GB Tech Trend #020: AirTagリリースに見る、スタートアップのGAFA差別化戦略

以前から噂をされていたAppleの新IoT「AirTag」がついにリリースされました。

GB Tech Trend #020: AirTagリリースに見る、スタートアップのGAFA差別化戦略のカバー画像
先日リリースされたAirTag。Image Credit: Apple。

執筆: Universe編集部

グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

以前から噂をされていたAppleの新IoT「AirTag」がついにリリースされました。忘れ物をしないようにデザインされた小さなチップとなっています。専用のバンドと一緒にくくりつけてして、私物の場所をトラッキングできます。

iPhoneやiPadとAirTagをBluetooth通信で接続し、仮に接続が切れるほど遠い場所にAirTagが移動してしまったらユーザーに通知を飛ばす仕組みです。通信外の場所にいても、同じiPhoneユーザーが近くいれば、Bluetoothによる位置情報の更新が行われ、最新情報を所有ユーザー本人が近くにいなくとも可能な便利なIoTです。価格は1個3,800円から。バッテリーの持続期間は1年以上で、替えも利きます。

基本的な設計として、iPhone備え付けのアプリ「Find My」を使ってAirtagの位置情報を表示。最大の特徴はiPhone11以降に搭載されている超広帯域チップの活用です。一般的なWifiより遥かに広い範囲に電波距離を広げられ、Airtagのトラッキングエリアも拡大できます。その上、「Precision Finding」機能が使えるようになり、加速度センサーやジャイロスコープを駆使して、正確にユーザーをAirtagの場所へと導くことが可能となりました。

AirTagのリリースに関して、Appleはプライバシー性を推しており、ユーザーがどのようなモノを所有しているのかだったり、該当物の位置情報を同社がトラッキングできることは難しいでしょう。

さて、今回の発表において戦々恐々としているのが同じく忘れ物市場に参入しており、市場シェアを獲得している「Tile」なはず。元々、Bluetoothを軸にした「発見ネットワーク」の概念を市場に提唱し、ユーザー同士で共有する仕組みは同社がパイオニアとなっています。AirTagはまさにTileの事業モデルを完全に模倣されたと言えるでしょう。

Tileのアプリはユーザーが任意でインストールする必要がありますが、Find Myに関しては事前に備え付けられています。iPhoneユーザー数億人の「発見ネットワーク」を即座に構築でき、リリース初日からTileが最も訴求しているネットワーク効果を軽く凌駕できる「不公平な強み」を持っています。プロダクトデザインに関しても、バッテリーが切れる1年毎に新品交換が必要なTileと違い、自分でバッテリー交換できるAirTagはユーザービリティにおいても一歩先を行っていると言えます。

TileはAppleの独占状態を訴訟問題にする可能性がありますが、Appleは「Find My」のネットワーク機能を外部に公開する意向をすでに示しています。すでに電動自転車「Vanmoof」らがパートナー企業として超広域帯チップによるネットワーク効果のメリットを享受できます。Tileもパートナー企業となれば問題ないとする流れにし、独占的ではないとする反論の狼煙も上がっています。

あらゆる面において手を打たれている印象のTile。GAFAにやられてしまった典型例となってしまいそうですが、こうした事態を戦略的に回避することはできなかったのでしょうか。可能性として挙げられる回答は2つ存在しそうです。

1つは「収益軸」。未だにTileやAirTagは3,000-4,000円前後と比較的高価であり、一般大衆に幅広く浸透しているかと言えば疑問が残ります。そこで、たとえば広告収入に軸を変えることでハードウェア販売からのシフトをしていれば分厚いユーザー層を獲得できていたかもしれません。Tileユーザーには1,000円を切る形でチップを販売。一方、アプリシステムに乗っかる形でパートナー企業にもTileのトラッキングサービスを配布。ユーザーとパートナー企業間の両者が揃ったネットワークを構築し、そこに広告をかませることでハードウェアコストを浮かせる戦略が考えられます。Appleは広告企業ではないため、収益戦略における差別化にはなるだろうとの算段です。

