“チーム化”するAIエージェント──「Relevance AI」から考える次世代の組織論【GB Tech Trend #138】
プロンプトを入力するだけでAIエージェントを作成できる「Relevance AI」。複数のAIエージェントを組み合わせて“チーム”にすることもできるという同サービスの特徴から、これからのエンジニア組織のあり方について考察しています。

今週の注目テックトレンド
GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

これまでのAIエージェントは検索や質問に回答してくれるQAベースの形式が一般的でしたが、徐々に仕事のタスクをこなしてくれる実働型のエージェントが普及しつつあります。
今回紹介する「Relevance AI」は、まさにこうした人間の従業員の代わりとして働くAIエージェントプラットフォームを開発しています。同社は2,400万ドルの資金調達を発表したばかりのスタートアップです。
“チーム”で働いてくれるAIエージェント
Relevance AIは、どんなタスクをこなして欲しいのかというプロンプトを入力するだけでAIエージェントを作成できるプラットフォームです。エージェントがタスクをこなすために必要な外部サービスとの連携などいくつかの設定を行うだけで、手軽に自分だけのAIエージェントをノーコードで作成できます。
さらに特徴的なのが、複数のエージェントを作成した後、「どのようなタスクをトリガーに、どのエージェントにタスクを引き継ぐのか」を指定するワークフロー機能です。これを使えば、営業、マーケティング、リサーチなどの領域で活躍する各AIエージェントを連携させて、簡単な“チーム”を構築することもできます。
外部サービス同士をアクショントリガーとAPI連携をもとに繋げる「Zapier」や「IFTTT」と似たサービスにも思えますが、自然言語をもとにエージェントを自由に設計でき、かつAPIを持たないサービス上でのタスクも依頼できるのが大きな違いです。この点で、従来フリーランスやインターンなどに頼んでいた簡単なタスク作業は、ほぼRelevance AIでカバーできるようになったとも考えられるでしょう。
これまでのエンジニア組織の潮流
AIエージェントがリサーチャーやマーケーターといった人材の代替になっていく話を頻繁に耳にするようになりました。今後こうしたAIエージェントを軸にしたチーム運営はより加速し、エンジニア人材領域にも波及していくと予測されます。
過去10年ほどのエンジニアの採用動向を振り返ってみると、自社でフルタイムエンジニアを雇用する形から、Upwork(日本で言う「クラウドワークス」)のようなフリーランスマッチングサービスを介してエンジニアと個別契約していく動きが見られるようになってきました。
直近5年ではさらに雇用形態が多様化。徐々にフリーランスエンジニアをチームとして組織し、開発プロジェクトを丸ごと請け負う「チーム型エンジニアサービス」が台頭しました。
その代表格が「Gigster」などのサービスです。大手企業にとって、フリーランスエンジニアを一から探し、自社の開発チームと接続させてプロジェクトにオンボードさせる採用コストは重くのりかかります。そこでGigsterでは、自社でフリーランスエンジニアを何人も雇用してチームを組成し、企業から開発依頼を受けてすぐに対応できる体制を構築。これにより顧客企業は自社でエンジニアを採用する必要がなくなり、迅速にアプリやWebサイトをローンチできるようになりました。
Gigsterでは、案件を通じて得た開発ノウハウやコンポーネントを自社に蓄積し、そのアセットを次回以降に舞い込んできた似たようなプロジェクトに効率的に応用していく「二次利用戦略」を展開しています。この戦略にのっとれば、案件をこなすほど開発スピードを上げて利益率向上につなげていくことが可能です。
このように、エンジニアチームを複数率いて受託案件をこなす企業が頭角を現していたのがここ数年の動向でした。
「チーム型AIエージェント」の時代へ
しかしこれからは、AIエージェントの登場によって、外部のエンジニアチームに依存する形から、改めて自社のエンジニアチームに開発案件を集中させる形へと回帰していくと思われます。
受託会社に依頼していた開発タスクやチームとしての機能はAIエージェントチームに依頼し、手の届かない箇所は自社エンジニアに引き継ぐ。そんな未来図が考えられます。
この時、いかに多くの開発ノウハウを教師データにしてAIエージェントに学習させ、開発スピードを上げられるかが企業の競合優位性の源泉となります。それを踏まえると、これからは自社の開発チームやAIエージェントが得た開発ノウハウを活かす、「自社内での二次利用戦略」が増えるかもしれません。これまでは人的リソースの観点から仕方なくGigsterのような外部チームに開発を依頼する企業が多かったですが、今後は自社チーム内で開発を完結する流れがますます進んでいくと考えられるでしょう。
4月22日〜5月12日の主要ニュース

