“ポストAdobe”の製品戦略──生成AIクリエイティブツール「Krea」5億ドル評価のワケ【GB Tech Trend #137】

画像・映像・3Dモデルなどさまざまなクリエイティブを制作できる生成AIツール「Krea」。有力VCからも期待をされている彼らの製品戦略を考察します。

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執筆: Universe編集部

今週の注目テックトレンド

GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

4,700万ドルの調達を発表した「Krea」(Image Credit: Krea)

「生成AI時代のAdobe」とも呼ばれ始めているクリエイティブツール「Krea」がシリーズBラウンドにおける4,700万ドルの資金調達を発表しました。2022年の創業からわずか3年ほどで企業評価額は5億ドルに達し、急成長を遂げているスタートアップです。

同社はクリエイター向けに画像・映像・3Dモデルの生成AIサービスをワンストップで提供しています。現在までに2,000万ユーザーの獲得に至っていることから、生成AIにおけるクリエイティブツール分野では頭一つ抜きん出ていると言って良いでしょう。

a16zも評価するプロダクト性

Kreaでは、クリエイティブに特化したさまざまな生成AIモデルを直感的に操作することが可能です。利用シーンに合わせてユーザーがモデル選択をする必要がない「All-in-One」のプロダクトとして評価されています。

たとえば、デモ映像を生成する際には、まず画像を生成し、それをアップスケールしてから映像に変換、さらに音響を追加するといった一連のワークフローをKrea上で行うことができます。また、各ステップでリアルタイムに細かな調整と編集を行える点もKreaの強みです。

複数の生成AIサービスを立ち上げ、デザインプロセス別に使い分けていた従来のユーザーにとって、一連のデザイン制作をKrea内で一気通貫で完結できるのは非常に魅力的です。実際、Kreaへ出資をしたAndreessen Horowitzは、Kreaの評価軸として「相互接続性(Interconnected)」を挙げています

Kreaはこれまで個人クリエイターを中心に人気を博してきましたが、こうした生成AIの利用に特化した「バンドル」としての使い勝手が人気となり、近年はPixarやLEGOといった企業内のクリエイターにも評価されつつあります。

Adobeにも対抗しうるポテンシャル

長期視点で見ると、AdobeがKreaの大きな競合となってきます。しかし、両社には戦略上の大きな違いがあります。それは生成AI時代に求められるプロダクト像から紐解くことが可能です。

AdobeはPhotoshopやIllustratorといった利用シーン別にアプリ開発を進めてきており、複数のアプリを提供する「Creative Cloud」のサブスク戦略で成長してきました。ユーザーが複数のアプリを使い分けることを前提に、利用するアプリ数に応じた価格・セールス戦略や、各クリエイティブ分野に特化したアプリを複数開発するプロダクト戦略を採用しています。

対するKreaは、Adobeのように利用アプリによって仕切るのではなく、利用量(画像や映像の生成量)に応じて従量課金制のプランを用意し、プロダクトも1つにまとめています。この戦略上の違いに、Kreaの成長ポテンシャルがあります。

生成AI時代には、AIに依頼をすればあらゆるアウトプットを一元的に提供してくれる、まさに「All-in-One」の形式が求められます。これはChatGPTのようなサービスがWebリサーチからライティング、画像生成など多機能を含んでいることからも見受けられるプロダクト像でしょう。

実際、a16zのPodcast番組では、生成AI時代の未来像について言及されており、そこでは「AIエージェントが窓口となるため、異なるコンセプトを持つWebサイトやアプリ開発は時代遅れになるだろう」と紹介されています。ユーザーとの接点となる単一のエージェント開発が主流となると予想されているわけです。

確かに生成AI時代には、関連サービスを1つのインターフェースや1つのパッケージで提供することがますます重要になりそうです。Kreaのような「All-in-One」プロダクトが、生成AI時代のスタンダードになっていくかもしれません。

