たな連携の機会を探ったりと、交流を深める場となりました。

今回のAMAが、1つでも多くの日本とアフリカの共創を生むきっかけの場となっていれば幸いです。これからもGBでは「未踏社会の創造」という企業ミッションのもと、イノベーションを創出するさまざまな機会を展開してまいります。

※所属、役職名、数値などは取材時のものです
(取材・執筆/Universe編集部)