AIブラウザー戦争の行く末──メディア特化型AI検索「ProRata」の戦略【GB Tech Trend #146】

メディア企業向けに、サイト内記事に関する高度な質問ができるAI検索と要約機能を備えた検索SaaSの「ProRate」。今後は「コンテキスト」が重要となるとされている、検索市場における同サービスの強みを考察しました。

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今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

4,000万ドルの調達を発表した「ProRata」(Image Credit: ProRata)

生成AIが一般化するにつれて、「検索」のあり方そのものが変わりつつあります。TechCrunchによれば、2025年上半期だけで生成AIアプリのダウンロードは17億件に達し、利用時間は直近半期から大幅に伸びました。検索結果を読み込むのではなく、AIに質問して必要な答えを受け取る行動が当たり前になりつつあります。また別の記事では、2025年6月のAIプラットフォームから上位1,000サイトへの送客が前年比357%増の11.3億件に達したと伝えています。

まだ従来型検索の規模には届かないものの、「AIに聞いてからサイトへ」というトレンドが無視できないようになってきているのです。a16zはこの潮流を「GEO(Generative Engine Optimization)」と呼び、リンク中心の最適化から「言語モデルに最適化する」発想への転換を提唱します。ページの順位を争うだけではなく、生成AIの回答に正しく「取り上げられる」ことが重要になる、という視点です。

一方で、学習・要約における無断利用をめぐる緊張も高まっています。日本では朝日新聞社と日本経済新聞社がPerplexityを提訴するなど、メディアとAI企業の対立は法廷にも持ち込まれました。AI送客が伸びるほど、正当な対価とコントロールをどう担保するかが焦点になります。

メディア向けAI検索「ProRata」

こうした状況で登場したのが「ProRata」です。直近では4,000万ドルの資金調達を発表しています。同社はメディア企業向けに、サイト内記事に関する高度な質問ができるAI検索と要約機能を備えた検索SaaSを提供しています。ProRataはこのAI検索を「Gist Answers」と呼んでいます。

Gist Answersに質問すると、まず自社の記事コンテンツから回答を最優先で導き出します。読者が記事を読みながら疑問を投げかけると、その媒体の知見で即座に返す、あくまでも媒体が主役のAI検索体験です。もし自社コンテンツに該当がなければ、ProRataとライセンス契約を結ぶ出版ネットワーク(700媒体超)から補完し、出典と権利を明確化したうえで回答します。

ProRataは「Gist Ads」というネイティブ広告をAI回答の隣に表示し、質問意図と整合した自然な形で広告を提示し、収益化を図ります。検索連動に近い設計ですが、キーワードではなく文脈(コンテキスト)に紐づく広告です。広告の質と読者満足度を同時に高めやすく、メディアは新規収益源を得られます。さらに、この回答に寄与した外部メディアにも分配が行われるため、ネットワーク参加企業の経済的インセンティブも働きます。

つまり、ChatGPTなどのAIプラットフォームに自社コンテンツが無断利用される懸念があったメディアにとって、AIチャットボット機能と収益軸の二つを同時に満たすのがProRata、というわけです。

実際、ProRataのようにコンテンツホルダーと協働する動きは徐々に目立つようになりました。ChatGPTの競合であるPerplexityは、7月にAI検索サービス「Comet」をローンチしました。また、Perplexityでは収益分配プログラムを発表し、4,250万ドルの原資を拠出する計画であり、メディア企業も恩恵を受けられる仕組みが動き出しています。

「知的OS」を目指す検索市場

ProRataがメディア企業に特化した検索サービスを提供しているのは、今後「コンテキスト」がAI検索市場で何よりも重要になると見ているためです。私たちが目にする多様なコンテンツをメディア横断で、かつ権利処理をクリアした正当なアプローチで検索できるようにすることで、関連性を踏まえた最適解を提示しやすくなります。こうしたコンテキストを支配する企業が、生成AI時代の検索市場を制すると見られています。

現在、市場では「AIブラウザー戦争」が起きていると語られますが、ブラウザー企業が見据えるのは単に質問に答える「回答ボット」ではありません。

従来は検索キーワードに応じた結果が表示され、そこにダイナミック広告を当てる最適化が中心でした。しかし、いまはLLMと自然言語検索の登場により、「なぜそのキーワードを入力したのか」という背景意図まで理解が及び、ユーザーのコンテキスト全体を把握する方向に進んでいます。

各社はあらゆる接点でコンテキストを把握し、生活のすべてのタッチポイントを押さえることで巨大な事業を築こうとしています。これがAI検索市場の大きなトレンドです。

誰がどんな情報を、なぜ欲しているのかまでのコンテキストを押さえられれば、AIのパーソナライズに不可欠な教師データが手に入ります。

かつてFacebookやTwitterなどのSNSがタイムラインでユーザーの文脈を学習し最適表示を実現したように、検索分野でも同様の変化が進んでいます。そして検索というUIを超えて、AIは日常的なアシスタントへと進化すると見込まれています。Perplexityではこの次世代検索の姿を「知的OS」と呼んでいます。

