ゲーム動画が秘める新たなAI商機──1.34億ドル調達したGeneral Intuitionの逆転の発想【GB Tech Trend #149】
ゲーム動画共有サービスとして知られる「Medal」から生まれたスタートアップ、General Intuition。彼らはゲームのプレイ動画をAIの教師データとして提供するユニークなビジネスを展開しています。その背後にある戦略や今後の日本への影響などについて考察しました。

今週の注目テックトレンド
GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。
ここ数年、生成AIのトレーニングのために良質なデータを集めてAI企業へ提供するスタートアップが次々と生まれています。たとえばScale AIのように10億ドル規模の大型出資を受ける事例も登場しました。
なかでも昨今重要になっているのが、一般的な動作や行動、ラベリングデータにとどまるのではなく、未知の事象や場所に出会ったときに何が起きそうかを見通し、適切に動けるAIを育てるためのデータです。
そこで注目されているのが、ビデオゲームのプレイ動画を活用する方法です。今回取り上げる「General Intuition」はこの発想を軸に、大量のゲームプレイ動画を供給し、AIが空間や時間の流れを理解するのを促すスタートアップとして登場しました。2025年10月には1億3,400万ドルの資金調達を発表しています。
費用・手間・危険なくデータを集められる
General Intuitionは、ゲーム動画共有サービスとして知られる「Medal」から生まれたスタートアップです。Medalには月間1,000万人超の利用者が集まり、毎年20億本以上のプレイ動画クリップが投稿されるとされています。
クリップの多くは、ただのプレイ記録ではなく、思わず共有したくなる瞬間が切り出されています。華麗に成功したプレイ、判断を誤って大きく崩れた場面、意外なバグや偶然の連鎖。こうしたコンテンツは、画面内での出来事、プレイヤーの反応、そこから生まれた結果が短い時間に凝縮されており、AIが「次に何が起きるか」「どう動くべきか」を身につけるのに向いている教師データとなります。
ゲームのクリップは、成功と失敗がくっきり残り、人間の思考や反射が色濃く表れます。General Intuitionの社名にあるように、ゲームキャラクターの行動にはユーザーの知覚が憑依し、人間の「直感」で判断された結果が表れていると言えるでしょう。
同じようなデータを現実世界で撮影しようとすると費用も手間もかかり、危険も伴いますが、ゲームの世界なら同じ場面を何度も再現でき、珍しいケースも多く集めるができます。General Intuitionはこの逆転の発想に可能性を見いだし、Medalに蓄積された膨大なクリップを通じて、AI企業からニーズに応えようとしているわけです。
同社ではゲームを「安価で多様なバーチャルシミュレーション現場」に見立てて、災害現場で働くドローンから、ゆくゆくは家庭内ロボットなど実世界の応用に向けたデータプラットフォームとして機能させようとしています。
General Intuitionの戦略の妙
General Intuitionのユニークさは、動画から3D空間や新しいゲームを生み出す方向ではなく、物理の理解に役立つ教師データを企業向けに供給する立場に徹している点です。競合他社では3D空間の自動生成やゲームそのものの生成を行うスタートアップがいますが、同じ路線を選ぶと既存ゲームの知的財産や著作権に抵触する可能性もあり、スケールが難しい場合があります。
そのため動画を生成物のためではなく、学習の材料として扱うことで、より確度の高い事業戦略を選んだわけです。こうしたBtoBの道は、Scale AIの成長事例が示すように、需要が厚く、再現性のあるビジネスになりやすい領域と言えます。
しかもゲームのクリップは、派手な成功や痛い失敗が多く、従来では集められなかった判断要素を多分に含んでいます。こうした動画から「状況→判断→結果」のつながりを丁寧に取り出せば、AIが次に起きそうなことを見通す力と、そこで選ぶ行動の質を同時に高められます。未知の場所に置かれたときに賢い選択ができるAIを育てるには、むしろゲーム内の動きのような極端なケースが役立ちます。
General Intuitionが狙うのは、まさにこの「先読み力」と「状況判断・選択力」の両立を兼ね備えたAIを作り出すことです。災害現場ロボットのように1つのミスが致命的になりかねない用途でも耐えられる基礎体力を持ったAIの実用化に貢献していると言えます。
ゲーム配信の新たな未来
この動きは、ゲーム動画配信クリエイターやeSportsプレイヤーの収益構造にも変化をもたらすかもしれません。これらのこれまでの主な収益源は広告やスポンサー、視聴者からの課金でした。今後は、学習用として自身のプレイ動画を二次利用するという新しい収益軸が成り立つ可能性があります。
配信プラットフォーム側が、自動の切り抜きや見どころ検出、安全に配慮した提供窓口などを整えて、動画クリエイターへの分配を明確にすれば、配信企業は「データの集約拠点」としての立場を強められます。クリエイターにとっても、視聴者からの投げ銭などのtoC事業と同時並行して、AIの学習需要に対応するという安定した収益の土台が築けます。Medalのように大量のクリップが集まる企業は、こうした市場需要をうまく取り込み、応用していると言えるでしょう。
