「SEO」からAI最適化「AIO」へ ──「Scrunch AI」から考える市場戦略【GB Tech Trend #134】
AIによって、間違った情報がユーザーに届けられてしまう課題に対して求められはじめているのが「AI最適化」という考え方です。かつてのSEOのように、「AIO(AI Optimization)」が重要な取り組みになっていくとみられます。

執筆: Universe編集部
今週の注目テックトレンド
GB Tech Trendでは世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

ChatGPTなどの登場をきっかけに、AIによってWeb記事の内容が引用・要約されるという、新しい情報流通のフローが出来つつあります。同時に、AIが記事の内容を取ってきてしまうため、徐々に元記事の読者数が減る現象も起きています。
SEOの価値が薄れていくと、次に重要となるのがAIに正しい情報として選ばれるための「AIO(AI Optimization)」の考えです。
このAIOにアプローチするサービスの1つが「Scrunch AI」です。同社は各AIサービスに、自社情報がどのように表示されるのかを確認・最適化するサービスを提供しており、400万ドルの資金調達にも成功しています。
すでに競合となるツールも登場
Scrunch AIは、AIによって間違った情報がユーザーに届けられてしまう課題を解決するサービスとして登場しました。
異なるAIサービスに同一のプロンプトで指示を出しても、推論エンジンごとに異なる解釈が含まれているため、まったく同じ返答が提供されることはありません。たとえば、各AIに同じ商品の価格について尋ねても、参照する記事が異なれば古い商品価格を答えてしまったり、情報がなければ競合商品から推論して勝手な数字を返してしまったりすることもあります。
こうした課題を解決するため、Scrunch AIでは、各AIサービスが具体的にどのような情報を参照しているのかをダッシュボードで確認することが可能です。自社事業の関連キーワードを含むプロンプトを投げかけた際にちゃんと自社サービスが回答されているのかをモニタリングすることもできます。また、仮に回答されていなかったり、誤情報が含まれていたりした際には、どのようなアクションを取るべきかガイダンスが表示されます。
Scrunch AIの競合サービスもすでに登場しています。一例に挙げられるのが、昨年350万ドルの資金調達を実施した「Profound」です。サービス訴求点はScrunch AIと同じですが、自社ブランドの市場スコアリングや、関連キーワードをワードクラウド形式に表示する機能を有しており、よりマーケティングツールとして使えると価値訴求している印象があります。
SNS全盛期にも同様のサービスが
今後もこのようなAIOサービスを提供するスタートアップが増えることが予想されますが、実はAIO市場という大きなカテゴリーの中でも、参入分野によって成長戦略の描き方は大きく異なります。考えられる参入分野は「企業情報管理」と「マーケティングツール」の2つです。
AIO時代に企業情報管理を行うには、各AIで正しい企業情報が返答されるよう統一する必要があります。
企業情報管理の歴史を遡ると、2010年前後のSNS全盛期に行き着きます。当時は、FacebookやInstagram、Google、Yelp(北米版食べログ)など、多くのプラットフォームが登場していました。しかし、サービスが乱立し過ぎてしまい、企業が各プラットフォーム別に自社ページを作成・情報管理するコストが急速に上昇。それを解決するために登場したのが「Yext」です。
Yextは各SNS・プラットフォーム上で自社の基本情報を正しく管理・更新するためのサービスです。現在では検索最適化を行うためのプラットフォームとして上場しています。市場がSEOからAIOに急速に変化を遂げつつあるいま、Scrunch AIらは「AIO時代のYext」のポジションを十分に狙えるといえるのではないでしょうか。
SEOツール的に成長できる可能性も
また、「マーケティングツール」の路線で市場ポジションを確立しようとした場合、分析ツールを拡充する以外にも、コンテンツ作成機能や、どのようなキーワードが人気なのかを把握するための競合比較ツールなど、多岐に亘る機能を開発する必要が出てくるでしょう。これは、SEO向けマーケティングツールが幅広いサービス拡充を行っている現状を見れば容易に想像できます。
この路線のAIOツール市場はレッドオーシャンになることが想定されますが、SEO市場ではSimilarwebのような上場企業も存在しているため、それなりの市場規模が期待できます。
「企業情報管理」と「マーケティングツール」のいずれにしても、ある程度の市場規模が期待できますが、どのサービスポジションを取るかによって戦略は変わってくると言えるでしょう。
ここまでScrunch AIの事例をもとに、AIOサービスを紹介してきましたが、いますぐにSEOの存在価値が完全になくなることはありません。ただ、AIが話題に取り上げたくなるようなストーリー記事や関連情報を上手くコンテンツ発信するなど、AIOを意識したまったく新しいアプローチは今後さらに求められるでしょう。SEOからAIOへと時代がシフトしているいま、新たな覇権争いはすでに始まっていると言えます。
2月25日〜3月10日の主要ニュース

