「音楽版BeReal」から見るウィジェットSNS──AppleとSpotifyの間にある“空白市場”【GB Tech Trend #147】

友達や家族がいま聞いている音楽がウィジェットで表示され、そこから会話を楽しめるアプリ「Airbuds」。本来のSNSに原点回帰するような等身大のやりとりができるサービスだと話題になっています。

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今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

500万ドルの調達を発表した「Airbuds」(Image Credit: Airbuds)

2020年、iOS 14のアップデートでホーム画面ウィジェットが一般開放されて以来、ウィジェットはアプリを開かずに相手の近況を知れる「ソーシャルな場所」として存在感を高めてきました。当初は一時的なトレンドにとどまると見られていましたが、通知やタイムラインを確認するよりも手前にあるスマートフォンのホーム画面は、生活の一部として自然に触れられるという点で独自の価値を発揮しています。

親密な人とつながる“音楽版BeReal”

このウィジェットを活用したサービスの代表例が、500万ドルの資金調達を発表した音楽SNS「Airbuds」です。Airbudsでは、友だちがいま聴いている曲がホーム画面ウィジェットに表示され、タップすると専用アプリからその音楽について会話したり、Apple MusicやSpotifyで該当曲を再生したりすることができます。

アプリを開く前から相手の趣味やいまの気分が見えるため、会話の糸口が自然に生まれるのが特徴です。TechCrunchの記事によれば、直近で1,500万ダウンロード、月間アクティブユーザー数は500万人、デイリーでは150万人が利用しています。さらに、直近30日に投稿された9,400件超の評価のうち96%がポジティブという継続利用の強さも示されています。

Airbudsの魅力は、リアルタイムに音楽で友だちとつながるという1点に集約されます。友だちがいま聴いている曲をそのまま見せるシンプルな仕組みは、BeReal以降に広がった「飾らない日常の共有」というトレンドと相性が良く、編集や演出で整えた世界観よりも素の瞬間を重視するZ世代の価値観にも合致します。

いわば音楽版BeRealとして、よそ行きの自分を脱ぎ、日常のままでつながる関係性を回復していると言えます。ソーシャルに求められる負荷の低さも重要です。投稿を頑張らなくても、再生という行為自体がそのまま友だちへのシグナルになるため、参加コストが低く、利用も長続きします。

ウィジェットが「本来のSNS」の役割を担う

こうしたウィジェットを活用するスタートアップへの注目度は徐々に高まっている状況です。その背景にあるのは、既存SNSが取りこぼしてきた提供価値があると考えられます。

ここ十数年の大手SNSは、拡散とクリエイター経済を軸に進化してきました。アルゴリズムでバズりやすいコンテンツを前面に押し出し、クリエイターや配信者を増やして広告収益や課金を最大化する。この構造は強力ですが、その過程で、友だちや家族との軽いやり取りという本来のユースケースが後退しました。フォロー関係よりもおすすめ面が前面に出ることで、身近な人の小さな変化や共感は見えにくくなり、ソーシャルの原点が薄まっていったのです。

このギャップを突いたのがAirbudsです。大手SNSが長らく取りこぼしてきた「等身大のソーシャル」という提供価値を、音楽という日常行為を入り口に明確化し、ウィジェットを活用したホーム画面の体験にまで落とし込みました。

Airbuds以前に、この原点回帰の流れを写真で押し上げたのが「Locket」です。最も親しい相手の写真が相手のホーム画面に届くミニマルな体験で成長を遂げ、2022年に1,250万ドルを調達。Open AIのサム・アルトマン氏ら著名投資家の参加も話題となりました。おすすめで埋まる従来のSNSから距離を取り、数人の身内だけで静かにコミュニケーションを往復する。その価値の明確さゆえに、サービスへの熱量が長続きするというわけです。

このLocketが切り拓いたウィジェット市場をベースに、切り口を写真から音楽へと拡張したのがAirbudsとも言えます。

生成AIの存在も大きく影響

音楽で相手の「いま」をのぞく体験が日常化すると、アルゴリズムで最適化された巨大なおすすめ欄では拾いきれない生活感がデジタルに戻ってきます。曲名やアーティストだけでなく、聴く時間帯や組み合わせにその人らしさがにじみ、会話が立ち上がる。これは、AppleやSpotifyが提供してきた機能群では届き切らなかった価値でもあります。大規模なレコメンド機能が充実していても、親密な熱の往復には別の設計が必要だということを示しています。