日本にとって、このトレンドは大きな追い風になりえます。日本は優れたゲームIPを多数抱え、熱量の高いファンコミュニティを育ててきました。もしパブリッシャー、配信プラットフォーム、クリエイターが連携し、配信ガイドラインに学習利用に関する取り扱いを明確化し、同意の仕組み、動画の匿名化や不適切表現の除去などを整備すれば、ゲームは「エンタメ」であると同時に「AIの基盤産業」を支えるデータ供給源になりえます。
配信企業が自動切り抜きとメタ情報の付与を強化し、企業や研究機関へ安全に提供する仕組みを整えれば、国内発の「データ産業」が育つことも考えられるでしょう。
10月21日〜11月4日の主要ニュース
元xAI研究者創業「Humans&」、10億ドル調達報道
人間との協調性に優れたAIモデルの学習を目指すスタートアップ「Humans&」は、最大10億ドル、評価額50億ドルでの資金調達を模索していると報じられている。
近年は莫大な資金と計算資源が必要となってしまうことから、新規の学習手法に挑むスタートアップは減少し、GPT-5/Claude Opus 4.1/Grok 4などのフロンティアモデル上にアプリを構築する動きが主流。もし今回の資金調達が成立すれば、Thinking Machine LabsやSafe Superintelligence(SSI)のように製品前段階で巨額を集めた少数の研究ラボの一角にHumans&が加わることになる。— 参考記事
テキストから3D生成、「Adam」が410万ドル調達
自然言語プロンプトから3Dモデルを生成できるツールを提供する「Adam」は、シードラウンドで410万ドルを調達。リードはTQ Venturesが務め、468 Capital、Pioneer、Script Capital、Transpose Platformが参加した。
同社は数万人規模の個人ユーザーと増加中の有料顧客を抱え、サブスクはスタンダード月$5.99/プロ月$17.99から。年内にはAIコパイロットを投入予定で、テキスト入力だけでなく3Dオブジェクトの部位をAIと会話をしながら生成できるようにするなど複数のインタラクションを組み合わせる。— 参考記事
IRLフィットネスをコミュニティ化、「Sweatpals」が1,200万ドル調達
対面のフィットネスコミュニティづくりを支援し、ジムやスタジオ、個人ホストがワークアウトを社交の場に変えるプラットフォーム「Sweatpals」は、Patron、a16z speedrun、HartBeat Venturesの共同リードによるシードラウンドで1,200万ドルを調達、累計1,720万ドルに到達した。
ユーザーはクラス・イベント・コミュニティの発見に加えホストとして主催でき、ホストの新規顧客を平均30%増させた。サービスは全米で展開し24都市でサービス提供中、2026年初頭までに12市場を追加予定。スタジオからソーシャルクラブまで多様な開催者の収益化とローカルなつながり創出を後押しし、コミュニティファーストのウェルネス体験の受け皿となりつつある。— 参考記事
AIデータセンターの電力最適化、「Emerald AI」が1,800万ドル調達
AIデータセンターの電力使用を電力網と連携して最適化するソフトウェアを開発する「Emerald AI」は、1,800万ドルをシードエクステンションラウンドで調達した。Lowercarbon Capitalがラウンドをリードし、Nvidia、Radical Ventures、National Grid Partnersが参加した。
Oracle、Nvidia、EPRI、Salt River Projectと共同で行ったフェニックスの実証試験では、3時間で消費電力を25%削減しつつ、許容性能を維持したと報告。電力逼迫やコスト上昇が続く中、データセンターとグリッドの動的連携によりピーク負荷の平準化と運用最適化を図る。— 参考記事
50超の政府機関と提携、「Kaizen」が2,100万ドルの調達
政府機関の住民向けサービスをデジタル提供するプラットフォームを提供する「Kaizen」は、NEAがリードし、Seven Seven Six、Accel、Andreessen Horowitz、Carpenter Capitalが参加するシリーズAラウンドで2,100万ドルを調達。累計調達は3,500万ドルとなった。
現在、17州・50超の政府機関と連携し、3,000万人超にサービスを提供。2026年までに従業員30名から50名へ拡大し、連邦機関や裁判所管理、DMV、ライセンスなど新垂直にも展開する計画。— 参考記事
海藻から天然ポリマー生成、「Uluu」が1,600万ドル調達
養殖海藻を原料に自然分解性プラスチック代替の天然ポリマーを製造する「Uluu」は、Burda Principal Investmentsがリードし、Main Sequence、Novel Investments、Startmate、Fairground、Trinity Venturesらが参加するシリーズAラウンドで1,600万ドルを調達した。
共同創業者兼共同CEOのJulia Reisser博士は、2年間の試験プラント運転を経て、今回の資金で年100kgから100倍の増産、顧客向けの本格供給、および2028年の初商用プラントに向けた複数年契約準備を進めると説明する。— 参考記事
(執筆:GB Brand Communication Team)