理想のCOOと出会うには?採用活動に「VC」を活かしたYUIMEに聞く

農業など一次産業を支える事業を展開するスタートアップ、YUIME。自社にとって理想的な人材を採用することに成功した、VCとの採用活動について伺いました。

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執筆: Universe編集部

農業をはじめとする一次産業を支えるプラットフォームを展開するYUIME株式会社。同社には採用担当者が1名しかおらず、積極的な採用活動に手が回せていないという課題を抱えていました。

この課題を解決すべく、出資元である独立系VC グローバル・ブレイン(GB)の採用支援専門の子会社「GBHR」と連携を開始。コーポレート部門長やDX推進担当など、今後の成長に必要な人材の採用を実現しました。また、GBHRが運営するキャリア相談サービス「GB Innovators Lounge(GBIL)」を通じて、楽天やぐるなびでの事業経験を持つCOOの採用にも成功し、より強固な組織づくりを始めることができています。

一連の採用活動の成功のポイントについて、YUIME株式会社 代表取締役 上野 耕平氏とGBIL経由で入社したCOOの田村 敏郎氏、GBHRの並木 佑弥、田中 康二郎にインタビューを実施しました。

(※所属、役職名などは取材時のものです)

採用担当は1名、手が回っていなかった

──まず、YUIMEさんにおける採用の取り組みが始まる前の状況や、課題感を教えてください。

上野:GBHRの皆さんと取り組みをする以前は、採用に関して明確な計画が立てられていない状況でした。どのチームにどういった人材を採用するのがベストなのか、GBHRとどのように関わっていけばいいのか、そういったことすら整理できていなかったというのが正直なところです。

また弊社には採用担当が1名しかおらず、スカウト業務に十分な工数を割くことができていませんでした。応募者からの対応はできていたものの、採用したい方の要件を考えることや、各候補者に適切なメッセージを考えてスカウトを送るところまでは手が回っていなくて。

しかし、GBHRと連携し始めてからはコーポレート部門長や、YUIMEでは採用実績がなかったDX推進担当者、COOとして田村さんを迎え入れることに成功し、より強固な組織にすることができています。

上野 耕平:米国Saint Martin’s University中退。個人事業主を経て、2000年に株式会社アットラインを共同創業。大手飲料メーカー向け物流派遣事業を展開し、売上高30億円規模まで成長を牽引。共同創業者に事業譲渡後、2012年に株式会社エイブリッジ(現YUIME株式会社)を設立。沖縄県南大東島での製糖事業(サトウキビ)における人材支援事業を皮切りに繁忙期の農家向けに人材支援事業を全国規模で展開。

──GBHRは具体的にどのような支援を行ったのでしょうか。

並木:まず、YUIMEさんの組織のあるべき姿や人事課題のヒアリングを行いました。また、YUIMEさんに投資を行った弊社の担当キャピタリストである反田とのディスカッションを通じて、これからのYUIMEさんの成長のために必要なポジションや採用要件の整理を行いました。

採用要件の整理にあたって意識したのは「そのポジションで活躍できる人」と「YUIMEに興味を持ってくれる人」という2つの軸です。このうち「活躍できる人」の定義は比較的容易に考えられます。たとえば、DX推進担当者の採用を目指すのであれば「業務改善やシステムおよびツール導入を経験された方」などのように想像することが可能です。

しかし、YUIMEに興味を持っていただけるかという点については、より深い考察が求められます。これまでのキャリアはもちろん、人生の中で直面してきたであろう悩みや葛藤、どんな生き方に価値を感じるかなど細かい要素まで掘り下げて、YUIMEに関心を持つ方の像をより具体的にしていきました

並木 佑弥:2022年にGBへ参画。投資先企業に対してHR支援を行うGBHRのリードを担当。 スタートアップで活躍したい方に向けた、会員制コミュニティ「GB Innovators Lounge」を運営。

上野:並木さんとの活動を通じて、ここまで精密な採用要件が必要なんだと改めて気づかされました。丁寧な採用活動こそが最も効果的だと実感しましたし、この経験はCOOとなる田村さんの採用成功にも影響したと感じますね。

DX推進担当者の採用にあたって深掘りした論点の例

スタートアップ転職には「蓋をしていた」

──田村さんはLinkedIn経由でGBHRの田中からメッセージがあり、キャリア相談サービスであるGBILへ登録されたそうですね。このときのアプローチをどのように受け止められましたか?