さらに、生成AIの一般化もこの流れを後押しすると考えられます。ChatGPTの登場以降、フェイクや過剰演出のコンテンツが容易に作られ、フィードは一層複雑になりました。大手SNSは創作と発信の舞台として進化し、友だちや家族との軽い往復はウィジェット付きのアプリが担うという棲み分けがされていくのかもしれません。

9月23日〜10月6日の主要ニュース

1,100万ドルの調達を発表した「Anything」(Image Credit:Anything)

プロンプトでアプリ生成「Anything」、評価額1億ドルで1,100万ドル調達

自然言語プロンプトからフル機能のモバイル/Webアプリを構築できるサービスを提供する「Anything」は、Footworkがリードし、M13も参加したシリーズAラウンドで1,100万ドルを調達、評価額は1億ドルとなった。サンフランシスコ拠点、設立4年の同社は累計調達額が1,950万ドルに達した。

同社はサービス開始から2週間で登録ユーザー70万人超、ARR200万ドルに到達する急成長を示す。活用事例として、ロサンゼルスの不動産エージェントが月100ドルのAIトレーニングポータルを販売、金融プロがAIツール群で3万4,000ドルを売上、映画プロデューサーが子ども向けAIアプリで月次2万ドルのMRRを目標にするなど、多様な収益化が進む。— 参考記事

音声を“分解”するAI「AudioShake」、シリーズAで1,400万ドル調達

録音音源をAIで声・音楽・効果音のトラックに分離する技術を提供する「AudioShake」は、Shine Capitalがリードし、Thomson Reuters Ventures、Origin Ventures、Background Capital、既存投資家のIndicator VenturesとPrecursor Venturesが参加したシリーズAラウンドで1,400万ドルを調達した。

同社は直近1年でエンタープライズ契約40社超を獲得し、売上は前年比約400%増、処理した音声は累計1億分超に達する。料金は年次アクセス料に加えて従量課金を組み合わせ、Universal Music、Disney Music Group、Warner Music Group、Warner Bros Discovery、BET、NFL Filmsなど大手テック企業も顧客に名を連ねる。— 参考記事

体重管理のAIコーチ「Simple」、シリーズBで3,500万ドル調達

AIを活用した減量・生活習慣改善のヘルスコーチングアプリを提供する「Simple」は、Kevin HartのHartBeat Venturesがリードし、Liquidityも参加したシリーズBラウンドで3,500万ドルを調達、累計資金は4,500万ドルとなった。

同社はARR1億6,000万ドル、有料会員70万人に到達。プロダクト「Avo」は1日10万件超のコーチング対話と約30万件/日の食事ログを処理し、ユーザー入力に基づく習慣・栄養スコアで個別プログラムを最適化する。オンボーディング後はAIコーチが継続的に行動を誘導し、成果の可視化と定着を支援する。— 参考記事

CTV特化の広告運用「Vibe.co」、シリーズBで5,000万ドル調達

マーケター向けにコネクテッドTV(CTV)のハイパーターゲティング広告を運用できるプラットフォームを提供する「Vibe.co」は、Hedosophiaがリードし、Elaia、Singular、QuantumLight、Illusianが参加したシリーズBラウンドで5,000万ドルを調達、評価額は4億1,000万ドルとなった。

同社は5,000社超のブランドに採用され、500のアプリ/チャンネルで1.2億世帯にリーチ、年内黒字化見込みとする。市場環境を見ると、米国TV視聴の45%がストリーミングに移行し、CTVを含むデジタル動画広告費は総メディアの約3倍の速度で成長、2025年に720億ドルを見込む。市場ではプラットフォーム分散や価格の不透明さ、旧来指標の限界が残る中、Vibe.coは在庫横断の買付けと実売上寄与に近い計測で課題解決を狙う。— 参考記事

医療音声エージェント「Confido」、シリーズAで1,000万ドル調達

患者からの電話をAI音声エージェントで受け付け、内容の自動処理と記録まで担うプラットフォームを提供する「Confido Health」は、Blume Venturesがリードし、Schema Ventures、Vicus Ventures、Together Fund、DeVC、Medmountain Venturesが参加するシリーズAラウンドで1,000万ドルを調達。累計調達は1,300万ドルとなった。

医療機関の24/7対応需要が高まる中、Confidoはスケジューリング以外の多様なワークフローも扱える点が差別化要因。直近8カ月で10倍成長し、対応患者数は100万人超(2024年12月の15万人から増)。自動化率80%超により、既存の電話・EHR/PMSと連携して一次応対を高速化、多拠点運営や傘下グループの統合窓口としても機能し、間接費削減とスケールを後押しする。— 参考記事

(執筆: Universe編集部)