ミニアプリ版YouTubeを目指す「Wabi」──「常時AI時代」のプラットフォーム像【GB Tech Trend #150】
ミニアプリを生成AIで簡単に開発し、そのまま共有・リミックスまでできるプラットフォーム「Wabi」。これまでのアプリストアにはなかった独自性や、今後のAI時代にどのような発展を見せるのかなどについて考察しています。

今週の注目テックトレンド
GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。
ミニアプリを生成AIで簡単に開発し、そのまま共有・リミックスまでできる新しいプラットフォーム「Wabi」に注目が集まっています。
創業者は、10年ほど前に人気となったAIコンパニオンアプリ「Replika」の生みの親として知られるEugenia Kuyda氏です。生成AIブームより前から会話型AIに取り組んできた同氏は、10年前にはすでに今日の生成AIブームを見据えてプロダクトをローンチしていました。Wabiはそうした同氏の先駆的アプローチを踏襲したサービスであることから高い注目が集まっており、まだステルス開発中にもかかわらず11月に2,000万ドルの資金調達を発表したと報じられています。
自分好みなアプリを数分で生成
Wabiでは、ユーザーがテキストで「こういうアプリが欲しい」と指示すると、AIが数分でミニアプリを生成してくれます。赤ちゃんのトイレ回数を記録するだけのアプリ、寝かしつけ用のなぞなぞゲーム、自分専用の筋トレ記録アプリなど、「これ単体では事業にはならないが、自分には必要なアプリが欲しい」というニーズを満たす設計になっています。
ユーザーはWabi上に共有されたアプリのプロンプトや、どのAIモデルを使っているかも常に確認できます。また、他人がつくったミニアプリであっても内部のプロンプトやモデル設定を自分で覗き、必要に応じて書き換えることが可能。ブラックボックス的な単なる生成AIアプリの配信場所ではなく、「何を目的に、どう振る舞うのか」をユーザー自身が検証・調整できることを重視しており、「プロンプトコンテナのプラットフォーム」とも表現されています。
ソーシャルメディアとして側面も
特徴的なのは、Wabi上のミニアプリは「端末にダウンロードできない」という点で、すべてのデータとバックエンドはWabi側で一元管理されています。加えて、生成AIモデルや画像・音声モデルとの統合、GmailやApple Health、カレンダーや銀行口座との連携といった「Power-ups」と呼ばれる機能群をプラットフォーム上で提供しており、ミニアプリはそれらを共通パーツとして呼び出せるようになっています。
Wabiは「ソフトウェア + ソーシャル」という観点でも既存ストアとは異なる方向を目指しています。App Storeでは友人がどのアプリを使い、どんな感想を持っているのかはほとんど見えませんが、Wabiでは他のユーザーがどのミニアプリを使い、どんなコメントを残しているのかがタイムライン的に見られるのが特徴です。コメント欄から「この機能を足してほしい」と要望を出したり、自分でリミックスして別バージョンを公開したりもできます。
「常時AI時代」の新エコシステム
Wabiを「ミニアプリ版YouTube」と表現する比喩は、単なるキャッチコピーではありません。2000年代半ば、「テレビのチャンネルは数十もあれば十分」と考えられていましたが、いまのYouTube にはお笑いからASMR、長編ドキュメンタリーまで、無数のチャンネルが誕生し、まったく新しいコンテンツエコシステムが広がっています。
視聴者は量・質ともに格段に豊かな世界を手に入れ、同時に「つくる側」も、ビジネスから純粋な自己表現まで多様な目的で参加できるようになりました。
ここ10〜20年の間、世間では「常時SNS時代」がひたすらに叫ばれ、人は常に多量の情報を摂取するようになりました。その中で多くのインフルエンサーが活躍するようになりましたが、Wabiのようなサービスによってその担い手は生成AI時代の新たなクリエイター、エンジニア層へとシフトしていくと予想されます。
これまでのようにデザインや開発知識を十分に持っているような人だけではなく、開発知識のないクリエイターも今後はアプリ提供者として活躍していくかもしれません。「あの人のセンスで作ったミニアプリを楽しみたい」といった具合に、アプリには機能だけでなく、多種多様な個人のニーズや世界観が反映されていくでしょう。
AIを前提にしたパーソナルソフトウェアと、それをつくる無数の個人クリエイター、その上に広がる常時AI時代のライフスタイルを、きわめて具体的なかたちで先取りしているスタートアップがWabiであると言えます。