田村:そのとき実は転職活動の佳境で、複数の企業との最終選考も控えていました。そのためタイミング的には厳しいと感じていたというのが本音です。

また、VCの投資先企業への転職については、以前別のVCさんからお声がけいただいた際に検討したことがあったんですが、スタートアップ転職という選択肢は自分の中で蓋をしてしまっていて

大手企業の役員の方々や転職エージェントとの会話の中で「スタートアップの成功は運に左右される部分が大きい」という話を繰り返し聞いていたというのが理由です。

ほとんどの方が「上場企業の役員も経験した田村さんのキャリアを考えれば、確実性の高い大企業でのポジションを選ぶべき」という意見でした。個人的にはスタートアップ転職に関心があったんですが、こういった意見を受けて自分のキャリアの可能性に無意識に蓋をしていたわけです。

ただ、GBさんは業界最大手クラスのVCであり、将来何かのご縁につながるかもしれないという思いで田中さんとのキャリア面談を受けてみることにしました。

田村 敏郎:新卒で楽天株式会社に入社。農業コンサルタントを経て、2017年に楽天株式会社へ再入社。2018年から株式会社ぐるなびとの資本業務提携に伴い、経営改革担当の執行役員として出向。2023年2月より株式会社ぐるなびに転籍し、常務執行役員としてCX領域、新規事業領域、スタートアップ投資を管掌。

──面談ではどのような対話が行われたのでしょうか。

田中:GBILに登録いただいた方との面談では、単に投資先企業の求人を紹介するようなことはしていません。そうではなく、その方がどのような職業観を持っているのか、中長期でどのようなキャリアを積み上げたいのかをお伺いさせていただいています。

田村さんとの面談でも同様です。なぜこれほどのキャリアを積み上げて来られた方が転職を考えているのか、そして最終選考の企業も複数ある中でなぜ私たちと会ってくださったのか、そういった部分から田村さんの価値観をお伺いしていきました。「これからわざわざ情熱を注ぐなら何をしたいですか」という質問もさせていただいたと記憶しています。

田中 康二郎:投資先企業向けに採用を中心としたHR支援に従事。スタートアップでのキャリアに関する発信やイベント企画なども担当。

田村:面接対策のようなテクニカルな話や求人応募などの手続きの話はなく、私のキャリアについて長期的な視点で深く掘り下げていただきました。42歳の私が、今回の転職先で5年間働き、さらにその次でどうしたいかなど先を見据えた話をしてくださって。キャリアの掘り下げをきっかけに自分でもいろいろと考えた結果、スタートアップ転職に被せていた蓋が徐々に開いていったように感じます

YUIMEへの入社を後押ししたもの

──田村さんがYUIMEのCOOとして採用されるまでの経緯についても教えてください。

並木:私と上野さんは毎週採用定例を実施しているんですが、その中で上野さんから「今後は事業全体を見るCOOのような方が必要だと思っている」と相談があったのが最初です。ちょうど田中が田村さんと面談していた頃でもあり、社内で情報共有もしていたためタイミングよく両者をつなげられました。

田中:私もYUIMEさんがCOOを探しているということは並木から聞いていました。最初の田村さんとの面談でも事業全体を見る仕事をしていきたいというお話が出たため、「それならYUIMEという企業があって…」と頭出しをさせていただいて。田村さんにもご関心を持っていただけたので、翌日すぐに上野さんに田村さんのレジュメをご覧いただくことになり、面談を経て入社されることとなりました。

──田村さんがYUIMEへの入社を決断した理由もお聞かせください。

田村:最も大きかったのは上野さんが描く未来のビジョンです。単なる農業人材ビジネスではなく、農業に貢献するプラットフォームを目指すという話を聞いて、自分のビジョンと重なると感じました。

これには私の生い立ちが関係しています。実は私は農家の長男で、農業の課題解決に携わりたいという思いを長年持っていました。地元の同級生たちが農家を継いでいく中、私は実家を継がずに東京で働いており、74歳の父がまだ現役で働いている。それに対する負い目もあって。その意味で、YUIMEは農業のために何かしたいという私の個人的な想いと合致していました。

入社前には、YUIMEに投資してくださったGBの反田さんとも面談させてもらったんですが、これも決断の後押しとなりました。かつてコンサル企業にいたときに農業事業開発コンサルタントを経験していたため、農業ビジネスの難しさについては身をもって感じています。すっかり「農業ビジネスは難しい、やりたくてもできない」と思い込んでましたが、反田さんが描いているYUIMEの成長シナリオや将来像を聞けたことで、自分のやりたいことがYUIMEで叶えられると実感できました

また、反田さんや並木さんなどGBの皆さんがYUIMEへ強くコミットメントしていることも自分としてはプラスでした。これだけ多くの方の目が入ってサポートしていただけているのであれば、YUIMEの成長は運ではなくサイエンスになるのではと感じたわけです。

──ありがとうございます。ちなみに、上野さんと田村さんは別の立場からGBHRと関わられたわけですが、GBの採用支援の特徴として感じたことは何かありましたか?

