未来を創るスタートアップが集結!GBAF 2023「Startup Pitch Battle」レポート

グローバル・ブレインが約1年間で投資を決定したスタートアップ企業から、注目の7社にご登壇いただきました。

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執筆: Universe編集部

2023年12月1日に開催したグローバル・ブレイン(以下、GB)の年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2023(GBAF 2023)」では、GBが約1年間で投資を決定した、注目のスタートアップ企業7社による「Startup Pitch Battle 2023」を行いました。

本年審査を行ったのは、次の皆さまです。

  • 起業家・エンジェル投資家 有安 伸宏 様
  • Noxx Inc. Co-founder and CEO 小林 清剛 様
  • STORES 株式会社 代表取締役社長 佐藤 裕介 様
  • 株式会社ACSL 社外取締役 杉山 全功 様

今回はピッチの模様をレポートでお送りします。

【New Innovations】あらゆる業界の「無人化」を目指す

株式会社New Innovations 代表取締役CEO兼CTO 中尾 渓人氏

New Innovationsは「あらゆる業界を、無人化する」というビジョンを掲げるスタートアップです。toC向けに完全無人営業のコーヒースタンドを展開する「root C 事業」と、toB向けに省人化ロボットやハードウェアを提供する「OMO 事業」を軸に展開しています。

root C (ルートシー)とは、AIや機械学習を用いてユーザーの嗜好に合ったコーヒーを無人で提供することができるスマートコーヒースタンドです。

本製品の特徴は、コーヒー業界の「コスト構造」を変革したところにあります。無人でのオペレーションを実現したことで、従来のコーヒー製造のプロセスにおけるコストを大幅に削減。浮いた費用を上質なコーヒー豆や機械学習の精度向上に充てられるため、同価格帯のものよりも美味しいコーヒーを提供できます。

OMO 事業では、ソフトウェアとハードウェアを掛け合わせたソリューション提供をリアルビジネスを展開する企業向けに行っています。現在は、飲食、小売、宿泊、物流など幅広い業界を対象に製品を開発しています。

審査員から挙がった「一般的にコーヒーは単価が低く利益が出づらい商材なので、OMO 事業が売上のメインになっているのか」という質問に対し、代表取締役CEO兼CTOの中尾氏は、root C の収益性の高さを説明。コンセントを抜き差しするだけでコーヒー事業を始められるため、カフェのように立地の制約を受けることもなく、売れ行きが不調となれば新たな場所に移設することができます。そのため「コーヒー1杯で儲けるのではなくroot C 事業として高い収益を保てている」とし、両事業とも重要な売上の軸であると主張しました。

【ブルーモ証券】投資初心者が直面する「壁」を打ち砕く

ブルーモ証券株式会社 代表取締役 中村 仁氏

ブルーモ証券は「投資をみんなのものに」をミッションに掲げ、米国株・ETFにスマホから投資できる、長期資産形成のための証券サービスの提供を予定している企業です。

代表取締役の中村氏は、日本での証券口座の開設数のデータなどを引用しながら、海外投資マーケットが広がっていると説明。投資に関心のある投資未経験層は国内に約1,000万人いるという推計もあり、個人投資家は確実に増えていくと語りました。

一方、個人投資家の多くは投資を続ける中で、ある壁に直面してしまうといいます。それは、最近投資を始めた人が広く利用するS&P500インデックスの「次の投資」に踏み出すのが難しいということ。金融特有の難解な知識をインプットする必要があり、これには中村氏自身も挫折をしたと語りました。

そうしたペインを解消するのが「Bloomo」です。Bloomoは米国株や海外ETF投資に特化したスマホアプリで、誰でも手軽に本格的な長期投資を実現します。

Bloomoには特徴的な2つの機能があります。1つは「ポートフォリオ投資機能」という、銘柄と比率を設定して日本円を入金するだけで投資が完了する機能です。ユーザーは「Amazon株を20%、米国債を10%」などと比率を設定するだけで、簡単に投資を始めることができます。もう1つの機能は「コミュニティ機能」です。この機能により、ユーザーは他の投資家の投資の仕方をワンタップで真似ることができます。

中村氏はピッチの中で、創業期から自ら100件以上のユーザーインタビューを重ねて出会った興味深いインサイトなども紹介。正式リリースに向けてユーザー中心の製品を鋭意開発中であることを強調しました(※GBAF開催日時点)。

