PC操作もAI任せ──AIエージェント「Browser Use」が示す自動化時代【GB Tech Trend #136】
デスクトップを自動操作してタスクを完遂してくれる「Brouser Use」。Pythonなどを使った従来の自動化の手法が抱えていた欠点を克服したサービスとして、注目が高まっています。

執筆: Universe編集部
今週の注目テックトレンド
GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

デスクトップ上のブラウザーやアプリを自ら駆使して、与えられたタスクを完了させる自律型AIエージェントに注目が集まりつつあります。
最初に大きく話題になったのは中国産AIの「Manus」です。デモ動画ではAIがタスク手順を自ら考え、PDFドキュメントを開いたり、検索サービスを駆使したりと、人間の手助けなしにデスクトップPCを使いこなしている様子が伺えます。Manusはまさに人とPCの間を取り持つ仲介者のようなサービスとして脚光を浴びました。
米国でも同様のサービスが見受けられます。Y Combinatorのプログラム出身である「Browser Use」は、今回1,700万ドルの資金調達を発表。ユーザーが指定するタスクを、AIエージェントがデスクトップを自動操作して完遂するサービスを提供しています。
これまでの自動化との違い
Browser Useが参入した市場はRPA(ロボットプロセスオートメーション)です。従来、ウェブサイトへアクセスして指定したアクションを自動化する際には、Pythonなどを駆使した自動化スクリプトを使っていました。しかし、サイトURLに変更があるとスクリプトが壊れてしまったり、何度もサイトへアクセスするとボットとして認識されてアクセスができなくなってしまったりと課題もありました。
そこでBrowser Useは、LLM(大規模言語モデル)をベースにしたAIエージェントを開発。同サービスを使えば、リサーチタスクを投げても指定アクションしか取れないスクリプトのような動きをすることはありません。人間のように振る舞って操作してくれるのでボットとしてアクセス拒否されることもなくなります。
Browser Useの競合差別化できている点は技術にあります。TechCrunchの記事によれば、他社サービスでは従来、ウェブサイトを視覚的に捉えて各要素(ボタンなど)を理解して、タスクを実行しようとしていたといいます。
一方、Browser Useではウェブサイトの要素を、エージェントにとってより理解しやすいテキストとして捉え、エージェントが各要素に応じたさまざまな選択肢を考えて、自律的に意思決定を行えるようにしているといいます。このアプローチによって、同じタスクをより安いコストで何度も実行できるようになっているとのことです。
基本機能はOSS(オープンソースソフトウェア)として提供しており、無料で利用できます。30ドルのプランに入ると優先サポートを含めたパッケージ利用が可能です。
今後は“APIいらず”な世界に?
Browser Useは大型調達に成功してきた自動化ツールスタートアップの領域を一挙にリプレイする可能性があります。たとえば「Zapier」や「IFTTT」のように、複数のサービスをAPIを経由して繋げることで特定のアクションを促すサービスなどがわかりやすい例です。
また、企業のエグゼクティブ向けに高速でEメール対応できるサービス「Superhuman」も競合と捉えられるかもしれません。同社は多数のショートカット機能を実装することで、Eメールの内容確認や返信を即座に行えるUXが人気のスタートアップです。こうしたメール対応も、Browser Useにタスクを投げておけば、本当に重要な内容だけをユーザーへ確認に回して、残りは自動返信するなども可能でしょう。
AIエージェントがウェブサイトを正確に自動操作できるようになれば、デスクトップPCアプリのすべてが「API」のように扱えるようになり、さまざまなサービスをつなぎこんだ自動連携が可能となります。
今後は開発者側がAPIを用意せずとも、ある程度のサービスを提供できるようになる未来が来るかもしれません。Browser Useが提供する体験はすぐにでも一般的になることが予想されます。いずれはChatGPTのような主要AIサービスにも実装されていくと考えられるのではないでしょうか。
3月25日〜4月7日の主要ニュース

ドライブスルー向け注文AI「Hi Auto」、1,500万ドル調達
ファストフードのドライブスルー向けAI音声アシスタントを開発する「Hi Auto」は、Delek Motors、the Zisapel family、Vasuki Tech Fundらが共同リードするシリーズAラウンドで1,500万ドルを調達した。Allied Group、Goldbell Investments、Meir Barel Groupらも本ラウンドに参加した。
Hi Autoのプラットフォームは、ドライブスルーの注文受付を自動化し、96%以上の注文精度を実現するという。
人件費が高騰する中、特にカリフォルニア州でファストフード従業員の最低賃金が時給20ドルに引き上げられたことで、経営者はドライブスルーでのスピード、正確性、収益性の維持に苦慮している。そこでHi Autoは、注文プロセス全体をAIにオフロードすることでこの課題に取り組み、従業員を料理の下ごしらえやゲストの対応など、より価値の高い作業に集中させることができる。— 参考記事
癌治療ケアプラットフォーム「Daymark」が1,150万ドルを調達
がん専門医と協力して癌患者に在宅およびバーチャル支援ケアを提供するDaymark Healthは、Maverick VenturesとYosemiteが共同リードを務め、Oncology Venturesが参加したシードラウンドで1,150万ドルを調達した。
米国では年間約200万人が癌と診断されている。Daymark Healthは、医療保険制度に基づいた癌ケアプラットフォームを提供。地域に根ざした看護師、ソーシャルワーカー、ヘルスパートナーからなるチームは、患者かかりつけの癌専門医と連携し、バーチャルでも在宅でも癌ケアの提供を行なっている。同社は2025年、2,500人以上の癌患者にエビデンスに基づく癌治療を提供している。— 参考記事
旅行者向けクレジットカード「Scapia」、4,000万ドル調達
旅行に特化したクレジットカードと、ユーザーがフライトやホテルでポイントを貯めたり利用したりするのに役立つアプリを提供する「Scapia」は、Peak XV Partnersがリードを務め、Elevation Capital、Z47、3State Capitalらが参加したシリーズBラウンドで4,000万ドルを調達した。
今回の調達資金は、ブランド構築への投資、若い旅行者に焦点を当てた新たなサービスやカテゴリーの構築、さらにはチーム拡大に充てるという。Scapiaのチームは現在約100人で、数ヵ月後には約150人になる予定だという。同社は45カ国以上の旅行予約、ホテル予約、ビザ取得のための後払いオプションも提供している。— 参考記事
コード受け入れ率95%のAIエージェント「AutonomyAI」、400万ドル調達
AIエージェントを企業の開発チームに統合し、ソフトウェア制作を加速させる「AutonomyAI」がプレシードラウンドで400万ドルを調達した。Inbound Capitalがリードインベスターを務めた。
既存のAIコーディングツールとは異なり、AutonomyAIのプラットフォームは企業の既存ワークフローに組み込まれ、開発基準を学習し、組織の要件を満たすコードを生成する。同社のテクノロジーは、数日かかる開発作業を数分に短縮し、チームの生産性を44%以上向上させ、AIによるコード提案の受け入れ率は業界平均の30%をはるかに上回る95%を達成するとしている。— 参考記事
教育機関向けAIプラットフォーム「SchoolAI」が2,500万ドル調達
教師や学校向けに、個別学習ツール、授業準備アシスタント、リアルタイムのダッシュボードなどを備えたAIプラットフォームを提供する「SchoolAI」は、Insight Partnersがリードを務め、NextView Ventures、The General Partnership、Peterson Venturesらが参加したラウンドで2,500万ドルの資金調達を行なった。
SchoolAIは、全米50州、世界80カ国以上の100万以上の教師と生徒に利用されている。同プラットフォームは、400以上の学区に組み込まれているという。— 参考記事