700万人が利用、50億ドル以上の取引実績を持つギフトカードマーケットプレイス「Raise」、6,300万ドル調達
ユーザーがギフトカードを割引価格で売買できるデジタル・マーケットプレイスを運営する「Raise」は、Haun Venturesがリードを務め、Amber Group、Anagram、Blackpine、Borderless Capital、GSR、Karatage、Paper Ventures、Pharsalus Capital、Selini Capital、Sonic Boom Ventures、Web3 Foundationらが参加したラウンドで6,300万ドルを調達した。同社は総額2億2,000万ドルを調達している。
2013年の創業以来、アプリ、ギフトカード取引所、B2B事業を通じて50億ドル以上の取引を行ってきた。同社は約700万人のユーザーを抱え、1,000以上の小売店と提携している。ブロックチェーンを活用したギフトカードの導入により、Raiseは消費者がギフトカードに置く価値と信頼を高めることに取り組んでいるという。— 参考記事
割り勘向けバーチャルカード「Cino」が370万ドル調達
商品・サービス購入時に即座に割り勘の請求ができるバーチャルカードを開発したエストニア拠点の「Cino」は、Balderton Capitalがリードを務め、Connect Ventures、Tera Venturesらが参加したシードラウンドで370万ドルを調達した。
Cinoは、フィンランドやイタリアなどの市場でサービス提供しており、前月比100%の成長を遂げているという。同社のユーザーは平均して月に17回アプリを利用し、最大3,000ユーロを消費しているとのこと。— 参考記事
30以上のAIエージェントによる会話型AIサービス「Kleio」が315万ドル調達
潜在顧客と対話し、質問に答え、購入の意思決定を促すAIエージェントを開発するパリ拠点の「Kleio」は、Serena CapitalとDaphniが共同でリードを務めたシードラウンドで315万ドルを調達した。
Kleioのシステムは、パーソナライズされた商品の推奨からインテリジェントなリードの優先順位付け、自動化された営業ワークフローまで、営業プロセスのさまざまな側面に特化した30以上のAIエージェントのネットワークによって構築されている。Showroomprivé、Havas Voyages、Effyなどの導入企業はすでに大きな成果を上げており、Havas Voyagesはわずか3ヶ月でウェブリードが200%増加したという。— 参考記事
バーチャル患者でリアルな医療トレーニングができる「SimCare AI」、200万ドルを調達
AIを使ってリアルなバーチャル患者を作成し、医学生や専門家が練習や技術評価に利用できるようにした「SimCare AI」は、Y CombinatorとDrive Capitalが共同リードを務めたシードラウンドで200万ドルを調達した。本ラウンドにはHarper Court Ventures Fund、Singularity Capital、Triple S Ventures、Goodwater Capital、Asymmetry Ventures、Sand Hill North、Transpose Platformも参加した。
SimCare AIプラットフォームは、複雑な患者シナリオに備える研修医プログラムから、ソーシャルワークプログラムまで、さまざまな専門分野や使用ケースに合わせてカスタマイズすることができる。例えばSimCare AI患者を使ってスキルをテストすることで、求職者をスクリーニングし、よりスキルレベルの高い雇用を可能にする。現在、ペンシルベニア大学を含む30機関とのパイロット契約をすでに終了している。2,500人のユーザーを持ち、3週間で月間売上が5,000ドルに達したという。— 参考記事
50万ユーザーが学ぶセキュリティ教育「Anagram」が1,000万ドル調達
従業員がハッキング等のセキュリティリスクを認識・回避できるように、短いビデオとパズルを使ったインタラクティブなトレーニングプログラムを提供する「Anagram」は、Madrona、General Catalyst、Bloomberg Beta、Operator Partners、Secure Octaneが参加したシリーズAラウンドで1,000万ドルを調達した。
マイクロラーニングの考えをもとに、同社プラットフォームは測定可能な行動変容を促し、優れたセキュリティ習慣を強化する。同社はFortune500のうちの数社を含む大手企業に利用され、現在50万人以上のグローバルユーザーをサポートしているという。— 参考記事