有名シェフの料理が30分で届く、「Wonder」が6億ドル調達
フードホールとクラウドキッチンを運営し、垂直統合されたデリバリーとミールキット事業を展開する「Wonder」は、70億ドル以上の企業評価額で6億ドルを調達した。同社はGrubhubとBlue Apronを所有する。本ラウンドはNEAがリードを務め、Accel、GV、Forerunner Ventures、Amex Venturesらも参加した。
同社は今回の調達資金で、全店舗数を46から年末までに90以上に拡大することを目指しており、1週間に1店舗のペースでオープンする予定だという。また、著名シェフら約30のレストラン料理を集めたフードホールを運営。フードホールでは、ダインイン、テイクアウト、デリバリーを提供し、通常30分以内にデリバリーの注文に応じる。— 参考記事
接触事故54%減、船舶向けAIナビゲーション「Orca AI」が7,250万ドル調達
船舶が混雑した水路・海域を安全に航行できるよう、AIベースの意思決定支援システムを提供する「Orca AI」は、Brighton Park Capitalがリードを務めたシリーズBラウンドで7,250万ドルを調達した。 Ankona CapitalとHyperlink Venturesもラウンドに参加した。同社は総額1億1,100万ドル以上を調達している。
同社は、8,000万海里を超える海洋視覚データセットに基づき、AIを活用した意思決定機能を船舶企業向けに提供している。ナビゲーションにAIを採用することで衝突を大幅に減らし、乗組員は航海中の他のことに注意を集中できるようになる。2024年度分のOrca AIのデータを分析した結果、接近遭遇事故が54%減少し、1隻あたり年間平均10万ドルの燃料節約につながっていたという。— 参考記事
高齢者施設向けAI分析ツール「TSOLife」が4,300万ドル調達
高齢者向け入居施設に、入居者の体験と運営効率を向上させるための分析ツールを提供している「TSOLife」は、PeakSpan CapitalがリードするシリーズBラウンドで4,300万ドルを調達した。
TSOLifeは、入居者への音声インタビューを構造化された実用データにシームレスに変換する世界初のAIプラットフォーム「Minerva」を開発。このデータエンジンは、300を超えるデータポイントを基にインタビューデータを分析し、深くパーソナライズされた入居者エンゲージメント、運営インサイト、営業支援機能を提供する。過去3年間で12万人以上の入居者向けにインタビューが実施されたという。— 参考記事
屋内農業を最適化するセンシングデバイス「Gardin」、450万ドル調達
屋内農家が作物の健康状態をモニターし、栽培環境を最適化するのに役立つリモートセンシングデバイスを開発する「Gardin」は、Navus Venturesがリードを務めたラウンドで450万ドルを調達した。Oxford Innovation Finance、LDV Capital、MMC Ventures、Seedcamp、Alchimia Investmentsらも本ラウンドに参加した。
同社は作物の光合成をリアルタイムで測定し、生産者に作物の健康と発育に関するインサイトを与える。顧客からは、最大10倍の投資収益率が報告されている。2023年6月のローンチ以来、同社センサーはスペインやモロッコ、オランダやカナダの温室に至るまで、幅広い環境に導入され、藻類からトマトまで20種以上の作物で成功を収めている。2025年、同社は農家が消費する光熱費効率化にさらに力を入れるという。すでに実証試験で、生産者は20~30%の省エネを達成できることがわかっているとのこと。— 参考記事
デジタル名刺アプリ「Blinq」、2,500万ドル調達
デジタル名刺の作成と共有を行う「Blinq」は、Touring Capitalがリードを務めたシリーズAラウンドで2,500万ドルを調達した。HubSpot VenturesとBlackbird Ventures、SquarePeg Capitalもラウンドに参加した。
同社は2017年に趣味のプロジェクトとしてQRコードウィジェット付きのデジタル名刺アプリを提供するところから始まった。現在、米国、カナダ、英国、オーストラリアで、50万社以上の企業顧客を通じ、250万人以上のユーザーを抱えている。— 参考記事
(執筆: Universe編集部)