【Spiral.AI】生成AIで「個性的で面白い」会話を実現

Spiral.AI株式会社 代表取締役 佐々木 雄一氏

ChatGPTの登場により世界的な注目が高まった「生成AI」。Spiral.AIは日本でも数少ない生成AIの専門企業として、巨大言語モデル(LLM)にフォーカスしたサービスを展開しています。

代表取締役の佐々木氏は、世界のビッグテック企業はLLMでいかに正確な答えを出せるかという、「IQ」の面で競っていると主張。一方でSpiral.AIは、LLMの「EQ」、つまり会話を個性的で面白いものにすることに焦点を当てていると述べました。

具体的なサービスとして紹介したのが、芸能人の真島なおみと会話しているような体験を楽しめる「Naomi.AI」というサービスです。彼女の人格やしゃべり方を模したLLMがベースとなっているこのサービスは、ローンチ以降、毎日会話するコアユーザーも出てきているといいます。

Spiral.AIはこうしたエンターテインメント領域を中心に展開しながら、さまざまな産業領域でこうしたLLMの活用を進めていくとのこと。佐々木氏はさらに一歩進んだ世界観として、

「自分自身の人格をLLMにする」未来について言及し、寝ている間に自分のLLMが仕事を進めておいてくれるような世界も実現できるのでは、と生成AIが持つ可能性を語りました。

【カサナレ】カスタマーサポートを変革する生成AI企業

カサナレ株式会社 代表取締役CEO 安田 喬一氏

続いて登場したカサナレも、生成AIを用いたスタートアップです。彼らは生成AIで、ビジネスにおける「カスタマーサポート」の課題を解決することを目指しています。

顧客は自分のITリテラシーや購買記録などに寄り添ったカスタマーサポートを求めています。しかし企業からすると、少ないリソースの中で全ての顧客の状況を把握し、細やかに対応してくのは困難です。

そのギャップを埋めるのが「Kasanare」です。たとえばECサイトにKasanareを実装すると、商品ページ内の単語をハイライトするだけでAIが解説してくれたり、商品の比較表を作ってくれたりと、ユーザーに寄り添ったサポートを実施できます。

ここで代表取締役CEOの安田氏が強調したのは、Kasanareは単なるチャットボットではないという点。ユーザーが求める「人が横に付いて支えてくれているようなカスタマーサポート」を目指していると語りました。

また、生成AIサービスでよく指摘が挙がるハルシネーション(AIが事実と異なる情報を生成すること)や回答精度の向上についても、導入企業ごとにチューニングする機能で手を打っているとのこと。

最後に安田氏は「LLMの対応は全産業において不可避。LLMを用いてカスタマーサポートの変革を望むパートナーがいればぜひご一緒したい」と、会場に向けて力強く呼びかけました。

【Yanekara】「EVのジレンマ」をテクノロジーで解決

株式会社Yanekara 代表取締役CEO(兼CTO) 松藤 圭亮氏

日本でも本格的な普及が始まっているEV(電気自動車)ですが、その電力源には大きな課題もあります。帰宅時などの時間帯に充電が集中してしまうと、電力需給が逼迫するためです。EV10万台を同時に充電するためには火力発電が1基必要だとも言われており、「EVが普及するほど火力発電が増える」というジレンマを抱えています。

Yanekaraは、こうした課題に対応するDeep Techスタートアップです。同社は「YaneCube」と「Yanebox」という2つのサービスを提供しています。

YaneCubeは遠隔でオンオフが制御できる、日本初のEV用コンセントです。電力利用が集中する時間帯でピークカットすることにより、電力需給の逼迫を解消。電気料金の削減にも繋がります。YaneCubeはすでに約100台のEVを抱える銀座郵便局などで導入されており、エネルギー企業や家庭向けのエネマネサービスなどからも需要が高まっているといいます。

もう1つのYaneboxは、既存の充放電器サービスよりも低価格で、効率的にEV充電を行えるプロダクトです。同社では充放電器で当たり前とされていた回路構造をゼロから再検討し、300枚の基盤の試作を重ねてこのYaneboxを生み出しました。なお、Yaneboxを自宅に導入したユーザーには、エネルギー自給率が94%に達し、毎月の電気代がほぼゼロとなった方もいるといいます。

代表取締役CEO(兼CTO )の松藤氏は「Yanekaraは日本のエネルギー自立というビジョンに集まったZ世代や、高度な技術力を持つシニアメンバーの力を使って成長してきた。これからもこの会場にいる皆さんとともにエネルギー課題の解決に取り組んでいきたい」と強調しました。