上野:一般的な人材紹介会社との大きな違いは、関わり方の深さと継続性です。並木さんとは毎週定例をさせていただいていたので、スタートアップ特有の急速な変化にも柔軟に対応していただきました。「先週はこう考えていたけれど、今週はこう感じていて…」という細かいニュアンスの変化まで共有でき、それを採用活動にリアルタイムで反映できる。この柔軟性はありがたかったです。

田村:田中さんや反田さんなどと関わる中で感じたのは、GBさんの投資先企業への入り込みの深さです。過去の職場でVCと関わることがあったんですが、GBさんは特に投資先企業の解像度が高く、バリューアップに本気で取り組んでいると感じました。

また、私は今回の転職活動で20~30人くらいのヘッドハンターの方とお話したんですが、どの方と比べてもGBHRの皆さんは求人企業の解像度が高かったです。投資先企業と一緒に働いているというか、現場のオペレーションまで理解している印象がありました。だからこそ、私がYUIMEでどのように活躍できるかまで具体的にイメージしていただいた上でおつなぎいただけたんだと感じます。

並木:私たちの強みは、VCという立場だからこそ得られる情報の質と量です。経営者と毎週深い議論を交わせる関係性があるので、投資先企業の生の情報を持っています。

採用においてはジョブ・ディスクリプションには書ききれない部分、たとえば採用したい方の雰囲気やニュアンス、価値観や職業観といった要素も重要です。YUIMEさんのオフィスにも足を運ばせてもらって、どういった人材がYUIMEさんで長期的に活躍できるのかを具体的にしていきました。

また、GBは投資先企業への徹底したハンズオン支援を行っており、セールスやマーケティング、開発、PRなど、さまざまな角度から投資先企業を知れるのも特徴です。時には経営者自身も気づいていない課題を見つけられることもあり、それを解決する本質的な組織戦略を立てられるのはGBHRならではかなと感じます。

田中:私たちは株主という立場だからこそ、中長期的な視点でスタートアップの成長に貢献できる人材を探すことが可能です。採用決定数などのプレッシャーに縛られず、投資先企業のビジネスを真に理解した上で最適な人材を見つけることに注力できるのは強みだと感じますね。

理想の人材を獲得する採用のポイント

──これまでの採用活動を振り返って感じる、成功のポイントを教えてください。

上野:最も重要なのは、自分の採用イメージを可能な限り言語化し、的確に伝えることです。GBHRさんとは毎週細かく打ち合わせを重ね、「こうじゃない、ああじゃない」と試行錯誤を繰り返しながら、一緒に採用の形を作り上げていきました。単発の採用活動ではなく、継続的な対話を通じて理想の人材像が徐々にクリアになっていったと感じます。

候補者とのコミュニケーションで心がけているのは、風呂敷を広げすぎないことです。課題があればそれを正直に伝えていますし、「この会社で世界を変える」という漠然とした話ではなく「世界を変えるためにいま何をしているのか」を語ることを意識しました。

並木:その点は重要ですね。スタートアップの採用面談ではつい大きな夢を語ってしまい、「いま何をしているのか」「いま何が課題なのか」という具体的な部分が抜け落ちやすいですが、上野さんはその部分を丁寧に説明してくださっています。なのでYUIMEさんでは入社後のギャップを感じる方も比較的少ないように感じますね。

──最後に、田村さんが参画されたいまだからこそ感じる、今後の組織づくりのビジョンをお聞かせください。

上野:これまでのYUIMEはまさに0→1フェーズで、すべての指示は私から発されていました。しかし、田村さんのようなミドルマネジメント層が確立されたことで組織の動きが大きく変わってきています。私が経営者として取り組むべきこともよりクリアになってきたと感じますので、今後は自分がすべきことによりフォーカスしながら事業を成長させていければと思います。

田村:YUIMEはこれまで、個々の優秀な人材の力で成長してきました。今後は、その個人の力を組織の力へと転換していく必要があります。既存の優秀な人材の能力を最大限に引き出しながら組織としての総合力でも勝負できる、強いYUIMEを整えていきたいですね。