Web3の流れで押さえたい金融知識の重要性 / GB 一宮・Knot 小林対談(後編)

スタートアップ、VC共に新しい知識と経験を積み上げる必要が出てきています。

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前半からのつづき。ここ数年で急速に立ち上がりつつある「Web3」トレンドをスタートアップ・シーンはどう捉えるべきでしょうか。トークンエコノミーにより、これまでと異なる資金の流れが生まれつつある中、スタートアップ、VC共に新しい知識と経験を積み上げる必要が出てきています。引き続きお二人の話をお届けいたします。

小林清剛:1981年生まれ。大学在学中にコーヒー通販の事業を手がけ、2009年に創業したモバイル広告「ノボット」は2011年にKDDIグループへ売却するなど、国内のテクノロジー系スタートアップシーンを牽引してきた。2013年に渡米してからは、数社の事業を創業しつつ、2015年に友人らと設立したファンド「TokyoFoundersFund」などを通じて数十社に投資をするエンジェルとしての顔も持つ。

一宮翔平:1991年生まれ。Sonyにてゲーム&ネットワークサービスのシステム構築・ 運用業務及びM&Aやスタートアップへの投資実行推進業務に従事。 グローバル・ ブレインのPartnerとしてシリコンバレー拠点からグローバルのFinTech/Crypto投資を担当。 カリフォルニア大学バークレー校修辞学部卒。

スタートアップ経営に金融知識が必要になる?

小林:まさに今言われていることにすごい共感する部分があって、インベストメントDAOみたいなのもやっぱり規模を大きくしていくと、どっかで非効率性が発生してくるんだろうなっていうことは思っています。

今「和組DAO」というものを運営していてDAOの運営の難しさも感じていますし、一方で「TOKYO FOUNDERS FUND」っていう友達8人とやっている小さい投資クラブみたいなものだと、多数決で決めているのですが、みんなそれぞれ経験がある人間が集まってるんで、その意思決定の精度も高くて、半分ぐらいシリーズAに行ってるんですよね。

インベストメントDAOで多数決で決めたものが本当にいい意思決定になるとか、そこでディールソーシングの効率性がちゃんと高まっていくのかみたいなところは、確かに興味深いです。

あとは、DAOが今までのスタートアップと大きく違うところのひとつが「トレジャリー」、つまり今までのスタートアップで言うと銀行口座に預けてた資金や株といった資産がDAOだと運用できるという点なんですよね。

よりスタートアップの経営自体にもDeFi要素というか、金融の要素が入っていくんじゃないかなと思っています。この点はいかがでしょうか?

一宮:資金調達のモデルが少し異なりますよね。VCの投資モデルって段階を踏んでいくじゃないですか。シードラウンドで数ミリオンを集めて、18か月から24か月頑張って、その間に実証するべきファクトも全部出す。それが認められたら次の10ミリオンから20ミリオンの投資を受けて、トラクションが大きくなればまた集めていく。

一方、変わりつつある部分はあるかもしれないですけど、クリプトだと大体最初に一気に集めるっていうのが多かった。最初に100ミリオン単位で資金が集まって、今すぐ使わないお金がある状態が生まれてしまったのが、伝統的なVCの資金調達とは大きく違うところだと思います。

やっぱりプロトコルが何をやってるかと、運用するスキルってイコールじゃないんです。プロトコルの会社って株式会社じゃなくてファウンデーションだったりするじゃないですか。ファウンデーションが発行体だったり、法人格がないこともあったりして、今の株式会社の形とはちょっと違うんですよね。

プロトコルと運用、その2つの機能を持っているもので言うと、大学のような財団的なところは似てると思います。例えばスタンフォード大学って、優秀な人が勉強する場所というイメージがあると思うんですけど、裏でプロの投資家が財団の資産運用してるんですよね。

有名なアメリカの大学だと2桁ビリオンを運用してます。VCファンドに出資していたり、上場株の運用をやっていたり、不動産買ったり、絵画を買ったり。いろんなことやってるんです。でも運用してる人たちは大学の教授のように何か教えることはできません。同じようにプロトコルを作ってる起業家がDeFiを運用するっていうのは、徐々になくなっていく気もします。

評価額を決めるもの

小林:最近Web3の高まりのせいもあってかバリエーションが結構高騰してるなと思ってます。

クリプトのVC何社かと話してて、最初のシードで少し実績があるところが大体20〜40ミリオンの評価額で大体2〜4ミリオンぐらいを集めるケースが増えてきてるね、みたいな話があったんです。

ただ国によるかもしれませんが、トークンが将来的に規制される可能性もあるんじゃないのかなと。また、SAFEやSAFT、トークンで資金調達をするときのスタンダードなど、まだまだ決まっていないところもあります。今度どのようなトレンドになっていくと思われますか?

一宮:そうですね・・・僕もそれ知りたいなっていうところなんですけど(笑

小林:みんな知りたい(笑

一宮:思うのはほとんどの資産の「価値」って市場参加者がある程度合意している価値評価方法があって、資産が生む将来キャッシュフローを現在価値へ割引いたものや利益などに対する倍率を資産の「価値」としているのが一般的だと思います。一般論として株式の価値は株主に帰属する将来キャッシュフローを、現在価値へ割引いたものですけど、トークンも本来似たような価値評価があるべきだと思うんですよね。

トークンは市場参加者が合意している価値評価方法の合意形成が既存の金融と比べて未熟で、その状態がずっと続いてるっていうのがクリプトだと思います。

多くの市場参加者はビットコイン、イーサリアム、ソラナなどの暗号資産の価格モデルを一応作ってはいると思います。でも市場参加者がみんなである程度同意してるモデルはまだ存在していないですよね。モーメンタムやセンチメントによって動く需給で価格を形成してるっていう世界。ただ、だんだん資産クラスとして大きくなってくるとやはり理由が必要になってくるはずです。ビットコインの5万ドルは高いの?安いの?っていう説明責任。

そうなった時、トークン価値の算定方法にある程度コンセンサスが出てきて、投資しているプロジェクトの株式がトークンを一部持ってるから、大体将来的にはこのくらいの価値になるよねみたいに、ロジカルに考えられるようになると考えています。

ほとんどトークンで価値が生まれているのであれば、株の部分は不要になるかもしれないし、トークンの部分に価値はなくて、オペレーティングビジネスの部分に実は価値があるっていう見方になれば、そのトークンの部分が減るかもしれません。完全に個人的な妄想ですが。

小林:いや、完全に同意です。今はもう需給で決まっている実感があります。でも将来的にはそういう理論がちゃんと付いて標準化されてくるっていうのはとても賛成です。