ミチビクが実践した、採用成果を出すための「第三者」の活かし方
取締役会DXプラットフォーム「michibiku」を提供するスタートアップ、ミチビク株式会社。同社が独立系VCグローバル・ブレインのハンズオン支援専門チームと取り組んだ採用事例についてご紹介します。

執筆:Universe編集部
取締役会DXプラットフォーム「michibiku」を展開するミチビク株式会社。シリーズA資金調達直後には正社員がわずか1人だった状況から、1年足らずで10人の採用を成し遂げ、組織拡大に成功しました。
リソースも限られるスタートアップでありながら、迅速に採用成果を出せたのはなぜなのか。そのポイントを代表取締役CEOの中村 竜典さんに伺いました。また、本施策をサポートした独立系VCグローバル・ブレイン(GB)の採用支援専門の子会社であるGBHRの國分 一生と、GBで投資先の事業支援を行う「Value Up Team(VUT)」の立花 一雲にも話を聞いています。
(※所属、役職名などは取材時のものです)
正社員は1人しかいなかった
──採用の取り組みが始まる前の状況と、課題感を教えてください。
中村:採用支援に入っていただいたのは2024年の2月末ごろからです。当時は役員を除くと正社員が1人しかおらず、事業を加速するために人員増強をする必要があったんですが、採用担当者もいなかったのでどう進めていくのがいいか悩んでいました。
課題だったのは、セールスとカスタマーサクセスのメンバーの採用です。それから10ヵ月ほど経ったいまでは、両ポジションとも採用できて心強いメンバーに支えられています。これから入社する方も含めると正社員は10人採用できていて、早くもオフィスがパンパンになっています(笑)。

國分:1年も経たずに10人の正社員採用が決まるというのは、ミチビクさんくらいのフェーズの一般的なスタートアップと比べるとすごい成果です。私たちの支援のみならず、ミチビクさんが採用に積極的に取り組まれたからこその結果だと思っています。
──具体的にどのような採用活動を行ったのでしょうか。
國分:まず着手したのは採用したい人材の要件定義と戦略立てです。「どのような人材を採用すべきか」「どういう戦略で採用を進めるか」を、中村さん以外のCxOの皆さんも含めて綿密に検討するところから始めています。加えて採用KPIの設計や採用定例の運営、面接評価シートの作成、スカウトの作成や配信などもサポートさせてもらいました。
ミチビクさんにはGBHRチームだけでなく、立花が所属するVUTも事業支援の伴走をさせていただいています。その活動の一環としてミチビクさんとGBの間では、事業進捗を話し合う経営会議にも似たミーティングを隔週で行わせてもらっており、そこで得た情報も踏まえて採用戦略の策定を行いました。
単に「セールスをX月までにX人採用しよう」といった目標ではなく、「いまの事業計画を踏まえるとこのポジションを優先して採用したほうがいいのでは?」のように、経営を意識した採用活動を行わせてもらった形です。

立花:私はミチビクの皆さんと営業やマーケティングの活動を行いつつ、株主定例にも出させてもらっているので、自然とミチビクさんの事業解像度が高い状態でいられます。その解像度を活かしながら、中村さんや國分と「いまは事業がこうなってるからこの採用を早めた方がいい」「この方はオファー金額を上げても良いと思う」など、具体的な意見をタイムリーに交わさせてもらいました。
採用を後押しした「第三者の視点」
──さまざまな活動の中で、特に採用成果につながったポイントを教えてください。
中村:採用要件の解像度の高さと、GBさんからのフェアな意見だったと思います。私たちだけはどうしても「この人でいいんだっけ?」と迷いを感じてしまったり、焦りが生じてしまったりします。そんなときに國分さんや立花さんから、第三者視点での意見を随時もらえたのは非常に良かったです。
立花さんには採用面談にも参加していただき、「この報酬が適正なのか」「この方はこの懸念点があるが進めていいのか」などの点でご相談をさせていただきました。もちろん最終的な意思決定は私たちが行いましたが、さまざまなスタートアップの事例を見ているGBさんからの視点は助かりましたね。
──立花さんは採用面談で候補者にどんなことを話したのでしょうか?
立花:主にアトラクトを2つの視点からさせてもらいました。
1つは株主の視点です。株主の立場から「なぜ私たちがミチビクの市場や経営陣に魅力を感じているのか」という話をさせてもらいました。株主なので完全に客観的な視点とは言えませんが、やはり外部の人間が語るとミチビクさんの将来性をより信憑性高く聞いていただけます。
スタートアップ転職を考える多くの候補者が気になるのは「この企業は『勝てる』のか」という点です。その本音に応えるために、マーケットの魅力やミチビクの強み、トラクション、経営者のバックグラウンドなどさまざまな角度で「なぜ私たちはミチビクが『勝てる』と思ったのか」を語るよう心がけました。
もう1つは、ミチビクの課題や伸びしろを伝えるという視点です。外部から見えている課題も率直に話し、「そこをあなたに助けてほしい」とお話しました。客観的な立場を取りつつ、きちんと候補者をアトラクトすることを意識していたと思います。

