Founders Fundは日本市場をどう見ているか。グローバル・ブレインとのラウンドテーブルで明かしたこと

米国のVCであるFounders Fundが来日し、estie、Jij、キャディ、京都フュージョニアリングとの意見交換を実施。訪日の目的や、日本市場に抱いている印象、ファンドの戦略などを語りました。

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先日、米国のベンチャーキャピタル(VC)であるFounders Fundのショーン・リウ氏とコレン・ギルバイ氏が、グローバル・ブレイン(GB)のオフィスを訪問し、ラウンドテーブルを実施しました。Founders Fundは、PayPal創業者であるピーター・ティール氏がパートナーを務めており、Facebook、Airbnb、SpaceX、Stripe、Palantir、Figmaなどへの投資実績がある世界有数のVCです。

ラウンドテーブルには、GBの投資先企業であるestieJijキャディ京都フュージョニアリングの4社も参加し、積極的な意見交換を交わしました。

ミーティングはまず、GBの梶井による日本のスタートアップ市場に関するプレゼンテーションからスタート。日本の市場が2012年以降は年率30~40%で成長を続けていることや、日本のエンタープライズIT市場が世界第2位の規模を誇っていることなどがデータとともに示されました。

日本の市場は「過小評価されている」

(左)Founders Fund ショーン・リウ氏、(右)Founders Fund コレン・ギルバイ氏

こうした日本市場の現状を踏まえ、梶井およびスタートアップ4社はFounders Fundへの質疑応答を実施。その際の内容を抜粋してお送りします。

──日本訪問の目的は?

ショーン:ファンドとしては今回が初の日本訪問となります。その目的は「スマートな人々、創業者、企業に出会い、今後のファンドの方向性を確認すること」です。また、私は日本がスタートアップ投資において「過小評価されている」という仮説を持っています。Founders Fundはピーター・ティール氏の著書『ゼロ・トゥ・ワン』の思想を反映しており、「競争は敗者のためのもの」と考えているため、競争が限定的な日本市場の可能性を感じているわけです。

なお、日本ではスタートアップだけでなく、エレクトロニクスや化学工業などの分野に関わる大企業とも面会をしました。これから台湾も訪問する予定ですが、そこでもスタートアップに限らず、電子機器などに関する大手企業と意見交換する想定です。

──日本のスタートアップ創業者や市場に対する率直な印象は?

ショーン:今回のようにさまざまな創業者との対話を通じて、予想以上にタレントの密度が高いと感じました。また、日本は世界第4位の経済大国でありながらVC活動が少なく、素晴らしい技術もたくさんあります。そこに大きな価値が隠されていると思いますね。

いまの日本のスタートアップエコシステムについて「何が解き放たれ、変わり始めている」のかを見極めるために来日しています。たとえるなら、2010年代の中国のような急成長期に入る変曲点にあるのかどうかです。ただ、具体的にどの段階にあるのか──たとえば2004年なのか、2008年なのか──についてはまだ明確ではありません。ですから、日本への適切な出資タイミングは見極めが必要ですね。

また、日本のスタートアップが国内市場にとどまるのか、あるいはシリコンバレーや中国などの企業とグローバル競争に打って出るのかによってもバリュエーションは大きく変わるでしょう。国内にとどまることで評価が再調整されるのか、それともグローバルに進出して真の評価を得るのかはまだわかりません。国内市場とグローバル市場では競技がまったく異なりますから

──Founders Fundの投資方針は?

ショーン:Founders Fundの投資アプローチは集中投資型です。グロースファンドでは40億ドル規模で約8社に投資し、またベンチャー投資では1社で10億ドルという多額の金額を出資したこともあります。

なぜ集中投資をするのか? それは私たちが「テクノロジー業界のパワーロー(べき乗則)が現実的である」と強く信じているからです。ポートフォリオ的な投資がいいのか、あるいは、集中投資がいいのかの議論は常にあります。

私たちが集中投資を好む理由として、Facebookへの投資が良い例になります。Y Comibinatorの投資先全社の現在の時価総額と、Y Combinatorと同時期に創業したFacebookの現在の時価総額を比較すると、Facebook1社の方が大きいのです。だからこそ「1万社に時間を費やすか、1社に時間を費やすか」という判断は重要であり、私たちはその1社を率いる最高の創業者を見つけたいと思っています。

──Founders Fundの投資判断基準は?

ショーン:Founders Fundでは、最高の創業者を見極めるために「この人物がなぜ特別なのか」という1点を深く掘り下げ、オープンに議論する文化があります。また、「投資家として人生で1回しか投資できないとしたら、この起業家に投資するのか」という目線も大切にしています。

SpaceXなどのような最も成功した投資案件の多くは、ファンドメンバーの半数が反対するような「最も議論の的となる取引」でした。私たちはこうした活発な議論が起こるよう、異なる視点を持つメンバーを採用して意思決定をしています。

また、ゲーム理論的な問いも私たちの戦略にとっては大切です。「なぜ他のファンドはこの施策をやってこないのか?」という問いを常に考えながら、ファンド運営をしています。

──来日は地域カバレッジを拡大するためか?