ProRataは、ユーザーの情報源となるメディアを押さえることで、ユーザーの情報コンテキストも押さえつつあります。言い換えれば、情報フローにおける「川上」を確保しているのです。これはChatGPTやPerplexityにとっても、ぜひ手に入れたいメディアネットワークであり、ユーザーの情報コンテキストそのものです。将来的に、こうしたAIプラットフォームからの買収オファーが来ることは想像に難しくありません。

直近では、「知的OS」を志向していたThe Browser Companyは6.1億ドルでのAtlassianによる買収計画に合意しています。こうした流れから、ProRataもAI検索SaaSというサービス形態にとどまらず、知的OS企業のビジョンを指し示すことで、巨額エグジットする未来が描けるのではないでしょうか。

9月2日〜9月15日の主要ニュース

2億ドルの調達を発表した「Perplexity」(Image Credit:Perplexity)

「Perplexity」が大型資金確保、累計調達15億ドルに

AI検索サービスを提供する「Perplexity」は、評価額200億ドルで2億ドルを調達した。設立から3年で累計15億ドルを積み上げた一方、今回の追加出資のリード投資家は不明とされる。

ARR(年間経常収益)は2億ドルに迫っており、先月にはARR1億5,000万ドル超と明かしていた。Googleの検索支配に挑む文脈でも動きがあり、8月にはChromeの買収提案を345億ドルで提示。

これは司法省が反競争行為を理由にChrome売却を提案した流れを受けたものだが、今月初めに連邦地裁判事がGoogleの事業分割を不要と判断し、結果的にChromeはGoogleの手元に残る見通しとなった。— 参考記事

データラベリング人材を供給する「Micro1」、評価額5億ドルで3,500万ドル調達

AI企業がデータラベリング・学習用の人材を見つけ、管理できるよう支援する「Micro1」は、01 AdvisorsがリードするシリーズAラウンドで3,500万ドルを調達し、ポストマネー評価額は5億ドルとなった。

同社はMicrosoftを含む先端AIラボや複数のFortune100企業と取引し、ARRは2025年初の700万ドルから現在5,000万ドルへ増加。一方で、競合のMercorはARR4億5,000万ドル超、Surgeは2024年に12億ドルまで上げたとされるが、Micro1は着実な導入拡大を背景に成長を続けている。— 参考記事

“友だちのような”AIコンパニオン、「Born」が1,500万ドル調達

友人のように感じられるAIコンパニオンによる共有型の体験を提供する「Born」は、Accel、Tencent、Laton VenturesなどからシリーズAラウンドで1,500万ドルを調達した。ベルリン拠点、設立3年の同社は米国展開に向けて準備を進める。

同社は学習サポートも担う“かわいい”デジタルコンパニオンを追加する計画。年内にニューヨーク拠点を開設し、マーケティングとAI研究を強化する。研究領域ではキャラクターエンジンを改善し、一貫した性格、対話の記憶、ユーザーとともに成長する体験を目指す。

さらに16〜21歳向けのAIソーシャル新製品(13歳から利用可)を準備中で、OpenAIのモデルに独自のセーフティレイヤーを重ねる。ユーザーの消費傾向に合わせてTikTokやInstagramの短編動画を送るような体験も想定している。— 参考記事

住宅資産を即時クレジットに、「Aven」が1.1億ドル調達

ホームエクイティ担保のクレジットカードを提供する「Aven」は、Khosla Venturesがリードを務め、General Catalyst、Caffeinated Capital、GIC、Electric Capital、Founders Fundらが参加したシリーズEラウンドで1億1,000万ドルを調達、ポストマネー評価額は22億ドルとなった。

同社は、顧客が保有する住宅を担保にした資産担保型の個人向け与信プロダクトとクレジットカードを提供する。伝統的なHELOCに比べ金利最大50%減と2%の無制限キャッシュバックを両立。

累計発行与信枠は30億ドル超、消費者の利息節約額は2億1,500万ドル超に達する。今回の資金を基に、住宅ローン分野などへの展開を進め、“Machine Banking”プラットフォームの構築を加速する。— 参考記事

エージェントでソフトウェアを設計・運用、「Altan」が250万ドル調達

AIエージェントが自律的にプロダクション対応のソフトウェアを設計・構築・運用できるプラットフォームを提供する「Altan」は、VentureFriendsとJME Venturesが共同リードを務めたラウンドで250万ドルを調達した。本ラウンドには4Founders Venturesも参加した。

同社のプラットフォームは、アプリの構築だけでなく、運用に必要なインフラやワークフローの設定まで自動化。例えば飲食店なら、Webサイト構築、予約システム連携、顧客DB作成、予約対応のAIエージェント運用までを一気通貫で行える。すでに2万5,000超のビルダー企業が利用し、非エンジニアが60日で月次売上1万ドルのソフトウェア事業を立ち上げた例もある。— 参考記事

(執筆: Universe編集部)