【Jij】企業の複雑な課題に「数理計算」で挑む

株式会社Jij CEO 山城 悠氏

Jijは「企業の計算困難な課題を解決する」というミッションのもと、数理最適化を行うソフトウェアを開発する、東京工業大学発のDeep Techスタートアップです。

数理最適化とは、数学的な手法を使って、与えられた条件や制約のもとで最適な解を見つける方法のこと。Jijはこの分野で2つの事業を展開しています。1つは「JijZept」と呼ばれる数理最適化のミドルウェアプラットフォーム、もう1つはそれを活用したコンサルティングサービスです。

CEOの山城氏は、数理最適化において最も難しいのは問題を数式にしていく「定式化」であるとし、「その定式化を支援するのがJijZeptである」と解説。JijZeptを利用すれば、開発者なら誰でも最適計算のワークフローを開発できると述べました。

このJijZeptは、すでに発電機のコントロール、信号機の制御、通信に関わる計算、材料科学などあらゆる産業で活用がされているとのこと。JijZeptによって従来通りに計算コードを書くよりも70%もコストを削減できた事例もあるとし、その価値の高さを伝えました。

今後特に活用を進めたい業界についての質問に、山城氏は「エネルギー産業や製造業、材料開発の業界」と回答。特に製造業の製造ラインは工場ごとに条件が異なっているためSaaSでの最適化がしづらく、個別最適の計算ができるJijZeptが活かせる領域だと語りました。

【シェルパ・アンド・カンパニー】ESG経営のペインをまるごと解消

シェルパ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役CEO 杉本 淳氏

近年、日本でもサステナビリティに関する取り組みが急速に進展しています。投資家やその他ステークホルダーへの透明性を高めるため、企業は自社のESG(Environment, Social, Governance)情報の開示が求められるようになりました。

そのため企業のサステナビリティ担当者からは、ESG情報の開示や評価機関から送付される年間100~200ものアンケート対応に追われ、ESG経営(ESGに配慮したサステナブルな経営)のための本質的な活動に手が回らないという声もよく聞かれます。また、評価機関から企業に付与されるESGスコアは企業価値判断における重要な指標となるものの、その算出方法はブラックボックスとなっており、スコアを向上させる打ち手を見出すのは困難です。

こうしたESG経営に関するペインを解決するのが、シェルパ・アンド・カンパニーの「SmartESG」というクラウドサービスです。SmartESGは「ワークフロー」「データベース」「マトリクス」「ベンチマーク」という4つの主な機能を備えています。

「ワークフロー」によって、各部署に散在するESGデータやアンケート回答の効率化が可能に。「データベース」でESGに関するデータが一元化され、簡単に確認できます。

代表取締役CEOの杉本氏は「SmartESGは単なる業務効率化ツールではなく、ESG経営を高度化するツール」と語り、それを象徴する機能として「マトリクス」をピックアップ。市場が求めるESGの評価項目をAIがマッピングし、各評価機関や開示基準の共通点や評価ポイントを明らかにしてくれます。「ベンチマーク」でもAIが活用され、ESG評価の高い企業がどのような開示を行っているかベンチマークし、分析可能となります。すでにSmartESGを導入している企業からは、情報開示業務負荷が削減されただけでなく「次に取り組むべき課題が明確になりスコア向上の目標に集中できるようになった」というフィードバックも受けているそうです。

杉本氏は今後の展開について、企業内での導入にとどまらず、ESG評価機関などさまざまなステークホルダーでの活用も進めていくと説明。SmartESGを「非財務情報のデファクトスタンダードツールにしていく」とその展望を語りました。

ブルーモ証券、Spiral.AI、Yanekaraの3社が受賞

7社によるピッチ終了後、オーディエンスおよび審査員による審査を実施。その結果、GBAF AWARDにブルーモ証券、オーディエンスの投票によって決まるAUDIENCE AWARDにSpiral.AI、審査員が選ぶPITCH PANEL AWARDにYanekeraが選ばれました。

ロボティクスからAI、Fintech、Deep techなど幅広い領域のスタートアップが登壇したGBAF2023。来場していた大企業の方々はその発表を熱心に聞き入っていらっしゃいました。本ピッチがスタートアップと大企業の共創を生む、飛躍の機会となっていれば幸いです。