11月4日〜11月17日の主要ニュース
AIコーディングツール「Cursor」のAnysphere、評価額293億ドルで23億ドル調達
AIコーディングツール「Cursor」を展開する「Anysphere」は、23億ドルの資金調達ラウンドを実施し、ポストマネー評価額は293億ドルに達した。投資家にはAccel、Thrive Capital、Andreessen Horowitz、DST Global、Coatue、Nvidia、Googleなどが名を連ねる。
Cursorは、ソフトウェア開発者向けにコードの生成・編集・レビューを支援するAIコーディングツールで、高い人気を獲得している。同社によると、Cursorはすでに年換算売上10億ドルを突破しており、組織も従業員300人超にまで拡大しているという。— 参考記事
プレゼン×サイト生成AIの「Gamma」、評価額21億ドルで6,800万ドル調達
AIでプレゼンテーション・Webサイト・ソーシャル向けコンテンツを生成する「Gamma」は、Andreessen Horowitzがリードし、AccelとUncork Capitalが参加したシリーズBラウンドで6,800万ドルを調達し、評価額は21億ドル超となった。サンフランシスコ拠点、設立5年目の同社は「PowerPointの代替」として存在感を強めている。
多くのエンタープライズAI企業が高いバリュエーションと収益停滞に悩むなか、Gammaは2年以上連続で黒字を維持し、初期資金2,300万ドル・チーム50人というリーンな体制でARR1億ドルに到達した。顧客基盤は全世界で7,000万ユーザーに拡大し、これまでに4億件超のプレゼンやWeb、各種アセットがGamma上で作成されている。現在も1日100万件超のコンテンツが生成されており、AI時代のドキュメント基盤として定着しつつある。— 参考記事
レンタル住宅に少額から投資、「Arrived」が2,700万ドル調達
戸建て賃貸住宅やバケーションホームの持分を少額で購入できるプラットフォームを運営するシアトル発の「Arrived」は、Neoがリードし、Forerunner Ventures、Bezos Expeditions、Coreが参加するラウンドで2,700万ドルを調達、累計調達は6,000万ドル超となった。
Arrivedは、ユーザーが最低100ドルから単一の戸建賃貸やバケーションレンタルの持分を購入できる仕組みを提供し、フルローンや自主管理なしに不動産エクスポージャーを得られる点を売りにする。物件の探索・取得から資金調達、リノベーション、賃貸運営、テナント対応までを同社が担い、投資家は個別物件/プール型ファンドのいずれかに出資可能。リターンは四半期ごとの家賃配当と、複数年保有後の売却時に得られる価格上昇分のシェアから構成される。2019年のローンチ以降、登録投資家は約90万人に達し、プラットフォーム上での投資総額は3億4,000万ドル超。これまでに5,500万ドル超を分配し、米国内65市場で550件超の物件を組成してきた。— 参考記事
オフサイト&リトリート特化「BoomPop」、AIプランニングで計4,100万ドル調達
企業のオフサイトやリトリート向けにAIネイティブなイベントプランニングソフトを提供する「BoomPop」は、Wing VCがリードし、Atomic、Acme、Four Rivers、Thayer Investment Partners、Fund of Operators Guild、Gaingelsが参加するラウンドで2,500万ドルを調達したほか、1,600万ドルのデットも合わせて確保した。
同社は1兆ドル規模とされる企業向けグループトラベル&イベント市場でAIツールを展開。行き先の探索、詳細な旅程の作成、ゲスト用Webサイト、Slackやテキストによる24時間AIゲストサポートまで、イベントの発見・予約・運営を一括で自動化する。これまでに6万泊超のホテル滞在を支援し、クライアントにはGoogle、Dick’s Sporting Goods、Tesa、Bill.com、Forrester、SVBなど数百社の企業が名を連ねる。特に成長が速いのは、企業主催のオフサイト・リトリート・クライアントイベントといったカテゴリで、多くのハイブリッド企業にとってイベント/エンタメ予算は人件費に次ぐ大きな支出であることから、BoomPopの効率化効果に期待が集まっている。— 参考記事
(執筆: GB Brand Communication Team)