ショーン:Founders Fundでは投資対象の国・領域のカバレッジを広げるという概念はありません。その意味で、日本へのカバレッジを広げるために来日したのではなく、あくまでグローバル目線で最高の創業者とスタートアップの1社を見つけるために来日しました。当社のベンチャー投資の規模を考えると、日本ではシリーズC相当になると思いますが、投資実行へはもう少し確信が必要です。なお、日本市場においては既存プレイヤーと競争するのでなく、GBのような現地のトップレベルのVCとパートナーとして協力し合う想定です

投資対象地域は、“結果的”に圧倒的に米国が中心となっています。それは、資本効率的な視点からみて、圧倒的に米国市場が大きく効率的だからです。実際、上場企業の時価総額トップ20社を並べたら90%以上は米国企業になりますよね。米国以外のグローバル投資としては、たとえば南米のFinTech企業のNubankがあります。Nubankは創業者がFounders Fundの知り合いだったことが投資のきっかけですが、南米を起点にグローバル展開できるポテンシャルを持っていることから投資を決めたスタートアップです。

スタートアップ4社との対話で語られたこと

また、ミーティングではスタートアップ4社とショーン氏の事業に関する議論も活発に行われました。その際の様子も一部ご紹介します。

#01:estie

estie 取締役CFO 上田 來(きたる)氏

estieは、商業用不動産領域に特化した不動産テック企業です。同社では、ネット上では入手困難な賃貸料や稼働率、テナントなどに関する情報を独自に集約・データベース化。不動産デベロッパー、機関投資家、金融機関などの事業者に対して複数の不動産アセットに関するデータと分析プラットフォームを提供しています。同社の上田氏は、estieではオフィスビルに関するサービスを一例に、全国の主要な約8万棟のビルをカバーしており、大手不動産デベロッパーにおいては高いデータ市場シェアを誇っていると述べました。

ショーン氏はestieがデータを中心としたユニークなポジショニングであることに興味を示しつつ、estieのデータ収集方法と、特に対象エリアの「データカバー率」に対して積極的に質問を投げかけていました。

#02:Jij

Jij CTO 西村 光嗣氏

Jijは、量子技術と数理最適化を組み合わせたソリューションを提供する企業です。同社では物流や通信、発電所の負荷予測など、手作業で行われている計画問題の最適化に注力しています。ショーン氏は、Jijの技術が使われているユースケースを中心に質問。これに対し、同社の西村氏はソフトバンクによる無線基地局の設定最適化事例を紹介しました。

さらにショーン氏は、Jijの事業が構造的にグローバルでの競争環境にさらされる中でグローバルトップテック企業への競争優位性をどう維持していくのかや、デジタルアニーリングの技術が本格的な量子コンピューティング技術への「過渡期の技術」となることをどう回避するのかなどについて質問し、踏み込んだ意見交換を交わしました。

#03:キャディ

キャディ 取締役CTO 小橋 昭文氏

キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションに掲げた、製造業向けSaaS企業です。同社の小橋氏は、キャディは調達・サプライチェーン構築における課題を解決するSaaS事業から始まり、現在は設計検証をはじめとする製造プロセス全体にアプローチする事業に拡大していると自社の現在地を語りました。

ショーン氏は製造業セクターにおける、SaaSや製造業AIの市場規模のポテンシャルがどの程度あるのかを論じつつ、キャディに対して「日本発でありながらグローバルへの展開もチャレンジを始めている興味深いプロダクトだ」と評価しました。

#04:京都フュージョニアリング

京都フュージョニアリング 取締役COO 世古 圭氏

京都フュージョニアリングは、フュージョンエネルギー(核融合発電)プラントに必要なコンポーネントやシステムを統合する企業です。同社の世古氏は、京都フュージョニアリングでは核融合反応を起こす中心部の技術ではなく、ブランケット、燃料サイクル、加熱装置といった周辺技術の開発に注力していると説明。これらの技術はどのような核融合方式にも応用可能で幅広い企業からの需要が見込まれるとし、自社の優位性を語りました。

ショーン氏は同社の知的財産の持ち方や、いわゆる「つるはしとシャベル」型のビジネスモデルであることなどを中心に質問。京都フュージョニアリングの具体的な事業運営の内容について積極的に対話がなされました。

スタートアップエコシステムの架け橋を目指して

今回のFounders Fundを交えたラウンドテーブルは、米国のVCから見た日本市場に関するさまざまな示唆を得られる機会となりました。また、Founders FundのようなTopTier VCが日本のスタートアップと直接対話する機会を設けられたことは、日本企業が国際的なプレゼンスを高める上でも大きな意味を持つでしょう。

GBでは今後も、海外VCと投資先企業の交流の機会を定期的に設けていく予定です。「未踏社会の創造」というミッションのもと、日本と海外のスタートアップエコシステムの架け橋となり、グローバルにイノベーションを創出し続ける存在であることを目指してまいります。

※所属、役職名、数値などは取材時のものです
(取材・執筆:Universe編集部)