生成AI時代に採用されるべき戦略を先取りし、数多くいる競合より先に市場ポジションを確立できたことがKreaの5億ドルという評価につながっています。生成AIをテーマとするスタートアップにとっては、大手企業が生成AI市場に追いつく前に適切な戦略を採っていけるかが重要になると言えそうです。

4月8日〜4月21日の主要ニュース

1,200万ドルの調達を発表した「Deck」(Image Credit:Deck)

APIなしでもデータ連携を可能とする「Deck」、1,200万ドルを調達

APIを持たないWebサイトから簡単に情報を引き出せるようにする「Deck」は、Infinity VenturesがリードするシリーズAラウンドで1,200万ドルを調達した。同社は総額1,650万ドルを調達している。

Plaidがユーザーの許可を得て銀行口座データとフィンテックアプリを連携させているように、Deckは公共料金ポータル、給与システム、政府サービスなど、APIを提供していない95%のプラットフォームからデータを取得・連携させるサービスを提供。現在40カ国以上でサービス展開をしている。— 参考記事

学費支援を最適化するファイナンスツール「Meadow」、1,400万ドル調達

各学生の入学から卒業までに関わる学費を管理できるようにする財務ツールを開発する「Meadow」は、Matrix Partnersがリードを務め、Susa Ventures、Giant Ventures、Treble Capital、GoGlobal Venturesらが参加したシリーズAラウンドで1,400万ドルを調達した。同社は総額2,000万ドル以上を調達している。

学生の59%が経済的ストレスのために退学を考えているという。そこでMeadowでは各学生にパーソナライズした学費支援の提案、見積もりを提供。現在、大学を通じて約100万人の学生に見積もりと、学費を管理できるファイナンスツールを併せて提供している。ゴンザガ大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ウィスコンシン大学マディソン校、ペンシルベニア州立大学など、全米の大小170以上の大学と提携している。— 参考記事

Bluesky上でカスタムSNSフィードを構築・収益化を実現する「Graze」、100万ドル調達

Bluesky上でカスタムソーシャルメディアフィードの作成と収益化を可能にする「Graze」は、BetaworksとSalesforce Venturesが共同リードを務め、Factorial、Apertu Capital、Skyseedも出資したプレシードラウンドで100万ドルを調達した。

XやThreadsのようなSNS上では、アルゴリズムによるメインフィードがデフォルト設定されているが、Blueskyでは誰でもカスタムフィードを作成できる。現在、Grazeは約3,000人のユーザーによって作成された4,500のBlueskyフィードを提供している。またGrazeを使って構築された200のフィードが、1,000インプレッションあたり約1ドルのコストで広告を掲載している。— 参考記事

オープンソースWebRTCツール「LiveKit」、3.45億ドル評価で4,500万ドル調達

開発者が音声、ビデオ、テキストデータを低遅延で処理・送信できるAIエージェント「LiveKit」は、Altimeter Capitalがリードを務め、Redpoint VenturesとHanabi Capitalが参加したシリーズBラウンドで、3億4,500万ドルの評価額で4,500万ドルを調達した。

多くの開発者にとって、音声やビデオのリアルタイム配信するためのWebRTCツールの需要は高まっている。こうしたWebRTCをAI基盤としたオープンソースプラットフォームの形式で提供しているのがLiveKitである。LiveKitは現在、500以上の有料顧客と、10万人以上の開発者を抱えている。— 参考記事

高級ファッションブランドの中古再販支援SaaS「Faume」、910万ドル調達

高級ファッションブランドが独自の中古再販プログラムを立ち上げられるように支援する「Faume」は、Amundiがリードを務め、DaphniとBpifranceが参加したラウンドで、910万ドルを調達した。

Faumeは現在45のフランスブランドをサポートしており、4年以内にヨーロッパ全体で150のブランドをサポートすることを目指している。最近では英国のファッションハウス「Victoria Beckham」と最初のパートナーシップを結んだ。2020年のサービス開始以来、同社は30万点の中古ファッション品の販売を実現し、そのうちの40%はフランス国外で販売されているという。— 参考記事