──VCの人間が採用のフローに携わることに、どのようなメリットや意義を感じましたか。
中村:もはや意義しかないです。自社の人間だけが面談をすると、どんなに頑張ってもポジショントークになってしまう部分がありますよね。ですが、VCの視点でミチビクをどう評価しているのか、課題も含めて率直に語っていただけると、候補者の方も意思決定しやすくなると感じました。
またGBの皆さんが採用フローに携わると、ミスマッチも減らせると思っています。特に立花さんはミチビクのほぼ全員とコミュニケーションを取っていて、事業の解像度が非常に高いので、候補者の見極めでは特に助けられました。第三者の視点が入ることで、より適切な採用判断ができたと思います。
社内にいると課題ばかりに目が行ってしまいますが、外部の方と対話すると「そういえば正社員が10人も増えたんだ」と改めて成果に気づけます。そうしたほっとする気づきをもらえるのも、外部の方と採用に取り組む利点ですね。
候補者を惹きつける、ミチビクの採用スタンス
──さまざまなスタートアップの採用を見ている國分さんの観点から見た、ミチビクさんの採用活動や候補者へのスタンスの特徴を教えてください。
國分:2つあると感じています。
1つ目は、経営陣の採用への関与度の高さです。ミチビクではCEOである中村さんが採用のフロントに立って、私たちやRPO(Recruitment Process Outsourcing:採用代行サービス)の方たちと直接やり取りをしています。これはシリーズAを越えたスタートアップでは珍しい事例です。
RPOの会社と連携する前は中村さんが自らスカウトを送り、カジュアル面談にも出席されていました。その他の業務にも追われる経営陣が積極的に採用に取り組む姿勢は、他社と比べても際立っていると感じます。
2つ目は報酬面での姿勢です。社員数が1桁のスタートアップでは、コスト面を気にしてオファー金額を抑えるところが少なくありません。もちろんミチビクさんもコストは気にされているはずですが、それでも良い人材に対しては思い切った報酬を支払う姿勢を貫いています。
──この2点はミチビクさんとしても意識されている点なのでしょうか。
中村:はい。私は前職でもコーポレート業務に携わってきたため、採用の難しさと重要性を肌で感じてきました。なので、たとえ代表であってもいまのフェーズでは採用に深く関わって良い組織づくりをしたいなと。
報酬面では、いわゆる“値切る”ようなことはあまりしていませんし、候補者の希望年収にかなり近い金額を提示しています。その分、私たちの期待値も高いです。まだミチビクは社員番号10番台というフェーズなので、入社される方には会社の中核となっていただきたいと考えています。「しっかりとした報酬を払うので、それに見合うお仕事をしてほしい。そして一緒に成長していこう」というのが基本的な採用スタンスです。
私たちはオフィスも簡素ですし、ハイブリットで働くメンバーも多いので固定費は比較的抑えることができています。その分、お金をかけるべきは人だと思っています。この方針は創業時から一貫していますね。

未来の仲間と目指す「国力向上」
──これからの採用の展望をお伺いさせてください。どのような意欲のある方を、どのように採用していきたいと考えていますか。
中村:まだまだ未整備なスタートアップなので、自ら仕事を探して取りに行ける方を迎えたいですね。事業はもちろん、これからの組織創りの中核を担いたい、と気概を持っている方だとすごく面白いと感じていただける環境です。
ポジションとしては、エンタープライズ攻略のための、フィールドセールスやインサイドセールス、カスタマーサクセスも含めたセールスポジション、またエンジニアなど、まだまだ全方位で積極的に注力しています。市場に人材が少なく、同じスタートアップでもエンタープライズ向けに事業を行う企業が増えてきている中で、いかにミチビクに来ていただけるかが大きな課題です。
ミチビクのエンプラセールスの特徴としては、グループ会社を一括で営業対象にできる点が挙げられます。子会社のガバナンスを統制したい親会社に対しては、30社、50社、100社といった規模で一括契約を目指すこともあります。ステークホルダーが多く難しい面もありますが、やりがいは大きいはずです。そこに面白みを感じていただける方にジョインしてもらえたら嬉しいですね。
──ありがとうございます。改めてミチビク全体での目標も教えてください。
中村:私たちの野望は、日本の株価を10倍にすることです。michibikuを通じて取締役会を単に効率化するのではなく「高度化」をしていきたいと思っています。取締役会が高度になり、意思決定の質が高まれば、企業の現場レベルにもその効果が波及していくはずです。企業の意思決定プロセスを変えて業績向上をサポートし、あらゆる企業の株価をあげていきたいと考えています。
michibikuのようなサービスは海外では「ボードポータル」という領域として確立されていますが、日本ではこれから浸透していくフェーズです。この未開拓の市場に挑戦してくれる仲間と多く出会えるよう、採用を頑張っていきます。
──そんなミチビクさんに伴走するお2人の展望も伺えればと思います。
國分:ミチビクが広がって上場企業の意思決定が良くなることは、日本の国力向上につながると言っても過言ではありません。取締役会を効率化するだけでなく、日本をもう一度元気にする壮大な事業をやられているミチビクさんに、引き続き採用の面で寄り添っていきたいです。
立花:時間軸を意識した支援をしていきたいです。株主の立場でこれを言うと矛盾しているかもしれませんが、ミチビクさんの市場を考えると必ずしもT2D3の急激な成長を目指す必要はなく、じっくり山を上るのもいいんじゃないかと思っています。ミチビクさんにとって適切な時間軸での山の上り方を一緒に考えながら歩んでいきたいなと。
私たちは他の支援先の事例も知っているので、そこと比べて「人件費比率は適正か」「いまこのポジションを募集すべきか」など、第三者的な視点から議論できるのが強みです。また株主なので、経営陣と同じ目線で事業を見ながら打ち手を考えることもできます。そうした特性を活かしながら、短期的に人を獲得する採用ではなく、適切なときに適切な人を迎えるガバナンスのきいた採用をしていきたいですね。