もう一つは「企業文化」。GAFAは往々にして個人データ問題を指摘される立場にあります。ユーザーのプライバイシー情報を大量に保有しているため、特に欧米では日に日に脱GAFAの声が大きくなりつつあります。こうした社会環境に呼応する形で、Tileのブランディング・カルチャーを作り上げ、ユーザー意識を味方にさせる定性的な戦略が考えられそうです。

いずれにせよ、AppleはFind Myを軸にした新たなIoT社会を作り上げようとしており、このエコシステムに付随する形で各ハードウェア企業が付いて回る流れが出来上がりそうです。スタートアップ単体で何かしらのIoTネットワークを作り上げることがより至難な時代となりました。

今週(4月20日〜4月27日)の主要ニュース

欧州版Robinhoodを目指す「Bux」。Image Credit: Bux。
欧州版Robinhoodを目指す「Bux」。Image Credit: Bux。

ヨーロッパ版Robinhood「Bux」8,000万ドル調達

アムステルダムを拠点とする、株式や上場投資信託に手数料なしで投資できるサービス「Bux」は、Prosus VenturesとTencentが共同リードするラウンドで8,000万ドルの資金を調達した。本ラウンドには、ABN Amro Ventures、Citius、Optiver、Endeit Capital、そして以前から出資しているHV CapitalとVelocity Capital Fintech Venturesが参加した。— 参考記事

Appleデバイス管理プラットフォーム「Kandji」6,000万ドル調達

企業のIT部門向けにAppleデバイス管理プラットフォームを提供している「Kandji」は、Felicis Venturesをリードに、SVB Capital、Greycroft、Okta Ventures、The Spruce House Partnershipなどが参加したシリーズBラウンドで6,000万ドルを調達した。これにより、同社は合計で8,850万ドルを調達したことになる。— 参考記事

車内エンタメ向けXRメディア「Holoride」1,000万ドル調達

ドイツ・ミュンヘンに本社を置くAudiのスピンオフ企業、複合現実志向の車載用メディアプラットフォーム「Holoride」が、スウェーデンのソフトウェア開発会社Terranetをリードに、シリーズAで1,000万ユーロの資金を調達した。— 参考記事

後払い決済サービス「Tamara」1.1億ドル調達

サウジアラビアのリヤドを拠点とし、Buy-now-Pay-Later方式の決済サービスを提供している「Tamara」は、ロンドンのCheckout.comをリードとしたシリーズAラウンドで、負債と株式を合わせて1億1,000万ドルを調達した。同社は数ヶ月前に600万ドルのシードラウンドを実施している。— 参考記事

スポーツコンテンツ企業「Overtime」8,000万ドル調達

ニューヨーク州ブルックリンを拠点とするスポーツブランドおよびメディア企業「Overtime」が、シリーズCラウンドで8,000万ドルを調達した。本ラウンドでは、Sapphire SportとBlack Capitalがリードを務め、Bezos Expeditions、Drake、Micromanagement Ventures、Morgan Stanley Counterpoint Global、Blackstone Strategic Partners、PROOF、Gaingelsなどの投資家が参加した。Overtimeは当初、高校の試合のハイライトやその他のスポーツビデオをソーシャルプラットフォームに投稿していたが、その後、長編オリジナル番組、小売事業、ライブイベントへと拡大していった。— 参考記事

バイオ認証技術を提供する「Hypr」7,200万ドル調達

従来のパスワードに加え、指紋、顔、声などのバイオメトリクスを用いた認証技術を提供する「Hypr」は、Advent InternationalをリードとしたシリーズCラウンドで3,500万ドルを調達した。同社の資金調達総額は7,200万ドルに達した。— 参考記事

ジャーナリスト向けAI情報システム「Applied XL」150万ドル調達

人や場所、地球のリアルタイムデータを把握するための専門家によるAI情報システムを開発する「Applied XL」が、Tuesday Capitalをリードに、Frog Ventures、Correlation Ventures、Team Europeが参加するラウンドで、150万ドルのシード資金を調達した。— 参考記事

中南米のゴーストキッチン企業「Muncher」2,200万ドル調達

コロンビア・ボゴタを拠点とするゴーストキッチン企業「Muncher」は、シリーズAラウンドとして、TMT InvestmentsとCopernion Capital Partnersらがリードする形で2,200万ドルを調達した。Femsa Ventures、MGM Innova、Amador Holdingsらが本ラウンドに参加した。— 参考記事